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始紫伝12

転校して数週間、星理亜は内心焦りを感じ始めていた。次元干渉者の疑いがある写世をさりげなく警戒しながら、もう一方で紫銀にも変化がないか注意を払っている。しかし、何事もなく同じ日々が過ぎていくばかり。じっと待っているだけでは時間だけが過ぎてしまう。

星理亜の心は常に張り詰めていた。新しい環境での生活に適応する一方で、彼女には使命があった。次元管理局からの命令を受け、異世界からの干渉を防ぐために派遣されたのだ。次元干渉者の影がちらつくこの学園で、彼女の役割は極めて重要だった。しかし、その重責が彼女を少しずつ追い詰めていた。


放課後、とうとう我慢の限界に達した星理亜は、自分から動き出すことに決めた。

校内を歩き回って写世を探し、たどり着いたのは竹西学園中等部の屋上。

部活の掛け声が校内に響く中、ここだけは静かで、心地よい風が吹き抜けている。遠くに見える竹波山が夕暮れに染まり、長く伸びた影が屋上の隅にかかっていた。


その場には写世の姿があった。

彼はフェンスに寄りかかりながら、校門を出ていく紫銀をじっと見送っている。夕日を背にしたその背中には、どこか影が差しているようにも見えた。


「……こんなとこにいたんだ」


小さく息をつきながら、星理亜はその背中に向かって一歩ずつ歩み寄った。写世が何を考えているのかは分からない。ただの見送りにしては少し長すぎる視線に、やはり警戒心が湧いてくる。

「次の一手」を探るように、星理亜は彼に声をかけるタイミングを見計らっていた。


「あり? なんや、今日は一人なんや、委員長……」


写世はつぶやくように言い、紫銀の姿が視界から消えるのを確認すると軽くため息をついた。


「寂しいぃのー……」


写世がつぶやきながら振り返ると、そこには星理亜が立っていた。彼女はいつものように落ち着いた表情で、しかしどこか冷徹な眼差しを写世に向けている。


「転校生はん。ここになんか用事でもあったん?」


写世は口角を軽く上げ、少し警戒しながら星理亜に尋ねた。彼は何となく、この状況がただ事ではないことを感じ取っていた。


「えぇ。とても大事な用事です」


星理亜は平然と答え、写世の方へ一歩踏み出す。


「はーん。やけど、ここには何もあらへんで」


写世は肩をすくめ、大きく身振り手振りをしながらも、あえて軽い口調を保ちながら言った。しかし、彼の瞳はしっかりと星理亜の動きを捉えている。


「えぇ。何もないですね」


星理亜の言葉には冷ややかな響きが込められていた。写世はその態度に違和感を覚えたものの、内心では面白そうだと感じてもいた。自分に何か仕掛けてくる予感がする。


「わーとるやん。なら、なんの用や?」

「あなたに会うためですよ、写世さん」


星理亜の言葉は静かだったが、その背後にある緊張感は明らかだった。写世は目を細めて彼女を見つめ、冗談めかして答えた。


「わい?」

「はい。あなたと二人っきりで、大切なお話がしたいので、ここに来ました」

「なんや。そう言われるとすごい恥ずいなぁ」


写世が言葉を発したその瞬間、星理亜の動きが変わった。彼女は一瞬でブレザーの右ポケットに手を伸ばし、素早くポケットハンドガンを取り出して写世に照準を合わせ、構えた。


