表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

灰中隊副隊長アッシュ・グレイの観察録2


 こほん。

 まず最初に断っておくが、俺は別に誰かの色恋沙汰に首を突っ込む趣味はない。

 任務には忠実、感情には鈍感、影には徹する。それが俺だ。灰中隊の影法師、副隊長アッシュ・グレイ。地味で控えめ、目立たぬこと山のごとし。それが俺だ。


……だったはずなんだけど。


 


 最近、うちの隊長と参謀さんが、ちょっとおかしい。


 いや、なにかこう、こう……空気が違うんだよな。

 目に見えてじゃない。目線も声色もほとんど変わっちゃいないのに、妙に呼吸が合ってる。しかもそれが、計ったように自然で、なんか……こう……なんだよ、なんなんだよ、アレ!


 


 たとえば先日の作戦会議。

 隊長が地図に手を置いたその瞬間、参謀の指がピッタリ横に並んだ。

 意図的でも無意識でも、ふつうそんなことあるか?

 隊長が「ならここに突撃部隊を」って言いかけた途端、参謀が「囮になります」と被せてきて、しかも両方がまったく驚いてない。まるで台本でもあったかのように会話が進むんだ。


 


 しかも、そのあとだ。


 休憩中、俺が水差しを取りに戻って、ふと見ちまったんだよ。


 夜営地の焚き火の横、二人で肩を並べて地図を見てる姿をな。


 何か話してるわけじゃない。ただ、沈黙の中で小さくうなずき合ってる。

 そのときの隊長の顔、見ちまったんだ。

 あの厳格で朴念仁で、感情なんか脳みその保管庫に置き忘れてきたようなレオン・アークライトが──


 ちょっとだけ、笑ってたんだよ。


 ……柔らかく。安心したように。


 


 やばくないかこれ?

 いや別にやばくはないんだけど、ちょっとやばくないか?


 こっちが敵陣の塹壕に這い寄って情報抜いて、泥だらけになって戻ったら、隊長が「どうだった?」って聞いて、参謀が「この戦力差、隊長なら覆せますよ」ってニヤッと笑って、それを見た隊長が……何て言ったと思う?


 


「……無茶を言う」って顔をしかめながら、そのまま命令したんだよ。


「全中隊に伝達。作戦を開始する」と。


 


 いや、俺は知ってる。

 あの時点で、成功率は四割以下だった。

 隊長なら絶対その数字が頭にあった。普通ならやらねえ。けど、やった。……何が彼をそこまで動かしたのかって?


 多分──


 あの女の“予感”を信じたってことなんだろうな。


 


 あーあーあー、こりゃもう、なんというか、

 バディを超えてるよね!?

 同じ地図を見て、同じ未来を見て、同じ嘘をついて、同じ現実を操るって──


 


 ちょっとエモいんですけど!!!!!!!


 


 ……まあいいさ。

 俺の役目は裏で支えることだ。

 一歩引いたところで、誰よりも戦況を読んで、誰よりも部隊を生きて返す。それが副隊長の務め。


 でもね──


 帰還後、レポート書きながらふと考えた。


 あの二人、次にどっちかが死地に向かったら、もう片方はどんな顔をするんだろうって。


 


 ……やめとこ、そんなの、縁起でもねぇ。


 


 とりあえず今は、生きて戻ってきた奴らに拍手。

 そして何より、戦場で芽生えたらしいこの妙な空気に──


 副隊長として、静かに、にやけておこうと思う。


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