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始紫伝3

軽く教室の空気が一瞬にして変わり、まるで神聖な光が差し込んだかのようだった。扉の前に立つその転校生は、まるで聖書からそのまま具現化したかのような存在だった。長く柔らかく光を受けた髪は、まるで黄金に輝く天使の翼のようにふわりと広がり、その肌は透き通るように白く、どこか神秘的な輝きを放っている。


彼女が一歩教室に足を踏み入れると、何か見えない力が広がり、全員の視線が自然と彼女に引き寄せられた。まるで天使が舞い降りた瞬間だった。


「皆さま、初めまして。この度、こちらのクラスに転校してまいりました、白羽星理亜しらばね せりあと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。」


彼女は教室中に響き渡るように、しかし上品な声で丁寧に挨拶を続けた。その振る舞いは、見た目通り完璧で、礼儀正しく、少しも隙を見せない。


「私事ではございますが、父の仕事の都合で転居に時間がかかってしまい、入学式には出席できませんでしたことを、まずはお詫び申し上げます。また、引っ越しの準備も遅れたため、本日ようやく初めて登校させていただくことになりました。」


一瞬の沈黙の後、彼女は微笑みを浮かべながら、少し控えめに頭を下げた。まるで計算された動作のように、完璧な所作だった。


「皆さまの温かいサポートをいただければ、幸いです。まだこちらの生活に慣れておりませんが、皆さまと共に素晴らしい学校生活を送れたらと存じます。」


彼女の言葉は謙虚で優しいが、その裏には、まるで場の雰囲気を完全に掌握しているかのような自信が感じられた。


「今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」


彼女がそう結ぶと、クラス全員が彼女の完璧さに圧倒されていることが分かった。しかし、星理亜の瞳の奥には、誰にも気づかれない計算された輝きが宿っていた。


教室が静まり返る中、担任教師である袴田が教壇に立ち、出席名簿をチラリと見ながらニヤリと笑う。


「すげーだろ。お前ら。」と、自信満々に口を開いた。


生徒たちは一瞬、戸惑いながらも担任の軽口には慣れていたため、興味深げに彼の言葉を待った。


担任は、わざとらしく名簿に視線を戻し、そして、悪ふざけ気味に「…あー、永木。いたよな。」と言いながら紫銀を指さす。


「はい。いますが。」


紫銀は、名簿を見ながら言われるという、少々妙な状況に戸惑いつつも冷静に返事をする。袴田はその反応に満足げに頷くと、白羽に視線を移し、「白羽。覚えとけ。あれが、このクラス唯一の優等生にして、扱いやすい駒である委員長だ。」と冗談交じりに言った。


「その言い方はだめな気がしますが……」


紫銀は控えめに異議を唱える。袴田は軽く肩をすくめて、「大丈夫だ。校長と教頭、それに学年主任に聞かれなきゃ問題ない。あとは、お前らがSNSでバラさないってことを信じてるぞ。いいな?」と、いたずらっぽく言い放った。


教室の生徒たちは、互いに顔を見合わせつつも、担任のこの調子にはすっかり慣れているため、特に反論もなく頷いた。何だかんだで担任のことを信頼しているのも事実だ。


「は……はぁ。」と、曖昧な反応を見せながらも、誰も疑問は持たなかった。


星理亜は静かに微笑みながら、教室を見渡した。その視線には、まるで何か特別な知識を共有しているかのような親しみがあった。特に紫銀に向けられた一瞬の視線が、それを象徴しているかのようだったが、それを向けられた紫銀はなにも感じず、この教室内で唯一それに気づいた者がいた。


それが、紫銀の後ろの席に座る写世だった。写世は静かに星理亜の表情を観察し、彼女の背後に潜む計算や意図を感じ取った。写世はその鋭い洞察力で、クラスメイトたちの無邪気な反応とは裏腹に、星理亜の魅力の裏に隠れた何かを嗅ぎ取っていた。教室の雰囲気は華やかであったが、写世だけはその微妙な空気の変化を敏感に感じ取っていた。彼の視線は、星理亜の微笑みの奥に潜む秘密を探るように、じっと彼女に向けられ続けた。 

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