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始紫伝15

目を開けた星理亜が真っ先に見たのは、自分を包み込むように広がる淡く輝く光だった。

その光は、右手の指輪――心魂具から溢れ出し、まるで彼女を守る結界のように柔らかく広がっている。


前方では、次元獣の放った光線が霧散し、その残りの粒子が闇に溶け込むように消えていく。その瞬間、星理亜の胸には安堵と緊張が入り混じった感情が広がる。未知なるこの空間の神秘さに、彼女は圧倒されつつも立ち尽くしていた。


そんな中、耳元に透き通るような声が響いた。


「さぁ、私の名前を呼んで、星理亜さん」


柔らかくも力強いその声に促されるように、星理亜はゆっくりと右手を差し出した。指を開くと同時に、指輪から放たれる光が一層強まり、彼女の顔を優しく照らす。


「具現し、私の力となれ、心魂具!」


星理亜の声が空間に響き渡る。


「剣霊、命っ!!」


指輪が瞬間的に強烈な輝きを放つ。光はひとつに凝縮され、そこから小さな光球が生まれた。

その光球とともに、黒髪を揺らしながら巫女服の少女が姿を現す。


「はい!星理亜さん!」


少女――命は満面の笑みを浮かべながら、軽やかにステップを踏んで星理亜の周りを回る。

その様子に、星理亜は一瞬だけ緊張を忘れ、ふっと笑みをこぼした。


「いっくよー!」


命は手にした光球を胸元に抱えるように持つと、くるくると楽しげに回し始めた。その動きはどこか舞を思わせる軽やかさで、彼女の黒髪がふわりと揺れる。

勢いをつけて両手を大きく振り上げると、光球は空高く放り投げられた。弧を描きながら上昇する光球は、回転とともにその輝きを増し、星理亜の視界をまばゆく染めていく。

光球を軽く振り回してから、くるりと投げ上げた。光球は空中で回転しながら次第に大きくなり、ゆっくりと形を変え始める。

その中へ命が舞い込むように飛び込むと、光が弾けるように散り、その中から鋭い輝きを放つ長い両剣が現れた。

剣は空中で静かに回転しながら星理亜の目の前で停止する。


「さぁ、星理亜さん」


命の明るい声に背中を押されるように、星理亜は意を決して剣に手を伸ばした。指が柄に触れると、剣を包んでいた最後の光が彼女の周りを舞い、消えていく。


星理亜は剣を片手で掴むと、試すように軽く振ってみた。刃の重みが手に馴染むと、彼女は剣を大きく振り回し始めた。


「わあっ、上手上手!もっとぐるぐる回してー!」


命が楽しげに声を上げる中、星理亜は剣を円を描くように回転させ、そのたびに剣先が空間を切り裂く音が響く。次第に慣れてきたのか、剣を力強く振る彼女の動きは美しい旋律を奏でるようだった。


最後に剣を大きく振り上げ、星理亜はその柄を両手でしっかりと握り直した。短い風が吹き抜け、彼女の髪が軽やかに揺れる。


「行くよ……命!」


剣を構えた星理亜の瞳には、揺るぎない決意の光が宿っていた。


「はいっ!」

見た目は普通の両剣。銀色の刃には微かな光が宿り、無駄のないシンプルなデザインが施されている。


しかし、手にした瞬間から星理亜は違和感を覚えていた。その形状、重量、手の中に自然と収まる感触――しっくり来すぎる。それは自分の体が知っているはずのない感覚だった。


握りしめた剣の感触が、どこか他人のもののように思える。確かに、自分の手で握っているはずなのに、手のひらから伝わる触覚が微妙に遠い。


(これが…憑依、ってやつ?)


