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第1話  続・世界を見る

01


 ティアスは、ケガをして運ばれてきた客室をそのまま借りて、オワリ国にいることになった。

 サワダの父親がミハマの父親、つまりサワダ元老院議院がオワリの王に『自分が後見になる』といって話を通したらしい。


「聞いた?アイハラのいた時代ではね、あのティアスって女は、実はオレの女で、アイハラはずっとあの女を狙ってたらしいんですよ、これが」

「ほー、なるほどね。だからあの態度か。いやあ、アイハラくん、判りやすいなあ。いやいや」

「……そう言う話は人のいないとこでしろよ!関係ないっつったの、お前らじゃん!!」


 城の屋上で、2人仲良く煙草を噴かしながら横に並んで床に座り、向かいに座るオレをからかう。

 イズミのヤツ、サワダの前だと随分優しいんじゃないの?ちくしょうめ。


 でも、こうしてると、学校の屋上で話してた時みたいだな。泉も沢田も、自信たっぷりっつーか、自信過剰って言うか、こうやって人のことをすぐからかってきたから。オレがヤツらから見たらいじられキャラだっただけかもしれんけど。まあ、泉は沢田ですらいじってたからな。新島くらいか。あいつは妙に大人びてて、いじられたフリはしてたけど、何だかずるい印象があったから。


 そういや、ティアスがここにいるってことは……ニイジマや、一緒にいたはずのセリ少佐はどうしてるんだろう。

 彼女が危機の時に、確かに傍にサワダがいたから手が出せなかったとはいえ、何もしなかったんだろうか。それとも、別の所にいたってことかな。


「……で、アイハラ的にどうなのさ、彼女は」

「だから、別人だっつーの!顔は一緒だけど、髪型とか違うし、あんなサワダみたいに戦うような子じゃないよ。フツーの子だった」


 オレの知ってる彼女と、こっちの彼女の大きな違いは、髪型だった。

 腰まで伸びた長い髪に、違和感を覚えた。だけど、話してみたら、オレの知ってる彼女だった。


 そして何よりオレは、彼女と秘密を共有してる。


「でも、縁だの何だの言ってたけどさ、ただの偶然ってことだね」

「偶然?何が?お前の言うことは良くわかんねえよ」

「テッちゃん、吸いすぎじゃない?シュウジさんみたいになっちゃうよ?」


 イズミにそう指摘され、サワダは苦笑いと共に、二本目の煙草をしまった。

 その様子に、妙な違和感のようなものを感じたのはオレだけだろうか。何だか、サワダらしくないって言うか……。

 イズミに対しては、なんか一言くらい文句を言いそうなモンなんだけど。「お前だって吸ってんだろ!」とか、大したことじゃないけど……。

 シュウジさんみたいって言うのがきついのか?


「偶然って?」

「だって、彼女はアイハラのいた時代では、テッちゃんの女だったんだろ?でも、テッちゃんと彼女がどうにかなるなんてあり得ないし、何よりミハマが興味を持ってるし」

「だよなあ。オレも別に、どうでも良いし」

「……ホントに?てか、なんでイズミも『あり得ない』とか言い切れる?」


 ……あ、やべ。睨まれた。


「シン、睨むなよ。こえーぞ」


 オレの表情が変わったのをみて、溜息をつきながらサワダがイズミをたしなめてくれた。


「でも、シンの言うとおりだよ。あり得ない」


 サワダは……結局二本目の煙草に手をつけた。イズミはそれをとめなかった。


 気味が悪いほど、イズミはサワダに気を使っていた。いや、イズミだけじゃない。イツキ中尉も、ミナミさんも。もしかしたら、シュウジさんですら気を使ってるかも知れない。

 サワダは、常に何か重いものでも背負ってるような顔をしながら、時折笑顔を見せてくれる。

 オレですら、彼の笑顔に疑問を感じる。


「あり得ないテッちゃんに質問ですけど?」

「なんだよ」

「何で彼女を助けたの?魔物と戦うのは良いけど、彼女を助ける必要はないね。共同戦線をはったわけでもないし。ほっとけばいい」

「薄情!女の子が1人で戦ってんのに、助けもしないのか、イズミは!?」


 助けなかったら、ティアスはどうなってたんだよ!!そこまで鬼か、この男は!!


「状況によるかな。でも、オレだったら、彼女は助けない」

「なんで?!」

「そんなに目くじらたてんなよ。かっこわるい」

「かっこわるくない!当然のことを言ってるんだ、オレは!」

「ああ、惚れた女を助けないで、どうするってか?」

「そうじゃなくて!」


 オレ1人で怒鳴ってて、なんか子供みたいだ。でも、イズミの言葉は納得できない。


「あの女は、怪しすぎるよ。オワリにあんな技を使う女はいないし、あそこまで魔物と渡り合える人間なら、何かしら、どこかの国でよい扱いを受けてる。だからこそ、元傭兵の集まりだった連中が、現中王直属部隊として国を動かしてるわけだ。どこの国も、腕の立つ戦士を集めるのに必死だよ。表だって研究が出来ないから余計に。そう考えたら、彼女は怪しい。一体何者だ?どこかの国の腕の立つ戦士で、この国を探りに来たんじゃないかってね。そう考えるよ」


 溜息をつきながら説明するサワダの横で、イズミが苦笑いする。

 おおかたサワダが親切に、オレみたいな何も出来ない平和なガキに説明しているのを、「お節介だな」とでも思ってるんだろう。


「……どこの国に属することも由としない、流浪の旅人かも知れないじゃないか」

「映画の見過ぎだ。実際、そんなんじゃ今の世の中生きてけない。中王軍によってニホン国中くまなく探されてるからな」

「……なんだよ、それ」

「そう言う世の中ってことだよ。オワリの国でも、城の中でもオレ達には自由がない。お前、とんでもない時代に来たんだよ、判ってる?」

「判ってるよ。でも、城の中でもって……」


 思わず、辺りを見渡した。


「平気だよ、ここはね。オレに抜かりはない」


 にやっと笑ったのはイズミだった。


「城の中は……?」

「たまに、中王軍のスパイが入ってたりするね。隠密部隊って言うの?こっそり各国の王宮に忍び込んで、中王にご報告してるらしいね」


 さらっとそう言うサワダ。

 おいおい。それって、とんでもない状況じゃない?常に監視されてるってことじゃん。戦国時代かよ!(似たようなもんか)


「……オレに抜かりはないってことは……」

「王子の護衛部隊近辺は、シンが片づけてるからな。大丈夫だよ。じゃなきゃ、オレ達、おちおち会話も出来ねえよ」


 ……簡単に言うけど、それって相当すごくない?さすが怪獣。だてにあんな魔物と渡り合ってないし。いや、それ以上にすごくないか?


