第一奏 ようこそ、幻想世界へ
ー注意ー
この物語は、フィクションです。現実に存在する名前が出ても、それとは全くの関係はありません。また、他作品のオマージュなどが含まれています。不快に思う方がいた場合、心から謝罪します。最後に、この作品はRule34などのNSFW作品(ポルノ作品)としての使用を固く禁じます。以後、作品の存在に気づいた場合、法的措置を取る可能性があります。ご了承ください。
虚空
何も見えない。闇がその場所に住まう。命も見えず、ただ冷たい気が漂う。
まるで、命のない無、いや、もはや、その「無」すら存在しない。
それほど闇は濃い。
そんな虚空にかすかに光が落ちる場所があった。そこには、闇が包み込めなかった生命が生えて、幸せに蝶々が飛んでいた。
闇の中の命。見るだけで心が満たされる。
そんなところで、他の命が目を覚まそうとしていた。
「…うっ、うーん」
それは、一人の男の子だった。
「…はっは、ハックションっっ!」
虚空のなかに、大きなくしゃみが鳴り響いた。くしゃみの勢いが余ったのか、その男の子は起き上がった。
「はぁ、花粉だ、ポーレンだ。鼻をムズムズさせた原因はお前か!」
その男の子は生えていた花に怒った。怒りで盲目になっていたなか、彼の背後から太い声が聞こえた。
「…を、もう起きたのか」
男の子が振り向くと、そこには一人の男がいた。男は眠っていた男の子に声を掛けたのだ。男の子は彼におかしなアクセントで答えた。
「はなたは誰ですか!いまはあまり怒らせないでくれです!」
「花に怒りを抱くなんて、お前らしいぜ」
「お前らしいって!…お前らしいって、え、私をご存知で?」
その一言で男の子はついに目覚めた。知らない場所で、知らない人に、知らないことを言われた。状況を把握できずにこの男の子は恐怖に包まれた。
「え!!ここはどこ、私は誰?!あ、そうだった!……知らなかったんだったわ!!」
この男の心には、霧がかかっているように、すべてのことを忘れていた。男は、この男の子を変だと言わんばかりに見ていた。
「おい、ふざけるのも大概にしなよ?自分の名前を忘れる人がどこにいるんだ?」
「え、でも、私は本当に思い出せないのです」
男は呆れた顔をして頭を抱えた。
「マジかお前、どうせふざけているだろ。でも、念の為に言っておこう、ここは、幻想世界だ、そして…お前の名前は『マテオ』だ」
「なるほど、私はマテオ。ここは幻想世界・・・え、幻想世界?!」
「そうさ、少し言い遅れたけど、ようこそ幻想世界へ。地底世界って言ったほうがわかりやすいか」
マテオは驚いた。自分が地下に落ちたとは自分でも信じられない。
「マジか!私はずっとこういう地底世界に行きたかったのですよ!あのゲームのように、あの〜、なんだっけ、アンダ―」
「口を慎め、この世界はあまりそのゲームを名指しできないんだ。この世界では、禁句として扱われているんだ…なぜかは知らんけど」
「なるほど…そんなことより、あなたは誰ですか?」
「知らなくていい、俺は君のような人のガイドになるために来ただけだ」
男は、白のタンクトップを着ていて、緑のミリタリーズボンを履いていた。目は鋭く、顔は面長だった。
「…お前、どうやってここに落ちたか覚えているか?」
「ああ、えええっと…いや、覚えてないなぁ」
「そうか…上を見てみ?」
マテオと呼ばれる男の子は上を見た。そこには、大きな穴があった。その大きな穴から眩しい光が入ってきた。
「不思議だろ?数ヶ月前からあの穴が空いたんだ。時々、あの穴から地上から人が落ちてくるんだ。普通なら落ちて死ぬ高さだが、たまたま俺がここに居たから君を救ったんだ」
マテオは、土下座をして感謝の意を示した。しかし、タンクトップの男は少し顔をしかめた。
「…勘違いするな、この世界はみんながみんな優しいわけじゃないんだ」
「えっ、なんでそんなこと言うんです―?」
そのとき、地面からバラの茎のようなものが生えてきた。そのバラの茎は、マテオを捕らえて、徐々にダメージを取っていた。
「…彼のようなゴミがこの世界にいるからよ」
「イーッヒッヒー!ちょっと先どられちゃったが、こいつの命はもらったぜ!」
