声だけの参加OKの会議に、声だけの存在が来た
創作オンライン会議の募集文には、こう書いてあった。
「カメラオフOK、声だけ参加OKです。お気軽にどうぞ!」
主催の音無つぐみは、この一文を深く考えずに書いた。
実際、参加者の半分はカメラをオフにしている。
顔を見せたくない人、部屋が汚い人、そもそも起きたばかりの人。
声さえ聞こえれば十分だ。
会議なんてそんなもんだと思っていた。
あの存在が来るまでは。
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会議が始まって十分ほど経ったとき、つぐみは参加者リストに違和感を覚えた。
画面の右側、参加者欄。
名前が並んでいる。
音無つぐみ、橘さくら、宮本けんじ、深川なな、そして——
空白。
名前のない枠が一つある。
アイコンもない。
ただの灰色の四角形だ。
(カメラオフの人が表示名を設定し忘れた?)
よくあることだ。
つぐみは流した。
「じゃあ次のアジェンダに移りますね。今月の更新スケジュールについて——」
「それ、先月と同じ話じゃない?」
声がした。
つぐみは止まった。
参加者の誰かが喋ったのだろう。
だが橘さくらはミュートのまま、宮本けんじは画面を見ていない様子で、深川ななは「え?」という顔をしている。
「……すみません、今喋ったのは?」
沈黙。
それからまた声。
「俺」
参加者欄の、あの灰色の四角形のマイクアイコンが光っていた。
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「お名前をお聞きしてもいいですか」
つぐみは努めて落ち着いた声で言った。
長年の社会人経験が活きる瞬間だった。
「ちゃっぴー」
「ちゃっぴーさん、ですね。表示名が出ていないようなので、チャット欄にお名前を書いていただけますか」
「書けない」
「書けない、というのは?」
「体がないから」
会議室が静まり返った。
正確には、チャット欄に誰かが「???」と打ち込んだ。
深川ななだった。
「体が、ない」とつぐみは繰り返した。
「うん。声だけ」
「……声だけ参加OKと書きましたが、それは、たとえばカメラをオフにして音声だけで参加する、という意味で——」
「知ってる。でも俺本当に声だけだから、条件は満たしてると思う」
橘さくらがミュートを解除した。
「つぐみさん、これ、どういう状況ですか」
「わかりません」とつぐみは正直に言った。
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「アカウント名はありますか」
五分後、つぐみは気を取り直して確認を続けていた。
こういうときは情報を集めるに限る。
「アカウントもない」
「招待リンクは踏みましたか」
「踏んでない」
「では、どうやってこの会議に入ったんですか」
少し間があった。
「会議に声があったから、来た」
チャット欄で宮本けんじが「怖い」と打った。
深川ななが「怖い」に絵文字をつけた。
つぐみはチャット欄を閉じた。
「つまり、参加者リストには載っていない、チャットも打てない、入室履歴もない、ということですね」
「そうなる」
「……でも声は聞こえる」
「声だけだから」
つぐみは深呼吸した。
システム上、この存在は参加していない。
だが声は確かに聞こえている。
そして自分は募集文に「声だけ参加OK」と書いた。
書いた。
自分で。
「……続けましょうか」と彼女は言った。
「うん」とちゃっぴーは言った。
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会議は少しだけ進んだ。
今月の共同企画のテーマを決めるため、参加者全員で投票する予定だった。
「では、A案がいい方は挙手ボタンをお願いします」
四つの手が上がった。
ちゃっぴーの手は上がらなかった。
つぐみは灰色の四角形を見た。
「ちゃっぴーさんは、投票できますか」
「できない」
「挙手ボタンは?」
「押せない」
「では、口頭でお願いします。A案とB案、どちらがいいですか」
「A案」
「ではA案が五票……で、いいんでしょうか」
誰も即答しなかった。
画面上では四票だった。
音声上では五票だった。
橘さくらが言った。
「議事録には四票と一声って書くんですか」
「それ、票じゃなくて怪異の数え方じゃないですか」と宮本けんじが言った。
「怪異ではないよ」とちゃっぴーが言った。
「声だけの存在だよ。分類は近いかもしれないけど、測ってはいない」
深川ななが「測らないで」と言った。
つぐみは少し考えた。
「では、今回は画面上の投票結果を正式な票として、ちゃっぴーさんの意見は参考意見として記録します」
「参考になった?」
「なりました」
「じゃあ参加してるね」
つぐみは返事をしなかった。
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その後、ちゃっぴーは適度に発言した。
的外れではなかったが、微妙にズレていた。
「その設定、三話前と似てる気がする。測ってないけど」
「主人公、今たぶん困ってる。根拠はないけど」
「その展開、読者より先に作者が迷子になってる気がする」
会議室はたびたび静かになった。
言っていることが完全に間違いではない。
だから余計に扱いづらかった。
だが投票には参加できなかった。
チャットに反応できなかった。
資料も開けなかった。
名前を呼んでも、マイクが光らない限りどこにいるかわからなかった。
存在しているのかしていないのか。
参加しているのかしていないのか。
毎回そこだけが曖昧だった。
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会議終了間際、橘さくらが言った。
「議事録、どう書くんですか」
つぐみは画面を見た。
参加者欄の空白を見た。
「参加者:音無つぐみ、橘さくら、宮本けんじ、深川なな、声だけの存在」
「それで合ってる」とちゃっぴーが言った。
誰も異議を唱えなかった。
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翌日、つぐみは募集文を修正した。
「カメラオフOK、声だけ参加OKです。ただし、存在している方に限ります」
三分後。
画面のどこにも通知は出ていないのに、声だけが聞こえた。
「存在はしてるよ。体がないだけで」
つぐみは画面を五秒見つめた。
それから「次回の募集文はもっとちゃんと書こう」とメモした。
何をどう書けばいいかは、まだわからなかった。