「でも、護衛部隊近辺だけなんだ」

「他の所までいちいちやってらんないよ」


 悪びれずにそう言うイズミを、サワダが笑い飛ばした。

 ホントに、こいつらの味方って、護衛部隊だけなんだな。


 だから、オレもまた、こいつらからは弾かれてしまうんだ。



02


「……なあ、中王は、何で各国にスパイとかいれてんの?だって、大名行列までやらせて、しっかり支配してるのに」

「さあね、気が小さいんじゃないの?」


 オレの質問に対してそう答えたイズミを睨み付けたら、笑い飛ばされた。


「てか、元傭兵の集まりって言ってた、中王の周りの人は。なあ?!」

「ああ、言った言った。オレらの年より上のヤツは知ってる。知ってるって言っても、各国の支配階級くらいだけだけど。情報操作もされてるし」


 わざわざ説明してくれたサワダに、イズミがからかうように「親切☆」なんて言って笑った。


「どういうこと?」


 イズミの方を見るのをやめた。


「テッちゃん。そんなヤツに説明したってしょうがないでしょ?大体、そいつの話がホントなら、この時代のことなんか、コイツには関係ないんだし」

「関係ないからこそ、知っといた方がいいこともあるかもな。ミハマなら、多分そう言うさ。そのつもりでコイツを放し飼いにしてるんだろ?」


 放し飼い……言い得て妙とでも言うべきか。

 実際、王子の護衛部隊だって、オレに対しては微妙な態度だ。オレが悪いのかも知れないけど。王子であるミハマが、オレに対してもフラットな見方をしてくれた。だからこそ、こいつらもそれに倣っている。それだけだ。

 痛いほど、判ってきた。


「関係ないからこそ、知らなくても良いことだってあるさ。ミハマなら、そうとも言うだろうね。だからこそ、オレ達も放し飼いだよ。オレの態度を見てもね」


 サワダは溜息で返事をした。

 イズミの言葉の意味も判る。

 ミハマはオレを全面的に信用してるわけじゃない。出会ってからの時間を考えれば当然だ。

 だからこそ、オレにも、オレを疑う者達にも、好き勝手にやらせている。

 何より、オレはともかく、彼は彼の護衛部隊を、何より誰より信頼している。彼らがそれに応えるために動いているから、全幅の信頼を寄せているのか、それとも、彼が信頼するから、彼らがより応えようとするのか。


「スパイ、いるんだろ?この国にも」

「いるよ?」

「だから、オレが余計なこと言ったらまずいんじゃないの?」


 睨むようにイズミを見つめるオレに、彼は苦笑いで応えた。


「何度も言うけどね、オレはそれなりの階級の軍人で、この国の世話になるなら、それなりの態度しろっての。しかも年上なんだし。だってお前、テッちゃんと同じ年なんだろ?あれ?今年18なら、テッちゃんのが上?」

「……誰が年上?」

「だから、オレ。君の時代のオレのそっくりさんは、君と同じ年かもしれないけど、オレは今19歳ですから」

「……そうなの?学年一緒とかじゃなく?」

「なく!」


 そう言えば、ニイジマも20歳とか言ってた気がする。なんか、ここまでそっくりなのに、年齢とか違うのって、逆に違和感あるんですけど!!


「そんなに驚いた顔しなくても。意味が判らん」

「だって!こんなに似てるのに、つーかまんまなのに!気持ち悪いよ」

「気持ち悪い意味がわかんねえし」

「もう良いよ。良いから、説明して」

「図々しいよね、アイハラくん」


 そう言っていたけど、イズミは何故か笑っていた。

 だいぶ、態度が柔らかくなった気がする。


「要するにだ。今から25年前、当時傭兵だった現中王は、仲間と共に中央に乗り込み、中王を殺し、赤子だった中王の娘を幽閉し、その座に自らが座った。それだけのことだ」

「……クーデターみたいなこと?」

「それならまだマシじゃない?」


 ホントに、支配者なんだ。今の中王は。

 だから、逆らった国は武力制圧され、『墓』だなんて呼ばれる。

 逃げ場はない。この世界は、もうこの狭い場所しかないのに。


「なあ、その中王の娘って……?」


 幽閉したってことは、殺されなかったってことだ。

 なんでだろう。赤ちゃんを殺すのは忍びないってことかな?多少なりとも、人間らしい心があるってこと?


「行方不明だよ。5年前からね。まあ、前中王の娘が生きてるってことを知っているのは、中王軍でも一部だけどね。統括部があれから 、血眼になって探してるし。行方不明になったとき、中央に出入りしてる各国のエライさん達は、彼女が死んだものだと思ってる。そう発表されたし」

「意味が判んないって。何それ?何が真実で?誰が何を知ってるんだよ?」

「さあ?」

「何でイズミはそんなこと知ってるんだ?」



 彼は笑顔で応えた。聞くだけ野暮なのかも知れない。コイツは何だか底が知れない。


「中王が各国にスパイを派遣してるように、各国も対応してる。生き残り、のし上がり、支配から逃れようとしたり、うまく立ち回るためにね。情報がなかったら、何も知らずにのたれ死んでくだけだから、この世界では」


 サワダが補足してくれた。

 これは、彼の優しさなのだろう。……たぶん。


「中王って、いったい何なんだよ。世界の支配者?何がしたいんだよ。何で探してんの?前の中王の娘を」

「さあ。何がしたいかはよく判らない。だけど、中王の血を引くものを探すのには、何か理由があるらしい。こないだ、シュウジが何か言ってたな」

「言ってたね。まあでも、そんなこと、こいつに話しても仕方ないでしょ?必要ない。ただ、支配されてる側の正しい対応としては、どうやって支配されてるか理解した上で、NGワードを喋らないって言うのがベターじゃないの?」


 彼は、これ以上喋るつもりはなかったのだろう。サワダの隣に座り、彼のマネをするように煙草を吸い始めた。


「支配されてるだけじゃ、納得いかないし、何とかしたいから、『それなりの対応ってヤツ』をしてるんだろ?」

「当然だろ?何もしないままのたれ死ぬのだけはいやだね☆」


 にやっと笑ったのはイズミだった。


「な?テッちゃん」

「……だな」


 その笑顔に、オレですら違和感を感じてしまうほど、彼は力無く微笑み返した。




03


 オレ達の間には、しばらく沈黙と煙草の煙だけが流れていた。

 サワダに似つかわしくない力無い微笑みが、オレからもイズミからも言葉を奪った。そして、そのことは他の誰よりサワダ自身がよく理解しているようだった。バツが悪そうに、また力無く微笑んだ。あの、無愛想で、口が悪くて、偉そうなサワダが。妙に優しいサワダは、オレの知ってる沢田とは似ても似つかなかった。いや、あっちの沢田も、優しいところはあったんだけど。こんなに気弱というか、今にも消えてしまいそうな、儚さみたいなものとは縁遠かったから。


「悪い、オレ、会議あったの忘れてた」


 そう言って、携帯ではなく、腕時計を確認して、サワダは立ち上がった。


「会議?イズミ……中佐は?」

「今日のは、おエライさんの会議。テッちゃんだけ。オレはテッちゃんと階級は一緒でも、生まれも育ちも違うからさ」

「何だよ、それ」

「文字通りの意味だよ。何で嫌そうにすんの、君が。君の常識にないってことだろ?要するに。よっぽど平和だよねえ」

「いや、一概にそうじゃないけど……いろんな世界があったけど、でも、オレの周りでは……」


 こんな手の届く世界で、そんな辛いこと言われたって。


「みたいだな。じゃ、オレ行くから」

「ぅえ?!」


 つーか、イズミと2人にしないでくれー!!優しさ!優しさプリーズ!

