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『全財産ニキ』の異世界ガチャ生活  作者: 錦来夢
第1章 聖女の暴走
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第19話 地上最強の最期

 横峯は、深く息を吐いた。


「グラビティ・フォース」


 静寂が戦場に満ちる。


 次の瞬間、アリアの足元へと展開された魔法陣が淡く輝き——世界が沈むような圧が発生した。


 ガクリ。


 アリアの膝が崩れる。メイスは重力に囚われ、持ち上げることすらできない。 身をよじることも叶わず、全身が見えざる枷に縛られていく。


 しかし、横峯はすでに次の魔法へと移っていた。


 彼が手をかざすと、目の前に五冊の魔導書が浮かび上がる。 無数のページが、狂ったようにめくられ、奔流のごとく魔力が高まる。


 そして——間髪入れずに。


「アースブレイク」


 轟音が空間を裂いた。


 ゴゴゴゴゴッ!!


 地面が弾けるように隆起し、無数の尖った岩がアリアを貫くように突き出す。 防ぐ暇すらない。メイスを振るうこともできず、アリアは圧倒的な攻撃をまともに受ける。


 しかし、横峯の追撃は止まらない。


「ロックバレット」


 砕けた岩の破片が弾丸となり、殺意を込めてアリアへと襲いかかる。


 ドドドドドッ!!


 アリアは呻きながらメイスを持ち上げようとした。しかし、それすら叶わない。

 彼女の口元からは血が垂れ、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。


 一発ごとに鋼の衝撃が響き、アリアの身体に深く食い込んでいく。



「ライジングプラズマ」


 天から雷のごとく電撃がアリアを直撃する。


 ズガァァァァァ!!


 ズガガァァァァァ!!


 ズガガガァァァァァ!!


 2発、3発、4発と次々と直撃する。光った瞬間には直撃、これにはアリアも成す術がない。


 加えてロックバレットの弾丸も絶え間なくアリアを襲っている。もはや一方的といっていいだろう。



 そして極めつけの一撃——



「フロストバインド」


 地面から突き上げた岩塊すら、瞬時に凍りつく。 アリアの全身が氷の牢獄に囚われる。


 しかし、それすらも横峯にとっては前座だった。


 彼は手を軽くかざし、呟く。



「ビッグバン・ブラスト」



 ——激震。


 爆風が炸裂した。


 城壁の縁が砕け散る。


 そして、それだけでは終わらない——


 アリアは宙を舞った。


 ゴォォォォ!!


 重圧の衝撃が彼女を弾き飛ばし、無惨にも制御を奪う。


 高空を貫くように旋回しながら吹き飛ばされ—— 一瞬後には、遥か遠くの森林へと突っ込んでいった。


 ズドォォン!!


 森が裂ける。幹が砕ける。

 空間の破壊が連鎖し、森の木々がなぎ倒されていく。

 その中心を貫くように、アリアはさらに飛ばされ、地面に衝突しながら地形を削り取る。


 しかし、その惨状すら——横峯の次の魔法の前では、ただの序章にすぎなかった。


 彼は、ゆっくりと上空へと手を掲げる。



「メテオ・フォール」



 魔法陣が淡く輝く。

 そして——


 上空に、巨大な影が生じた。

 最初は、ただの小さな火球か何かかと思った。

 だが、それは——


 徐々に膨れ上がり、燃え盛りながら落下速度を増していく。

 重力加速によって異常な速さで降下し、天を切り裂きながら地上へと向かう。


 ゴゴゴゴゴゴゴォォォ!!!!


 大地が軋む。 燃え盛る隕石が空を切り裂く。


 その直下——アリアは地に倒れ、空を見上げていた。


 ボロボロだった。


 全身傷だらけ。呼吸は乱れ、視界は霞み、指先の力はすでに尽きかけている。


 だが、彼女の瞳はまだ——静かに光を宿していた。


 目を閉じる。


 瞬間、脳裏に走る。


 ——走馬灯。


 あの日、陽の光が揺れる庭園。 幼いころ、無邪気に笑った記憶。


「アリア、お前は世界を守る聖女となるのだ」


 その声に誓った。


 この鉄槌を、ただの力ではなく、正義の意志として振るうことを。


 そして、聖女としての道を歩み続けた日々。


 アリアは静かに、目を開けた。


 燃え盛る空に映る、過去。


 隕石が降る。轟音とともに、光が迫る。


 その瞬間、彼女はただ、一言——


「……よく戦った。」


 ガゴォォォォォン!!!!!!


 大地が崩れる。光が爆ぜる。


 そして、アリアを中心に森林ごと、すべてが灰燼に帰す。


 三条は息を呑む。宮本すら言葉を失う。


 視界の奥に広がる巨大なクレーター——その中心にいたのは、


 聖女アリア・セレスティア。


 彼女は、瓦礫の中で微動だにしない。

 血が滲み、白銀の衣が無残に汚れ、呼吸は浅く。



「……やり過ぎたか、自重するの難しいんだよ」


 横峯は小さく欠伸をすると、ふと振り向いた。


「もう少し静かに遊んでくれよ」


 それだけ言い残すと、そのまま背を向け、眠りに戻っていった。



 ……



「最後は……勇者自身が選ばねばな」


 三条は剣を握り直す。


「……俺が決める」


 足を踏み出し、アリアの傍に立つ。


 瓦礫の間から静かに息を吸う音が聞こえた。


 血の匂いが漂う。 戦場の騒音は遠く、ここだけが時間を忘れたように静かだった。


 三条は剣を構える。


「……これが、お前の最後か?」


 かすかにアリアの瞳が開く。 戦いの果てに燃え尽きた瞳には、もう激情はない——ただ、穏やかな光が宿っていた。


 彼女はゆっくりと唇を動かす。 何かを言おうとしている——だが、その言葉は音にならない。


 沈黙が続く。


 三条は躊躇しなかった。 剣を握りしめ、一気に喉元へと振り下ろす——


 しかし、その瞬間。


 風が吹いた。


 アリアの瞳が、最後にわずかに揺れた。


 静かに。 淡く。 燃え尽きる炎のように。


 ひとすじの涙が、頬を伝う。


 そして——彼女は、ゆっくりとまぶたを閉じた。


 その涙は、言葉の代わりだった。


 それが、彼女の最後の意思だった。


 ——全てが終わった。


 戦場には、ただ静寂が残った。




 第1章 聖女の暴走 完



次回、新しく2章スタートです。しばらくお待ちください。


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