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天高く鷹は舞う  作者: 七鏡
第一章 大陸争乱
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深緑の巫女 3

吸血鬼の接近を容易に許すホークアイではない。すぐさま弓で矢を射る。だが、その矢は吸血鬼にとっては、遅すぎる攻撃であった。

「はっは、人間。そんなちっぽけな攻撃では私は倒せぬぞ!」

吸血鬼が高らかに笑う。だが、そんなことはわかっている。吸血鬼は油断している。

次の矢を放つ。先の一撃よりも遅いその矢を吸血鬼は掴む。

「言ったであろう、人間。こんな・・・・・・」

その瞬間、矢が爆発した。吸血鬼を包むほどの煙が上がる。

「仕込み矢だよ」

そう言ってホークアイは矢を続けて打つ。大した傷は与えられないだろうが、敵の動きは止まっていた。連射される矢を空中の吸血鬼は受ける。だが、吸血鬼は体勢を立て直し、再接近する。より俊敏な動きの敵に矢は当たらない。

「舐めた真似を、人間!」

「てめも舐めるなよ、人間さまを」

吸血鬼が青年の首を掴む。ホークアイは弓を落とす。だが、その目に宿る闘志は失われていない。

「楽しみだな、その目が絶望に迫る時が」

「言ってろ」

そう言って右腕を吸血鬼の顔に向ける。そこから小さな矢が放たれる。

その矢は吸血鬼の左目を突き刺した。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」

痛みに唸る吸血鬼。首から手を放し、転げまわる吸血鬼。その吸血鬼の目をファイールが攻撃する。天より急降下し、両脚の爪で抉る。

その隙にホークアイは弓を拾い矢を三本番える。そして一気にそれを引く。ファイールがそれを察知し、舞い上がると、矢は吸血鬼を襲った。ちょうど左目の部分に三本の矢が刺さる。うちの一本は頭を突き抜けた。

それでも吸血鬼は生きている。

「しぶといな」

ホークアイが苦々しくいう。吸血鬼は矢を抜くと、残った右目でホークアイを睨む。

「許さん、ユルサン、ゆる、さない・・・・・・」

膨張する筋肉。崩れるシルエット。吸血鬼の体が変化していく。翼は巨大になり、巨大な蝙蝠の姿へと変化した。

『愚かな家畜よ、殺してやる。生まれてきたことを公開するほどの苦痛を与えてやるぞ』

「そんな下っ端の吐くセリフ言うなよ」

そう言いながらも、ホークアイは焦っていた。的が大きくなったとはいえ、敵の皮膚は厚くなっている。結果的に殺しきれない状況である。

「ちくしょ、だれか来ないもんかね」

「ひゃっはあ!」

突如そんな声とともに狂戦士が現れた。

「アレス・・・・・・・!」

「よぉう、ホークアイ。手間取ってるようだなぁ」

最悪の男が立っていた。

「なぜここに?」

「なぜ?決まってんだろう、てめえだよ。え、ホークアァイ」

そう言ってロダリオンを構えるアレス。その先には吸血鬼。

「の前にィ、このデカブツをつぶすとするか」

とりあえず、この瞬間だけは敵ではないと判断し、ホークアイもまた吸血鬼に弓を向けた。

『一人増えようと、人間如きがこの侯爵たる私を倒せると思っているのか?』

「はん、山に隠れているチキンが何言ってんだ?」

挑発するアレス。

「来いよ、三流野郎」

『貴様――――――!!』

蝙蝠は吠えて宙に飛ぶ。そしてその鉤爪で地上を削り取った。


地に身を伏せ攻撃を回避した二人。アレスは鬱陶しそうに土煙を払っていった。

「おい、ホークアイ。お前、奴の動きとめれば、もう一個の目つぶせるか?」

蝙蝠を顎でしゃくってアレスは聞く。

「俺はホークアイだぞ、それより、止めれるのか?」

ホークアイは笑って言った。アレスは歪んだ笑みを浮かべて言った。

「愚問だなぁ。俺を誰だと思ってやがる?戦神アレスだぜ?」

そう言ったが刹那、空中の蝙蝠の左翼に切りかかるアレス。超人的な跳躍力で蝙蝠に迫る。

それを援護するように弓を放つホークアイ。蝙蝠の移動を妨げる。そして、アレスは剣でもってその左翼を切り落とした。

『!?』

落ちる巨体。その間もアレスの剣戟が続く。血を流す吸血鬼。

風を読み、距離を計算し、すぐさま矢を放つホークアイ。その矢は蝙蝠の残りの目を貫いた。

続けざまに矢を放つ。無数の矢が蝙蝠を襲う。地上に迫りながらも体勢を立て直せず、怪物は大地を震わせて激突する。


土煙が収まると、そこには人間大の吸血鬼が倒れていた。体から血を流し、両目から血の涙を流す死体が一つ。

「吸血鬼の目には魔力が宿る。故にそこをつぶせば、魔力が暴走して体を保てなくなる」

吸血鬼は落下中に体が元に戻り、強い衝撃を受けた。強靭な肉体とはいえ、重力には勝てない。体の内部は粉々に砕けていることだろう。

さて。ホークアイはすぐさま弓を構える。そう、敵はまだいる。吸血鬼以上に厄介な敵が。

吸血鬼の先に立つ暗黒騎士。その姿を認めるや否や、ホークアイは弓を放つ。

それを避けながら、獰猛な戦士が奔ってくる。その身体能力は人間のものではない。

「ひゃっはーーーーぁ!!」

楽しくてたまらない。顔がそう物語る。この戦いはどちらかの死をもってして終わる。そう思った戦いは突如として終わった。


「やめなさい、アレス!」

響いた、鈴のような声。その声はそう、あの少女のもの。

そう思って振り返ると、クリームヒルトが立っていた。

「クリームヒルト?」

「あぁ、姫!?」

アレスの驚きの声。姫?その言葉に疑問を感じるホークアイ。

確かに、彼女の動きには貴族のような気品があった。だが、姫とは?

「すみません、ホークアイさん。危険とはわかっていましたが、ここであなたとアレスを戦わせるわけにはいきません」

そう言って、少女は顔を上げる。閉じられた目。だが、その顔は呆然と立つアレスを見ていた。

「帝国第二皇女クリームヒルトが命じる、アレスよ、剣を納めよ」

力強きその声に、アレスは黙って従う。そして、続けてアレスに言った。

「私を、父上のもとに連れて行きなさい」

「おい、待て。どういうことだ、クリームヒルト」

そういうホークアイに顔も向けずにクリームヒルトはアレスのもとに行く。そして、アレスが彼女を抱き上げると、二人の姿はそこから消えた。

「くそ、どういうことだよ・・・・・・」

ホークアイは弓を持って佇む。そんな彼の肩にファイールが止まる。

彼の疑問に答える者はいない。沈黙がその場を支配した。

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