マテオの後ろにとある男が立っていた。
「ここに来ることは想定済み『カミ』」
「ほぉ~、だから先に来たのか!」
バラの茎でマテオを掴んだのは、カミ。こいつは、緑に黄色のしましまがついた服を着ていて、ハーフパンツを履いていた。しかし、人間とは言えない姿をしている。指には鋭い爪が生えていて、頭には天使の輪っかのようなものが生えていた。
その上、この男は、ハゲだった。
「なんだこのハゲ!離せ!!」
「ハゲとはなんだ!あと、俺様には敬語を使わないのかよ!」
カミはお怒りの様子。
「しかし、これで君に対する殺意が芽生えたぜ。これで俺様はまたもう一つ念心を手にいれることになる。短い間だったがあばよニンゲン!!」
そのバラの茎は少しずつマテオを締め付けていた。徐々に徐々に。マテオはもはや息すらできなくなっていた。
「そうそう…こいつのソウルさえあれば、俺は…俺は…神になれるのだ!!」
「おっと、これは許すわけには行けないぜ、カミ。こいつは生かしてもらう。」
「はぁ?俺を脅す気か?」
タンクトップの男は手を前に伸ばした。そして、カミを二ラみつけて答えた。
「…いまお前は囲まれている」
「んな、が、ガチか…」
「感じられるだろ、お前に少しずつ近づく終わりの足音が。すべての矛は、お前に向けられているんだ。さあ、どうする、このままマテオを殺すのか?」
カミは唾を飲み込んだ。
「…っぐ、わかったぜ…」
マテオはバラの茎解放され、胸に手を置きひざまずいた。
「ぐあぁ!あ〜死ぬかと思ったっ!」
「だがな、マテオ!次に会ったら容赦しないぜ!俺様は、貴様の念心を奪ってみせるぜ!」
その言葉を残して、カミは消えた。
「ななな、なんだったんだいまのは…」
マテオの混乱は頭によぎっていた。そのとき、マテオを落ち着かせるためにタンクトップの男が彼の肩を触って言った。
「ま、落ち着けって―」
「うわぁあ!下がれっ!!お前はいま囲まれているぅ!」
マテオは手を伸ばしてタンクトップの男がやった脅しを真似た。
「そんな簡単にできるものじゃないぞ。とりあえず、ついて来て」
「あ、ちょっ、ちょっと待ってください!」
タンクトップの男は何事もなかったかのように虚空の中に入っていった。それを追うようにマテオは走った。
「あのぉ、カミってなんですか?念心ってなんなんですか?あなたは誰ですか?」
「カミはこの世界に存在するよくわかんない宗教の宣教師。念心は、この世界みんなにある魂の力だ。まあ、魔法のようなものだ。あと、俺の名前は…まだお前に言う必要はない!さっきも言っただろう?」
「なるほどね、つまり、念心もあのゲームのパクリってことね」
「パクリって言うな!この世界に存在する強力な力だぞ!」
ずっと冷静な口調だったタンクトップの男が声を荒げてこたえてしまった。
「…いいかい、マテオ。この世界は、君みたいな新人さんにはすごく厳しいんだ。最近、この地底世界にはいろんな人間が落ちるようになった。でも、ほとんどの人間は悪者ばかりなんだ。そのせいで、いまの社会では、『落人処罰運動』が行われている」
「最悪じゃないですか!悪者なんて消えればいいのに!」
「まさにそうだ。しかし、中には君みたいなガキに優しい人がたくさんいる。そういう人たちと交流することを勧める」
「へへ、このあと一人にするかのような言葉を言わないでくださいよ、不安になるじゃないですか」
「え、一人にする気だけど」
「…え、は、うわああぁ!なんでぇ!!」
マテオは頭を掲げて叫んだ。それを呆れるかのようにタンクトップの男が見ていた。
「そんな意味のわかんない運動をするやつらに殺されるかもしれないし、今の感じ社会に一人で行くことになるし、あのカミ?っていうやつもまた攻撃してくるかもしれないし、私はどうすればいいんだよっ!」
「だから、俺はいま君にガイドしてるんだよ―」
「ああ!触んな!お前はいま囲まれている!!」
「お前いい加減にしろ!あとそれやめろ!!」
タンクトップの男はまたマテオの肩を触ったが、マテオはまた手を伸ばして技を試みた。