命が語った「憑依」の仕組み。星理亜はそれを理解しているつもりだったが、実際に体験してみると想像以上の違和感が襲ってきた。自分で持っているはずなのだが、自分の意思ではなく、命の意志で動いてることに違和感と奇妙な感じ


「大丈夫です。私を信じてください。」


星理亜の不安を感じ取ったのか、星理亜(命)は迷いがなく、静かだが確信に満ちていた。その声を聞くと、星理亜の緊張が少しだけ和らぐ。


次元獣が放つ光線の猛攻に対し、星理亜(命)は剣を掲げ、防御壁を展開した。目の前に広がる銀色の障壁が眩しく輝き、光線の衝撃を受け止める。だが、障壁越しに伝わる圧力は凄まじく、星理亜は心の中で祈るようにその耐久を信じていた。


ついに光線が途切れ、遮蔽が晴れると、次元獣が胸を張り仁王立ちで咆哮をあげる。その瞬間を見逃すはずもなく、命は星理亜の体を借りて地を蹴った。空気を裂くような速さで間合いを詰めると、瞬く間に次元獣の胸元に滑り込み、鋭く一閃を放つ。


剣が次元獣の肌を裂いた瞬間、星理亜はこれまで感じたことのない衝撃を覚えた。剣越しに伝わる重さと、確実に次元獣を傷つけた手応え。それは「ただの武器」であるはずの剣が宿す力の一端だった。


だが、次元獣も黙ってはいない。巨大な右腕を振り下ろして反撃を仕掛ける。命はギリギリのタイミングでそれをかわすが、次元獣の爪の軌跡に発生した炎が星理亜の体を襲う。


直感的に「終わった」と思った星理亜だったが、思ったような焼けるような痛みはない。ただ、全身にじわりと広がる「熱い」という感覚だけが残る。不思議な状況に動揺する間もなく、命は剣を振り回して構え直し、再び次元獣の懐へと飛び込んだ。


次元獣もすぐさま反応し、懐に入らせまいと左腕を掲げ、振り下ろす。だが、命はそれを完全に予測していた。剣の柄を掲げ、迫る爪を受け止める。その瞬間、星理亜の中で命の声が響いた。


「星理亜さん、今です!!」


声に応えるように星理亜は強く祈った。心の奥から湧き上がる力を剣に託すように。すると、両剣の刃が青白い光を放ち、輝きが一層強まる。


光は星理亜自身の光力量の付加が増幅されたものだった。刃から放たれる青白い光は、まるで生命を持つかのように脈動している。星理亜は命との一体感を感じ、全てを剣に込める。両剣から迸る光は、星理亜と命の完全な同調を示すように、強く輝きを放つ。その輝きは次第に強さを増し、周囲の空気までも震わせていく。


「ありがとうございます!」


星理亜(命)が感謝を告げた瞬間、渾身の力を込め、柄で防いだ次元獣の爪を押し上げる。鋭い爪が剣の柄を滑るように擦れていく。その動きは無駄のない、完璧な軌道を描く。両剣を交差させた角度で、次元獣の力を受け流しながら、反撃の態勢を整えていく。


重心が傾き、後方に蹌踉めく次元獣。その巨体が僅かに後ろに傾いた瞬間を見逃さない。星理亜(命)は右足で強く地面を踏み、アスファルトが軽く凹むほどの力で踏み込む。その反動を利用し、大きく上半身を右に回転させる。回転に合わせ、全身から光が迸る。


円周力により両剣が描く軌道が美しい弧を描き、まるで光の帯が空中に残るように、次元獣の右腕を切り落とす。切断面は驚くほど綺麗な切り口を見せ、そこからは青白い光が漏れ出している。


切り落とされた右腕は、漆黒の巨体から離れ、地面に落ちる直前に黒い煙を吐き、まるで霧のように消え去っていく。痛みと憤怒の咆哮をあげる次元獣。その轟音が周囲の空気を揺らし、地面さえも震わせる。


切り落とされた右腕は、漆黒の巨体から離れ、地面に落ちる直前に黒い煙を吐き、まるで霧のように消え去っていく。痛みと憤怒の咆哮をあげる次元獣。その轟音が周囲の空気を揺らし、地面さえも震わせる。


だが――その瞬間、次元獣の断端から漆黒の霧が噴出する。霧は渦を巻きながら凝縮し、瞬く間に新たな腕となって再生していく。その新生した腕には、より鋭利な爪と棘が生えている。


