プロローグ4
レイヴンが去った後、シラホは静かに部屋を見渡し、穏やかな口調で言葉を発した。
「もう出てきていいわよ。」
その瞬間、部屋の隅から二人の人影が音もなく姿を現した。一人は40代半ばの長身の男性。身長は180cmを超え、完璧にスーツを着こなし、整った眉と深い目元が特徴的だ。冷静で知性的な雰囲気を漂わせ、後ろに束ねた長い黒髪が彼の威厳を際立たせている。鋭い眼光を持つその姿からは、落ち着きと威圧感が自然と滲み出ていた。
もう一人は、14歳くらいの少年。制服姿で、短く整えられた黒髪が印象的だ。身長はやや低めだが、目には確固たる意志が宿っており、どこか余裕を感じさせる表情を浮かべている。彼の立ち姿には、年齢に不釣り合いな落ち着きがあった。
長身の男性が一歩前に進み、静かだが力強い声でシラホに問いかけた。
「あれが、シラホさんが前に言っていた管理局の人間ですか。どうも、気に入らないですね。」
冷静な言葉の裏には、一抹の不信感がにじんでいた。少年は軽く肩をすくめ、柔らかな関西弁で続けた。
「ま、まぁなぁ。あいつもやっとるっちゃやっとるけど、どっかカタいとこあんねん。そこんとこが、ちょいと窮屈やなー、って感じやわ。」
彼は微笑みながら言ったが、その態度にはどこか余裕を感じさせるものがあった。シラホは二人のやり取りを聞きながら微笑し、言葉を続けた。
「お二人とも、お久しぶりね。既にお分けしている私の力で状況は確認済みですので、準備はよろしいでしょうか?」
「えぇ、大丈夫です。」長身の男性は、バインダーファイルを具現化させながら答えた。
「こっちも、バッチリやで。」少年もまた、フォトアルバムを具現化しながら返事をした。
シラホは二人を見つめて静かに続けた。
「では、―――さんには1868年の日本に行っていただき、とある方の魂と契約を結んでいただきたいのです。1人は、そこで犠牲になった神社の巫女の魂と契約をしてきましたが、もう1人は間に合いませんでした。ですので、お願いします。」
「なるほど、そういうことですか……」長身の男性は少し思案したような表情を見せた。
「紫の抑制には、その2つの魂が必要ということですね?」男性が問いかけた。
「ええ、その通りです。」シラホは頷いた。
「分かりました。こちらの仕事、承知しました。」男性は冷静に返答し、深く頷いた。
シラホは少年に向き直り、続けた。
「―――君には、主世界に行っていただき、永木紫銀の成長を見守りながら、彼のクラスメイトとして監視をお願いします。」
「りょーかい、任せとき。」
「それと、これを。」シラホが一枚の写真を渡すと、少年はそれを見て目を見開いた。
「なんや、このかわええ子は?」
「管理局側の派遣員です。おそらく永木紫銀の監視に付くでしょう。きっと彼の身近な存在として接触してくるはずです。」
少年はその説明を聞いて、ニヤリと笑った。
「ほんなら、注意しておくわ。」
「それと、こちらも。」シラホは別の書類を手渡すと、少年は興味深げにそれを手に取った。
「んや?こいつら、誰や。」
「―――君が、紫銀の強化と調教で使用する使い魔みたいなものです。」
「……タイミングは?」
「そうですね。最初のは、そちらの派遣員と紫銀が二人きりのとき。2枚目は、心魂具が紫銀の手元に渡されたとき。そして3枚目は、それ以降ならご自由に。」
少年はそれを聞いて、軽く笑みを浮かべた。
「ほんなら、そっちもタイミング見てやっとくわ。」
「では、お二人とも、よろしくお願いしますね。」シラホは微笑み、二人を優しく見送るような視線を送った。