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プロローグ2

次元維持管理局。

文字通り、無数の次元と世界を管理し、そのバランスを保つために設置された組織である。高くそびえ立つ柱と透明な壁を通して、無限の星々が輝き、様々な次元と繋がるゲートが空間のあちこちに浮かんでいる。


今日、ここに集められたのは局員たちではなく、次元維持管理局の最高責任者たちだった。普段とは異なる深刻な議題が浮上していた。主世界の崩壊が予測されたため、緊急会議が招集されたのだ。


「本日の議題に入ります。あと1年で崩壊すると予測される主世界について話し合います。」


厳粛な声で会議を開いたのは、議長であり次元維持管理局の長であるゼインだった。彼の声が響き渡ると、会場は一瞬にして静寂に包まれた。ゼインは、これまで数多くの危機を乗り越えてきたが、今回の案件は特に重大であった。


「主世界が崩壊すれば、それに伴ってすべての枝世界も消滅します。これは、人類史そのものの終焉を意味します。」


主世界とは、人類の歴史が展開される中心の現実世界を指す。それを軸に、無数の可能性が枝分かれし、多くの並行世界が存在する。主世界の崩壊は、そこから派生するすべての世界の崩壊を引き起こし、結果的に人類そのものが消滅する。


「この事態を把握したのは、わずか5時間前です。詳細は不明ですが、崩壊の原因となるのは、ある一人の人間の存在だと判明しました。」


ゼインは機器を操作し、会場のスクリーンに「その一人の人間」の姿を映し出した。それは、14歳ほどのごく普通の少年だった。特別な特徴や異様さはなく、どこにでもいるような普通の少年に見える。しかし、その外見とは裏腹に、問題なのは彼の中に秘められた力だった。


「彼は、世界を破壊し再生させる力を持っていますが、それを自覚していません。もし彼がその力に目覚め、そのまま放置されれば、主世界は間違いなく崩壊に向かうでしょう。」


会場はざわめき始めた。局員たちは、無意識のうちにこの少年が持つ力の重大さに驚愕していた。


「さて、我々には二つの選択肢があります。」


ゼインは冷静に続けた。


「一つは、彼を早急に処分し、その力が覚醒する前に問題を解決すること。もう一つは、彼に力を抑制する方法を教え、管理下に置くことです。しかし、どちらの選択肢もリスクが伴います。処分を急げば、その力が暴発する危険がありますし、抑制方法を見つけられなければ、崩壊は避けられません。」


局内は緊張に包まれていた。どちらの選択肢も重く、結論を急ぐわけにはいかなかった。処分に失敗すれば、結果は取り返しのつかないものになる。


「私の意見ですが、危険因子を放置するわけにはいきません。早急に処分すべきです。」


冷徹な声で発言したのは、軍事部門の責任者であるヴェルトだった。彼は戦略的思考に優れ、冷酷な判断を下すことで知られている。


「彼が力に目覚める前に排除すれば、最も確実な解決策となります。秩序を保つためには、力を用いるのが最も確実です。我々はこれまで幾度となく、そうしてきました。ためらう必要はありません。」


ヴェルトの意見には一理あったが、その冷淡さに反感を覚える者もいた。


「しかし、それはただ力を恐れているだけではないですか?」


温かみのある声で反論したのは、学問を管轄するセリーナだった。彼女は知識と洞察力に優れ、常に冷静な判断を下すことで知られている。


「どういう意味だ?」


ヴェルトが苛立ちながら尋ねた。


「あなたの言うことには一理ありますが、私たちが武力介入を成功させたのは、枝世界に対してだから。」


セリーナは鋭い視線をヴェルトに向けた。


「枝世界では、失敗しても影響は限定的で、修正も可能でした。しかし、主世界では、そのような余裕はありません。ここで失敗すれば、すべてが終わります。」


ヴェルトは苛立ちを隠せない様子で反論した。


「それでも力が秩序を保つ最も確実な方法です。過去の経験をもとに行動するのが最善だ!」


セリーナは一瞬の間を置き、静かに答えた。


「過去の成功が未来に通用するとは限りません。特に、主世界では失敗が取り返しのつかない結果を招くことがあります。枝世界での成功に過信しすぎるのは危険です。」


部屋の空気はさらに重くなった。セリーナは、力に頼るだけでは危険だと警告し、柔軟なアプローチが必要だと訴えた。


「ヴェルト、私たちはただ力を振るうだけでなく、長期的な視野で考えなければなりません。力は強力な道具ですが、使い方を誤れば災厄を引き起こします。それを忘れないでください。」


ヴェルトは眉をひそめ、腕を組んだまま黙り込んだ。セリーナの言葉には一理あったが、彼は簡単には引き下がれなかった。彼の信念は揺るぎなく、力こそが秩序を維持する最善の手段であると信じていた。しかし、彼女の指摘は、これまでの自信を少しだけ揺るがせたようだった。