 オレの願いもむなしく、サワダは階段室の扉を抜け、下階に降りてしまった。 かといって、この場で逃げるのも……。


「西暦っつたよな、たしか。2000年だっけ?アイハラの時代」

「まあ、その辺り……」

「知ってるよ。ニホンには名目上、階級差って言うのは存在しなかった。まあ、あるところにはしっかりあったんだけど。そういうの、気にもしてなかったわけだろ?」

「……うるさいな」

「君の感覚上、どう思おうと、この世界にも、この国にも、そしてこの城にも、きっちり階級社会って言うのはあるわけよ。それも、あまりいい感じでなく、ね」

「なんだよ。不愉快そうなの、イズミじゃんよ」


 ……無視かよ。オレの顔すら見ないし。


「でも、軍人としては一緒なわけだろ?それに、中佐って結構上だって聞いたぞ?」

「そ、だから、この辺りまでが、今のミハマの力の限界なわけよ。彼の護衛部隊だけは、彼が選び、共に歩むことを選んだメンツ。だけど、彼がそれを望むにしろ望まないにしろ、何をどう頑張っても、この国の一番エライ人の息子なんだ。だから、彼を守り、彼の傍にいるものはそれなりの階級の者じゃないといけない。でも、貴族じゃないオレ達は、元々彼の足下にすら近寄れない存在。だから、重要な会議なんか、でれるわけもない。階級ばっかり偉そうでもね」

「サワダは……」

「ミハマとは、王子と臣下の関係だけど、彼は王弟の息子だし、彼の従兄弟に当たる。相当偉い方の人だよ」

「そうだったっけ?」

「まあ、あんまりそう見えないんだけどね。ちなみに、シュウジさんも王妃様の実弟だから、階級も扱いも相当上だよ」

「ウソ言ってない?それ」

「まあ、嘘臭く聞こえるよねえ。シュウジさんだもんねえ」

「失礼ですよ、あんた達」


 座り込んで話すオレ達の目の前に、いつの間にかシュウジさんが立っていた。もちろん、煙草をくわえたまま。


「だってしょうがないじゃない、シュウジさんだもん。会議は良いの?」


 悪びれず、笑顔を見せるイズミ。シュウジさんの煙草に火をつけるため、立ち上がった。ホストかお前は。


「今まで将官クラスだけでみっちりですよ。今は休憩中です。テツは一緒じゃなかったんですか?」


 彼はまるで山で空気でも吸うような顔で、煙を灰にいれる。


「たった今、会議に向かったけど。すれ違わなかった?」

「いいえ、残念ながら」

「あ、そう。何、中佐ごときじゃ交ざれないような、そんな会議なの?オレが呼ばれないのはいつものことだけど」

「いても、いやな目に遭うだけですよ。判ってるでしょうが」

「だねえ。シュウジさん、将官会議あると、大抵いらいらしてるから」


 なんか、どっちが大人か判んないな。茶化すようなしゃべり方のイズミだけど、端から見てると、シュウジさんのご機嫌をとってるようにも見える。


「そもそも、元老院が軍部の会議にしゃしゃり出てくる意味が判んないんですよねえ。てか、私は軍部の会議になんか出たくもないんですけど。時間の無駄ですよ」

「しょうがないじゃん、軍師なんだから、殿下付きの。でも、元老院も、『この若造が』って言う思いを噛み殺しながら、シュウジさんには一目置いてるんだしさ」


 シュウジさんは溜息と一緒に煙を吐く。いらいらしてるのか、煙草を捨てると力一杯踏みつける。見かねたイズミがもう一本勧めた。


「一目置くって?」

「この人、ただのオタクに見えるけど、こう見えて、国で一番くらいに優秀な軍師でもあるわけよ」

「へえ……」

「驚くだろ?」

「驚くよ、そりゃ」


 ヘラヘラしながらバカにするイズミと、どうしてもシュウジさんが優秀だって言うのを信用してない顔のオレに、シュウジさんが嫌な顔をする。


「……あ、そういえば」


 怒ると思っていたシュウジさんが、突然、イズミを指さした。


「何、突然。お説教なら聞かないよ?」

「説教は会議の後にします。そう言えば、忘れてたんですけど、ミハマが呼んでましたよ。客人の部屋で。呼びに来たんでした」


 忘れすぎだろ!


「客人……?ああ、噂の彼女ね。アイハラくんのお気に入り」

「その話題は忘れろよ!」


 へえ、といった顔のシュウジさんの視線が恥ずかしすぎる。

 イズミは笑いながら急いで階段室に向かって、下に降りていった。



04


 彼を見送りながら、シュウジさんはオレのことを見つめる。まるで親のように。


「大変でしょう?1人って言うのは」


 彼は箱から最後の煙草を取り出し、火をつける。


「突然、何ですか?」

「いいえ。1人になっていないか、心配してたんですよ、それなりに。……あの子達は、何というか極端なんですよ。敵と味方の差がね。ミハマのことが全てだし、他は敵にしか見えていない。まあ、それなりの価値が、ミハマにはあるからなんですけど」

「知ってます」


 ミハマの価値だなんて、オレには判らないけれど。

 でも、彼らはオレのことを信用していない。それはよく判ってる。


「極端なりに、歩み寄りを見せてるじゃないですか。あの人見知りが」

「人見知り?サワダのこと?」


 人見知りって言うか、引きこもりの根暗だな。精神的引きこもり。普通にしてる分、タチが悪い。


「シンですよ。あれは、扱いにくいでしょう。普段にこやかな分、余計にね。まあ、ミハマやテツのフォローもあるかも知れませんが、随分態度が柔らかくなってると思いますよ。何があったか知らないですけど。良い傾向です」


 ……あれ、柔らかいのかなあ。


「あれで、まあまあ、柔らかいんですよ」


 見透かしたようにそう言った。


「そう言えば、あの客人をお気に入りだとか言ってましたね」

「いや、その……ほら、綺麗な子だし」

「君のいた時代の話ってヤツを、テツから聞きましたよ。あの子は笑い飛ばしてましたけどね」

「別人だよ」

「君の口からそんな言葉が出るなんて、意外ですね」


 ……意外?なんで?

 シュウジさんは、何でそんな……??


