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『全財産ニキ』の異世界ガチャ生活  作者: 錦来夢
第1章 聖女の暴走
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第17話 屁理屈の哲学と救済の美学

 勇者・三条は、意識が沈んでいくのを感じていた。


 静寂が押し寄せる。


 身体が、動かない。


 腕は広げられ、十字架に張り付けられるように固定されている。まるで生贄だ。


 光が遠ざかる……違う。俺の意識が遠ざかっている。


「終わり……なのか?」


 その言葉が脳裏をかすめる。


「こんな結末が、俺にふさわしいのか? ……いや、違う。まだ——終わりたくない。」


 それでも、暗闇が、すべてを呑み込んでいく。



 次の瞬間、剣を握った日のことが蘇る。



 思い出すのは、あの召喚の日。


「まずは、三条政希。職業……勇者」


 そう告げられた時、俺は——自分の中の何かが、勝手に頷いていた。


 現代で培った正義感? ヒーローへの憧れ? それとも、ただチヤホヤされることへの期待?


 理由なんてどうでもよかった。

 “勇者”になれるなら、なりたかった。

 強くなって、世界を救って、英雄になって。


 ……そう思ってたはずなのに。


「今の俺は……本当に勇者なのか?」


 首輪をつけられた日のことが鮮明に蘇る。

 王の言葉。選択の余地もない命令。


「忠誠を誓え。さもなくば——死ぬだけだ。」


 ふざけるな。俺がそんなものに屈すると思うのか?

 だから、俺は反逆した。 だから、この戦いに至った。


 だが……本当にこれが正しかったのか?



 宮本と横峯の顔が思い浮かぶ……


「宮本……お前だったら、屁理屈捏ねて回避したんだろうか?」


「お前だったら、もっと上手くやれたんだろうか?」


 何言ってるかわからない奴だったが、あいつなら乗り切っただろうか?



 意識が引き戻される。


 目の前で、十字架が完全なる光を放つ。


「誰か……誰でもいい。助けてくれ……!」




 その瞬間——


 全ての音が、止んだ。


 光が割れ、空間が裂ける。静寂の中、現れたのは——


 ……そう、あの時からすでに傍にいた。三条の隣に立ち、誰よりも場違いなポージングで、この瞬間を待っていた男——宮本。


「ふむ……今この瞬間を観測するに、勇者三条は完全なる絶体絶命である。これは極めて興味深い問題だ。」


 宮本は顔面を軽く手で覆っている。その背筋は無駄に伸びている。


「そもそも、救助という行為は、存在の価値を問う哲学的命題である。勇者三条がここで敗れることにより、その人生の意義が確定するのならば、私は介入すべきではない。これは、宇宙的な視点における因果の必然であり、意識の選択は無意味だ。」


 城壁が崩れる音が響く。十字架がさらに輝きを増していく。


「しかしながら!もし救うことによってこの物語が展開するのならば——そして私が、すべてを知りながら傍観しているという行為自体が美しくないならば——私はここで問うべきなのだ。私はこの場において何を成すべきか。即ち、救うか否かの選択である。」


 もう一刻の猶予もない。しかし、宮本は冷静に続ける。


「この選択肢の整理において、重要なのは『救う』という行為の価値だ。助ける行為が美しいのか、あるいは、見捨てるという選択こそが美しいのか。——この矛盾にこそ、真理は宿る。」


 宮本は意味深に瞳を輝かせる。


「よって、私はここで結論を出す!すなわち——」


 彼は手を高らかに掲げた。


「救うのがカッコいい!!!」


「術式解放・弐〇四式——《ヴォイド・エンドレス・スラッシュ・デモリション・ゼロ・バースト》!!」


 一瞬にして十字架を消し飛ばす!!


 もちろん決めた後のポージングも忘れない。


 指先まで神経が通った、誰にも理解されない完全自己満足の型だ。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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『全財産ニキ』は、毎日22時に更新予定です!

ぜひ明日の投稿も、お楽しみに!


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