「はぁ、大丈夫だマテオ。お前ならこの世界を生き残ることができる。ほら、これやるよ」
「え、なにこれ、お金?」
「ファンジーズだ。この世界の通貨だ。この袋にいれて大事に保管するんだぞ?お腹が空いたらそれを使いな」
「うわぁ、ありがとう…タンクトップガイ!」
「俺の名前を知らないからあだ名をつけたな…」
マテオはお金が入った袋に何度も手を突っ込み、目を輝かせていた。しかし、タンクトップガイは少し暗い顔をしていた。
「なぁ、マテオ。本当なら、お前について行きたい思いは山々なんだ。でも、俺の足を引っ張るものがあるんだ…」
「足でも怪我してるの?なのによくあのカミってやつと戦えたね」
「怪我してないよ、ちょっと…色々あるんだよ…んでも、俺は君にまたあえて嬉しいよ。なんだか、ほっとするんだ…」
マテオは、顔を曇らせ、頭をかいだ。
「…私って、誰なんだろう…」
「…どうやら、本当のようだな…そのうち思い出すと思うよ。この世界には、君の過去が眠っていると思うからね」
「…思い出すのか」
そうこうしてるうちに、彼らはある灰色の扉についた。
「…ここからどうしたいんだ、お前は。」
「…私は自分を見つけるよ、そして、どうにかここを出ようと思う」
「脱出か…この世界には、リューズ王という王様がいる。彼の元に行けば、脱出の方法がわかる。ただ、場所が遠いんだ。リューズ王のいる場所を、この世界の住民に聞けば、きっと脱出できる」
「リューズ王…かぁ、私、頑張ってみます!」
「…幸運を祈る」
タンクトップガイは灰色の扉を開いた。その扉の奥に少しずつマテオは進みだした。不安を抱え込みながら進んだ。新たな物語が始まるのだった。
「あ、そうだった、聞きたいことがあるんだタンクトップガイ」
「あ、なんだ?」
「君の名前って何―」
マテオはタンクトップガイの名前を聞こうとした途端扉を閉ざされた。また、虚空が広がってしまった。
―ここで、マテオの幻想物語が始まるのだった
「なんか扉を閉ざされたんだけど…どこ行けばいいのかわからないよ…」
しかし、どこからか声が近づいてくるように聞こえた。タンクトップガイの声ではない。この声は二人か、三人か…少し冷たい風が虚空の中を走った。
「―…ぉぃまじか、人間がここにいるはずないだろ、いつも落ちてくるのは…」
虚空の中に光が走った。マテオの目の前には、人がいた。
「ああ、こんにちは、あの私マテオと呼ばれる方なんですけど―」
「う、うわあぁあ!!!」
その人は、びっくりして後ろに倒れた。
「あぁ、ごめんなさい!大丈夫ですか…」
マテオは驚いた。倒れた人に近づいたら、それは、人ではなかったのだ。豚のような顔をした人間だった。藍色の制服を着ていて、顔が面長で厚い唇をしていた。
「うわぁ!ぶ、ブタ、ブタだっ!ピッグだっ!ブタが話すことってあるの?」
「…に、に、人間だぁぁああ!!!!」
その人型のブタは叫びだした。それと同時に他の場所から叫び声や、ささやき声が聞こえてきた。
「また人間が落ちてきたのか!」
「これは災難だ、モロコス団を呼ぼう」
「ママ!あれが人間なの?」
「駄目です、見てはいけません!」
周りを見れば人ではなく、不思議な姿をした人形の生き物がざわついていた。彼らは廊下のような場所にいたため、彼らのささやきは反響して聞こえた。
「…な、なんだこの場所」
「おい!人の子よ!」
マテオの前に、たくさんの人のような者が集まりだした。彼らは頭に1つの目が付いた四角いヘルメットのようなものを被っていて、矛を持っていた。
「我々は、モロコス団C隊の者だ。落人取締法の下、あなたを連行する」
「え、レンコン?レンコンは好きだよ?味噌汁でくれる?それか豚汁」
「連行だ!君を強制的に取り締まること」
「…つまり?」
「…逮捕する、ってこと」
「ああ、なるほどねぇ。じゃぁ…グッバイ!!」
ついに意味を理解したマテオは、逃げようとした。しかし、モロコス団とやらに腕を掴まれた。
「こっちへ来い!そうすれば話が早くなる」
「いやだっ!私が逮捕されるのはまだ早すぎる!11歳だぞっ…!!あれ?」
抵抗すると、誤ってモロコス団を叩いてしまった。
