プロローグ 勇気から始まる物語
私はヒッキーだ。つまり引きこもり。
一体いつからだろう。もう覚えてないや。思い出すのも面倒くさい。
どうせくだらない理由だったのだろう。
……いや、嘘を言った。本当は覚えている。忘れたくても忘れられないよ。
だってその時、とても大事な人を失ったから。
今でも夢に出てくる。5年前のあの事件。私が引きこもりになった理由。そして、世界は理不尽だと知り怖くなったのもあの事件だ。
世界が怖い。
元々思っていた私の感情。
決定付けた私の感情。
初めて思ったのは、更にもっと前の出来事。私が産まれて4年くらいたったある日、私はおばあちゃんの家に預けられた。
その日は、お父さんとお母さんの友達の結婚式が行われる日だった。
明日の朝に迎えに来ると言ったのだが、お父さんとお母さんは現れなかった。しかしその日の夜、私は知った。
お父さんとお母さんは、死んだことを。
死因は、反対車線からの追突事故らしい。
らしい、と言うのは、正確な事が自分でも解らないからだ。なぜなら、大人たちは何かを隠しているみたいだからだ。
一体私に、何を隠しているのだろうか?それほど、隠さなければいけなかったのだろうか?
解らない。
誰が何を考えているのか。私はそんな世界が怖い。
いっそのこと、死にたいと思った。死んで楽になりたいと思った。それは1度や2度じゃない。
だけど、私は今生きている。今もこんな風に必死に生きている。外との縁を切りながら。引きこもりながら。
本当に死ぬ勇気があるのなら、今の私はここにはいない。ここにいるということは、口だけの臆病者。
死にたくても怖くて死ねない弱虫。
そんな弱い私は、5年も無駄にしている。人生を……、青春を……。
私は変わろうとは思わない。やり直したいとも思わない。世界の恐怖を知るのはもういや。
今日も私は、引きこもり続ける。
今日は何をしよう。
私はベットから起き上がり、自分のスマホに手を伸ばす。
朝はいつもこんな感じ。だってやることないし。
しかしすぐにスマホを操作するのをやめた。単純に……
「何もすることがない。」
からだ。
しかし私はその時、ある衝撃が走った。その原因は、スマホに表示されている時刻。
「昼の3時って……。」
良い年の女子中学生が昼まで寝てるとか、私ももうダメだな。元からダメな気がするけど。
ぐうぅぅぅ~~~。
………あ、お腹がなった。は、恥ずかしい。
まぁ、仕方がないよね。お昼御飯どころか、朝御飯も食べてないんだから。
そういや、何でおばあちゃん起こしてくれなかったんだろう。いつもなら起こしてくれるはずなのに、おかしいなぁ~。
私は部屋を出る。そして階段を下りて1階のリビングへ。
しかし、誰もいなかった。いつも家にいるはずのおばあちゃんが家にはいなかった。
買い物に行っているのだろうか?。
けどおばあちゃんがいないなら、ご飯は自分で作らなきゃダメかー。
私あんまり料理とか得意じゃないんだよねー、私引きこもりだし。学校行ってないし。そういうのあんま分かんないんだよね。
コミュニケーション能力ゼロだし…、そんな会話する人もいなかったし…。
それにしても、暑いな…。冬にしては、少し暑い気がする…。
私はリビングに入ると、ふと、机に置き手紙があることに気付いた。
私は、その手紙を読む。
『今日から3週間、町内会の沖縄旅行に行ってきます。』
………。
………………。
………………あ、そういえばそうだった。
確か少し前に、私の事が心配で行くのを断ろうしてたのを、私が「大丈夫だから行ってきなよ。」って進めたんだっけ。
忘れてた。
てか、今日からだったんだ。全く知らんかった。
おばあちゃん言ってたっけ?それとも部屋にずっとこもってたから、言おうにも言えなかったとか?
あれ、でも確か、2、3日前に、おばあちゃんが部屋の前で何か言ってたような?
あの日はゲームのし過ぎで眠くて、適当に聞いてたからなぁー。
あの時かもしれない。
全く、人の話は聞くものだ。私だけど。
でも3週間か。予想以上に長いな~。てか、町内会の旅行で沖縄に3週間ってどうなのよ。
そんなおばあちゃんは、今沖縄にいるんだろうな。
お土産買ってきてくれるかな?サータアンダキーとか食べてみたいな。食べたことないんだよね。
私は置き手紙を机に置き、冷蔵庫の元へと向かう。
中には、ほとんどといって食べるものが入っていなかった。
……え、マジで。
おばあちゃん買い置きしてくれなかったの。まさか忘れてたとか?
そんなー。私は3週間どうやって生活したらいのよ。さすがに3週間何も食べないでいるのはちょっと……。
どうしよう。
買いに行くしかないよね。でも外には出たなくないな~。
でも私の食事が……。
仕方がない。行くしかないよね。さすがにご飯は大事だもんね。
3週間何も食べずに過ごして、沖縄から帰ってきたおばあちゃんを心配させたくないしね。
私は階段を上り、自分の部屋へと戻る。
上は寝間着の上からフードの付いた黒とピンクが特徴的なジャンバー、下は少し長めの赤のスカート着る。
ずっと着てなかったんだけど、着れるものなんだな、と思う。
それとも私、成長してない?
そんなことをしみじみ感じながら、一歩、また一歩と、玄関に向かう。
そして私は靴を履く。
しかし、私はここから先が進めなかった。私のもつ、世界への恐怖心によって。
もしかしたら、これが最初の課題なのかもしれない。大きな一歩を踏み出す。言わばターニングポイント。
私は決心したくない。この大きな壁、扉をこじ開けることを。
また何か、起こるかもしれない。けど、ほんのすこし外に出るだけだ。ただそれだけだ。
なのに、私の腕には力が入らない。弱虫の私には、この扉は開けられない。
私は、いつまでたっても変わらない。あの頃と変わらない弱者。
「やっぱり私は、弱い私だ。」
何も変えられないのだ。
いや、違う。変えられないんじゃなくて、変えようとする決意がないからだ。
恐怖と戦おうしなかったからだ。だだの口だけの臆病者。
私は、戦ってみようと思う。口だけではなく、本気で自分の恐怖心と。
自分を変えようとは思わない。そう思っていたけど、本当は変わろうとしていたのかもしれない。
無意識のうちに 。
ほら、決意を決めると、この扉は簡単に開けられる。
扉の外からは光輝く世界。そして私が嫌う世界がある。
この時の私は、何か変われる気がした。
私は行く。
それがただ、ちょっとした買い物だったとしても・・・。