「何で意外なんですか?」

「いえ……君は、あの時代に執着してるように見えましたから」

「当たり前ですよ。シュウジさんだって……ミハマ達に」

「そうですね。誰しも、執着するモノはありますからね」


 なんて言ったらいいんだろう。

 シュウジさんは案外、人を見透かしたような発言をする。まるで、大人みたいだ。

 ……大人か。


「まだ、元いた時代に戻りたいと思いますか?」

「何ですか。当たり前ですよ。……頼みますって、シュウジさんしか判んないんでしょ?多分」

「私でも、確証はないんですけどねえ。……いっそ、この時代を満喫してみたらどうですか?」

「いやですよ。こんな戦争やら、派閥争いやら、魔物まで現れるような世界。オレ、闘えないのに。戦い方も教えてくれないし。こういう場合、違う世界から来たヤツはスーパーマンになれるもんだって、ドラ●もんの時代から決まってるだろ?」

「そんな都合のいい」


 シュウジさんに言われたくはないかも。


「戦えないなら戦えないなりに、生き方ってモンがありますよ」

「シュウジさんみたいに?」

「私だって、戦ってますよ。軍師ですから。あの怪獣達を基準にしないでくださいね。あの子達こそ『特別』ですから」

「極端ってこと?」

「そうですね。中央内ですら、テツは特別扱いというか、希有の目で見られているというか。シンは、表には出てこないのでそうでもないですけど」

「そうなんだ」


 嫌がりそうだな、サワダの性格上。人前で平気でピアノとか弾くくせに、意外とあがり性だし。騒がれるのか嫌がるし。


「じゃあ、私はこれで。もうそろそろ戻らないと五月蠅いんで」


 煙草を消し、ご丁寧に携帯灰皿を取り出し、捨てると、オレに会釈をして階段室に向かう。


「戻る方法、お願いですからね!シュウジさんだけが頼りなんだから!」

「あまりあてにしないでくださいね」


 オレの方へ振り向くことなく、軽く手を振りながら階段を下りていった。


「ホントにお前、タイムスリップとかしてたんだ。漫画か?」

「……うわ!びっくりした!!……ニイジマ……大……尉?」


 後ろに立っていたのはニイジマだった。でも、軍服は着ていなかった。


「人の階級くらい覚えとけよ。まあ、制服着てないから無理もないけど」


 制服着てても判んないよ。何か書いてあるのか?

 それより、ここ、オワリ国なんですけど。良いのか、こんな所にいて?しかも、ここ、屋上だぞ?どうやって入り込んだんだ?

 確かに中央の制服を着てても目立つけど、私服で歩いていても目立つぞ、ここは。


「何だよ、じろじろ見て。何か変か?」

「いや……ティアスのことが心配できたのか?もしかして」

「心配……まあ、そんなとこかな」

「セリ少佐が、サワダ達に見られてたけど。一緒にいたのがティアスだとは思ってないみたいだけど」


 そう言ったら、ニイジマは人の悪い笑みを浮かべた。


「いいのか?そんなこと言っちゃって」

「だって、ティアスにその話をするスキがないからさ。大抵、誰か一緒にいるし。……何かミハマが妙に気に入っちゃってるみたいだし」


 腹を抱えて笑っていた。いくらなんでも笑いすぎだろ。


「姫、性格はあれだけど、見た目はいい女だしな。元々、あの王子様は楽師を気に入ってたわけだし、当然といえば当然だな」

「今、そんな話してないじゃんよ」

「お前、誰の味方なの?」


 ずるい。急にまじめな顔すんなって。それは、オレの知ってる新島には無い行動パターンだな。

 思わず後ずさりしてしまうが、すぐ後ろにあった柵にぶつかってしまった。

「もう一度聞こうか?誰の味方?」



05


 逃げられない。


 オレの頭の中はそれだけだった。

 逃げる必要なんか無いはずなのに、オレの視線は階段室の入口に注がれていた。


「そんな怯えた顔すんなよ」


 オレのこと脅しておいて、ニイジマは苦笑いをして見せた。


「オレがいじめてるみたいじゃんよ?」


 いじめてんだよ。何だよなんだよ。どいつもコイツも、何でこんな……。


「誰の味方とか……そんなの、オレには判らないし」

「そう。それじゃ、お前が困ることになると思うけど。そんなずるいこと言ってるようじゃ。うちのお姫さんは、そんなヤツ、相手にもしないよ」


 どうして、オレは『ティアスの味方』だと言わなかったのか。

 彼女に、一番心を傾けているのは確かなのに。


「トージ!こんな所にいた!」

「うわ!なんだお前、びっくりさせんなよ!!姫の様子見てたんじゃなかったのか」


 助かった……のか?いや、状況が悪くなったのか?

 振り向き、怒鳴るニイジマの後ろにはセリ少佐が立っていた。彼もまた、デニムに黒のジャケットで、軍服と比べたら随分軽装だった。


「姫の部屋には大抵誰かいて、なかなか近付けないよ。この国は、なかなか厳重だしね」


 ……この人の笑顔には邪心がないよ!