「…お前、俺を打ったな?上司にも打たれたことないのに!」
「…あ、いや、その、間違えてしまって―」
「お前は間違えて他人を攻撃するのか?やはり、犯罪者だったのか、政権命令違反と暴行犯で君を捕まえる!」
マテオは逃げ出し、廊下を走り出した。
廊下を進むにつれ、人混みがましていった。そして、最終的には、マテオは廊下の出口にたどり着いた。
そこは、人混みがさらに多く、ショッピングモールのような場所だった。円形の天井には、2、3階ほどの階層があり、エレベーターもいくつかあった。
「すげぇ、なんだ、この場所は、『※ららぽーと』みたいだ」
「あそこにいたぞ!こっちへ来い人間!!!」
「うわ、ヤベッ!」
またマテオは逃げ出した。人を避けつつ走り出した。
「クソ、店の中をじっくり堪能したかったのに、あの変なトウモロコシ団みたいな奴らに追いかけ回されるとは。もうぉ!!最悪だ!!」
そうマテオが言ってると、ベビーカーにぶつかってしまった。
「あう、あごめんなさい!」
「もう!この子はまだ生まれて間もないんだぞ?」
「ご、ごめんなさい奥さん、しかし、かわいい赤ちゃんですね〜、この子たちは何歳なんですか?」
「大体、23分前に生まれた0歳よ」
マテオは顔を青ざめた。
「ああ、違うのよ、卵から孵化したんだよ」
「ああ、なんだ」
そう、この人は、人型のフクロウだったのだ。いかにも婦人みたいな姿をしていたが、心は寛大で、マテオが人間であることを攻めていない。
「奥さん、私が人間なの何も気にしないのですか?」
「え、あなた人間なの?キャー!!こっち来ないで!!」
彼女はベビーカーを足で掴んで飛んで逃げた。周りの人もマテオの存在に気づきざわついてしまった。それとともに、マテオの居場所がモロコス団にバレてしまった。
「あ!あそこに人間がいるぞ、捕まえろ!!」
「もう!またかよ!!」
マテオはまた走り出した。
逃げてるうちに、マテオは服屋さんに入った。
「あのニンゲンは服屋にいるぞ!」
「探せ、探すんだ!」
その服屋には、いくつものマネキンがあった。頭をいれるところがいくつかある服や、細長いズボン、更には服を展示していると言って、何もないスタンドもあった。そんなところを、モロコス団は容赦なくマテオを探した。バックヤードも、服の間も、倉庫も、あらゆる場所を数十分も探した。しかし、成果を得られなかった。
「クソ、あのニンゲンが逃げてしまった。服の隙間まで探したのに」
「しょうがない、そろそろここも閉店時間だから撤収するぞ」
「おい、この緑のマネキンをまだ見ていないぞ?」
「もういい、この隙に彼は逃げたに違いない。また明日ここを調査しよう、今日は撤収だ!」
彼らが去った後、一つのマネキンが動き出した。
「…はぁ、危ねぇーもう少しでバレるところだった…」
マテオは、緑色の大きいジャンバーを着て、フードをかぶりマネキンに化けていたのだった。
そのまま、閉店となり、その店は暗くなった。ずっと聞こえていた人混みの声もなくなり、マテオの静かに鳴る足音だけが響くようになった。あまりの孤独さにマテオは鳥肌がたち、手をゆっくりと、いじっていた。その中で、彼はかすかに光る出口の電柱に近づき、そのドアを開いた。マテオは、更に震えてしまった。
しかし、マテオはもう何もできず、その寒い空間の隙間で、ずっと着ていたジャンバーをブランケットのように身に巻いた。
「…なんでここにいるんだろう」
地面の冷たさを服で隠しながら、熱を貯めるためにうずくまり、マテオは手を合わせてボソボソと、言葉を吐き出した。
「…イエス様…私を見捨ててないですよね……?」
マテオは涙を浮かべながら目を閉じた。
「―おい、おーい、おい、おい、
お前、ニンゲン!、起きろってんだい!!」
「うわぁあっ!……ブタ?」
マテオが眠りから覚ますと、初めて地底世界に来たときにいたブタの男が目の前に現れた。
「ね、君って地上から来てるんだろ?そこってどんな場所なんだい?」
「まず、お前は誰だよ、お前のせいでモスモス団みたいなやつらに追っかけ回されたからね?」
「ごめんね、ニンゲンを見てすっごく驚いただけだよ」
