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天高く鷹は舞う  作者: 七鏡
第一章 大陸争乱
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仲間 2

聖神教は王国のみならず、大陸でも力ある宗教だ。総本山である王都の大聖堂から、異端狩りのために派遣される特殊な神官がいる。それが異端者審問官。魔物の処理及び、教会の敵、罪人の処刑が任務の武闘派である。

断罪者と呼ばれる若き神官は有名である。戦火の中、神の名のもとに横暴する帝国貴族や連邦軍人。それらを神の名のもとに断罪してきたからだ。恐ろしいことに、たった一人で百の兵が囲む屋敷へ侵入し、暗殺を成し遂げたという。

彼の実力はいまだ不明である。その武器は不明であり、容姿もわからなかった。ただ、血のような方位をまとう以外。


ホークアイは法衣の男を見る。なるほど、確かに普通ではない。纏う雰囲気からその目も。

獲物は何か、まったくわからなかった。魔法の使い手か、拳を使う格闘術の使い手か。目を凝らしてもわからなかった。鷹の目をもってしても、彼の異様さは見抜けなかった。

「では、ほかの人も紹介しましょうか」

パルティアンが言うと、突如一つの影が一本の木から降ってきた。ホークアイもその人物を認識することはできなかった。

「お久しぶりです、姫」

影は低い声でそう言った。声の感じから女だろうか。だが、全身黒い装束で覆われているためわからない。

「あら、ユーリアね。ホークアイ、彼女はユーリア・シュバッテン。潜入・暗殺のプロフェッショナルよ。ところでもう一人は?」

ユーリアに問いかけるブリュン。それにユーリアは沈黙する。

「はぁ、いつになったら揃うのかしらね」

「まったくだ、それにしてもずいぶんなメンツだな」

ユーリアという女のことは知らなくとも、その実力のほどは明らかだ。存在感を察知することができなかった。これが敵だったならば、ホークアイは今頃死んでいたろう。

と、ホークアイが何かを感知する。ユーリアも反応していたことから、察知能力も高いようだ。

「来たようだぜ、もう一人」


男は巌であった。筋骨隆々といった姿、他を威圧する巨体。浅黒い肌と、髪一本ないスキンヘッド。若干の無精ひげを生やした男は巨大な槍を持っていた。その巨体に勝るとも劣らぬ大槍を。

「グラウコスね」

ブリュンが言った。

「王国最大の戦士。そして、国王の親友」

男は近づいてくると、神官、暗殺者、聖騎士を見て頷く。それを見たところ、四人はいずれも面識があるようだ。男はホークアイを見た。

「グラウコス・グラウセウスだ。ホークアイ、会って早々申し訳ないが」

そういって大男はその大槍をホークアイの眼前に突き出す。狩人はそれにピクリとも動かない。

「ほう、殺す気がないと知って避けぬか、それとも避けられなかったか?」

巨体を持ちながらも、俊敏な動き。だが、本気ではない。ホークアイは笑いながら言った。

「俺を試すきか?木偶の坊?」

ホークアイは挑発する。それを受け、戦士は獰猛な笑みを浮かべた。

「実力を試させてもらうぞ、鷹の目。俺の槍を、捉えられるかな?」


決闘者を除いた三人は、万が一の事態が起こらぬように見守っていた。いずれもこの決闘の勝者はおそらくグラウコスだろう、とは思っていた。無論、ホークアイも十分強い。だが、戦士として生きてきたグラウコスには勝てぬだろう。


ホークアイは樹上で風を読んでいた。若干強い。これでは矢はまっすぐ飛びはしないだろう。

木から飛び降りたホークアイは、目の前の戦士を見る。グラウコスは鎧を胸部に纏っていた。それ以外の部分は布などの軽装であった。だが、この男の筋肉は、そこらのものよりも厚い鎧のようであった。

「さて、準備はいいか、ホークアイ」

「いつでも」

そういって数歩下がるホークアイ。近接戦は得意ではない。グラウコスはそれを咎めはしなかった。

「では、ブリュン」

そう言って彼もまた数歩下がる。そして、ブリュンが言う。

「それでは両者の決闘を始める。どちらかの降参、または我々が勝負があったと判断するまで戦うものとする。致命傷を与えることは禁じる。では、はじめ!」

高らかに響く、美しき声。と同時に駆けだす両者。ホークアイはグラウコスから遠ざかり、グラウコスは槍を構えてホークアイへと突進する。

「うおっ」

ホークアイの立っていた場所をえぐる大槍。圧倒的なまでの暴力に、ホークアイは身を震わせた。

「ほら、どうした!」

大槍を振り回す戦士。それを交わして、近場の木によじ登るホークアイ。

「そうら、お望みのプレゼントだ!」

そう言って、矢を射た。しかし、それは大槍にふり払われた。

今まで、彼の矢は一撃で敵を屠った。だが、それは今までの相手が化け物ではなかったからだ。

目の前の戦士は、化け物だ。それも、今まで彼が見てきたどんなものも超える。

「くそ」

木々の上を飛ぶホークアイ。その進行上の木々をなぎ倒し、追い詰めるグラウコス。

「観念しろ、鷹。狩人はお前ではなく、私だ」

グラウコスは大槍を持ってそう宣言した。自身に満ちたその顔は誇り高き戦士であった。

だが、ホークアイは笑いながら言った。

「そりゃ、どうかな」

そう言うと、天に向かって矢を放つ。一撃、二撃と、立て続けに。

その間に彼のいた木は押し倒される。ホークアイも無様に地に転がる。

「鷹も地上ではただの鳥。さぁ、参ったと言え」

槍を構えながら近づくグラウコス。しかし、笑いを抑えずにホークアイは言った。

「いやだね」


勝負はついた。三人は確信した。しかし、パルティアンは何かを天に見た。

「!!まさか」

彼の見たそれをほかの二人も見た。それはあり得ない光景だった。


突如、グラウコスの大槍が、彼の手から落ちた。

驚愕の顔で槍を見るグラウコス。そこに先ほどの余裕は窺えない。

天から降ってきたのは十二本の矢。それは先ほどホークアイの放った矢だ。


そしてその瞬間、ホークアイは弓に矢をかけた状態でグラウコスに接近した。そして、弓を彼の頭に近づけて言った。

「ほら、言えよ。参った、ってな」

鷹は笑いながら言った。

グラウコスは狩人を舐めていたらしい。

誇り高き鷹の爪は狙った獲物を逃さない。

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