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6話 美人生徒会長が元中二病に用があるわけがない

平穏な高校生活を望む元中二病・真城一真。

登校初日に中二病令嬢と眼光の鋭い女執事に遭遇し、さらに中二病令嬢とは同じクラスで再開。

波乱の幕開けの中、一真は生徒会長・久遠理鶴に呼び出される――その理由とは一体?

 生徒会室のドアに手をかけようとした、その瞬間だった。


 ――すっ。


 音もなく、静かに扉が開いた。


「君が真城一真だな。入れ」


 中から現れたのは、完璧すぎる所作を備えた少女――久遠 理鶴。

 入学式で代表挨拶をしていた"生徒会長"だ。


(……え、今ノックする前だったよな......。)


 気配を読むような動き。人の呼吸すら見抜いているかのような静かな“間”に、思わず身がすくむ。

 整った顔立ちに目を奪われかけたが、その瞳を見た瞬間――心臓がひやりと凍った。


「は、はい。入学式で……挨拶されていたので、知ってます」


 反射的に目を逸らす。彼女の目をまっすぐ見るのがなぜか怖い。


 中へ案内されると、重厚な机と、校章入りの重々しい椅子。

 生徒会室全体に、無駄のない緊張感が漂っている。まるで社長室か、軍の作戦会議室のような空気だ。


 理鶴は紅茶を静かに淹れながら、ふと話しかけてくる。


「時に、君はどうしてこの学校を受験した?」


(……唐突だな)


「えっと……その、学校行事が充実してるって聞いて。学祭とか修学旅行とか……」


 軽く笑ってごまかすと、彼女はうなずきながら紅茶を差し出してきた。


「そうか。学校行事に興味を持ってくれるのは、生徒会として誇らしいものだ」


 穏やかな笑みを浮かべながらも、どこかぎこちない。

 言葉の端々に“何かを試している”ような雰囲気がある。


「おっと、すまない。君は“ブラック”コーヒーの方が良かったかな?」


「え……? いや、紅茶で大丈夫です……」


(え、なんだ今の……ただの確認にしてはなんか違和感があるな.....。)


 そんな思いを抱えたまま、恐る恐るカップを取った。


「この紅茶、美味しいですね」


「だろう? 私の妹もよく『美味しい』と飲んでくれていたんだよ、“昔は”ね」


 その一言に、思わず手が止まる。

 ――“昔は”。

 たったそれだけの言葉に、妙な含みと重みを感じた。


 数秒の沈黙。


 理鶴はふう、と小さくため息をついて紅茶を一口含んだ。


「さて、本題に入ろうか」


 空気が一変する。室温が数度下がったような錯覚すらあった。


「君はこの学校の行事に惹かれて志望したと言ったが、君の“中学時代”を見ていると、どうにもそうは思えなくてな」


 そう言って彼女が机に置いたのは――卒業アルバム。


(……うそだろ。なんでこの人、俺の中学の卒アル持ってんだよ……)


 理鶴はそれを開き、しばらく眺めてからパタンと閉じた。

 そして俺の目をまっすぐに見据えて、静かに言った。


「私はね。嘘をつく人間が“2番目”に嫌いだ」


 鋭い眼光が突き刺さる。動揺を隠せずに、手がピクリと震えた。


 なぜ志望動機をはぐらかしたことにキレているか不明だが、ここは正直に話すしかなさそうだ。


「……はい。実は、中学時代の関係を全部断ち切るためにここを選びました。正確には、先生に推薦を勧められて」


「まぁそうだろうな」


「え?」


「その推薦枠を提示したのは――私だ」


「えっ……いや、そんな、え? 生徒会ってそこまで権限があるんですか.....?」


「生徒会としてではない。久遠家としてだ」


 理鶴は平坦に、だが揺るぎない声で言い放つ。


「この学校には久遠家からの寄付金が入っている。推薦枠のひとつやふたつ、久遠家の意向でどうにでもなる」


「……え。じゃあ俺、偶然じゃなくて……最初から目を付けられてたってことですか......?」


「その通りだ」


 背筋がゾクリとした。


(なんだ……? なんで俺なんだ? こんな平凡な、目立ちたくもない、ただの高校生だぞ......)


「さて、真城一真。さっき私は“嘘が2番目に嫌い”だと言ったが、“一番嫌いなもの”は何だと思う?」


 冗談交じりの問いかけだが、全身から警告音が鳴っていた。


(落ち着け……なんだ。何が“狙い”なんだ。俺が……何をした? なぜ呼び出された?)


 焦る頭を回転させ、苦し紛れに絞り出した。


「え、えーと……“凡人”……とか?」


「違う!」


 理鶴の声が、生徒会室に鋭く響く。


「私が一番嫌いなのは――“妹をたぶらかすやつ”。つまり、真城一真。お前のことだ」


 「は……?」


 言葉の意味が、理解できなかった。


「い、いや!ちょっと待ってください! 俺が生徒会長の妹をたぶらかすなんて、そんな覚えは――」


「三度」


「……三度?」


「今日で“二度”。そして過去に一度。お前は私の妹に三度、接触している」


 理鶴は淡々と語りながら、リモコンを手に取った。


「語るより、見せた方が早いだろう」


 壁に設置されたスクリーンに、映像が映し出される。


 そこに映っていたのは――中学時代の、俺。


 黒いローブに銀の指輪、手作りの杖。

 そして、木の上で風に髪をなびかせ、夕日を背にこう叫んでいた。


『深淵に導かれし真理よ……我が終焉と理を識る刻は、今ここに――!』

 

 俺の心臓が、嫌な音を立てて止まりかけ、目の前が真っ白になった。

最後まで読んでいただき心の底からありがとうございます。

3幕構成で書いており、1幕までは毎日投稿予定です。

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