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天高く鷹は舞う  作者: 七鏡
第一章 大陸争乱
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深緑の巫女 1

沈黙を続けた王国がついに動き出した。帝国、連邦の争う前線において両軍に抗する派閥を煽り、反乱を起こさせ、その隙に王国の騎士団・僧兵軍が街を占拠する、という事態が多発。また、山脈の路を通って表れた王国兵の奇襲により、両陣営は大きな被害を被った。

王国の動きに合わせ、海洋に面しそれまで連邦と足並みをそろえていた貿易国家シェルシェなどが蜂起。

戦局は大きく様相を変えた。


ホークアイら王国の精鋭五人は連邦領に侵入し、シェルシェへと向かっていた。

五人は馬を駆り、最短距離でのシェルシェ到着を謀った。そこからさらに同盟国を募り、動いていくこととなる。国王の妹、ブリュンがいることも交渉では大きな影響をもたらす。


しかし、事態は思うようにはいかなかった。連邦の兵士に見つかったのだ。

五人の仲間は散り散りとなった。ホークアイもまた、今現在決死の逃走劇を繰り広げていた。

彼を負うのは『銀狼』と呼ばれる男、ケイ=ザー。連邦元老院より聖戦士パラディンの位を授けられた男。連邦最強の戦士。

ホークアイは今身をもって知った。彼が『銀狼』と呼ばれるわけを。

走りながら後ろを見た。そこには人間大の銀色の毛の狼がいた。

古の種族、ライカンスロープ。その先祖返りなのだ。

「ちい!」

先ほどから何度も矢を放つ。それは確実に銀の狼を傷つけるが、狼はそれをものともせずに追ってくる。

その後ろから来る、重装騎兵が青年の逃げ場を奪う。

「!」

目前には崖。下は川だ。

「だが」

後方の狼よりはましだ、と思って一気に落ちた。

それを見て銀色の狼男は笑った。

「鷹とは名ばかりだな」


どれほど、川を流されたか。ホークアイが目を覚ますと、そこは古びた木の家だった。

「あら、目が覚めた?」

鈴の音のような声。その声のほうを向くと、緑色の長い髪の少女が椅子に座っていた。その両目は閉じられていた。

「あ、私目が見えないんですけど、心配いりませんよ。魔力を見ることはできますので」

魔力を感じ取ることで、周囲を認識する。高度な技術。そこから、この女は並大抵の魔術師ではないことをホークアイは感じ取った。

「私の名前はクリームヒルト。あなたは?」

美しき女は問いかける。女神のような外観を持つ女に、自然と警戒は薄れていた。

「名はない。呼びたく場ホークアイと呼べ」

「ホークアイ。鷹ね、見たことはないけれど」

そう言って、手を伸ばし青年の顔を触る。

「うん、感じるわ。あなたに宿る力、大きな、そう、大きな鳥。意志の力を」

クリームヒルトは呟いた。

「ここは、どこだ?」

「ここ?ううん、ここは」

そう言って一泊置いた。

「帝国の辺境の地。そして、魔が徘徊する地よ」


クリームヒルトはここに住んで数年という。たまに訪れる行商以外はここに寄り付かない。ここは「魔女」の家だかららしい。

「私は目が見えないけど、力がある。人々はそれを恐れているのよ」

そういう彼女は少しの哀しみを浮かべた。

「兄様も父様もみんな・・・・・・」

その時だけ、彼女は年相応の少女であった。神秘的な雰囲気の中に、子供らしさが感じられた。

ホークアイは傷の治療のため、ここにとどまった。単純に少女から離れたくなかったのかもしれない。

それほどまでに少女は魅力的であった。

だが、傷も癒えたころ、ホークアイはこの家を去ることを少女に告げた。

少女は悲しげな顔を浮かべた。しかし、すぐに笑いながらこう言った。

「わかりました。ですが、私もついて言ってはいけませんか?」

少女の申し出にホークアイは驚く。

「なぜ?」

「実は、少し気になることがあって。もしかしたら、ホークアイさんが来たのは運命かもしれない、と」

少女が言う。神秘的な少女の前では、すべての言葉が真実であるかのようだった。

「危険な旅ではありますが、連れて行ってはいただけませんか?」

少女が言う。ホークアイは人と関わりを持とうとしなかったが、彼女とならどこまでもいけるような気がした。

「喜んであなたをお連れしよう、深緑の女神よ」

そう言ったホークアイに乙女は手を差し出す。

「お願いします、ホークアイさん」

青年は静かにその手を握った。


その二人の様子を静かに見つめる者がいた。帝国の暗黒騎士が一人、アリシアロットであった。

「紡がれゆく運命。終末は近い。急がねば・・・・・・」

愛おしそうに深緑の少女を見て、名残惜しげにその場を後にした。

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