第2話 どんな不安もカードガチャで吹き飛びます
深い、深い森の中。どれくらい歩いただろうか。
見たこともない巨大な植物に、不気味な枝の大木。かと思えば、巻き付いてきそうなほどの弦。通れる場所を限定し、あたかも誘導するかのような植物の壁。
歩きにくい地面。俺は、いったいどこにいるのか?
さっきまであったはずの道らしきものは、いつの間にか消え失せ、足元は落ち葉と湿った土でぐちゃぐちゃだ。
「なるほど……さっぱりわからん!」
心臓がドキドキして、喉がカラカラに渇いてくる。誰もいそうにない……マジで心細くて涙が出そうになる。
勇者が召喚されるくらいだ。きっと魔王のような敵役もいるんだろう。こんな森だ、魔物が跋扈していても不思議じゃない。
そうは言っても、聞こえるのは木の葉がこすれる音と、どこかで鳴いている鳥の鳴き声だけだ。自分の声を出しても、この広大な森に吸い込まれてしまいそうで、怖くて声も出せない。
山で遭難するニュースは毎年のように何度も見てきたが、いざ自分が森の中に置かれてみると、これほど不気味で心細いことはない。
動けば急激に体力を奪われる。夜はおそらく寒いのだろう。目的なく歩いても、この密林からは抜けられないだろう。全く助かる気がしない。かといって足を止めても、この場で飢えて朽ちるだけだ。
こんな絶望的な状況、これまであっただろうか……。
陽は傾きかけている気がする。木々の間から漏れる光が、さっきよりも赤みを帯びてきた。
どんどん暗くなる森の中で一人ぼっち。不安がじわじわと全身を締め付けてくる。
どうしよう……。
これは詰んだかもしれない。せめて日が暮れるまでには水辺でも見つけて、火を起こさねば。
「!?」
さっきから、時々何かが……。
視界の片隅に何かが見える。まるでゲーム画面にあるような、チュートリアルのような何かだ。
間違いない。チュートリアルみたいな何かだ。
「ステータス オープン!」
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名前:来栖海斗
種族:ヒューマン
年齢:22
性別:男
職業:ニート
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LV : 1
HP :70/70
MP :60/60
STR: 7
INT: 5
DEX: 8
VIT: 6
LUK:24
ポイント:0
コスト:60
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スキル:[デイリーボーナス] [デイリークエスト] [ガチャ] [カードブック]
耐性:なし
加護:なし
称号:なし
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おおおおお、コレだよコレ! ってか、コレで合ってるけど合ってねーよ、俺弱すぎだろ!
上限がわからないけど、いくらなんでもゲームなら完全にスタート直後ってやつだ。せめて予備知識が欲しいところだが、攻略本も教えてくれる人もいない。
とりあえず、しょーもないスキルが並んでるみたいだが……。
デイリーボーナスにデイリークエスト、それからガチャ、カードブック???
俺を馬鹿にしているのか!? これはどう考えてもゲームのあれだろ!
ま、とりあえずもらえるボーナスがあるなら、もらおうか。
「デイリーボーナス!」
目の前にヒラヒラと紙切れが出現してきた。見るからにガチャチケットだ。それが3枚!