「っ!」


星理亜(命)が咄嗟に身構えるその隙を突き、次元獣が反撃に転じる。再生した右腕を振り下ろすと同時に、尾が鞭のように唸りを上げながら横なぎに薙ぎ払ってくる。二方向からの攻撃に、星理亜(命)は瞬時の判断を迫られる。


両剣を交差させ上段からの爪を受け止めるが、その衝撃で足場が揺らぐ。尾の一撃を完全には回避しきれず、かすり傷を負う。服が裂け、肌に赤い筋が走る。


「くっ…!」


痛みに歯を食いしばりながらも、星理亜(命)は態勢を立て直す。次元獣の漆黒の体表が波打ち、全身の棘が一斉に伸長し始めていた。禍々しい紫の光を放つ棘は、まるで牙を剥く猛獣のように星理亜(命)を威嚇している。


その時、次元獣の姿勢が一変する。これまでの仁王立ちから、前傾姿勢へと重心を下げ、両足をついた四足の態勢を取る。その姿は今までの人型から、より獣に近い形相へと変貌を遂げていた。


轟くような咆哮が響き渡る。その咆哮は威嚇以上の意味を持ち、音波となって周囲の空気を震わせる。地面に落ちていた瓦礫が、その振動で跳ね上がるほどの轟音だった。


星理亜(命)はジリジリと間合いを測るように距離を詰める。両剣から放たれる光が、次元獣の放つ紫の輝きと共鳴するように明滅する。右足を強く踏ん張り、いつでも動けるよう重心を下げる。


しかし――先に動いたのは次元獣だった。


四足の姿勢から、まるでバネが解放されたかのように地面を蹴り上げる。アスファルトが大きく抉られ、砕けた破片が飛び散る。その推進力は尋常ではなく、一瞬で間合いを詰める突進。


しかし、突進してくる次元獣の姿を見据えながら、星理亜(命)は瞬時に判断を下す。両剣を大きく開き、剣先から迸る光を円弧を描くように展開させる。青白い光が織りなす半透明の防御壁が、まるで空間を切り取ったかのように出現する。


「はあっ!」


渾身の力を込めた掛け声と共に、光の防御壁が次元獣の突進を真正面から受け止める。漆黒の巨体が光の壁に激突する瞬間、衝撃波が周囲に広がり、砕けた地面の破片が舞い上がる。


次元獣の勢いが止まった――その一瞬を逃さない。


星理亜(命)は防御壁を維持したまま、地面を蹴って跳躍。壁に阻まれ身動きの取れない次元獣の上空へと舞い上がる。回転しながら両剣を振り下ろし、漆黒の背中を深々と切り裂く。斬撃に合わせ、青白い光が次元獣の体内深くまで食い込んでいく。


「やぁぁぁぁっ!」


背後への着地と同時に、星理亜(命)は素早く体勢を整える。先ほどの一撃で開いた傷口が大きく口を開けている。その傷めがけ、両剣を突き出す。


剣から放たれた光の刃が、まるで実体を持った矢のように空を切り裂き、次元獣の背中の傷口へと突き刺さる。光は傷の中で爆ぜるように広がり、次元獣の体内を蝕んでいく――。


だが、その瞬間。


「うぞっ!?」


体内に流れ込んだ光が、突如として紫色に染まっていく。次元獣の全身から禍々しい紫の輝きが迸り、星理亜(命)の放った光を押し返すように膨張していく。


「グオォォォォォッ!!」


轟くような咆哮と共に、次元獣の背中から無数の棘が一斉に伸長する。それは星理亜(命)が突き刺した光の刃を、まるで異物を排除するかのように粉砕していく。


その直後、伸びた棘が不規則に蠢き始める。まるで生き物のように蛇行しながら、星理亜(命)に向かって襲いかかってくる。飛び退こうとした瞬間、地面から突如として伸びた触手が星理亜(命)の足首を捕らえる。


「くっ!」


咄嗟に両剣を交差させ、迫り来る棘の一撃を受け止めるが、その衝撃で大きく体勢を崩される。次元獣が背中の傷を見せたまま、首だけを180度回転させ、星理亜(命)を凝視。

