蜂紫伝2
目を覚ました紫銀。
最初に目に映ったのは、知らない天井だった。白く滑らかで、どこか無機質なその天井は、普段自室で見るものとは明らかに異なっていた。
「起きましたか?」
耳に届いたのは、落ち着いた、よく通る声――天羽星理亜のものだった。
「身体、起こせそうですか? 永木さん?」
名前を呼ばれて、紫銀は反射的に上体を起こそうとした。
だがその瞬間、全身を貫く激痛が襲った。
筋肉痛、なんて生やさしいものじゃない。節々が焼けるように熱く、身体の奥から痺れが走る。動こうとする意志に、肉体が反抗する。関節は錆びついた歯車のように動きが悪く、皮膚の内側まで鈍痛に満ちていた。
全身の筋肉が、硬直しきった状態からゆっくり解凍されていくような――いや、むしろ「回復途中」という表現の方が正しいだろう。まるで限界を超えた肉体が、何とか自分を再起動しようと粘っているような、そんな感覚だった。
紫銀は小さく息を吐く。
「ごめん。無理っぽい……」
自分の状態を把握できずにいる。どうしてこんなことになっているのかもわからない。
「わかりました。無理はしないでください」
星理亜の声は静かで、どこか優しげだった。彼女がそっとベッド脇に腰を下ろす気配がする。
「天羽さん、ここ……どこ?」
首を動かす分には痛みはなかった。紫銀は声の方へと視線を向ける。
その瞬間、視界に飛び込んできたのは、星理亜の太ももだった。
制服のスカートがわずかにめくれ、明るい光に照らされたその肌があらわになっていた。驚くほど白く、きめ細かくて、やわらかそうな……その形と質感に、脳が無意識に言葉を探してしまう。
無自覚に息を飲んだ。
(やば……)
視線が吸い寄せられる前に、あわてて顔を逸らす。けれど一度見てしまった光景は、まぶたの裏にしっかり焼きついていた。思わず胸の奥がざわつく。
「……私の部屋です」
星理亜は、紫銀の視線の揺れにも気づかぬまま――あるいは気づいていて、何も言わないだけなのか――静かにそう告げた。
「えっ!! ごめん!!」
紫銀は反射的に身体を起こそうとした。反動でなんとか上半身だけは持ち上げたが、次の瞬間――
「ぐっ……!」
全身を激痛が貫いた。骨の芯から灼けつくような重みと痺れ。筋肉痛などという生やさしいものではなく、まるで身体の隅々まで焼き尽くされた直後のような、強制再起動中のマシンのような、鈍く痛む抵抗感。
思わずベッドに倒れ込むと、額に汗がにじんでいた。
「そんなに慌てなくてもいいんですよ」
星理亜は、わずかに微笑みながら言った。まるで、その反応すら織り込み済みだったかのように落ち着いた声音で。
「いや、だって……これって白羽さんのベッドでしょ? なんか……その……看護してもらって……」
喋りながら、紫銀は自分が包まれていた布団に鼻先を近づけ、微かに残る甘く柔らかな香りに気づいた。
石鹸のような清潔さと、女性らしい優しさが混ざったような匂い。星理亜そのものを濃縮したような香りが、無防備な鼻腔をくすぐる。
頭の奥がふわりと熱くなる。これが彼女の私室で、彼女のベッドで――そこに自分が寝かされていたのだと思うと、自然と顔が火照った。
「……ありがとう、っていうか……なんか、ごめん……」
視線を定められず、思わずそっぽを向く。
星理亜はその様子をじっと見ていたが、ふっと目元を和らげると、いつものように落ち着いた声で答えた。
「いえ。気にしないでください。緊急時ですし、当然のことをしたまでです」
その言い方には、何か特別な感情の揺らぎはない。だが、不思議と紫銀の胸には温かさが残った。
「そういえば……学校は?」
紫銀の声に、部屋の空気がわずかに揺れる。記憶の端に引っかかっていた違和感が、形を持ち始めていた。確か――朝、いつも通り世依奈と登校して、界乃さんからお弁当も受け取っていたはずだ。
「ああ、それについてはですね」