「驚いただけ!?その驚きが私の命を危ない目にさらしたんだぞ!ふざけるなって感じ」
マテオは相当怒ってる。それをブタの男は少し冷や汗をかきながら見ていた。
「ってか、本当に誰なの?」
「ああそうだった、まだ自己紹介してなかったね」
その途端、ブタの男は素早く立ち上がり、敬礼をしてハキハキと話しだした。
「我は、幻座高層商店街『キントン』作業員の一員である!その中でも身の回りの環境と警備を行う清掃員として大家に働かさせてもらっている、『セルドイン』清掃員である!どうぞ、よろしゅーで!」
ブタは地面に届くほどお辞儀をした。
このブタみたいな人は、青白いシャツに大きく「そうじ」と書かれていたものを着ていた。そのブタは、目を輝かせてまたマテオに質問を投げかけた。
「ねね、ボケないで教えてくださいよ。地上世界はどんな場所なんだ?」
「だから、本当に知らないんだって、私はここで立ち去るから、またね」
マテオは緑のジャンバーを担いでその場所を出ようとした。
「でも、君、行く場所ないでしょ?それともここに家あるの?」
「は?私には家あります、えっと……あ、そうだった、地底世界に、いるんだった…」
マテオの顔は暗くなった。
「……帰りたい」
「…まぁまぁ、そう落ち込まないでください。そんなら優しい人を教えますよ。その人は棒人間の『ボウノスケ』、このまま下に行けば『ボウノスケの店』という武器屋であり八百屋でもあり雑貨屋でもあり…まあ色々売ってる場所があるのです。そこに行くと良いことあると思いますよ」
「そうですか、でも、人に見つからずに行くにはどうすれば良いのですか?」
「そのジャンバーのフードで十分隠せると思いますよ」
マテオは、頭をかいだ。フードで十分だと言われても、モロコス団の迫害を思い出すと、やはり、足が下がる。だが、いつまでも、冷えた階段にいても意味がない。決意のある決断を持って進むか、恐怖に任せて残るか。
「いらっしゃいませ、幻座高層商店街『キントン』に、ご来店いただきまして、誠に、ありがとうございます。ただいま、開店のお知らせをいたします―」
今日も、人混みが多く、空を飛ぶ鳥や虫のような生物もいれば、壁をよじ登るナメクジみたいなのもいる。そのなかに、一人の緑のダボダボなジャンバーを着ている男がいた。
その中にもちろん、モロコス団の数名が見張りをしていた。
「…ボウノスケの店ってどこにあるんだろう」
彼は満員のエスカレーターで肩を押されながらあたりを見回していた。下っていると、目の前に大きな光が入る自動ドアのようなものがあった。そこからたくさんの人形の生き物が店を出入りしていた。
「あれが、出口か!」
マテオは、二度も考えずにその出口に向かって走り出した。人混みを押して、ただ、光に向かって走った。
「出口だ、出口だ、もうすぐここから、出れる!!」
しかし、エスカレーターを降りたとき、マテオは、自分の靴紐がほどけていた。それに気がつけず、マテオは転んでしまった。
エスカレーターから人が転び落ちたことに、ざわついていたモールも少し静けさが広がった。
「おい、あんた、大丈夫か?」
マテオの目の前に、ある男が声をかけた。その男は、マテオに手を伸ばしていた。
「うわっ!いや、大丈夫です大丈夫―」
「待って…お前って昨日のニンゲンか?」
「いやいや、これは違うんです、その!…え、あなたって」
マテオは、すぐに自分で立ち上がり、フードで顔を隠そうとした。だが、目の前の男の顔を見て驚きを隠すことができなかった。
男は、人間だった。
体格が良く、緑のパーカーと長ズボンを着ていた。坊主で、メガネをかけていた。
「あなたも、人間じゃないですか」
同じ人間を見て、マテオは、フードで顔を隠す前に手を止めて、ゆっくりとフードをおろした。マテオに声をかけた男も、少し驚いた顔をしていた。
「おい!そこのニンゲン!手を上げろ!」
モロコス団は、マテオを見つけて銃を向けた。恐る恐るマテオは手を上げた。
マテオが周りを見回したとき、多くの人がその場から避難し始めた。その中の一人、マテオに声をかけた男も、避難をしているかのように出口に向かっていた。
