第5話 幸せハーレムと王国のロクでなし勇者
6枚のガチャチケットをゲットした俺は、ニヤニヤしながらそれを眺めていた。フフッ、今すぐこのチケットを使えば、また新たな美少女が俺のハーレムに加わるかもしれない……!
しかし、冷静に考えると、今日はもう疲れた。マジで疲れた。それに、まだ寝床もちゃんと作っていない。楽しみは明日まで取っておくのが大人の余裕というものだろう。うん、間違いない。
「今日はもう寝るか」
「ご主人様、一緒に寝るにゃ?」
……キターーーーー!!
いきなりの直球! 経験値の低い俺のライフゲージはゼロ寸前だ! どうする、どうする俺!?
「え、あ、いや……その……」
動揺を隠せない俺に、メリーヌは尻尾を左右に振りながら体をゆっくりと寄せてくる。背中側から反対側に回り込んで右後ろから話してくるかと思うと、今度は背中に胸を押し付けたまま左側から覗き込んでくる。
大歓迎だ! が、しかし! 俺の純情なハートがキャパオーバーだ!
心頭滅却すれば火もまた涼し。涼し……いや暑い、熱すぎる。前には焚き火、背中からメリーヌ! むしろ展開は激熱だ!!
落ち着け、落ち着くんだ。まずは深呼吸。
冷静沈着
泰然自若
虚心坦懐
無念無想
そうだ、無だ。無になるんだ。void関数だ。俺は今、無の境地へ、無の……
「ご主人様はいい匂いがするにゃん」
境地へ? いや、楽園だ。楽園はすぐそこだ!!
「メリーだけずるいよー! 私もご主人様に甘えたい―」
「私もおそばに居させてください」
「お前たち最高かよ!」
アリスもライアも近くに来る。背中にメリーヌ、左にアリス、右にライア。
煩悩に正直な俺だけの楽園はたった今完成した! コレだよコレ!! これぞ男のロマン!! 無の境地は理想郷だったに違いない!! まさにパラダイス!!
* * *
一方その頃……
重厚な玉座に、ひとり佇む者がいた。国王である。
後ろに並ぶ3つの窓の外には、大きく立派な城壁と、無数のかがり火、そしてさらに遠くには、うす暗くて見えにくいが大きな山々が連なっているのがわかる。
壁には娘たちを囲った自身の大きな肖像画が飾られている。
勇者たちは何故あのようにわがままに振る舞うのか……。余はこの国の王ぞ! あのつけ上がった勇者どもは何とかして躾けねばなるまい。
豪奢なひじ掛けに置く握りこぶしに力が入る。
「申し上げます! 国境付近に、魔族軍の未曽有の群れが押し寄せてきております!」
慌てた様子の伝令に、深くため息をついた。
「やはり、魔王復活が近いか……。騎士団は?」
「はっ! すでに国境へ向かっておりますが、騎士団だけでは……持ちこたえるのは厳しいかと……」
大臣たちの顔にも、焦りの色が濃い。そこで、一人の大臣が進み出た。
「陛下、ここは……勇者様一行にお願いするしかないかと」
国王は苦渋の表情を浮かべた。「あのわがままな勇者にか……」
それでも他に頼る術はなく、国王は勇者一行を呼び出すことにした。
* * *
謁見の間で、腕を組んでふんぞり返る勇者・三条政希は、報告を聞いても全く動じる様子がない。
「どうか、民を守るため、力を貸していただきたい!」
三条は腕をゆっくり上げ王様を指さす。そして勢いよく手首を返し、地面を指さす。
「まずはソファーだ。勇者様の扱いがなってねえ。」
あごを上げてゆっくりと左右に頭を倒す。
周囲の大臣たちが騒めく。みな非常に無礼だと思っているが、口に出す者はいない。
国王はじっと三条を見つめる。
根負けしたのか三条はニヤリと笑う。
「見返りは? タダ働きは御免だぜ?」
「もちろん、出来る限りの褒美は約束しよう」
「そうだなぁ……たくさんの金貨に……それから王女様も頂こうか! 今すぐにだ!褒美は約束するんだよなぁ?」
娘たちと共に描かれた壁画を見ながら語り出す。
あまりの要求に、国王は顔を真っ赤にし眉間にしわを寄せた。
まさに爆発寸前といったところだ。
そう、もっとまともな勇者なら娘をくれてやっても良い。だがコイツにだけはダメだ。断じて認めん!
それまで黙っていた大臣たちも怒りを隠しきれない様子だ。
それでも、背に腹は代えられず、全てを飲むことにした。
「……わかった。褒美はそれで良い」
「「「陛下……」」」
大臣たちから無念の表情が伺える。
しかし、それでも三条は渋い顔をする。
「んー、まあ、気が向いたら行ってやってもいいぜ?」
「大賢者・宮本隆殿は御助力頂けるか?」
「仮に拒絶という選択肢を検討する余地があるとするならば、それは現実的な合理性よりも、極めて主観的な錯誤に基づく感情的決定に過ぎない。しかし、ここで問うべきは“拒否が成立し得る論理的根拠”であり、あらゆる角度から検証しても、その可能性が存在するとは到底断じ得ない。よって、拒否の試みは徒労であり、むしろ思考資源の浪費に他ならない。だが……あえて断るのが美しい。」
宮本は顔に手を当て、いかなる時もポージングは怠らない。ただ一人意味不明な言葉を呟いている。
「宮本殿! どうか、事態は一刻を争うのです!」
「いや、この角度の方がカッコいいか……そしてここでキメ顔か、決まった……」
大臣が懇願するも、宮本は虚空を見つめ新たなポージングを決め直すだけだった。
そして、最後の大魔導師・横峯浩一は、完全に他人事といった態度で言い放った。
「俺はパス」
あくびをしながら、ちんたら歩いて帰っていく。
「な、なんだその態度は! 無礼にもほどがあるぞ!!」
「何のための勇者か!!」
大臣たちは怒り心頭だ。一体、この勇者一行は何なのだ……!
* * *
……気付けば、俺は幸せに包まれていた。
「ご主人様ぁ、もっと、もっと欲しいにゃ♡」
どうやらメリーヌの寝言のようだ。そういう寝言は起きて言え!
メリーヌは寝つきが良いみたいで、俺の腕枕に頭を載せるや秒で寝てしまった。
俺の両腕を枕に右にメリーヌ、左にライア、そして足元から股の間をスルスルと昇ってくるのがアリスだ!!
俺の上に乗って寝るつもりか!? そんな反則が許されるのか?
これがハーレムの神髄なのか!? 栄華を極めた男たちにとっては当たり前だとでもいうのか?
何という不平等。俺はこれまで何も知らないまま引き篭もるだけで人生終わるところだったのか……。
井の中の蛙大海を知らずとはまさにこのことだ。
クッソ、寝れないじゃないか……。
……これは、数日前には想像もできなかった状況だ。
つまりアレだ! 俺はハーレム王を目指す!!
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