そのとき、ゼインが口を開いた。


「両者の意見にはそれぞれ一理ある。しかし、今は時間が限られている。我々は即座に決断を下さねばならない。」


ゼインの声は冷静でありながらも、場の緊張をさらに引き締めた。彼の言葉には強い威厳があり、全員が静まり返った。彼はゆっくりと視線を皆に向けた後、続けた。


「少年を排除するのか、それとも彼を導くのか。どちらの選択肢を選ぶにせよ、その結果は我々全員の責任です。しかし、一つ強調しておきたい。力に頼るだけでは、我々はこれ以上の未来を築くことはできません。」


ゼインの言葉が静かに会議室に響いた。


「力に頼るだけでは、私たちはこれ以上の未来を築くことはできません」という強い警告に、セリーナは深く頷き、賛同を示した。


その一方で、ヴェルトは口を開きかけたが、彼より先に立ち上がったのはレイヴンだった。彼は次元維持管理局で武器やアイテムの開発を担当している部門のリーダーであり、リーダーに就いてからは局内の武器やアイテムに対しての技術レベルが向上し、枝世界への武力介入の成功率を大幅に上げたのも彼の功績であった。


「あー、ちょっといいかな?さっきから、そこのお二人が議論している少年の力についてですが、それを抑制する手段があるとしたらどうします?」


「抑制する手段?」とゼインが反応した。


「えぇ、抑制です」とレイヴンが続けた。


彼はゆっくりとスクリーンの前に歩み寄り、周囲を見渡しながら話し始めた。


「抑制です。もし、その力を制御できるならば、少年を無力化する必要はなくなり、世界の崩壊を防ぐことができるのではないでしょうか?」


会議室内は再びざわつき始めた。ゼインやセリーナ、他の最高責任者たちも耳を傾け、レイヴンの言葉に注目していた。レイヴンはさらに続けた。


「私は、これまでいくつもの武器やアイテムを開発してきましたが、最近完成させたものがあります。それが、『心魂具』です。」


スクリーンに映し出されたのは、複雑な構造を持つ武具の設計図だった。古代の遺物と最新技術が融合したかのようなデザインに、全員が目を奪われた。


「心魂具は単なる武器ではありません。強い意志や魂を具現化し、それを力として変換する装置です。これを使えば、少年の力を抑制し、彼がその力に飲まれることなく制御できる状態に持っていけます。」


セリーナが眉をひそめながら尋ねた。


「それは本当に安全なのでしょうか?彼の力は常識を超えたものです。もし制御に失敗した場合、逆に危険ではありませんか?」


レイヴンは自信を持って頷き、まるでその質問が予測されていたかのように答えた。


「もちろん、リスクはあります。制御できると言っても、彼の中にある力のすべてを制御することはできませんが、おそらく8割から9割は可能と試算しています。これだけでも、主世界の崩壊に対しては大幅なリスク低減になりますよね。」


会議室内は再び静寂に包まれた。ゼインは深く考え込むようにしながら、レイヴンの提案を慎重に見つめていた。


「ですが、そのためには武力介入以上に主世界に深刻な影響を及ぼすリスクがあります。また、抑制が不完全であった場合、彼の力が暴走する可能性もあります。」


会議室の空気は張り詰めたままだった。最高責任者たちはそれぞれの立場から冷静に状況を分析していた。その中でセリーナが発言した。


「レイヴン、あなたの提案には確かに魅力があります。しかし、少年の力が制御できなかった場合、主世界だけでなく無数の枝世界にまで波及する危険があります。さらに、私たちは、あなたが言う『心魂具』の技術が信頼できるものかどうか、まだ完全には証明されていません。」


レイヴンはその指摘にも動じることなく答えた。


「それは承知しています。しかし、現状では時間が限られています。主世界の崩壊が現時点で確証されている以上、今、私たちが取れる選択肢は非常に少ない。確かに私の提案にはリスクはありますが、何もせずに崩壊を待つよりも、この方法で少しでも抑制を試みる価値はあるはずです。」


ゼインは再び静かに考え込んだ後、口を開いた。


「わかった。今は1時間でも早く対応手段を見つける必要がある。可能性があるというなら、レイヴン。君は実行に移す準備を進めてくれ。」


レイヴンは頷き、静かに席に戻った。ゼインの決断により、レイヴンの提案は採用されたが、それはまだ不確実な未来への賭けに過ぎなかった。ヴェルトは納得がいかない表情を浮かべながらも最終的には口を閉ざし、セリーナは深いため息をついた。彼女もまた、この選択が最善であるか確信は持てなかった。


「これで決まりですね」とレイヴンが再び口を開いた。


「準備には少し時間がかかりますが、できるだけ早く『心魂具』を完成させ、少年に接触します。もちろん、慎重に動きますよ。」


会議が終わり、各責任者たちはそれぞれの任務に戻っていった。ゼインは最後にもう一度スクリーンに映る少年の姿を見つめた。彼の中に秘められた力が全ての運命を握っていることを改めて実感した。


「少年……果たして君が、我々の未来を救う存在になるのか、それとも滅ぼす存在になるのか……」


ゼインはつぶやきながら、会議室を後にした。


一方、廊下を歩きながらセリーナは不安を拭いきれずにいた。


「本当にこれで良いのだろうか……」


彼女の胸に渦巻く懸念が消えることはなかった。

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