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始紫伝5

現在の時間は12時を少し過ぎたところ。本日の4時間目は、隣の4組と合同の体育授業で、男女混合の持久走が行われている。男女ともに2000m走ることが目標で、グラウンドのトラック1周は約400mだ。目標は設定されているが、周回数は自己管理制のため、人によっては目標に届かず途中でバテてしまうこともある。休憩をとりながら走る者もいれば、最後まで走り続ける者もいる。


紫銀と写世は、ゆっくり一定のペースで走っていた。ギリギリではなく、余裕を持ったスピードで進みながら周囲の様子を観察し、二人は会話を楽しんでいる。


「地獄やで、これ」と写世が苦笑いを浮かべる。

周りでは、他の生徒たちがそれぞれのペースで走り続けており、中にはすでにバテて休んでいる男子もちらほら見える。


今は5月初旬、気温は28度と少し蒸し暑い。太陽が照りつけ、湿気が疲労感を増している。紫銀は呼吸を整えながら前方を見据えて走り続けていた。周りには、やる気満々の者や疲れた者、無理をせずゆっくり進む者など様々な生徒たちの姿があった。


「そうか、ならペースを上げるか?」

と紫銀が提案する。


「いや、無理無理!これ以上はキツいって!」

と写世が即答した。


「元気あんじゃん」

と紫銀は少し驚きながら笑う。


「委員長、鬼やわ」

と写世が苦笑いしていると、後方から世依奈の声が響いた。


「紫銀君、写世君!待ってよ!」


写世が振り向くと、後ろから世依奈が必死に追いつこうとしていた。太陽の下、世依奈は汗だくで走っており、白いTシャツの下にスポーツブラの影が透けて見えた。

その姿を見た写世は、思わず

「ちょっと、あかんやろ」

と呟いた。


「本人、全然気にしてないんだもんな」

と紫銀が苦笑いしながら答える。

「ほんまやな、まさかあんな堂々と走るとは」

と写世も同意して、困惑した表情を浮かべた。


やがて世依奈が二人に追いつき、息を切らしながらも明るい笑顔で言った。


「お、追いついたー!」


「大丈夫か?無理するなよ」

と紫銀は心配そうに尋ねる。

「大丈夫だよ、これくらい平気!」

と世依奈は元気に返事をした。


「わかった。でも暑いから無理すると倒れるぞ。適度に休憩しながら走れよ」

と紫銀が言うと、世依奈は笑顔で「ありがとう。でも、紫銀君と一緒に走りたいからもう少し頑張る!」と言った。


紫銀は少し困ったような表情を見せつつ、

「まあ、無理しない範囲で頑張れよ」と返す。

その様子を見て写世が笑いながら言った。


「次元はん、ほんま根性あるわ。委員長も大変やな、守るべきお姫様がいて」

「別に守るとかじゃないだろ。ただ、無理させたくないだけだ」

と紫銀は照れくさそうに答えた。


「ほら、あそこに白羽さんがいる」と世依奈が前方を指さす。 明るい日差しの下、星理亜が一人でトラックを走っていた。


「転校生はん、1人で走っとるん?」

「うーん、さっきまでクラスの子たちと走ってたと思うけど……」

と世依奈が芝生を見ると、そこには息を整えながら休憩している彼女たちの姿があった。


「みんな脱落しちゃったみたいね」 「てか、まちぃ」

と写世が言った。


「女子は次元はんと転校生はんだけやん」

「私あと2周くらいかなー」

と世依奈はトラックをちらっと見つつ笑顔を浮かべた。


「くらいって?」

「自己管理無理でーす」

と世依奈は肩をすくめて答えた。


「君らしいな」

と紫銀は笑いながら言った。

「んで?委員長。ウチラは残り何周や?」

と写世が尋ねた。


「あと2周」

と紫銀が答えた。


そのまま3人で走っていると星理亜と並び、残り2周を走り切った。


「……嘘やろ」

と写世が驚きの声を上げる。

星理亜の姿を見て思わず目を丸くした。彼女の白い体操服は透けていなかったが、その清らかな印象が一層際立っていた。


一方、世依奈は自分の体操服に気づき、ちょっと照れくさそうに笑った。男子たちが注目する中、友達がジャージを羽織らせて彼女を守ろうとした。


「なんで私だけ!」

と世依奈は不満を言いながらも、その声には楽しさが含まれていた。

紫銀はその様子に笑いながら、

「やっぱり世依奈は世依奈だよな」

と言った。

その言葉に世依奈も思わず照れ笑いを浮かべた。


「ん?どうした、写世?」

と紫銀が尋ねると、写世は少し焦った様子で振り返った。


「委員長、これはコワいで」

「怖い?」

と紫銀が驚くと、写世は少し口ごもりながら指を指した。


「あ……あれや」

と言って視線の先にいたのは、一緒に走り切った星理亜だった。

「白羽さんがどうかした?」

と紫銀が尋ねるが、特に異変には気づかなかった。星理亜は二人の視線に気づき、微笑みながら近づいてきた。


「どうかしましたか?」

と尋ねる星理亜に、紫銀は少し気まずそうに笑った。


「いや、ただ転校初日からこんなに走らされて辛かっただろうなって」 「大丈夫ですよ。私、前にいた学校ではこれ以上のことをやらされていたので、このくらいなら余裕です」と星理亜は自信満々に答えた。


「よ……余裕ですか」

と紫銀は驚いた様子でつぶやいた。


写世が横から口を挟む。

「転校生はん、前にいたところってそんなに厳しかったん?」


星理亜は少し考える素振りを見せた後、笑顔で答えた。

「ええ、部活動でいろいろな運動をしていましたので」


「なんや、思ったより普通やな。いやぁ、転校生はんがただものじゃないと思ってたで」

と写世は軽く笑った。


紫銀も頷きながら、

「白羽さんって何だか別次元の存在みたいだよね」と言った。


星理亜は微笑んで

「ありがとうございます。でも、私は皆さんと同じ中学生ですから」

と答えた。


紫銀はその答えに少し違和感を覚えたが、彼女の微笑みを見てそれ以上は何も言わなかった。

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