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天高く鷹は舞う  作者: 七鏡
第一章 大陸争乱
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仲間 3

戦士グラウコスは狩人に問いかけた。

「なぜ、あの矢が降ってきた?」

タイミングも、威力も、すべてがあり得ない。生きた鷹のように急降下してきた矢。意志を持つように狙い澄ました一撃は、戦士から槍を奪った。

「簡単な話さ」

ホークアイは笑って、弓を見た。

「俺はホークアイ、鷹だぜ?」

そう言って狩人は笑った。それを見て、四人は言葉に窮する。

魔法を使えば、あの芸当は可能だ。あらかじめ矢に魔術を施し、タイミングを合わせれば。

だが、全員が気づいていた。あの矢にも、弓にも、何にも魔術の痕跡はない。つまり、あれは魔法によるものではない、ということだ。

ホークアイ。狙った獲物を逃さぬ狩人。彼の放つ矢は常識など知らないのだと、彼らは知った。

「で、俺のことは認めてくれるのかい?」

「認めざるを得まい、君を歓迎しよう、ホークアイ」

そう言い、腕をホークアイに差し出すグラウコス。そして、ホークアイは差し出されたその手を握る。

かくして、王国の精鋭たちは揃った。


王国の入り口、魔の森。帝国軍の指揮官の一人がそこに陣を張っていた。

「だりぃ」

作戦中に上司を殺害して、僻地に送られた、それが男の中では不満だった。

いらつく上司はいないが、前線からは遠く離れた。近くにいる連邦の兵士にも手を出すなと、釘を刺されている。彼の任務はこの森の監視。それとたまに入る偵察部隊の様子を眺めるだけ。

退屈極まりない。

宣戦を布告した王国に動きでもあれば、ここは最前線なのにな、と男は思う。

それほどまでに男は戦いを求めた。男の名は古の戦いの神の名である。帝国の武術の名門の出でもあった。幼少時より、戦いを求め、戦いに身を置いてきた。戦いは、彼のすべてであった。

男の名はアレス。帝国の狂戦士。

しかし、そんなアレスに喜ばしい報告が入った。それは飽くまでアレスにとっての「喜ばしさ」であったが。

「アレス様、敵が、大国の連中が攻めてきました!」

歪んだ笑みを浮かべ、嬉々としてアレスは愛剣を取る。

「敵の数は?」

「四人、ですが、聖騎士に断罪者、それとあのグラウコスがいまして、我々は劣勢です!」

たかが四人に、三十の兵が情けない、と思いながらもアレスの心は燃え上っていた。

聖騎士、断罪者、魔槍。王国の誇る精鋭。戦いの血が湧き踊るのを、アレスは感じた。

「はん、いいぞ。相手に不足はねえ」

笑うアレス。報告に来た兵士はそれを信じられない目で見た。

そして、一瞬の後、アレスの姿は消えていた。


帝国陣地への強襲により、帝国兵のほとんどが倒れた。ユーリアを除く四人はそのまま、連邦の陣地に行こうとして歩を止める。

「おいおい、なんだ、ありゃ・・・・・・」

ホークアイが呆然とつぶやく。彼の目に映るのは、驚異的な速さでこちらに向かう、一つの影。

「おい、気ぃつけろ!敵だ!」

そう言って、すぐさま矢を放つ。だが、それを影はあっさり避け、掴んだ。そして、それを振りかぶって投げ返した。

ホークアイはそれを矢で撃ち落とす。グラウコス、ブリュンが獲物を構える。パルティアンは拳を構えた。

すると、影は速度を落とし、四人の前に立った。

逆立った赤い髪。顔には竜の入れ墨が彫られていた。帝国の黒い鎧。それを纏うことが許されるのは、皇帝が直々に任命する暗黒騎士ブラッケストナイトのみ。

「アレス・・・・・・!」

誰かが、呟いた。

「まさか、こんなに豪華なメンツと戦えるとはなあ」

笑って暗黒騎士は言った。

「てめえらの言う神に感謝だな」

左手で愛剣を構える。

「さあ、ショータイムだ!楽しもうぜぇっ!」

そして、加速してブリュンに迫る。ブリュンは二刀のレイピアでその凶剣を防ぐ。そしてそこにグラウコスの槍が間髪はさまず繰り出される。それを軽々避けて、蹴りを繰り出すアレス。

そこにブリュンとパルティアンの一撃が繰り出されたため、一度アレスは後退する。

「ひゃっは!」

笑いながら距離を取るアレス。と、その背後にユーリアが現れる。彼女は二本の短刀で、その首を落とそうとする。だが、振り返ったアレスは彼女の獲物を蹴り飛ばし、彼女の鳩尾を殴る。崩れるユーリア。

「化け物かよ」

ホークアイはそう言って傍観している。下手に弓を射ても、この乱戦では味方を狙いかねない。

「さて、どうするかな」

幸い、相手は名の知れた四人を狙っている。自身には注意がさほど向いていない。

ホークアイは矢を一本取出し、宙に放った。


アレスは四人を相手にしながらも、余裕であった。現世の戦神とも呼ばれるアレス。地上最高の戦闘力。それが彼だ。負けを知らず、戦いを遊びのように楽しむ。その存在は悪夢そのものだ。

「楽しかったぜ、だがな、そろそろ飽きたぜ」

アレスが言う。そして、それに呼応するように剣が震えだす。朱い剣が啼く。血を求め、犠牲を求めて。

「征け、ロダリオン」

そう言って剣を掲げたアレス。恐ろしき、魔の力が集束する中、四人は動けなかった。


「おい、俺を無視すんなよ、戦争狂」

ホークアイが言って、弓を射る。

「あん、虫が鳴いてるな」

アレスは興味なさげに見ると、剣をホークアイに向けた。

「名もなき一般人は死んでろや」

「確かに名はないが」

そして、ホークアイは笑う。

「はたして一般人かな」

立て続けに放たれる矢はすべて払われる。だが。

天からの一撃に、アレスは反応できなかった。

「なにぃ!?」


アレスはとっさに上半身を動かし、矢を避けようとした。だが、矢は途中で軌道を変え、アレスの左腕を貫通した。

「が、はぁああああぁぁああああああ??」

その時、戦神は生まれて初めて「痛み」を味わったのだ。

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