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『全財産ニキ』の異世界ガチャ生活  作者: 錦来夢
第1章 聖女の暴走
8/20

第8話 地上最強の聖女 アリア・セレスティア

 この世界には、“果て”がある。


 地上は平面であり、遥か彼方には、世界の終焉たる「最果ての森」が存在する。そこを越えた先には、何もないとされている。


 最果ての森は神域とされ、何人も立ち入ることは許されない。

 そしてその森の周辺には、もれなく聖教国家が存在する。


 中でも、セレスティア聖教国は三大教会勢力のひとつにして、より強大で過激な国家だ。最果ての森の東縁に位置し、北側と東側――最果ての森のおよそ半分を、自らの神域として守護している。


 聖教国の民は、神の導きに従い、その教義を絶対のものとして疑わない。戒律に背く者は“異端”とされ、裁きを受ける。


 異端審問官は、問答無用で罪を断罪し、裁きの炎で異端者を生きたまま炙り殺す。その頂点に立つのが――聖女アリア・セレスティア。


 彼女は幼い頃、神託を受け、神の加護によって異能を授かった存在である。その力は控えめに言って世界最強クラス。幼竜の頃から育てたホーリードラゴンと共に、異端狩りのためなら自ら戦場へ赴くほどの戦闘狂。これが、聖女の真の姿だった。


 彼女に狙われた者に、救いはない。――いや、それこそが最大の救いなのだ。

 これが、誰もが知るこの世界の常識だった。


 だが、海斗たち一行は、そんな世界の常識を知る由もない。


 * * *


 それは、神聖なる空を裂く異変だった。


 セレスティア聖教国――この世界における最大教会勢力の“正しき信仰”を司る国。その中心、天の御座にて祈りを捧げていた聖女アリア・セレスティアは、異常な光に気づく。


 金色の柱が、地上から天へと突き上がっていた。

 通常、この世界において、そんな現象は起こりえない。光が“降る”ことはあれど、“昇る”ことなどない。


 その柱が天に伸びた瞬間、空が一瞬揺らいだ。

 まるで、神の法に逆らう禁忌の儀式。世界の法則が乱れ、神の秩序が崩れかける予兆。


 聖女は眉をひそめる。


「……異端だ。強大な力が最果ての森から……」


 その言葉は静かでありながら、断罪を告げる鐘のように重く響いた。

 異端は、存在することすら許されない。それが、この世界の理。


 彼女の瞳が、神の雷を宿すかのように輝き、ホーリードラゴンが空を裂くように羽ばたく。

 その瞬間、世界はもう、海斗たちを見逃さない。

 静かに、しかし確信を持って断じた。その瞳には、粛清を宿す冷たい光。


 彼女はホーリードラゴンの背に飛び乗り、即座にその光の発生源へと向かう。


 ――異端があれば、自らの手で討つ。それが、聖女アリア・セレスティアの生き様だった。


 * * *


「……なあ、おい。あの空の影、ヤバくないか……?」


 背筋が凍る。視線が合った……気がした。


 遠くの空に、巨大な影が現れた。白銀のドラゴン。その背に乗るのは、銀の鎧をまとったひとりの少女。


 その瞳に宿るのは、粛清の冷たい光。


 ライアとアリスは目を凝らして上空を見上げる。

 ちょうど、コボルトの魔窟を発見したところだった。上空も気になるが、目の前の敵の対処が急務。


 メリーヌが四つん這いになり、お尻を上げて尻尾をゆっくりと左右に振る――メリーヌの攻撃体勢だ。その緊張感、集中力、構えから放たれるオーラ、すべてが伝わってくる。


 そして尻尾がピタッと停止し、真っ直ぐに伸びてふわっと逆立ったかと思うと、


「行くにゃ!」


 言うが早いか、メリーヌはコボルトの脇を凄まじい速さで駆け抜けた。まさに弾丸。コンパクトに畳んだ両腕が青白く光り、そのまま流線形の残像を残して、コボルトの首を跳ね飛ばした。


 コボルトは血しぶきを上げながらも、その場に立ったまま。


 10メートル先で、両手をクロスさせたメリーヌが大股で踏み込み、急停止。低めの声で、静かに呟く。


「猫爪にゃ」


 そして俺のレベルが2に上がった。上空も気になるが、まずはステータスを確認する。


「ステータス オープン!」


-----

名前:来栖海斗くるす かいと

種族:ヒューマン

年齢:22

性別:男

職業:ニート

-----

LV : 2

HP :80/80

MP :70/70

STR: 7

INT: 5

DEX: 8

VIT: 6

LUK:24

ポイント:9

コスト:10

-----

スキル:[デイリーボーナス] [デイリークエスト] [ガチャ] [カードブック]

