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ドロップド・ハンカチーフ  作者: 大和香織子
第二章 上進
146/149

30

 坂道に下る所まで来て、「鼻島さん」と声を掛けようとしたら、どうやら先客がいたようだ。その先には、ものすんごいオシャレをした姉貴がガクトさんの方に走ってきていた。


 あーあ、姉貴のあのブリブリな感じ……ドン引きだよな?


 余り長い事二人を見ていては気まずいような気がして、引き返して違う道で帰ろうとしたとき、

「ぎゃあああああああああ!」

 と大きな叫び声が鳴り響いた。

 姉貴?! 

 すぐに振り返り姉貴の方を見ると姉貴が叫び続けながら、こっちへ走ってきている。

 何事だ?

 俺は「どうした」と言いながら走って姉貴の所に向かう。


 俺の数メートル先にはガクトさんが姉貴の方に向かって走っている。

 もう少しで姉貴の所までガクトさんが到着すると言った時に、姉貴の背後から、刃物を持った男が姉貴を今にも襲おうとしている。

 姉貴を助けないと!

 俺は転びそうになりながら全力で走る。

しかし、姉貴は何かに躓くようにしてその場に座り込んでしまい、男は手に持った刃のついた武器を思いっきり振り落とした。


「姉ちゃ……ん」この世の全ての音が一瞬ピタリと止まるのを確かに俺は感じた。

「ぎゃあああああああ」

男が血まみれになりながら刃の着いた武器を引っこ抜いて、そして被害者は倒れた。

 血がドバドバと流れて噴き出ているのが見える。

 数人が男を取り押さえた……、姉貴の傍まで行く。

「鼻山さん……」

姉貴は声にならない声で泣いている。


 鼻山さんは姉貴の代わりに刺されたのだ。ガクトさんは刺されそうになった姉貴を庇ったのだ。

その後騒然となりながら、警察や救急車がやって来た。

「お前が刺されなくて良かった……」そう言ってガクトさんは救急車で運ばれて行った。


 その後の警察の調べで二人の男が逮捕された。

 一人は「夢路ツモル」両親が死んでしまい、今後が益々見えなくなってしまった三十代のその男はいつもひきこもっていて近所の人はその姿を見たことがなかったらしい。


 そして全てを失ってしまったように感じたその男は、自宅の台所から包丁を取り出しそしてそのまま外に出て殺害しようとした。


 殺害する相手は誰でもよく無差別殺人として罪は重いものとなった。


 そして驚いた事に、その男の家からは男の両親の遺体がそのまま放置されていたままだった。


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