12話 中二病令嬢と教室で言い合いするわけがない①
平穏な高校生活を望む元中二病・真城一真。
しかし、その願いは登校初日に打ち砕かれた。
生徒会長であり、久遠家の執事でもある久遠理鶴から、義妹でありクラスメイトの“中二病令嬢”久遠小雀の“更生”を命じられたのだ。
しかし更生係としての役目は、突如として終わりを迎えた。
だが一真は最後に、理鶴の命令とは違う――
“自分の意思”による更生を実行する。
一真が大切にしていた平穏な高校生活を賭けて。
先週の月曜日、俺は生徒会長・久遠理鶴に呼び出され、“中二病令嬢”久遠小雀の更生を命じられた。
それは俺にとって、最悪の高校生活の始まりだった。
しかし今朝の足取りは、そのときよりも不思議と軽い。
今からやろうとしていることは、先週の命令よりもよほど重いはずだ。
クラスでの居場所がなくなるかもしれないし、平穏な高校生活は確実に終わる。
それでも今日は――“脅されたから”でも“命じられたから”でもない。
誰にも強制されていない。逃げたって誰も咎めやしない。
だからこそ、逃げないように行動する。
いつもならホームルーム開始の20分前には教室にいる俺が、今日は意図的ホームルーム開始の4分前に登校した。
理由はひとつ。小雀が教室に入るのは、いつもホームルームの5分前だからだ。
今日は、彼女のあとに教室へ入る必要があった。
そうでもしなければ――。
周囲の空気に飲まれて、俺はまた怖気づいてしまう。
だから今日は、自分を追い込んだ。周りの雑音すら届かない、この4分間に、すべてをかけるために。
教室のドアを開けた瞬間、数人のクラスメイトが「おはよう」や「今日遅いな」と声をかけてきた。
だが、耳を貸さない。俺の視界に映るのは、久遠小雀ただ一人。
彼女はいつも通り席に座り、鞄から何かを取り出していた。
他のクラスメイトの顔も声も、景色も――何ひとつ目に入らない。
俺は迷わず、彼女の前へと歩を進める。
ざわ……と、クラスの空気がわずかに揺れた。
けれど、それすら俺には届かない。
彼女の机の前に立ち止まり、俺は言葉を放った。
「ッフ。目の前にお前の“師”――真理を延べし終焉の真なる王{ヴァリタス・マジェスタ}がいるというのに、無視とは偉くなったな。“真理を延べし終焉の真なる使用者”{ヴァリタス・サーバント}よ」
その瞬間、小雀の肩がビクンと反応した。
顔を上げ、俺の姿を見た――が、すぐにそっぽを向き、視線を逸らす。
“真理を延べし終焉の真なる使用者{ヴァリタス・サーバント}”。
昨晩、俺はふと思い出した。
中学時代に運営していたブログに、何度もコメントをくれていた存在――。
俺の投稿に丁寧に反応し、敬意ある口調で熱心に質問を投げかけてきた、唯一無二のファン。
先ほどの反応で、俺の疑念は確信へと変化した。
(やはりあれは小雀だったんだ......)
まだ彼女の表情は強ばっている。
けれどその奥に、「言葉を返したい」という気持ちが、じわじわと滲んできているのがわかる。
だから俺は、もう一歩だけ踏み込んだ。
最後まで読んでいただき心の底からありがとうございます。
13話は13時に投稿します。
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