とりあえず、どうするのかわからない——
「ガチャ!……でいいのか? あっ……」
ガチャチケットが青白い炎に包まれる。そして何も残さずに消えてゆく。
ほんの一瞬の出来事で、特に熱いわけでもない。代わりに、正八面体のようなホログラムが空中に現れた。
緩やかに回りながら、様々な色へグラデーションを変化させてゆく。
やがて白い光を発してホログラムは消え、1枚のカードが斜めに傾いたまま、ひとりでにくるくる回り出した。
手に取ると、それはCレアリティーのカードだった。
メイド服に栗色のツインテール、そしてヘッドドレスをつけた幼い少女のイラストが描かれている。数値やスキルなんかも書いてあって、ほとんどトレーディングカードゲームのそれだ。
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No.0008
名前:アリス
種族:ヒューマン
Rank:C
性別:女
職業:侍女
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性格:まだ幼く話し方も子供っぽいがちゃんと言う事を聞く賢い子だ。
説明:掃除、洗濯、料理など家事全般を得意とするメイド。
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スキル:[家事 Lv5] [小間使い Lv3]
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俺の身の回りをしてくれるメイドだったら最高だが、所詮カードだしなぁ。しかもコモンじゃ、ほぼ間違いなくゴミカードだろう。
「あ!? そうか、これをカードブックに入れればいいのか、カードブック!」
目の前にカードホルダーのような豪華な本が出現した。空中にふわふわと浮いている。 ページをめくろうと手をかざすと、勝手にめくれだした。まさに今手に持っているカードを入れるためのカードホルダーだ。
カードは対応する番号のところへ入れるらしい。というか、入れようと思ったら勝手に収まった。よくわからないが、とにかく全自動らしい。
取り出す時は? お、取り出そうと思うと手元に勝手に来る。
よし、こんな密林の中、不安でならないが、せっかくだし残りの2枚のガチャもやってしまおう……。
ガチャチケットが消えて、例のホログラムが再び空中に出現した。
だが……今回は何かが違う。緩やかに回ったかと思うと、ピタッと止まり、今度は光速で逆回転し始めた。
なんだろうか? そう思うのも束の間、またピタッと止まり、ゆっくりと回転しながら黄色い光を発してホログラムは消え、先ほど同様カードが現れた。
今度はUCレアリティーの少女のカードだ。たぶん、さっきと大差ないゴミカードだろう。
もしかすると、あの高速回転は確変チャレンジだったのだろうか? だとしたらハズレを引いたのかもしれない……。
いずれにしてもデイリーボーナス、言葉の通りなら毎日チャンスはある。やってるうちに、いろいろとわかってくるだろう。
図柄をよく見ると——ん? 耳が長い……。
まさかエルフだと!? これがエルフか!? これは可愛い……。
この世界も悪くないかもしれない。まあ、所詮カードでしかないが、エルフがいる世界ってことだ!
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No.0132
名前:ライア
種族:エルフ
Rank:UC
性別:女
職業:森の守護者
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性格:お淑やかで上品なお姉様。
説明:森の守護者にして森の妖精の加護を受けるエルフ。あまり積極的ではないが主への思いはとても強い。
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スキル:[生命の雫 Lv1] [森の隠れ家 Lv1]
加護:[森の妖精の加護]
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俺の身の回りの世話をしてくれるなら最高だが、所詮カードだしなぁ。しかもアンコモンじゃ、これもさっきと変わらずゴミカードだろう。
それにしても、カードを集めるのがスキルって、これどういうこと!? まさかデッキを組んで、トレーディングカードゲームをしろって!?
あれだ、カードで戦うやつ——「俺のターン、全部ドロー!!!」
……考えても答えは出ないだろう。俺の固有スキルなら人に聞けるようなことでもないし、そもそも人なんていないのだから……。
さて、これが最後だ。
コモン、アンコモンと出たからには、SSRとかSSSRみたいなカードもきっとあるに違いない。
リセマラはできそうにないし、このガチャ運で人生が決まるといっていい。
頼む、なんとか出てくれ……!
祈る気持ちで最後のガチャを引く。
ついに最後のガチャチケットが青白い炎に包まれ、先ほどまでと同様に、正八面体のようなホログラムが空中に現れた。
そして緩やかに回りながら、今度は緑色の光を発してカードが出現した。色は違うが、最初のガチャと同じ演出だ。
お!? カードの縁が、きらりとラメをまとう。
これは……今までと違う。
緊張で息を呑む俺の手に、静かに一枚のカードが収まった。
「……お前、SSRか!?」
手に取ると、それはSRの猫人族カードだった。
ケモ耳が当たり前にいる世界なのか??
イラストでは白い髪に猫耳が乗っかった人間、そんな感じだ。SSRではなかったが、当たりなのか??
色々スキルも持っているようだけど……このスキルは、どうやって使うのだろうか?
