第18話 借り物の力、届かぬ剣
九死に一生を得る。
瓦礫が崩れる。風が吹き抜ける。
三条は荒い息を吐きながら、剣を支えに立ち上がった。
「おい、宮本!助けるのが遅せーんだよ!」
宮本はふっと微笑み、手を絡めながら優雅なポージングを決める。
「ふむ……助けるのが遅い、か。実に面白い指摘だ。」
彼はゆったりとした口調で続ける。
「だが、ここで問うべきは『何をもって遅いとするか』という定義そのものだ。」
屁理屈の哲学が始動する。
「術式解放・弐〇壱式——《デスティニー・ギガス・フォース・リベレイション》!!」
魔法陣が浮かび上がり、三条の全身を駆け巡る。
「う、うおお、何だこれ、体が軽くなる!」
宮本は腕を組み、神妙な顔を作る。
「救助とは、状況が極限に達したときに最も価値を発揮する行為である。つまり、今この瞬間が最適であり、これより早ければ、それはただの過剰介入に過ぎぬ。」
「よって、貴様が今生きているという事実が、私の救助が遅くなかったことを証明している。」
「術式解放・弐〇弐式——《エクストリーム・アセンション・コード》!!」
三条の身体がさらに高揚し、オーラが迸る。
「すげえ、力がみなぎっていくぜ!」
「しかしながら、仮に私がもっと早く動いていた場合——それはつまり、貴様がこの極限状態を経験しなかったことを意味する。」
「つまり、貴様は今、成長の機会を得たのだ。私の遅延こそが、貴様を鍛え、強化し、真の勇者へと昇華させる。ゆえに、この救助のタイミングは、むしろ必然!」
「術式解放・弐〇参式——《ブリッツ・インフィニット・アストラル・アクセル》!!」
オーラが爆発し、三条の肉体が極限まで強化される。
「そして最後に——美学の観点から言わせてもらえば、救助とは劇的であるほど価値を持つ。ゆえに、この登場は最高に美しい!」
宮本は手を掲げる。
「救うのが、カッコいい!!!!」
「術式解放・伍〇七式——《ノブレス・オブリージュ・フルスペクトラム・リミテッドエディション・オメガ》!!」
三条の体から閃光のようなオーラが溢れ出る。
「三条、ありったけのバフを用意してやったぞ、さっさと片付けて来い。」
「お、おう!あとは任せろ!」
城壁の上、刃と鉄槌が激しくぶつかり合う。
火花が舞う。衝撃波が空気を震わせる。 戦場の熱が、肌に突き刺さるようだった。
三条は剣を握りしめ、一気に踏み込んだ。
通常なら届かない一歩——だが、今の三条は違う。
宮本の強化が全身を駆け巡る。筋肉が躍動し、神経が覚醒し、速度が限界を超えている。 呼吸が変わった。視界が研ぎ澄まされる。
「これが……俺様の真の力よ!!」
目にも止まらぬ斬撃が閃光のように繰り出される。 その剣筋は、まるで雷光のように空間を裂き——
しかし、すべてが。
カカカカカ!!
アリアのメイスによって、寸分違わず弾かれた。
「……ッ!」
三条の表情が歪む。
決まったはずだった。今なら打ち崩せるはずだった。 だが、アリアは受けきった。 受けきったどころか、一歩も退かない。
冷たい眼差しが剣の軌跡を読み取る。
彼女の手には迷いがない。
重心は揺るぎなく固定され、剣の動きを完璧に見切っている。 まるで神の意志が働いているかのようだった。
「調子に乗るな。」
次の瞬間——
メイスが振り抜かれる。 それは空気を裂く一撃。
ドォォォン!!
衝撃。 三条は咄嗟に剣を横に構え、防御態勢を取る——が、
……重い。
腕が軋む。剣が悲鳴を上げる。
「くそっ……!」
強化されているはずの身体が、圧に飲み込まれる。
「勝てるはずなのに……なぜ押される?」
アリアのメイスが、再び跳ね上がる。
「貴様の戦いには理がない。」
ガキィィン!!
次の一撃。今度こそ受け流すつもりだった。 だが——受け止めるのがやっとだった。
「俺様が……負けるはずがない!!」
三条は踏み込む。剣技「断罪乱舞!」。一息に繰り出される五連撃。 しかし、それすらも——
カカカカカ!!
すべてが弾かれた。
肉体は強化されている。武器の性能も上がった。なのに、決定打が生まれない。
「……互角か?」
違う。互角ではない。
決定打が生まれないのではない。決定打を出せるだけの技量がないのだ。
三条の心臓が跳ねる。
その時——宮本が静かに言葉を発する。
「三条よ、認識しろ。貴様の攻撃は正しく強化されている。それでも決定打には至らぬのだ。気付け!なぜならば、戦闘とは力のぶつけ合いではなく、意志の対立、信念と哲学の戦いに他ならないからだ!」
三条の瞳が揺れる。
アリアの手が、再びメイスを構えた。
次の一撃こそ——決定打となる。
ドゴオオオオオ!!
お互い一歩も譲らない。
戦場は荒れ狂っていた。
城壁は砕け、瓦礫が乱舞する。
三条は剣を構え、アリアと互角の攻防を続けていた。 宮本の支援によって全身の力が研ぎ澄まされ、武器の性能すら向上している。 だが、それでも決定打が生まれない。
「チッ……なんだこいつ……」
息が荒い。剣技の手数で圧倒し続けているはずなのに、アリアのメイスは全ての攻撃を防ぎ切っている。
宮本の補助がなければ、完全に押されている。
三条はもう気付いていた。今の俺は“強化された”だけで、“本当に強い”わけではない。
ゴオオオォォォォン!!
空気が震える。大気が軋む。
三条は、見た。
アリアの足が微動だにしない。重心が揺るぎない。
彼女は完璧な構えのまま、静かに息を吸った。 そして次の瞬間——
「貴様の浅い剣技、見切った。」
メイスが唸る。
ドォォォンッ!!!
衝撃。
三条は咄嗟に剣を横に構え、防御態勢を取る——が、
重い。重すぎる。
腕が悲鳴を上げる。剣が軋む。
「クソッ……っ!」
だが、アリアは止まらない。
第二撃——メイス逆打!!
グワァン!!
その一撃は、三条の防御を砕くような重圧を持っていた。 剣が弾かれ、三条の足がぐらつく。
しかし、アリアは躊躇しない。
即座に次の一撃——
「聖撃——審判の裁き!!」
ドガァァァンッ!!!!
三条の視界が揺れる。
ただの打撃ではない。技だ。
力任せではなく、彼女の技量が詰まった一撃。
三条は体勢を立て直そうとする——だが、間に合わない。
アリアの足が一歩踏み込む。 それは無駄のない動き。完璧な距離。
「次は、終わりだ。」
最後の一撃——
「聖断・審判のメイス!!!」
ドゴオオオオオオオ!!!!!!!!
空間が裂ける。
三条は剣を構えたまま、地面に膝をついた。
呼吸が乱れる。汗が滴る。
「……チッ……ッ……」
勝敗は決したかに見えた。
火花が散り、瓦礫が崩れ、誰もが息を呑んだそのとき——
「静かにしろよ、寝れないだろ」
場違いな声が響く。 三条は、反射的に戦闘の手を止めた。
瓦礫の陰から、大魔導師・横峯が現れる。
欠伸をしながら、眠そうに目をこする。
「こんな騒ぎじゃ、よく寝れねえ……面倒くせえな」
宮本の屁理屈はどうでしたか? いよいよ次回が1章のラストです。
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