その赤く輝く瞳から、紫がかった光線が放射される。


迫り来る紫の光線を前に、星理亜(命)は瞬時に両剣を交差させる。青白い光が円を描くように広がり、光の防御壁を形成。紫の光線が防御壁に激突し、火花を散らすように弾け散る。


光線の猛攻が止んだ瞬間――。

足首を捕らえていた触手を両剣で切り裂き、一気に距離を詰める。四足で構える次元獣の前脚に向かって、光の軌跡を描きながら斬撃を繰り出す。鋭い閃光が黒い肢体を貫き、右前脚が綺麗に切断される。


「グアァァァッ!」


突如として失われた支えに、次元獣の巨体が大きく前のめりに傾く。三本脚での重心を保てず、よろめく瞬間を見逃さない。


星理亜(命)は地面を強く蹴り、回転しながら跳躍。両剣から放たれる光が螺旋を描き、まるで光の竜巻のように次元獣を包み込む。その渦中で、左前脚に向かって十字に斬撃を放つ。


「はあっ!」


鋭い閃光が走る。漆黒の左前脚が、付け根から綺麗に切断される。切断面からは青白い光が漏れ出し、切り落とされた脚は黒い霧となって消失していく。


その瞬間、切断面から黒い霧が逆巻くように噴出。霧は渦を巻きながら凝縮し、失われた前脚の形を作り上げていく。右前脚の切断面でも同様の現象が起き、瞬く間に両前脚が再生される。

切断面から黒い霧が激しく噴き出し、逆巻く渦となって凝縮されていく。その霧は失われたはずの前脚を再び形作り、わずか数秒で完全に再生を果たす。同時に右前脚の切断面からも同様の現象が起き、次元獣は再び四肢揃った堂々たる巨体を取り戻していた。


「瞬間再生か……厄介すぎるわ」

星理亜(命)はわずかに息を乱しながらも、鋭い目で次元獣を睨みつける。攻撃は確実に有効だ。それでも、脅威的な再生力の前では無力に等しい。このままでは、永遠に決着がつかない。


少し離れた位置で、写世は冷静に戦況を見つめていた。

「あの化物にここまで傷つけられるとは……やっぱ心魂具はとんでもない代物やな」

彼の表情に浮かぶのは驚きと興味。それでも、腕時計に視線を移すとすぐに切り替えた。残り10秒――すべてが終わるまでの猶予はそれだけだ。


「9!」


写世がカウントを始める。星理亜(命)はその声を背に、地を蹴って空を舞う。仁王立ちする次元獣が漆黒の爪を振り下ろしてくるが、星理亜(命)の刃がその爪を切り裂き、さらに襲い来る棘も断ち切る。


「7!」


次元獣の攻撃を掻い潜りながら、星理亜(命)は心魂具を構える。星理亜が祈ることで、付加する光力量が増え、刃から青白い光が漏れ出し、彼女の周囲に輝きが広がっていく。


「5!」


心魂具の柄が分裂し、一瞬で双剣へと変化する。星理亜(命)は力強く飛び上がり、双剣を握りしめながら次元獣へと突進する。


「3!」


星理亜(命)の双剣が閃光となり、次元獣の巨体を切り刻む。再生を繰り返す巨体が次々と裂け、黒い霧があふれ出る。次元獣は暴れようとするがの猛攻の前では微動だにできない。


「1!」


星理亜(命)が高く跳び上がり、双剣を振りかざす。その一撃は次元獣の巨体を真っ二つに裂いた。しかし、切断面から再び黒い霧が噴き出し、再生の兆しを見せる。


「ゼーロ!」


写世の声が冷たく響いた瞬間、次元獣の霧が突如として暴発し、四散する。凝縮していた闇は霧散し、巨体は音もなく崩れ去った。まるでその存在自体が虚構だったかのように、次元獣は完全に消滅した。


星理亜(命)は荒い息をつきながらも、静かに双剣を降ろした。

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