それに対して写世は驚くこともなく、余裕の表情で言った。


「なんや、物騒なオモチャやな」

「オモチャ……ですか。残念ですが、これは光弾を出す光銃です」


星理亜の声には冷たい決意が込められている。彼女は銃口をしっかりと写世に向けたまま、一瞬も油断していない。


「……えぇーんか、それ? ここでんなもん撃ったら、周りにバレるで?」


写世は肩越しに周りを見渡しながら、あくまで冷静に言った。


「大丈夫です。周りから私たちが視認できないよう結界を展開済みです」

「ほーん……」


写世は上を見上げ、夕焼けに染まる空を眺めた。どうやら星理亜の言葉は本当のようだった。結界は確実に展開され、周囲からは二人の姿も声も聞こえない。


「……マジやな。それに、早々に破れへんヤツやないか」


写世は感心したように頷きながら言った。星理亜もその言葉を聞き、彼がどこまで知っているのか、警戒心を高める。


「……はい」

「ほんで、わいになんの用や?」


フェンスに寄りかかり、写世はあくまで余裕を見せながら星理亜を見つめる。彼の言動には一切の焦りが感じられない。星理亜もそれを感じ取り、さらに質問をぶつけた。


「写世さん、正直に答えてください」

「えーで。答えることは答えるで」

「あなたは……次元干渉者ですか?」


その瞬間、星理亜の問いかけが空気を変えた。写世は少しだけ驚いたように目を細め、彼女の表情を探るように見つめ返す。


「そうきたかー。さっすが、次元管理局員の期待の新人さんやな」


写世は肩をすくめながら、興味深そうに続けた。


「んで、わいが次元干渉者やと?」


自分を指差す写世。星理亜はその反応に、彼の正体が自分の予測通りであることに確信を抱いた。しかし、その瞬間、何か違和感も覚える。


「そやなーーーー」


写世は笑顔で言ったが、その目は鋭さを失わなかった。


「ちゃうで。……一応な」

「い……一応?」

「そや。一応、わいも次元干渉者と同じで次元間移動や世界間転移はできるけど、それは他力や」

「ですが、あなたは――」

「けどな、転校生はん。あんたら教わってきた、次元干渉者っていうのは、次元間の秩序を乱し、不安定を引き起こすヤツのことやろ? わいは、そんなんする気はあらへんで」


星理亜はその言葉に戸惑いを感じた。彼が次元干渉者ではないのか? いや、それとも単に嘘をついているだけなのか――。


「残念やけど、ワイの目的はちゃうんや。紫――いや、委員長の覚醒を早めるための補助、それがワイの目的や」


写世の言葉に、星理亜は驚きを隠せなかった。


「……覚醒の補助?」

「そうや。委員長はな、不安定な状態にある。そのままやと、いずれ主世界がドカーンやろ? だから、早々に覚醒させなあかん」


星理亜は写世の言葉に動揺しながらも、銃を構え続けていた。


「ですが、あなたが言っていることが本当だとしても、私は――」

「わかっとるで、転校生はん。あんたが疑うんは当然や。けどな、今はそっちの方が急務やないか?」


写世は星理亜の手にある心魂具を指差し、興味深げに目を細めた。


「んで、それ、使えるようになったん?」


星理亜は少しだけ視線を落としながら、小さな声で答えた。


「……まだです」


写世は軽くうなずき、口角をわずかに上げた。


「そかそか。まだかいな……せやったら、まずはそれを使えるようにせな、委員長の覚醒に間に合わんかもしれんで?」


星理亜は写世の言葉を受けても、その表情を変えなかった。だが、内心の焦燥は増していた。彼の言うことには一理ある――紫銀の力が目覚めた時、それを止めるための力がなければどうなるか、容易に想像がつく。しかし、だからと言って目の前の相手を信用できるわけではなかった。