耐性:なし

加護:なし

称号:なし

-----


 HPとMPが10ずつ増えている。もしかすると、レベルアップごとに自動で増えるのかもしれない。


 また、ステータスポイントが9。0だったコストが10になっていた。おそらく、MPが10増えたことで、コストも10増えたのだろう。


 ポイントをINTに振れば、さらにMPが増えて、コストも同時に上がるはず。

 9ポイントをすべてINTに振った結果、MPとコストが90増え、100になった。


「あと一回レベルアップすれば、ジェシカが呼べる……!」


 だが、その希望は一瞬で凍りつく。

 空の“それ”は、確かにこちらを見ていた。


 メリーヌが俺のもとに戻ってくる。もう、コボルトどころではない。

 コボルトの魔窟から距離を取り、上空を警戒する。


 ――それは、一頭の巨大なドラゴン。その背に、直立不動の少女。

 風にすら揺れない。まるで無機質な冷気の塊のように、彼女は背を伸ばしたまま仁王立ちしていた。

 右肩には、常人の背丈ほどもある巨大な鉄槌。その存在を支えるだけでも、只者ではないと分かる。


「……アレは……人か?」


 ドゴゴゴゴォ!!


 天から、何かが落ちてきた。とんでもない地響きだ。

 それは巨大なメイス。銀色の金属の塊に、青と金の意匠が芸術的にほどこされていた。

 その鋼鉄の塊が、垂直に落下し、大地を割って突き刺さる。まるで「ここが処刑場だ」と告げているかのように。


 ――その直後。


 少女が一歩、空を踏み抜いた。

 重力に従い、真っ直ぐに落下してくる。

 風すら巻き込まず、ただ真下へ向かう直線の殺意。


 ドンッ!!!


 衝撃が地を揺らし、足元の土が跳ね上がる。

 砂塵が舞い、空気が震える中、銀の鎧の少女は、何事もなかったかのように地に立っていた。


 そして彼女は、メイスの柄に片手を添える。

 地に深く突き刺さっていたそれを、まるで枝でも抜くかのように軽々と引き抜いた。

 そのまま、無言でこちらへ歩き出す――。


 衝撃が収まり、音が消える。鳥のさえずりも虫の鳴き声も、一切が止んだ。

 聞こえるのは、自分の心臓の鼓動と、みんなの息遣い。そして足音だけ。


 まるで“神罰”そのものが、目の前に現れたかのように。

 アリアは真っすぐ、こちらへ向かってくる。邪魔な大木は、メイスで殴り倒しながら、一直線に進んでくる。


 距離はまだ100メートルはあるか――。


「ご主人様は、メリーが守るにゃ!」


 メリーヌが前に出る。二人の距離は、少しずつ縮まっていく。


「異端を見つけたなら、それを粛清する。それこそが私に与えられた使命。それこそが、救い。それ以外に、選択肢はない」


「アイツ……何を言ってるんだ? 頭は大丈夫か?」


 メリーヌが戦闘態勢に――いや、耳を倒し、怯えている。明らかに、強敵に対する猫の反応だ。


 まだ距離はあるが、振り下ろされたメイスが地面を砕く。

 土が爆ぜ、衝撃波が周囲に吹き荒れる。それはまるで、世界そのものが、彼女の攻撃を拒めないかのようだった。


 できることなら、俺が助けてやりたい……。だが、強い圧に足がすくむ。声すら出ない。


 これは……マジでヤバイ!


 銀の鎧の少女が、メリーヌに向かって手を翳す。


 本能的に危険を察知したのか、メリーヌが一気に飛び出す。


 すり抜けながらの攻撃――猫爪だ! 少女の脇をすり抜け、青白い流線形の光が走る!


 ポージングまで決まった!


「その攻撃……さっき見たぞ」


 次の瞬間、メリーヌは膝をつき、バタリと倒れる。


 倒れたメリーヌを、メイスで殴り飛ばす。まるで容赦がない。


 地面を転がり、背中から大木に激突する。


「メリーヌ!!」


 駆け寄って容体を見る。辛うじて息はあるが、完全に戦闘不能だ……。


「ここまでにゃ……」


「しっかりしろ! メリーヌ!!」


 メイスを背負った少女が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。


「ご主人様は、私が守る!」


「守ります!」


 アリスとライアが、震えながらも俺の前で壁になる。


 ――最後にジェシカに会いたかった……。


 彼女なら、勝てるだろうか? いや、コストがあと60足りない。あと1レベル……なのに、上げる手段すら失った……。


 ――完全に詰んだ。


 アリアが天を仰ぐ。その瞳には、一片の躊躇もない。


「……コンデムナティオ」


 巨大な十字架の紋章が空に浮かび上がる。

 空気が張り詰め、大地が軋み、世界そのものが“処刑の準備”を始める。


 ライアとアリスの膝が、崩れ落ちる。


 その瞬間、俺は悟った。


 これは「攻撃」じゃない。――これは、ただの“処刑”だ。


 俺の異世界ガチャ生活……ここまでか。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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『全財産ニキ』は、毎日22時に更新予定です!

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