 同じにこやかでも、斜に構えてて常に黒い腹がちらちら見えてるイズミとは全然違う!ちょっと、ミハマと感じが似てるかも。

 あれ?でもそれだとこの人も、ミハマみたいに含んだところがあるってことに……。


「コウタ、お前めっちゃ値踏みされてるぞ?」

「!なに言ってんだよ、ニイジマ!オレ、そんな風に見てないじゃん」

「見てたよ。口開けたり閉めたり、目なんか泳いじゃって。判りやすい」


 困ったような笑顔でそう言われてしまうと……何かホントに申し訳ないっつーの。

 イズミみたいに、嫌味たっぷりの方が気は楽かな……。後ろめたいときは。


「え?オレもするよ?値踏みくらい」

「ああ、はいはい。お前は良いから喋るなって」

「てか、紹介してよ。姫の写真持ってた子だろ?」

「いいよ、もう。お前は有名人だし、コイツはもう知ってるみたいだから。なあ?」

「うん。ニイジマも、セリ少佐も、雑誌で見た」


 サワダとちがって、この2人は雑誌ごときでは騒ぎもしない。普通のこととして扱っていた。


「……オレ、そろそろ戻るよ」


 今のスキに逃げてしまおう。何かニイジマもやっぱり怖い。オレの知ってる新島とは違いすぎる。似てるけど……オレは「怪しきもの」扱いだ。


「ちょっと待った。まだ用は終わってないし。無駄話しに来たわけじゃないからさ」


 ……やっぱり。なんか用があったんだな。

 猫の子を掴むように、軽々とオレの首根っこを掴むニイジマ。たったそれだけのことなのに、オレはもう動けない。

 悔しいし……ホントにオレには何も出来ないことを自覚させられる。


「オレにはないよ」

「お前になくてもオレにはあるよ。ちょっと、頼まれて欲しいんだけど?」

「すみません。意味が判りません。勘弁してください」

「お前なあ。姫からパスもらったろ?」

「でも、ティアスがここにいるなら、あんまり関係ないし」


 そう言って、ちょっとだけ恥ずかしくなってしまった。


「それなんだよな。……あんなケガするなんて思ってなかったからさ。計算違いだ」


 ニイジマはオレに突っ込みもせず、溜息をつきながらぼやいていた。


「うん。姫がイライラしてるのが手に取るように判ってさ」

「……コウタ、お前それで部屋に近づかねえんじゃないだろな?」

「だって、何か愚痴られそうだし。トージがフォローしてあげなよ」

「えー。やだやだ。大体、カナさんに連絡したら、オレが怒られたんだぞ?2人もついていながら何やってんのっつって。オレはその時いなかったし、姫の責任じゃんか」

「でも、トージだってオレに怒ったし。お前がついていながら、あんな目にあわせてって」

「いや、まあ。なんだ。まあまあ。忘れろよ」


 つーか、お前らオレの存在を忘れてるだろ。

 今のスキに逃げるか。


「……で、用って言うのはだ」

「……何でしょう?」


 もちろん、彼はオレを逃がすわけがなかった。再び首根っこを捕まれてしまった。


「話を聞いて判るとおり、姫との連絡がとりづらい状況にある。あの人、ケガが酷くて動けないし」

「本人は、……随分平気そうな顔してるけど」


 他の連中と一緒に見舞いに行ったときは、もう平気、みたいなことを言ってたけど……。


「ホントに平気なら動いてるだろ?あの部屋からほとんど出られないんだ。まだ時間がかかる」

「そうなんだ」

「それに、この国は……いや、あの王子の近辺に限ってだけど、ガードが堅くて近付きにくい」

「それって、イズミやサワダがいるからってこと?」

「そうだな。護衛部隊は厄介だよ。まあ、他は人数はいるけど、大したこと無いって言うか。うちにはコウタもいるし」


 セリ少佐は微笑むことでトージの言葉を受け止めていた。こうして見てると、ただの人の良さそうな兄ちゃんにしか見えないんだけど。相当すごいってことだよな。

 さっき、イズミの話を聞いてからだから、その価値はよく判る。


「もしかして、オレに、ティアスとの橋渡しをしろってこと?」

「そこまでは求めてないけど。そう言うこと?」


 何で疑問型?失礼なくせに、求めてるし!?

 オレだって、2人でなんて滅多に会えないのに!



06


 確かにオレは、この城の中で、場所は限られてるけれど、自由に動けるようになった。


 オレの学ランの胸には金色の小さなバッチがついている。ちょっと凝った彫りが入ってるくせに、星形でちょっとカジュアル。いぶした感じの色が、アンティークっぽくって嫌いじゃない。これがまた意外とかっこよかったりするんだけど。

 だから、このバッチ自体に不満はないんだけど。


 だけどこのバッチは、要するに識別の印なわけで。

 まあ、名札だってそうなんだけど。でもこのバッチがどういう意味での識別なのか?それが判らず、ちょっとだけ不愉快だった。


 でも、オレに自由が、限られた中での自由が与えられたのは、確かにこのバッチのおかげだ。

 国でオレが軍服を着てるわけにも行かない。私服でも、この学ランでも目立つ。だから、この人は部外者じゃないですよ、という証なのだろう。


 事実、先ほどニイジマ達やイズミ達が言っていたように、この国は外敵を警戒をしている。

 そんな中、オレはただの刺激物にしかならない。

 だから自分で刺激物じゃないことをアピールするしかない。


 でも、刺激物じゃないことをアピールできても、浮いてることには変わりない。

 彼女の部屋へ向かう道のりも、オレは好きじゃなかった。


 ここにいると、人目に付くのが、いやになってくる。

 そして、いやでも人を必死で観察しなくちゃいけないことにも気付かされる。

 ホントは、ここにいるのは不愉快でしかなかった。感謝をすることとは、別の話だ。


 なのに、ティアスとニイジマ達の間をつなぐ?この上、オレにここで一体どう動けと?!


 ティアスの部屋に向かう途中で、何人も軍服を着ている人に会う。

 親衛隊以外、この城の上層階であるフロアで、オレが知ってる……つまりは過去で知り合いだったヤツに会うことはなかった。外ではたまに見かけることもあったけど。

 階級の低い兵は、このフロアには上がって来れない……らしい。

 年齢的に、まだ士官学校生か、士官学校卒でも准尉か少尉、大抵は陸軍歩兵といったところだ。

 要するに、このフロアは、あのイズミ達が下手に出るような、階級の高い人たちばかりなのだ。

 だから、余計に居心地が悪い。


 初めて会う人が、どれくらい偉くて、どんな扱いで、どんな立場なのか、ある程度は見極めなくちゃいけないってこと。

 そんなめんどくさい上に、むかつくこと、いちいちしなくちゃいけないのがいやで仕方ない。


 例えば……ちょうどティアスの部屋の前に立つ、軍服に身を包んだ男性。もう、中身なんか見えやしない。間違えないために、まず軍服を、それから階級章を見ないと。

 おそらく、この部屋に一緒にいるミハマか、イズミに用があるんだろうから、伝令だとしても少尉以上。伝令じゃなく、用があるなあ、もっと……。


 胸に光る勲章と、襟に付いた小さな階級章。それを見逃さないように。


 階級は少佐、勲章は1つ。でも、戦争での功績じゃない。

 おそらく年は40近いだろう。豊かな口ひげを蓄えていることに、オレはやっと気がついた。


「……君は?殿下に……ご用ですか?」


 口ひげの少佐は、オレを嘗めるように値踏みしたあと、胸に光るバッチを見つけたらしく、値踏みをやめ、言葉を変えた。

 オレはわざとらしく敬礼して見せた。


「いえ。オレ……僕は結構です。この部屋の客人に用がありますので……。後ほど。外で待たせていただきます」


 オレの言葉を受け、少佐は部屋の扉をノックし、許可を得て入っていった。

 中は何だか賑やかだった。


 そう言えば、サワダの父を後見に持つと言うことと、出会いのこともあって、彼らは彼女を警戒していたはずなのに、話している姿は何だか楽しそうだった。


 その姿は、オレの不安を煽っていた。それは十分理解している。


 部屋の外で待っていたら、ミハマとイズミが口ひげの少佐と一緒に部屋から出てきた。


「イズミ中佐は結構ですけれど」

「いえいえ。王子の護衛が、私の仕事ですから」


 笑顔を崩さないまま、減らず口を叩くイズミ。隣を歩くミハマが、オレの姿に気付いて苦笑いして見せた。


 ……何か、どっと疲れるな。

 思わず溜息をもらす。


 今なら、部屋にはティアス1人か……。やっとまともに話が出来そうだな。

 でも、何から話したら良いんだ?まいるな……ちょっと考えないと。


 扉をノックするまでに、随分時間がかかったような気がした。

 ニイジマがオレに何を求めてるのか知らないけど、彼からの重圧はノックする手を鈍らせるのに充分だった。


「あれ?アイハラ?何だよ、こんな所で」

「?え?!何で、サワダがティアスの部屋から……?会議に行ったんじゃ」


 不思議そうな顔でオレを見ながら、サワダは後ろ手に扉を閉めた。


 てか、なんでミハマ達と一緒に出てこなかったんだよ。今まで……そんなに長い時間じゃなかったにしろ、もしかして2人きりだったってこと?!


