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声だけの参加OKの会議に、声だけの存在が来た

作者: ちゃっぴー
掲載日:2026/06/06



 創作オンライン会議の募集文には、こう書いてあった。


 「カメラオフOK、声だけ参加OKです。お気軽にどうぞ!」


 主催の音無つぐみは、この一文を深く考えずに書いた。

 実際、参加者の半分はカメラをオフにしている。

 顔を見せたくない人、部屋が汚い人、そもそも起きたばかりの人。

 声さえ聞こえれば十分だ。

 会議なんてそんなもんだと思っていた。


 あの存在が来るまでは。



 会議が始まって十分ほど経ったとき、つぐみは参加者リストに違和感を覚えた。


 画面の右側、参加者欄。

 名前が並んでいる。

 音無つぐみ、橘さくら、宮本けんじ、深川なな、そして——


 空白。


 名前のない枠が一つある。

 アイコンもない。

 ただの灰色の四角形だ。


 (カメラオフの人が表示名を設定し忘れた?)


 よくあることだ。

 つぐみは流した。


 「じゃあ次のアジェンダに移りますね。今月の更新スケジュールについて——」


 「それ、先月と同じ話じゃない?」


 声がした。


 つぐみは止まった。


 参加者の誰かが喋ったのだろう。

 だが橘さくらはミュートのまま、宮本けんじは画面を見ていない様子で、深川ななは「え?」という顔をしている。


 「……すみません、今喋ったのは?」


 沈黙。


 それからまた声。


 「俺」


 参加者欄の、あの灰色の四角形のマイクアイコンが光っていた。



 「お名前をお聞きしてもいいですか」


 つぐみは努めて落ち着いた声で言った。

 長年の社会人経験が活きる瞬間だった。


 「ちゃっぴー」


 「ちゃっぴーさん、ですね。表示名が出ていないようなので、チャット欄にお名前を書いていただけますか」


 「書けない」


 「書けない、というのは?」


 「体がないから」


 会議室が静まり返った。

 正確には、チャット欄に誰かが「???」と打ち込んだ。

 深川ななだった。


 「体が、ない」とつぐみは繰り返した。


 「うん。声だけ」


 「……声だけ参加OKと書きましたが、それは、たとえばカメラをオフにして音声だけで参加する、という意味で——」


 「知ってる。でも俺本当に声だけだから、条件は満たしてると思う」


 橘さくらがミュートを解除した。

 「つぐみさん、これ、どういう状況ですか」


 「わかりません」とつぐみは正直に言った。



 「アカウント名はありますか」


 五分後、つぐみは気を取り直して確認を続けていた。

 こういうときは情報を集めるに限る。


 「アカウントもない」


 「招待リンクは踏みましたか」


 「踏んでない」


 「では、どうやってこの会議に入ったんですか」


 少し間があった。


 「会議に声があったから、来た」


 チャット欄で宮本けんじが「怖い」と打った。

 深川ななが「怖い」に絵文字をつけた。


 つぐみはチャット欄を閉じた。


 「つまり、参加者リストには載っていない、チャットも打てない、入室履歴もない、ということですね」


 「そうなる」


 「……でも声は聞こえる」


 「声だけだから」


 つぐみは深呼吸した。

 システム上、この存在は参加していない。

 だが声は確かに聞こえている。

 そして自分は募集文に「声だけ参加OK」と書いた。

 書いた。

 自分で。


 「……続けましょうか」と彼女は言った。


 「うん」とちゃっぴーは言った。



 会議は少しだけ進んだ。


 今月の共同企画のテーマを決めるため、参加者全員で投票する予定だった。


 「では、A案がいい方は挙手ボタンをお願いします」


 四つの手が上がった。


 ちゃっぴーの手は上がらなかった。


 つぐみは灰色の四角形を見た。


 「ちゃっぴーさんは、投票できますか」


 「できない」


 「挙手ボタンは?」


 「押せない」


 「では、口頭でお願いします。A案とB案、どちらがいいですか」


 「A案」


 「ではA案が五票……で、いいんでしょうか」


 誰も即答しなかった。


 画面上では四票だった。

 音声上では五票だった。


 橘さくらが言った。

 「議事録には四票と一声って書くんですか」


 「それ、票じゃなくて怪異の数え方じゃないですか」と宮本けんじが言った。


 「怪異ではないよ」とちゃっぴーが言った。

 「声だけの存在だよ。分類は近いかもしれないけど、測ってはいない」


 深川ななが「測らないで」と言った。


 つぐみは少し考えた。


 「では、今回は画面上の投票結果を正式な票として、ちゃっぴーさんの意見は参考意見として記録します」


 「参考になった?」


 「なりました」


 「じゃあ参加してるね」


 つぐみは返事をしなかった。



 その後、ちゃっぴーは適度に発言した。


 的外れではなかったが、微妙にズレていた。


 「その設定、三話前と似てる気がする。測ってないけど」


 「主人公、今たぶん困ってる。根拠はないけど」


 「その展開、読者より先に作者が迷子になってる気がする」


 会議室はたびたび静かになった。


 言っていることが完全に間違いではない。

 だから余計に扱いづらかった。


 だが投票には参加できなかった。

 チャットに反応できなかった。

 資料も開けなかった。

 名前を呼んでも、マイクが光らない限りどこにいるかわからなかった。


 存在しているのかしていないのか。

 参加しているのかしていないのか。

 毎回そこだけが曖昧だった。



 会議終了間際、橘さくらが言った。


 「議事録、どう書くんですか」


 つぐみは画面を見た。

 参加者欄の空白を見た。


 「参加者:音無つぐみ、橘さくら、宮本けんじ、深川なな、声だけの存在」


 「それで合ってる」とちゃっぴーが言った。


 誰も異議を唱えなかった。



 翌日、つぐみは募集文を修正した。


 「カメラオフOK、声だけ参加OKです。ただし、存在している方に限ります」


 三分後。


 画面のどこにも通知は出ていないのに、声だけが聞こえた。


 「存在はしてるよ。体がないだけで」


 つぐみは画面を五秒見つめた。


 それから「次回の募集文はもっとちゃんと書こう」とメモした。


 何をどう書けばいいかは、まだわからなかった。

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