「ね、ね!モスモス団みたいなやつ―」
「モロコス団だ!!」
「ああ、ごめん、モロコス団の人たち、あそこにも人間がいるよ、なんで彼も捕まえないの?」
「あの人は違う、あいつは―」
「違う?なんでだよ!どう見ても一緒だろ!そんなの、差別だ!!」
マテオはひたすら大声で抵抗していた。その声は、モール中に反響した。
「こっちへこいニンゲン!」
「いやだ、いやだ!絶対にいや―」
「だぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!」
その声の反響とともに、遠くから、唸り声が聞こえた。その混沌の場は、一気に静まり返り、不穏な空気が流れた。
「その声は―」
「モロコス団、死すなり!!」
ある怪物が、マテオ達のいるところへ飛んだ。
その生き物は、手のような姿をしていた。
「ハンドルだ!直ちにみなを避難せよ!」
店内アナウンスで、避難が呼びかけられている中、マテオには、目をつける者がいなかった。
「…いま逃げれば見つからないかな」
マテオはその場を立ち去り、出口に向かった。民衆は互いを押し合って、避難を優先に走っていた。それほど、あの怪物は、危険のようだ。それに合わせて、マテオも人を押しながら出口に近づき始めた。
出口の光は、ますますと、ますますと大きくなり、眩しさのあまり、向かい側には何があるのかもわからなかった。
「あと少し、あと少しだ!もうすぐ、出口だっ!」
「待て!このニンゲンが!」
一人のモロコス団員がマテオの腕をつかんだ瞬間、マテオの希望はガラスのように砕け散った。
「お前を逃がすわけにはいかないぞ―」
「だぁ゙あ゙あ゙いやっ!」
突然、ハンドルはあのモロコス団員に飛びつき、マテオはまた自由になった。ハンドルは、そのモロコス団員にひどく噛みつき、遠くへ飛ばした。彼の後ろ姿は、脅威でしかなかった。
「なんなんだよこの世界は…」
マテオが尻を地面につけたまま、後ろに下がった。
「おーい!そこのニンゲン、こっちに来い!こっちで庇ってあげるからよ!」
マテオが恐る恐る声の元へ振り向くと、それは、ずっと探していたボウノスケの店だった。ほっとしたマテオは、急いで、店に入り、店主が店のシャッターを閉めた。
外の騒動の音は薄れ、マテオの鼓動は少しずつおさまった。
「…あは、ありがとうございます、一瞬どうなるかと思ってましたよ―」
「よく聞けニンゲン!」
店主は、棒のような腕でナイフを持ちマテオに向けた。
「俺はこれ以上問題に巻き込まれたくないんだ、お前さんにこの世界で生き残れるものを与えるが、そうしたあとは、すぐに!、ここを出るんだぞ、いいな?」
マテオは激しく頭を縦に振った。
「よし、」
あの棒人間は、ナイフをおろして、背中を向けた。
「たぶん、よくわかんないブタから話を聞いてるかもしれないが、俺の名前は、棒人間の『ボウノスケ』だ」
彼が『ボウノスケ』だ。見る目も鼻もなく、ただ口がついている白い棒人間だった。だが、か弱い体の反面、とても威圧的な態度を取っていた。
「よろしくお願いします」
「俺はよろしくない。いいか、一度しか言わないからよく聞けー」
ボウノスケは、話しながら店中の道具をあさっていた。
「―昨日から君が追っかけ回されている軍団は、モロコス団だ。彼らは、お前のような犯罪者をとっ捕まえる奴らだが、そのためには手段を問わない奴らだ。目を付けられれば命はない。一生追っかけ回される。特に、この「落人…」んなんちゃら運動で彼らはいつも以上にピリピリしているんだ―」
ボウノスケは細い腕で、重たそうな鉄の塊をいくつか持ち上げたり投げたりしていた。マテオは、彼の話を聞きながら、近くにあった骨でつくられたような椅子に座った。
「それに納得できずに、私はお前みたいなニンゲンを助けているが…ちょい、あんたそこからケツをどけろ!」
マテオは驚いてドタバタしながら椅子から立ち上がった。
「これは、スケフトンの椅子で、非売品の芸術作品なんだ!他国の幼い芸術家が作ったんだ!」
「すみません、芸術だって知らなかったんです!…にしても、とても細かい作品ですね、まるで本物の骨みたいです」
