2話 平穏を脅かす道なんて通れるもんじゃない
高校生活は“平穏”を求める元中二病の真城一真。
入学式という重要な日。
登校路から彼の執拗以上な平穏への固執が垣間見える。
高校生活初日。
“平穏”な高校生活を手に入れるためには、まず登校から戦略的に挑む必要がある。
俺の通う高校は自宅から徒歩50分。新たな高校生活を手にするため、最寄りの公立高校を避けてまで選んだ場所だ。
時刻は6時50分。
この時間帯から登校することで元同級生と顔を合わせる可能性を限りなく0にする。
バスや電車の使用もあえてしない。入学式早々から痴〇冤罪イベントなんてありきたりでリスクが高すぎる。
だから歩く。己の足で歩いて回避する。これは予防線であり、自己防衛であり、俺なりの“平穏の守り方”なのだ。
ただ、徒歩には徒歩なりのリスクもある。しかも今日は“入学式”という、地雷を踏みにいくような日。
神経を尖らせながら曲がり角を進むと、早速前方に“リスク”を発見した。
「……あの婆さんは、危険だな」
視界に映るのは、杖をついたおばあちゃん。歩くスピードはゆっくり。誰がどう見ても普通の老人。でも俺にとっては違う。
(うっかり親切に荷物でも持ってやったら、「孫とお見合いしてくれない?」とか言われかねない)
(かと思えば、手を貸そうとした瞬間「若者に荷物を頼むほど年老いてないわ!」ってブチ切れられる未来もある)
――どちらにせよ、平穏を脅かすリスクがある以上回避一択である。
即座にルートを変更。対向車線へと歩道を渡る。
その途中で今度は、横断歩道の前で立ち止まっている小さな女の子を発見。ランドセルを背負い、横断歩道を渡る勇気が出ないようだ。
(手を貸したら……感謝されて懐かれたりするかもしれない。悪いがありがた迷惑な好意を持たれても困る。)
(いや、現実的には“女児と手をつないでる不審者”として通報される未来の方が濃厚だな)
ならば、と判断は早い。女児のいる横断歩道は回避。少し遠回りになるが、手前の交差点から曲がっていく。
助けが必要な人間を見て見ぬすふりをする行為に心が傷まない非情な人間ではない。
しかし。
「こういうのは、1つでも同情したら負けだ」
小さく呟いて、自分を納得させる。
――俺の人生は“回避”で成り立っている。
中学時代の黒歴史。あの痛々しすぎる中二病時代を繰り返さないために、俺は今日も、徹底してリスクを管理する。
(もう二度と、あんな思いはゴメンだ)
かつての失敗を胸に、俺は裏道へと足を踏み入れる――。
しかし、その先には今までの回避は無意味だと言わんばかりの存在が待っていた。
最後まで読んでいただき心の底からありがとうございます。
3幕構成で書いており、1幕までは毎日投稿予定です。
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