5話 中二病令嬢と再会なんてするはずがない
平穏な高校生活を望む元中二病・真城一真。
だが、登校初日に中二病令嬢と冷酷執事に遭遇し波乱の幕開け。
入学式後、自己紹介で再会した彼女は――朝とはまるで別人のようで……?
LHRが始まると、担任がパンっと手を叩いて一言。
「じゃあ、出席番号順に自己紹介しましょ〜」
はい、来ました。
高校生活初日にして避けられない必須イベント。
俺は前夜、しっかりシミュレーション済みだ。
滑舌のチェックも怠っていない。
極力当たり障りなく、シンプルにだ。
「真城一真です。よろしくお願いします」
名前と挨拶だけでスパッと終える。会釈。以上。
特に話題にもならず、拍手の音だけが淡々と流れる。
ほっと肩をなでおろす。
それから数人の紹介が進んだ頃、教室の空気が一瞬止まった。
担任がちらりと名簿を見て、首を傾げる。
「えっと……次の人、自己紹介お願いできるかな?」
誰も動かない。いや、正確には“動けていない”のだ。
バッと立ち上がったのは、小柄な女子生徒。
茶褐色の髪をバードテールにまとめ、ドクロと十字架の髪飾り。右手には包帯。
(って、朝のあいつじゃねえか……!)
朝、木の上から名乗りを上げた“あの”中二病少女。鼓動が跳ね上がる。
だがそれ以上に驚いたのは――彼女の様子だった。
うつむきがちに、小さく震えている。今にも泣き出しそうなほど、声はか細くて。
「……ぉん、ぅず、でし……」
(……いや、声ちっさ。てか噛んでたよな、今)
「ごめん、もうちょっと大きな声でお願いできるかな〜?」
担任の無邪気な一言に、彼女の肩がビクッと跳ねる。
(おい担任、その追い打ちは悪手だろ……)
彼女は顔をこわばらせたまま、右目を抑え、つぶやいた。
「……っ、くっ……これ以上は……理に触れる。世界が、崩れる……っ」
教室が一瞬、沈黙する。
直後、数人がクスクスと笑った。彼女はそのまま勢いよく座り込み、机に顔を伏せた。
朝の彼女は、ある意味“堂々”としていた。
木の上で世界観ぶちかましていた中二病モード。
でも、今の彼女はただの物静かで不器用な女子生徒だ。
(……でも、“中二病のセリフ”だけはハッキリ言えてたな)
不思議な違和感が残る。彼女の素と仮面、そのギャップに、俺はただ戸惑った。
そんな自己紹介が一通り終わり、放課後。
机を片付けていたら、後ろから肩を叩かれた。
「なぁ、これからクラスのみんなで親睦会するんだけど、お前も来るよな?」
(うわ、いきなりお前とか馴れ馴れしいなこいつ)
そんな心の声をグッと抑えて。
「うん、あとで合流するわ」
と、にっこり返して、トイレに向かった。
手を洗っていると、数人の女子の会話が耳に入ってきた。
「ねえ、あの子ってクラス親睦会来るのかなー」
「いや、誘ったけど逃げられたって聞いたよ?」
「え、まじで。てか自己紹介の時のあれ……ちょっと変じゃなかった?」
あの中二病少女の話だろう。口調に悪意はない。たぶん純粋な“戸惑い”だろう。
でも、それでも、聞いていて気持ちのいい話ではなかった。
(……でもまあ、普通はそう思うよな)
誰も悪くない。悪いのはまともに人と会話が出来ず、周りの空気が読めない、普通じゃないあいつ自身だ。
でも、どこか胸の奥がざわつく。
(……なんでイラついてんだ、俺)
俺はもう中二病なんか卒業した。
同情なんかしない。
変なのとは関わらない。
それが俺の選んだ“平穏な道”。
なのに――。
帰り支度を終えて教室に戻ると、親睦会組が集まっており俺に向かって手招きをしている。
当然、親睦会組に彼女の姿はなかった。
その時、校内放送が鳴った。
「1年D組、真城一真くん。至急、生徒会室まで来てください」
生徒会?事前提出物のミスか?にしても、なぜ生徒会が絡んでくる?
「ごめん、先行ってて」
そう言って親睦会組に手を振り、俺は生徒会室へ向かった。
――まさか、これが“嵐の序章”だったとは、知る由もなく。
最後まで読んでいただき心の底からありがとうございます。
3幕構成で書いており、1幕までは毎日投稿予定です。
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