星理亜は膝の上で手を軽く組み、姿勢を少し正した。言葉を選ぶように間を置き、落ち着いた口調で語り始める。
「いろいろと後処理が大変だったので……永木さんと私は『最初から登校していなかった』ことにしてあります」
「……え?」
思わず素っ頓狂な声が出る。まるで自分の記憶が、現実から浮いていくような感覚だった。
「私たち、次元維持管理局の暗示力は、あらゆる世界で一位です。記録の一つや二つぐらいなら、最初からなかったことにするのは簡単です。もちろん、関係者の記憶も調整済み。痕跡は一切残っておりません」
淡々と話すその様子は、まるで書類整理でもしているかのような事務的なものだったが、言っている内容はとんでもない。
紫銀は無意識に掛け布団の端を握る。
「……僕さ、朝に界乃さんからお弁当、受け取ってたはずだけど……」
「はい。ですから、そこも『最初から休んでいた』ことに書き換えてあります。“界乃さんから弁当を受け取った”という記録も、もう誰の中にも存在していません」
紫銀が言葉を失う中、星理亜は申し訳なさそうに眉尻を下げた。けれど、その表情の奥には一切の迷いも見えない。
「すごいな……次元維持管理局ってのは」
ぽつりと漏らした紫銀の声に、星理亜は少しだけ口元を緩めて頷いた。
「はい。そういった面に対しては、安心・信用率第一ですので」
その言い回しがどこかCMの決め台詞みたいで、紫銀は苦笑する。
「……それで、なんで、僕は白羽さんのベッドに寝てたんだ?」
紫銀は、頭にまだ靄がかかったような感覚のまま、ようやく口を開いた。目に入る天井も、鼻をくすぐる洗剤の匂いも、自分の部屋のものではない。違和感だらけの状況に、まず出たのは当然の疑問だった。
「理由は、簡単ですね」
星理亜は椅子に腰かけたまま、表情も変えずにさらりと答える。
「簡単?」
「私がここまで運んだからです」
「運んだ??」
紫銀は半ば叫ぶように聞き返した。目の前の白羽星理亜は細く華奢な体つきで、どう考えても自分を運ぶような力があるとは思えなかった。
「はい。背負って、徒歩で」
「……いや、そんな、途中で誰かに見られたり……とかは……」
紫銀の脳裏に、先ほど彼女が語った“次元維持管理局”の能力がよぎる。もしあれが本当なら……。
星理亜は落ち着いた様子でうなずいた。
「不可視結界を張っていましたので、大丈夫ですよ。それに、万一、誰かに見られていたとしても、“アレ”しますから」
「……」
その“アレ”が何かを深く聞く勇気はなかった。代わりに、星理亜がすぐに話題を切り替えてくれる。
「それより、永木さん。具合はどうですか?」
「筋肉痛というか……分けわかんない激痛がつらいな」
「激痛ですか。それだけ、ですか?」
「ん。そ、そうだけど……」
「気分は? 気持ち悪い、吐き気がある、息ができないとかはないですか?」
「な、ないけど……最後のは死んでるんじゃ??」
紫銀が冗談混じりにそう返すと、星理亜は少し目を見開き、次の瞬間、ふっとやわらかく笑った。
「ふふっ……冗談です。大丈夫ですよ、ちゃんと生きてますから」
その微笑みは、珍しく年相応の少女らしいものだった。ほんのひととき、空気が少しだけ和らいだ。
「さて、落ち着いてきたようですし……私の自己紹介をしますね。あの時はそんな合間がありませんでしたので」
星理亜が軽く膝を正し、視線をまっすぐに紫銀へ向ける。さきほどまでの医務官のような硬さから一転し、今度はどこか儀礼的な口調になる。
「次元維持管理局実行部の特別任務遂行処理班所属のセリアです。正式名称は、セリア・ホワウィグ。ですが、私たち次元維持管理局員は略式名称での呼びが当たり前ですので、セリアになります」
そう言って、星理亜は制服の胸ポケットから一冊の手帳を取り出し、紫銀に見せるように差し出した。