「でも、あなたが目的を達成した後、どうするつもりですか?」


星理亜は再び銃口を写世に向け、緊張した声で尋ねた。


「ワイが危険なヤツやったら、こんな風にのんびり話してへんで。目的は一つ、委員長を覚醒させること。それが終わったら、ワイの役目も終わりや」

「……それが本当なら、私はどうすればいいの?」


銃を構えたまま、星理亜は写世に問いかけた。彼女はこれまで教えられてきたことと、目の前の現実の間で葛藤していた。


「簡単な話や、転校生はん。まずはわいを撃たへんこと。それから、委員長の監視は続けることやな」

「……どうして?」


星理亜は眉をひそめ、銃口は揺るがなかった。


「あなたの言葉を信じられる根拠は?」


写世は肩をすくめ、どこか余裕のある態度で答えた。


「信じるか信じへんかは、転校生はん次第や。けどな、わいらの目的は同じやと思っとるで。委員長の力を暴走させへんようにすること――それが全てやろ?」


軽く肩をすくめながら、彼はあくまで自分のペースを崩さない。その微笑の裏には、何かを見透かすような冷ややかな知性が宿り、星理亜の決意を試すような態度がある。


「それに、転校生はんは、その心魂具を早々に使えるようにせんとあかんやろ。それが、委員長暴走を止めるためには絶対必要になる鍵やんから」

「……そうね……」


星理亜は一瞬、視線を彷徨わせた。写世の言葉には何か含みがあったが、それが全て本心だとは思えない。それでも、委員長を巡る問題は避けて通れない事実だった。


「……でも、それじゃ私が信用する理由にはならないわ」


星理亜は少し眉をひそめながら、写世に向けた銃口を依然として下げなかった。彼の言葉には一見筋が通っているように思えたが、曖昧さが残る。写世の目的が本当に彼女と同じかどうか、確信は持てなかった。


写世はその様子に気付いたのか、少し苦笑いを浮かべる。「まあ、そうやろな。あんたがそう簡単に信じるわけがないってことくらい、ワイもわかっとるつもりや」


写世は両手をあげ、降参するポーズを取るが、その態度はどこか挑発的だった。余裕があるのか、それとも単に彼が本心を隠しているのか、星理亜にはわからない。しかし、彼の言葉にはどこか冷たい響きが感じられた。


「結局、あんたが信じるかどうかはあんた次第や。でもな、ワイが言ったことだけは覚えといてほしい。委員長の力が暴走したら、もう誰にも止められへん。それがどれだけ危険なことか、あんたもわかっとるやろ?」


星理亜は黙っていた。彼の言葉は頭の中で反芻するたびに重く響く。確かに、紫銀の力が暴走したら、それを止める手段は限られている。心魂具がその鍵となるのは間違いないが、写世の協力が必要かどうかは別問題だった。


「あなたが何を考えているのか、まだ分からないわ。でも、一つだけ言えるのは、私たちは私たちのやり方で、この世界を守ってみせる」


星理亜は断固とした声でそう告げた。彼女の決意には一切の揺るぎがなく、写世はその鋭い視線を受け止めながらも、再び肩をすくめるだけだった。


「ほんなら、それでええわ。あんたがそう決めたんなら、ワイもそれを尊重するしかないやろ。でも、もしも困ったときには……」


「助けを求めるつもりはないわ」


星理亜はきっぱりと写世の言葉を遮った。彼女の鋭い瞳は、彼を全く信用していないことを物語っていた。


「そうか……ま、そん時になればわかるやろ」


写世は少しだけ口元を歪め、軽い調子でそう答えた。しかし、その目の奥にちらりと見えた感情は、冷静な表情とは裏腹に複雑なものだった。星理亜には、彼が本当に何を企んでいるのか、いまだに掴めない。


「あ、そや。……ひとつだけ、教えてたるで。心魂具それを使えるようにするには、レイブンはんに聞いた方が近道かもしれまへんで」

「レイブン……ですか?」

「そや。あんたが知っているかはわからんけどな、彼に聞けば、心魂具を使いこなすには最も確実やで。……ま、そこに行くかどうかはあんた次第や」


星理亜は、しばし考え込むように視線を落としたが、すぐに顔を上げて再び決意に満ちた表情で答えた。「考えておきます」


「結構。それでええんや」


写世は軽くうなずき、星理亜から一歩下がった。二人の間に流れる空気は、敵か味方かはっきりしないまま、微妙な緊張感を残していた。だが、それ以上深入りすることなく、互いに距離を保とうとしているかのようだった。