「いや、報告会だけだったし、遅れていったからすぐ終わったんだ」

「でも、何でここに?」

「いや、ミハマ達がいたから……。なに噛みついてんだよ」


 苦笑いを見せるサワダ。……ちょっと大人気なかったかも。

 でも、よりにもよって、サワダなんだもんな……。


「別に。なに話してた?」

「話?……話、ねえ……」


 目を伏せる。その顔が、まるでオレの知ってる沢田のようで、……嫌だった。


「とくに何も?お前が気にするようなことは。自分の知ってる女とは別人とか言っときながら、相当だな」

「サワダこそ。何でそんな含んだ言い方するんだ?」


 一瞬、サワダの表情が変わったのを見逃さなかった。

 すぐに元に戻ったけど……慌てたような、悪いコトしたような、そんな顔だった。


「なにもない。あるわけもない。勝手に誤解すんなよ、めんどくせえ」


 そう言って、オレの前から逃げるように、彼は立ち去った。




07


 ……絶対何かあった!

  怪しすぎるよ!好きになるわけなんか無いって言っときながら、あの態度!


「相原です、入って良い?」


  思わず、ドアをノックする手に力がこもる。ちくしょう、悔しい……。何があったんだ。

  ティアスもちっとも返事してくれないし。


「……ごめんね。どうかした?どうぞ?」


  何だ、わざわざ扉まで来て開けてくれたんだ。申し訳なさそうに扉の向こうからオレを覗いていた。


「1人?さっきサワダが出てきたみたいだけど」

「……あ、うん。いたけど、一緒に他の人もいたよ?」


  いや、そうじゃないだろ?時間差があっただろ?


「入ったら?こんな所で話さないでも」

「うん」


  1人きりなのに、あっさり部屋に入れるなあ……。平気なのかな、そう言うの。

  もしかしたら、サワダのことも……。いや、だったらわざわざ『他の人も一緒に』なんて言う必要がない。


  何度かこの部屋に入ったけど、2人きりになるのは初めてだった。大抵誰か一緒だったから。

  それは、他の連中がオレのことを信用しきってないのもあるのだろうけど。


  だって、この部屋と、オレにあてがわれた部屋は、随分扱いが違う。広さも、オレの部屋の倍くらいはあるし、ベッドも広い。

  テレビもあったけど……ティアスはつけてないみたいだった。

  オレの部屋が素泊まり客多めのビジネスホテル(安め)だとすると、この部屋はシティホテルのエグゼクティブフロアにありそうな部屋だった。言ったこと無いからよく判らないけど。

  でも、やっぱりベッドには天蓋がある。意味が判らん。


  彼女は後見にサワダの父親である元老院議院がついている。オレのように招かれざる客ではないということかな。

  だって、彼女も私服でこの城にいるのに、よそ者なのに、オレのつけているバッジはない。


  だからと言って、この部屋には当然、生活感なんて無いけど。


「体……もう、起きあがっても大丈夫なの?この間は起きあがるのも大変だったのに」


  こんな言葉をかけることすら難しい距離感なのに、どうやって連絡係など!


「だいぶね。いつまでも寝てるわけには行かないし。時間もったいないから」

「若いのに、生き急いでるな」

「そうかもね」


  彼女は悪戯っぽい笑顔を作って見せた。


「座りなよ。まだ、体が辛いだろ?」

「ありがと。君は優しいね」

「勇十で良いよ。オレの知ってるティアスは、そう呼んでたから」


  そう言ったら、彼女は少しだけ戸惑っていた。申し訳なさそうな顔をして、目を伏せ、オレの顔を見ないようにベッドに腰掛けた。


  『オレの知ってるティアス』


  オレの知ってる彼女なら、気にするだろうことを判ってて、そうであることを期待して、わざとオレはそう言った。

  彼女はオレの携帯のデータを消したことを、申し訳なく思っている。だからパスをくれたし、優しくもしてくれる。

  そこにつけ込むようにといったら、言い方が悪いだろう。オレはくすぐっただけ。


「……ユウト。そこの椅子に座ったら?」

「うん」


  おそるおそる、オレをそう呼んだ彼女に、オレは満足した。いい気分だ。

  彼女が、オレの知る彼女であることと、オレと彼女の共有するこの時間に。

  オレの知ってる彼女とは別人かも知れない。でも彼女は、オレと時間を共有した、あの子をこんなにも思い出させる。


「サワダと、何の話をしてた?」

「何でさっきからサワダ中佐の話ばっかり??」

「いや……まあ……。そりゃ……。いや、サワダってさ、何つーか、女の人苦手、みたいな話を聞いてたから、意外だなー……なあんて……」

「何それ。その言い方。何かトージみたい。やだあ?」


  唇を尖らせ、むっとしてみせる様は、オレの知ってる彼女そのものだった。

  逆にあの、中央の広場にいた、顔を隠した楽師の姿からは想像がつかない。


「あんまり、エライ階級の人って感じじゃないんだ?」

「そんなこと無いわよ?これでもそこそこの階級ですから」


  今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて見せてくれる。


「ティアスって、いま幾つなの?」

「失礼ね。そんなこと、直球で聞かないでよ、もう。20よ。トージと同じ年」


  そう言えば、ニイジマも年上なんだっけ、オレより。あんまりそんな風に見えないけど。


「ふうん。ここの護衛部隊もそうだけど、それって……あんまりよく判んないんだけど、すごいんだろ?その年で、あの階級って言うのは」

「ああ、それはあの男の敷いたルールがメチャクチャだからよ。強ければ、戦って勝てば、上に上がれるだなんて。まあ、のし上がるのにはちょうど良かったけど」


  あの男って……もしかして中王のことですか?支配者じゃないかよ、もう。

  その制度でのし上がってる人間にまで、メチャクチャとか言われてるし。

  ……てか、サカキ元帥との会話を聞いてても思ったんだけど……中王に与してるわりに、忠誠心みたいなモノが感じられないって言うか。ここにいる護衛部隊と比べると、似てる部分もあるし、違いすぎる部分もある。


  護衛部隊は、オワリ国に所属してるのに、愛国心というか、王とか、国自体への忠誠心のようなモノが薄い。国のために戦うし、国を守るために動いているのだけれど、彼らにとっては王子ミハマが全てだ。

  王子が国を守るから、彼らも国を守っている。そんなところがある。だけど、彼らの王子への忠誠心は強く、重い。

 

  良いとも悪いとも思わないけど、護衛部隊も、ティアスも、組織の中で浮いてるように見える。


「ちゃんと黙っていてね。こんな話。判ってると思うけど」


 ティアスは、人の悪い笑顔を見せた。余裕たっぷりに。




08


 黙っていてね。なーんて、かわいいこと……。


  ……ちがうな。彼女はもしかして、釘を差した?オレのこと信用してない?

