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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第二章 進展
51/149

18

 そうだよな、引っ越してこのA団地とB団地と全く別の所に引っ越さえしてしまえば、この奇妙な出来事からは逃れられるもんな。


 しかし、そんな事を考えたところで、俺にとっては全く無意味な事でしかなかった。ここに引っ越してきて、オトンとオカンがローンを組んだばかりなのだから。引っ越してきたばかりなのに他の家を買いましょうという様な事は、金額が大きすぎる為、出来ないのだ。


 開けていたカーテンを閉めて、電気を消し再び布団に潜り込む。


 後日、オカンが「あそこの家の人引っ越して行ったのよ、綺麗なお家なのに」と、信じられないわ、と言うような顔をして俺と姉貴の前で話してきた。


 関井さんの家を見ると、カーテンがない為、窓から中の様子が窺える。ガランとしていて当然電気もついておらず、持ち主のいなくなってしまった家は寂しそうにしているように見える。


 この頃、稚拙なゲームを考案した犯人について考えることが多くなっていた。なんの為にこんなことをするのだろうか。


 考えても、考えても、そこに答えが出てくることはないのだが、こんな理不尽な目に合ってると思えば思うほどに、考えざるをえなかった。


 ハンカチや白い手紙を送ってくる人は、A団地かB団地に住む人間なのだろうか、それとも全く別の所に住む人間なのだろうか?


 なんの目的でこんな事をするのだろうか、これを始めた真犯人が俺が知っている限りでこれまでこの辺で亡くなった人たちを殺したのだろうか?


 今日も、自分の部屋で一人テレビをつけるが、そんな事は一切報道されていなかった。

  朝ご飯を食べに下りると、焼き鮭と卵と納豆と味噌汁が食卓に並んでいる。

  朝食を食べる前に、この頃、自転車の車輪に油が足りておらず漕ぐたびに重たい。その為、専用のスプレー缶を車輪に吹きかける。

勿論、そんな事は、ポストを確認してからである。


  誰かが懸命に息を切らしながら走る気配を感じ顔を右に向ける。人が走っている、それも逃げるようにして後ろを振り返りながら。

 なんだ?スプレー缶を手に持ったまま、その人を目で追いかける。


 走っている人の姿が、自分の今いる場所から見えなくなったと思ったらその後を追うようにして誰かが走っていた。


 紫色のシルクのパジャマを着ている。すごいスピードで追いかける男性……。


 あ、西津さんじゃねーか。まるでロボットの様にして手を直角に回しながら走る姿は、いかにも体育会系の西津さんの姿であった。

 きっと、ハンカチをポストに入れられたに違いない。


 先程、確認したポストをもう一度確認する。何も入ってない。ポストの前にいるのだから、もし、今ここに、ハンカチが入っている方が不自然であるのだが、それでも確認せざるを得ない程の恐怖を感じてしまっているのだ。


 これまでは、俺が誰かに追いかけられたり、追いかけられたと思う人がいたことはあっても、自分は部外者で、追いかけられて追いつこうとしている人達を見たのは初めてであった。


 しばらく、その場に立ち尽くしてしまい俺の身体は大袈裟な程にブルブルと震えあがる。

 呆然と立ち尽くすことしかできないでいると、B団地の方から西津さんが戻ってきて、西津さんは立ち止まって後ろを確認した後、俺の方に顔を向けた。


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