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No.0352
名前:メリーヌ
種族:猫人族
Rank:SR
性別:♀
職業:獣戦士
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性格:天真爛漫で甘えん坊、しかし戦闘では抜群の集中力と俊敏性を発揮する。
説明:狩りが得意な猫人族の少女。明るく人懐っこい性格で、特に主人への愛情表現が激しい。普段は猫のように気まぐれで甘えるが、戦闘では一転して鋭い爪と俊敏な動きで敵を圧倒する。昼寝好きだが、主のためならどんな危険にも飛び込む忠義心を持つ。
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スキル:[武術 Lv3] [柔術 Lv2] [猫爪 Lv5]
耐性:[物理耐性:Lv1] [落下耐性:Lv3] [魔法耐性:Lv2]
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とりあえずカードブックに入れたり出したりしながら、いろいろ試してみる。
チュートリアルじゃないのかよ。すごいのか、すごくないのか、本当に不親切極まりない。
「あっ!」
カードブックに使い方が書いてあるじゃないか。
そうか、カードを入れよう出そうと考えるからページが勝手にめくられて気づかなかっただけのようだ。
使い方を知りたいと思ったことで、表紙の裏を見せてくれたんだろう。
まあ、仕組みがわかれば親切設計かもしれないけどさ。
「えーと、『サモン』で召喚ができる! だと!?」
まさに、「全部俺のターン、ドロー!!」ってやつだ。
冗談はさておき、さっそくサモンしてみる。
次の瞬間、カードに描かれた少女が白い光になって飛び出した……。
カードの図柄を見ると、背景だけで少女がいなくなっている。
なるほどなるほど。少女のいない抜け殻のカードを、カードブックに戻す。
ついでに、他の2人もサモンしてみる。
カードから飛び出した白い光は、やがて膝を抱え、まるで胎児を思わせる恰好で空中に停滞——
かと思うと、ゆっくり旋回しながら手足を広げる。
ふりふりいっぱいのバルーンパンツに可愛らしいキャミソール、ひざ元にレースがあしらわれたオーバーニーソックス、そしてヴィクトリアンスタイルのゴージャスなメイド服へと順次装着。
ヘッドドレスや手元、靴なども再現され、栗色のツインテールをなびかせながら、ゆっくりと着地する。
「はじめましてご主人様、アリスだよ!」
ほんのりラベンダーの香りがふわりと漂い、とびっきりの笑顔でウインク!
とても可愛らしいメイド服少女が登場した。
さらに2枚目のカードから飛び出した黄色い光もまた、やがて膝を抱え、まるで胎児を思わせる恰好で空中に停滞——
かと思うと、ゆっくり旋回しながら手足を広げる。
今度は、オシャレなスリップから白のソックス、そしてチャイナ服を思わせるようなスレンダーな緑色のドレスへと順次装着。
ドレスの淵が金色で彩られ、やがて髪飾りや手袋、靴なども再現され、髪をなびかせながら、ゆっくりと着地する。
「ご主人様にご挨拶申し上げます。ライアと申します。」
まるで鈴のような澄んだ声が響いてきた。上品なエルフお嬢様だ。
そして最後のカードから飛び出した緑色の光は、少し演出が違うようだ。
空中で手足を広げると、カラフルなテープが体に巻き付いて衣装を形成。
ベビードールを思わせるエロ可愛いインナーに、赤い首輪が煌めく。
そのまま空中を跳ねるようにステップし、体をくるっと捻ると、ひざ上丈のプリーツスカートがふわりと回る。
さらに跳ねるようにステップを踏み、手を広げるとマウンテンパーカーを装着。
白い髪の毛に、ピコピコっと猫耳が跳ねる。
そして猫のように空中でくるっと一回転して着地。尻尾を揺らしながら、耳をもう一回ピコッと跳ね上げて猫の手ポージング!
「ご主人様! 逢いたかったにゃん!」
元気いっぱい猫人族の登場だ!
太陽の光をたっぷり浴びたふわふわの猫毛のような、ほんのり甘くて優しい香りが、風にのってそっと漂ってくる。
カードから召喚されたのは、まばゆいほどに可愛い3人の美少女達だ。
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