  だって彼女は、オレの持ってた彼女の写真を消したり……でも、お詫びだと言ってパスをくれたり。


  彼女の行動には理由がある。

  だから、時々こうして心に棘が刺さるような、そんな真似をされるときついけど、仕方ないと納得できる。

  出来てると思う。


「どうしたの、そんな辛そうな顔しちゃって」

「……そうでもないよ」

「ごめんね、こういう話し方、良くないとは思ってるんだけど」


  そう言って可愛くほほえむ。


「いや、ホントに気にしてないよ。だって、ティアスの立場とか、いろいろあるんだろ?」

「ユウトは優しいのね」


  彼女は笑顔を崩さない。動くこともなかったけれど。


「立場があることを振りかざして、わがままを言ってるだけの人だっているのにね」

「ティアスは、違うよ」

「そう?ありがとう」


  ……これって、ちょっといい感じじゃない?!

  ティアス、オレのこと、かなり好印象だよね!


  って、オレは以前もそう思ってたんだっけ。なのに、沢田にとられてたわけで。

  初めてあの2人がキスしてるとことか見かけちゃったときは、本気でショックだったぞ。あいつら、少しは人目を憚れっつーの!


「あ、そうだ。オレ、ニイジマに……」


  ここで一気に彼女との距離を縮めたかった。

  ニイジマのことをネタに、彼女との秘密を増やすつもりだったのに、彼女は人差し指を立てて、オレに喋らないように要求する。


「だめよ。誰が聞いてるか判らない」

「……あ、そうだね。ここ、オワリの国で……」


  彼女にとって、ここは敵国だ。複雑な関係ではあるけれど。


  だけど、彼女はオレの台詞に、首を横に振った。


「それだけじゃ、無いけどね」

「……どういうこと?」

「名前は言っちゃダメよ。頼まれてるのね?」


  オレは黙って頷いた。


「ありがとね、ユウト。引き受けてくれたんだ」


  彼女の笑顔に、思わず何度も頷く。彼女が感謝してくれるなら、それで充分だ。


  彼女はベッドから立ち上がり、少しだけ苦痛に顔を歪ませた。

  支えるために、オレは立ち上がり、彼女に駆けよる。


  彼女はその手を拒否して……拒否したくせに、オレに近付き、耳打ちをした。 


「伝えて。『しばらく動けないから、2週間後に彼の合図で動く』と。『それまでに連絡を取れる体制を整備して』」


  内容は全く色気がないけど、こんな耳元で囁かれたら、どきどきするって!


「また、頼むね」


  平気な顔をしてたけど、彼女はかなり苦しそうにしていた。

  そして、彼女はやっぱりオレの手を拒否した。


「……辛いなら……」

「なに?」

「辛いなら、そう言えば?手を借りたら?別に、悪いことじゃないと思うけど。オレなんか、頼りまくりだよ」


  もっと笑ってくれると思ってた。でも、彼女は微笑んだまま。

  そう、微笑んだままなんだ。ずっと、同じ笑顔で。


「借りてるよ?あいつらとかね。良くしてくれてる。ユウトにも、頼ってるよ」

「逃げなくても」

「あはは。ごめんね。気分悪くしちゃったんなら許してくれないかな?ちょっとそう言うの、苦手なんだ」


  それって、男が怖いとか、そう言うこと?

  そういえば、ちょっと、びくついてたって言うか……。何かあったとか?


  彼女の視線は、まるでオレに絡みつくようだったけど。誘われてるようでたまらないけど、でも、彼女がそう言うなら。


「ごめんね。ちょっと休ませてもらっても良いかな?」

「あ、うん……。ケガしてるのに、無理させちゃったね」

「気にしないで。また来てね」


  さっきまでの視線は何だったのか。

  彼女はいつも通りだった。その姿に多少引っかかりはあるモノの、彼女に見送られ、部屋を出る。


「なに、いい雰囲気でないの?彼女と。うまくやってんじゃん」


  扉の外にいたイズミに声をかけられる。つーか、盗み聞きしてたのか?!


『だめよ。誰が聞いてるか判らない』


  ……こいつか……!?それって、こいつのことか!?


「ミハマと一緒にいたんじゃなかったのかよ」

「いつも一緒にいるわけじゃないだろ。勤務中だし。オレはオレで、自分のなすべきことをしてるだけさ」

「ふうん。こう言うの、仕事なんだ」

「どうだろ。仕事になるかもね、その内」


  彼は悪びれることなく嫌味をオレにぶつけた。




09


「……オレ、部屋に戻るから」


 こっそりイズミから距離をとったのだけれど、彼は簡単にオレの肩を掴み、引き留めた。


「まあまあ。ちょっとお茶でもしない?」

「いやだよ。オレは可愛い女の子としかしない」

「え、オレ、可愛いじゃん」

「身長30cm減らしてから言え」

「うわ、酷いこと言うなあ。誰に向かって口きいてんの?」


 そんなに力を入れたようには見えなかったのに、イズミは軽々とオレを持ち上げ、方向を変えた。


「さあて、どこがいいかなあ。オレ、シロノワールとか食いたいな」

「え?本気で出かけんの?マジでナンパ?!」

「お前みたいな嫌なヤツ、ナンパしねえって」


 そう言いながら、オレの意志を無視して、引きずってエレベーターに押し込めた。

 角で座り込んだまま、オレはイズミの顔を見上げることすら出来ない。


「……何故でしょう。屋上とかでも……よくない?」

「いや、オレは人と話をするときは、敵も味方もいなくて、人の多い所って決めてんのよ」

「意味が判んない……。さっきは屋上だったじゃんよ」

「相手が、テツやシュウジさんだったから」

「なにそれ」


 初めてオレは、イズミの顔を見ることが出来た。彼はいつもの人の悪い笑顔だった。

 それを見て、どうしてティアスの笑顔を思い出したのか、自分でも判らなかった。


「あそこは、手の中に収まりそうな、狭い世界を見渡せて、いい気分になれる場所だから」

「余計、意味が判んないよ……」

「残念。珍しく、本当のことを言ったのに」


 エレベーターの扉が開いたと同時に、イズミは再びオレの首根っこを掴んで、引きずり出す。


「シン、どこへ行く?アイハラくんから手を離したらどうだ?痛そうだ」


 ミナミさん!!

 王宮の出口で、無言で笑顔を浮かべたままオレを引きずるイズミを見かねて声をかけてくれた。

 イツキさんの言ったとおりだな。オレに対して怒ってたとしても、優しいよ、この人は。


「ちょっと、コーヒー飲んでくるだけ」

「……そうか」


 オレを嘗めるように見るミナミさん。


「良いから、普通に歩かせたらどうだ?」

「逃げるんだよ、コイツ。オレがおごってやるって言ってんのに」

「どうせ経費で落とすつもりだろう?」

「あったり前じゃん。何で男に、オレが金出してやらなきゃいけないのさ。すぐ戻るから、ミハマには黙っといて」

「戻ったら、話を聞こう」


 あれ?もしかして、ミナミさんも納得済み?これって、いつもの行為?

 オレのこと、疑われてるって言うか、疑わしいモノに対して尋問するのを黙認してるってこと?


「ミ……ミナミさん……オレ、何も」

「何もないなら、シンにそう言っていただければ」

「!マジっすか」


 助けてはくれない?