「戦時中に命をなくした人々の思いを表すために、いろんな人に協力してもらったんだ、命あるものから無いものまでね…」
マテオはとても感激していた。それを見たボウノスケは、少し引いた。
「作者と、気が合いそうだな、お前…ってこんなことしてる暇はなぁあい!」
ボウノスケは勢いよく一つの剣を取り出し、マテオに剣の先を向けた。マテオは思わず手を上げた。
「ちょっと!もう殺さないて言ってたじゃないですか!」
「殺さねぇよ!この武器をあげるからさっさとここから出て行ってくれ…」
「でもどこに行けば―」
「自分でどうにかしろ、この剣を使って人を脅して、なんか〜そのぉできるだろ?俺をほっていて二度と戻ってくんな」
「あまりにも乱暴ですよ!」
「乱暴?!こんなにサポートして乱暴だってかこの野郎!早く出ていけ!」
「でも―」
「早く!!」
「でも―」
「人の話聞けないのか!!」
「なんでそんなに人あたりが強いんですか!?」
「ニンゲンに人生をめちゃくちゃにされたからだよ!!」
大声とともに、ボウノスケは棚を強く殴った。店中にくらい鋼の音が広がった。マテオは腕をおろして、体が固まってしまった。
「…俺は何度もこの地底世界に落ちるニンゲンを助けて来た。この腐りきった政府が嫌でニンゲンを助けている。だが、その行動は、どうやら政府の機嫌を悪くさせたみたいだ。俺にはお金も信用も無くした。だから、俺は予言の勇者を探すことにした。だが、その過程で、俺はニンゲンにまで被害を与えてしまったんだ。もはや、俺はニンゲンを助けることすらできなくなったんだ…」
殴った棚から、ボウノスケは一つの本を取り出した。少しほこりがついていたのか、細い腕で本の表紙を拭いた。
「なんで、本をだすんですか?」
「この本に、俺の希望がある。『幻想人の歴史/330年の時を刻む/』という本だ。有名な考古学者が10年前に書いた幻想人の歴史だ。本には、さっき言った予言の勇者が出てくる。最初の幻想人であった、『マグノス・モロコス』が死ぬ前に残した予言でこのようなことを言っているんだ…」
―いづれ、この世界に、炎と栄光をまとい、天から勇者がやってくる。
―彼は、この世界を、解放するだろう。
―闇を打ち破り、光をもたらす。
―勇者は、誰も見たことも、想像したことも、想いを超える者がやってくる。
―だが、その者を一目見れば、勇者だと知るだろう
―見よ、天が開き、希望が見える。
―声が聞こえる、亡き者の亡きはずの希望が、幻想の奏でのように聞こえる。
―この世界が変わる音を、
―この世界は、いづれ、変わる…
「この言葉に則って、俺は勇者を探していた。でも、途中で気づいた。
勇者は、探すものじゃないと…
だから、ここまで落ちこぼれてしまったんだ。政府からすべてを取られ、自ら救いの手を失った。ニンゲンには恨みがあるわけじゃない。ニンゲンを見ると、自分の過ちが蘇ってくるんだ」
蛍光灯の音も強くなり、心がきつく押しつぶされるほど、空気がくもっていた。その中、マテオは考えた後に少し口を開いた。
「…人は、間違えてしまうものです。完璧なんていないのです。だからこそ、間違えたときには、立ち上がったほうがいいのではないですかね?」
「…ふん、のんきなことを―」
「そうでもしないと、人生はつらいだけじゃないですか。まぁ、あなたの場合は、棒人間生になると思いますが。とにかく、もう過去の過ちを忘れて、今やるべきことに焦点を当てるほうが、いいと思いますよ…」
ボウノスケは、じっとマテオを見つめた。目はないけど。マテオは目を大きく開いていて、力強く前向きな姿勢でボウノスケに目を合わせた。
「…フッ、フフフッ」
その後、ボウノスケは鼻で笑って、首を振った。少し、蛍光灯の音は弱まった。
「なぁ、ニンゲン、そのぉ…ありがとう。君が誰かは知らないけど、とても励ましになったよ」
「それは嬉しいです!人のために働くのが、わたくし、マテオ!ですから!」
その言葉を言ったマテオは、驚いた。彼の心の霧も少し薄れた。
ボウノスケは、やっと笑みを見せて腕を組んだ。
「…なぁ、マテオっていうっけ?君に紹介したい人がいる」