それは、紫銀たちが通う中学校で配布されていた事務的なデザインの、青いビニールカバーに包まれた生徒手帳ではなかった。
あの時の紫銀には余裕がある状況下ではなかったため、あまり見ていることができなかったが、改めて彼女 が取り出し、差し出してきたのは黒を基調とした革風の装丁に、どこか機械的な紋章が刻まれた、まるで高機密機関のIDブックのような風格を持つ手帳だった。
カードの表面がわずかに光り、宙にホログラムが浮かび上がる。身分証に連動した形で、局章と認証情報が表示され、偽造の余地が一切ないことを無言で主張していた。
「……ちゃんとあるんだ、そういうの」
紫銀がぽつりと呟くと、星理亜は頷きつつ、静かに身分証を手帳に戻す。
「もちろんです。私たち、次元維持管理局は、無数の次元と世界を管理し、そのバランスを保つために設置された組織です」
声に込められる熱量がわずかに増す。まるで何度も説明してきたような、あるいはその役割に誇りを抱いているような響きだった。
「その中でも、私が配属されている“特別任務遂行処理班”は、主世界――つまり今のこの世界のことを指します――が何らかの理由により、結構やばい状況下になった際に、事態を回避し、正常に戻すために派遣される……管理局内でも選ばれた少数の部隊です」
さらりと「やばい状況」と言ってのけるあたり、説明慣れしているのだろう。だが、紫銀の中に少しずつ現実味がにじんできていた。
「ええと、つまり……この世界がやばくなったから、セリアさんが来たってこと?」
「はい。極めて、短期的に、極めて危険な事象が発生したので」
星理亜は真っ直ぐに紫銀の目を見つめた。吸い込まれるような澄んだ瞳に、誇張も冗談もなかった。ただ、揺るぎのない現実だけが映っていた。
「ん?? 僕が関係してる??」
紫銀は無意識に身を引いた。耳の奥で自分の心臓の鼓動が早くなる。ふざけた冗談であってほしいという期待が、言葉の端々に滲み出る。
「そうですね。関係……してますね」
星理亜の声は淡々としていたが、その静けさが逆に重みを帯びていた。ひとつ息を置いて、彼女は続けた。
「今の状況下では、この世界――主世界は、すぐでも遥か先でもない、けれど確実に訪れる未来で、“消滅”します」
時間が止まったような錯覚が、室内に広がる。重苦しい言葉が空気を支配し、紫銀は思わず口を閉ざした。
「その原因――もしくは、その中心にいるのが『あなた』なんです」
「ぼ、僕っ!? なんでっ!?」
声が跳ねる。自分がそんな重大な出来事の“中心”だなんて、受け入れられるわけがなかった。紫銀は戸惑いながら、否定の言葉を探していた。
「私も詳しくは知りませんが……永木さん。お昼休み明けに起きたことを覚えていますか?」
星理亜は一歩踏み出す。柔らかな動きだったが、紫銀の心にはずしんと響いた。
「昼休み明け……」
紫銀は記憶の奥に目を向けるように、視線を伏せる。
「あ、確か……クラスのみんなが消えていって、なんか、丸くてウニャウニャしたのが現れて、触手に襲われた……よな?」
「はい。それ以降はどうでしょうか?」
紫銀は首を傾げる。
「それ以降……?」
「はい。たしかに、私と永木さんはあの得体の知れない触手に襲われて、校庭まで逃げました。でも――」
そこで星理亜は、わずかに言葉を切った。そして、もう一度、静かに問いかける。
「問題は、永木さんがその“後”のことを覚えているかどうか、なんです」
「んー……ちなみに、アレを倒したのって、白羽さん??」
「……違います。私ではありません」
その返答は、はっきりしていた。
「じゃー、次元維持管理局の他の人たちだったりする?」
「違います」
星理亜の声は揺るぎなく、真実だけを語っていた。
「アレを倒したのは――永木さん、あなたです」
「ぼ……僕!?」
紫銀の声が裏返る。呼吸が一瞬止まり、頭の中で何かが弾ける。自分が? 自分が、あんなものを?