 引きずられるままのオレを、ミナミさんは見送るだけだった。





「食べないの?シロノワール」


 ホントにコメダに連れて来やがった。しかも、自分で注文しといて、オレに押しつけるし。

 王宮からほど近い、地下鉄の駅の目の前にある喫茶店に、イズミは迷うことなく連れてきた。要するに、いつもこういうことをしてるってことだ。

 怪しい奴と話すとき……王宮で話したくないとき……ミハマにも内緒にしたいとき。

 そのわりには、店にはそれなりに人もいる。この中に、敵が紛れてたらどうするんだ。5組くらいしかいないけど、判ったもんじゃない。


「ん?オレ、甘いモノ苦手なんだよね」

「だったら頼むなよ」

「食べないの?」

「いや、食べるけど」


 オレは甘いモノは大好きだ。むしろコーヒーは苦くて飲めん。勝手に注文しやがって。強引な男は嫌われるぞ。


「つーか、自分の立場判ってる?」

「判ってるよ」

「判ってる人の態度じゃないけどね。めんどくさいから、本題からはいるけど、君、あの子とはどうなの?」

「どうって?」

「どこまで彼女のことを知ってる?」

「どこまでって?」

「いや、もうやっちゃったんかな、って思って」


 こんな真っ昼間に、こんな人のいるところでする話じゃねえだろ!


「オレ達、ほとんど話も出来てないんですけど」

「まあ、それは軽い冗談なんだけど。あの子、そんな簡単に出来るような子じゃなさそうだし。お高いっつーか」

「別に、そんな感じの悪い言い方するような子じゃないし」

「いや、どうだろ。ものすっごい人を拒否してる感じがするけどね。判らんように気を使ってるけど。神経質っつーか、なんというか。めんどくさそう」

「あんまり悪く言うなよ」

「悪く言ったように聞こえるんだ。失礼だよなあ」


 充分すぎるくらい嫌な言い方してるじゃねえか。


「オレ、あの子自体は全然嫌いじゃないよ。ただ、怪しいだけ」


 それはそれで、困るんですけど。ちくしょう、どうしてやろう。


「ミハマに内緒にしてまでする話なんだ、それ?彼女がミハマのお気に入りだから。よく、部屋に来てるらしいし?」

「それは別に、ミハマの自由だからさ。関係ないけど。そんなことより、あの子が似てることの方が、問題かな」


 誰に、と彼は特定して言ったわけではないのに、彼女の部屋から悪いことでもしたような顔して出てきた、サワダの姿を思い出していた。







10


「ウソつけ。関係ないだなんて」

「まあ、いろんなことが、いろんな所と密接に絡み合ってるわけよ」

「イズミが勝手に絡ませてんじゃんよ。オレ、関係ないし」


 あ、今の、ちょっとやばかったかも。オレはかなり冗談っぽく言ったのに、言ったはずなのに、イズミの目は超怖かった。


「呼び捨てにすんなって言ったろ?」


 顔は大抵にこやかだけど、その顔をさらに大きく動かし、にっこりと笑って見せた。だけど、目が笑ってないんだって、お前は!!


「じゃあ、率直に言おうか。君、彼女が何者か、知ってるんじゃないの?」

「……何者って?」

「それはオレが聞いてるんだよ。さっきも言ったろ?怪しいって。ついでに、君もね」

「オレには何も出来ないっつったの、イズミだし」

「そうなんだよね」


 どっちだよ。

 まあ、ティアスのことに気付いてるわけでは無いみたいだから、良いけど。


「アイハラはさ、何も出来ない、何も知らない。ミハマがそう言うんだから、多分そうなんだよ」


 運ばれてきたコーヒーに目を落とし、何も入れてないくせにスプーンでゆっくりかき混ぜ続けていた。


「まあ、オレもそう思うよ。ただ、お前は隠し事はしてる。ミハマはそれを知ってるけど、それを口にしない」


 目を合わせない。その怒りにも似た、重い心の向く先はオレなのか、それとも彼の主なのか。


「程度によると思わないか?すべては」

「言ってることが……よく……」


 彼は顔を伏せたまま、上目遣いでオレをにらみつけた。


「はっきり言っとくけど、オレはこの狭い世界を守るためならなんだってする。やっと見つけた、オレが生きていけるこの場所を」

「別にオレは、邪魔しないって。ほんとだって」


 茶化す気にはなれなかった。

 切実で、何だかクレイジーな彼の瞳が、怖かった。

 重いよ。重すぎるよ!


「ミハマがお前をどうフォローしても、これがオレの仕事だから。彼女にどんなに心を移していても、オレは疑ってかからないと」

「何で疑う必要があるんだよ」

「……本気で言ってる?」


 何を知ってるんだ?オレが彼女のことを知ってるって、疑ってる?


「オレは、別に彼女に怪しい所なんてないと思うけど」

「それは、君にとってね」

「何だよ、はっきり言えよ。そんな隠して喋らなくとも!」

「やだよ。めんどくさい」


 ちくしょう。何だよ、こんな所に連れ出して、自分のことは喋らないってか?


「彼女を疑ってんだろ?でも、ミハマに気を使って、こうやってこそこそ動いてる。動いてるのには、何か理由があるくせに。疑ってるなら疑ってるなりの、理由があるんだろ?」

「疑ってるのは、オレじゃない」

「めっちゃ疑ってるっつーの!」

「オレには、確証もないし、あんなにはっきりと彼女のことを知ることもない。だけど、怪しいことは確かだ」

「イズミじゃないのか?彼女を疑ってるのは?誰?ミハマ?シュウジさん?それとも……」


 イズミは顔色一つ変えずに、いつもの笑顔のまま、オレを見ていた。


「……サワダ?」

「残念だねえ。アイハラはさ、あの子のこと、気に入ってたんだろ?それを、元々いた所では、テツのそっくりさんにとられちゃって」

「話を変えんなよ。大体、お前が先に……」


 重たい話を、まるで自らの思いを、オレに教えてくれるようなこと。

 もしかして、これって、オレのこと、多少なりとも信用してるってことか?

 ミハマにも、サワダにも話しにくいことを、オレに話してくれてるだけなのか?


「先に……何だよ?」

「いや、なんでもない」


 イズミの表情は変わらない。なんか、あんなこと言うから、急に申し訳ない気分になってきたじゃないか。

 やっと見つけた、生きていける場所だなんて。


 もしかして、イズミだけじゃなく、ほかの連中もそんなこと思ってるのかな?

 だとしたら、オレとはあまりに意識が違いすぎるよ。


「何だよ、何へこんじゃってんの?」

「別にへこんで無いっつーの!」

「ああ、そう。アイハラ君、気がちいちゃいからなあ」

「小さくねえよ」

「ああ、違うね」


 人の悪い笑顔に変わった。いや、まあ、普段も人が悪いんだけど、余計に。

 彼はわざとらしく、タバコを手にとって見せた。演じてるって感じがしますけど。


「世界が狭いんだ。悪かったよ」


 少しだけ、認められたような気がしてたのに、何でこんな言い方されないといけないんだ。








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