突然の風変わりな行動にマテオは目を丸めた。
「え、急にですか?」
「ああ、さっきはごめんね、とても暗い感じでいて。俺の友だちに、『オサダンズ』というやつがいるんだ。そいつは、とても強くて、念心のベテランでもあるんだ」
「そ、そうなんですね、でも…」
マテオは、足をもじもじさせながら頭をかいだ。
「ええ?ああ、大丈夫だよ、あいつはニンゲンだ」
「ああ、良かった、知り合いの一人なんですね」
「…んまぁ、そんなものだ。あいつから、この世界での正しい行動を教わるといいだろう」
「…行動」
数時間が経ち、外の騒動は収まった。マテオは、いろんな道具の性能を学んで時間を潰していた。
「お~い、マテオ〜」
ボウノスケは、剣のようなものを背中に隠していた。彼の笑顔を見る限り、細い体がそのでかい剣を隠せていないことには気づいていないようだ。
「お、なんですか?」
「これを見てみ」
必死に隠していた剣をマテオに見せた。それを見たマテオは、感激のあまりジャンプをしていた。反応からして、彼はボウノスケの後ろに剣があることに気づいていないようだ。
「あんたは『サンダーズ』という雷を起こす剣を買ってもらったけど、こいつも君にあげたいんだ。この剣は『スルド』というんだ。強力な振動のを君の念心の特性と合わせることができるんだ。まぁ、念心が使えなければその本質は出せないけどね」
マテオがその剣を受け取ったとき、その剣を上げて凝視した。大きく、灰色で、真ん中には赤い太線のようなものが描かれていた。柄には黄色がかった薄い亜麻布で巻かれていて、いかにも握りやすい様だった。
「…うわぁ〜、すごいきれいだっ!」
マテオは目を輝かせていた。
「ここを出た後、もう、君をサポートできる人は少なくなることを覚えておくんだ。何より、正しい行いをすることが大事だ。みんなに嫌われないためにね」
マテオは小さく頷いた。もうお別れの時間だ。マテオは、ボウノスケの店から出るため、またフードをかぶり、店のシャッターに近づいた。
「…ボウノスケさん」
「…?」
「あのぉ…ありがとうございます!」
ボウノスケは温かい瞳があるかのようにマテオを見て、笑みを浮かべた。
「こちらこそ、ありがとう。さぁ、旅に出るんだマテオ」
店のシャッターが空いた途端、マテオは出口に向かい走り出した。
少しずつ遠ざかるのを見ていたボウノスケは、涙を一滴、落とした。
「今やるべきことに焦点を当てるかぁ…そうだ、君の言う通りだな。でも、この世界には希望なんてないんだ…ただ、もし、希望を持てるのであれば…どうか、彼であってくれ…
予言の勇者が、彼であってくれ…!」
「あ、あの、マスター?なぜ泣いているんですか?」
突然の客に、ボウノスケは驚いた。この客は、スケルトンだった。彼が来たとき、ボウノスケはすぐ目をこすり、何事もなかったように振る舞った。
「いやぁ、そこにいたのか『ボーン』。違うだ、目が痒くてな」
「マスター、あなたには目がないじゃないですか…」
また、出口の眩しさにマテオは目を細めていた。しかし、今度は、やっとそこを通ることができる。剣を背中に巻いて、マテオは目をつぶり、その光に飛び込んだ。
「ここから、新たな物語が、始まる―!」
扉を出ると、風とともに小鳥のさえずりと虫の鳴き声が鳴り響いていた。なぜか太陽のように日光を感じられる光が流れていた。
そして、マテオは、やっと、目を開けた。
「…こ、ここがっ…!」
ここは、もう一つの世界。地底でありつつ、草原が広がり、山や丘には街があり、何より、念心の力が感じられる幻想的な世界。
歓迎をしよう、
ようこそ、幻想世界へ。
米印※の解説
ららぽーと:関東、関西、東海に建てられている大型ショッピングモール。2025年までに、19店舗も建てられている。
著作権は、グループチャンネル「ファンタジーズTV」と作者「マテオ・アレクサンデル」が所持しています。
ースペシャルサンクスー
Co-creaters ... オサダンズ(Osadans)
Inspired by ... Toby Fox
Yeshua
Our Big Inspiration