現実感のない事実が、胸の奥に冷たい重石のようにのしかかってくる。
「無理無理! 僕がアレを倒しました、なんて言われても信じられないって!」
紫銀は思わず声を荒げ、ベッドの上で身じろぎする。布団がわずかに揺れ、軋む音が静かな部屋に広がった。逃げ場のない状況に、枕元のシーツをぐっと握りしめるしかなかった。
「アレだ。これも、ウソとか冗談なんだろ? そうだよな?」
不安と困惑の混じった視線を星理亜に向けるが、彼女の瞳は一切揺れなかった。冗談を言っている様子も、からかっている気配もない。ただ、真剣なまなざしが、紫銀の嘘のない反応をまっすぐに見つめていた。
「嘘でも冗談でもありません。事実です」
星理亜は落ち着いた調子でそう告げると、制服の内ポケットから小さなキューブを取り出した。紫銀が息を飲む間に、その表面が微かに発光し、ふわりと空間にホログラム映像を浮かび上がらせる。
「証拠はこちらです」
漂うように現れた映像には、紫銀自身の姿が映っていた。
――心魂具である命を具現化させた刃先が僅かに青白い輝きをもった一振りの刀を手にし、無数の触手をうねらせる巨大な塊――空間の彷徨者に真正面から突っ込んでいき、それを真っ二つに断ち切る決定的な瞬間。
紫銀は、その光景を目の当たりにして言葉を失った。体が、ほんのわずかに震えた。
「他にもこちらがあります」
ホログラムの映像が切り替わる
画面には、心魂具である《命》を具現化させた一振りの刀を構える永木紫銀の姿。その刃先に青白い光が集束し、異形体ヴォーグラスへと放たれた瞬間が映し出される。
「ほかにも、こちらです」
ホログラムの映像が切り替わる
映像が切り替わる。紫銀が心魂具である命を具現化させた直後、構えを取る姿が映る。
「どうでしょうか? 何か思い出しましたか?」
紫銀は戸惑ったように目を伏せた。
「ま……まぁー……なにも思い出せないけど、これだけの映像があるってことは……ほんとなんだね……」
「はい。いま私たちがここに無事でいられるのは、永木さん、あなたのおかげです」
「……実感がなくて、ごめん」
「大丈夫です。えーと、次元維持管理局としては、むしろ“予想通り”だったみたいですから」
「予想通り……?」
「はい」
星理亜は手元のスマートフォンを見ながら、落ち着いた声で続けた。
「どうして、ごく普通だと思われていた永木さんが、こんなにも異常で、しかも強力な力を持っていたのか――その詳しい経緯までは、私も知らされていません。でも、あなたに関する“重要なこと”は、ちゃんと記録されています」
彼女はスマホを閉じ、視線を紫銀に向けると、そっと手を伸ばし、紫銀の胸元に人差し指を添えた。
「えーとですね――あなたの中には、この“主世界”だけじゃなく、あらゆる“枝世界”もろとも消滅させる力が眠っています。それだけではありません。反対にこの主世界を、再生させることも、新しく生み出すことすらも……できる力。だそうです」
紫銀は息をのんだ。
「……なんだよ、それ……」
「先ほどお見せしたホログラム映像――あれが、その力が暴走した結果らしいです。そして、それを抑えるために存在するとされているのが、心魂具みたいなんです」
星理亜は一拍、間を置いて、言葉をつないだ。
「……が、それでも、あなたが危険視されていることに変わりはありません」
星理亜の言葉に、室内の空気がわずかに張り詰める。
「そこで、私から提案があります」
「提案?」
「はい。今回の件があり、今後の永木さんに対する次元維持管理局の監視レベルは引き上げられます。監視下に置かれる可能性はかなり高く、場合によっては……私生活にまで影響が出る恐れも」
「……」
「ですが、そうならないための手段が、ひとつだけあります」
その言葉に、紫銀は息を飲んだ。
星理亜は一拍置き、はっきりと言った。
「それは、私“たち”と一緒に暮らすことです」
「い……一緒にって、ここで!?」
思わず声が裏返った紫銀に、星理亜は小さく首を振った。
「いいえ。永木さんのところになります」
「――待て待て待て待て!」
紫銀は両手を振り、全力で否定した。
「それ、どう説明するんだよ!? 昨日まで僕ひとり暮らしだったのに、翌日には知らない女の子が家にいますって……父さんにも何て言えばいいんだ!」
「永木さん。落ち着いてください」
「無理だって……!」
叫びながらも、紫銀の頭の中にふと、あることがよぎる。
――あ、そっか。
次元維持管理局って、たしか“なかったことにする”能力があったような……。
なら逆に、“もともとそうだった”ことにするくらい、造作もないのでは……?
「ま、まさか……」
「はい。次元維持管理局なら可能ですよ、その程度の改竄は余裕です」
「よ……余裕って……」
紫銀はごくりと唾を飲み込みながら、心の中で小さくつぶやいた。
――やっぱりこの組織、まともじゃない。
だが、そこであることに気づく。
「ん? さっき……“私たち”って言った?」「言いましたね」
「それって……僕と白羽さん、ふたりの話だから“私たち”って意味?」
「いいえ。違いますよ。正真正銘、“私たち”です」
星理亜はそう言うと、ふっと笑い、すっと立ち上がった。
「あ、紹介してませんでしたね。お待ちください」
そう言い残して、部屋から出ていった。
「……マジかよ……」
紫銀はベッドの上で身を起こそうとした。
激痛が全身を走る――が、さっきよりはわずかに和らいでいる。少しだけ、回復しているのがわかった。
息を整えながら、なんとか身体を起こし、ベッドの縁に腰を下ろす。
部屋を、改めて見回した。
女の子の部屋に入るのは、以前、世依奈の部屋に足を踏み入れたとき以来だった。
けれど、こうして改めて眺めると、そこに漂う空気はどこか違う。
清潔で整っているのに、自分には場違いなような、落ち着かない空間。
(……うわ、なんだこの気まずさ……)
そう思った直後――廊下から複数の足音が聞こえてきた。
星理亜が戻ってきた。そしてその後ろには、見知らぬ少女が一人ついてきていた。
紫銀は、思わず目を見張った。
黒く長い髪が、歩くたびに優雅に揺れる。
整った顔立ちは、どこか柔らかさを湛えながらも、芯のある静かな力強さを感じさせた。
物腰は落ち着いていて、大人びた印象すらある。
――だが、それ以上に引っかかったのは「既視感」だった。
初対面であるはずなのに。
まったく知らないはずなのに。
どこかで――そう、遠い昔に会ったような。
いや、それどころか、長い間、そばにいたような感覚すらあった。
紫銀は、言葉を探しながら、ぽつりと呟いた。
「……き、君は……」
星理亜が応える。
「この子は、命さんです」
「み、こ、と……」
「はい」
紫銀が無意識に返した言葉に、少女は静かに微笑んで、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
声もまた、印象的だった。どこか深い水面のような、静かな響き。
星理亜は、二人の間を見渡してから、あらためて言った。
「私とこの子を合わせて、“私たち”になります」
その一言が、はっきりと境界を引いた。
永木紫銀の生活が、“元の日常”から少しずつ外れていく、その始まりのように感じられた。