「じゃあな、転校生はん。そん時が来るまで、お互い気をつけよか」


写世が軽く手を振りながら背を向けるその瞬間、彼はふと思い出したかのように振り返り、口元に不敵な笑みを浮かべた。


「あと、そや。転校生はんにえぇー情報や」


星理亜は一瞬、疑念を抱いたが、落ち着いた声で問いかけた。


「先程もお伝えしました通り、私があなたの言葉を信じると思ってるのでしょうか?」

「んな、どーでもえぇ。ただ、頭の端っこにでも置いといてほしいだけや」


写世の飄々とした態度に、星理亜は眉をひそめたが、やがて小さくため息をつき、静かにうなずいた。


「……わかりました」

「委員長、狙われとるで」


その一言が星理亜の心臓を打ち抜いた。彼女は驚きとともに言葉を飲み込む。


「!!だ……」


写世は軽く肩をすくめて続ける。


「それを調べんのが、転校生はんラの仕事やろ。んじゃ、またなー」


最後の言葉を投げかけ、写世は悠然と歩き去った。彼の背中をじっと見つめながら、星理亜は一瞬立ち止まる。彼の言葉にどこまで信憑性があるのか、まだ判断はつかない。しかし、その警告が無視できないものだということは感じていた。


星理亜はその場に立ち尽くし、写世の消えていく姿を静かに見送った。


 写世の気配が消え、屋上に静寂が訪れると、星理亜はそっと息をついた。彼が残していった言葉の一つ一つが、無意識のうちに心に影を落とし、深い思索の渦に巻き込んでいくようだった。


星理亜はゆっくりと右手を上げ、頬をそっと撫でると、耳に付けた小型無線機に指先を触れさせた。微かな振動が耳元に伝わり、彼女は慎重に問いかける。


「どうでしたか?」


すぐに返ってきたのは、次元維持管理局の実行部隊長の低く落ち着いた声だった。彼女は写世と会話をしている間、密かに部隊に彼の調査を依頼していたのだ。


「君のおかげで何度も確認できたが、写世集樹は確かに次元干渉者である可能性が濃厚だ」


星理亜は無線を通して伝えられる報告に、僅かに眉をひそめる。それでも表情には動揺を出さず、部隊長の言葉に耳を傾け続けた。


「だが、波長はこの世界の生体存在とほぼ変わらないんだよな」


その一言に、彼女は無意識のうちに息を飲んだ。部隊長の言葉が静かな屋上に響き、彼女の思考を覆い尽くしていく。


「と、言うことは、写世さんはーーー」

「あぁ。間違いなく、俺らと同じで人間に近づけた存在だ。完全に異質というわけではないが、普通の人間とも言い切れない……しかも、管理局員名簿には奴の名前もなければ、情報が一切登録されていない」

「えぇ、それは前にも聞きました。ただ、その名簿って、管理局の実行部員だけですよね?」

「いや、実行部だけでなく、他の部門もすべて確認済みだ」


星理亜はフェンスに寄りかかりながら、眼下に広がる街の風景に目を移した。管理局の名簿に記録のない存在でありながら、人間に近い波長を持つ写世。彼女の中で謎が深まり、どう言葉を紡ぐべきかを慎重に考える。


「それらの中にもなかった……もしかして、写世さんは私たちとは違う、上の人では?」

「それはない。君も知っているだろう?管理局の最高責任者は、長のゼイン、セリーナ、ヴェルト、レイブンだけだ」


星理亜は短く頷くが、心の中にはまだもやもやとした疑念が残っていた。彼女がこれまで信じてきた秩序の中に収まりきらない存在が、自分の目の前にいるという現実。その答えがすぐに見つからないことに、唇を噛む。


「ですよね……」


確信を持ちたい気持ちと、真実を知る怖さが彼女の中でせめぎ合っていた。しかし、この疑問が解けない限り、彼女に課された任務も完遂とは言えない。次の一手を打つためには、もっと多くの情報が必要だった。


「すまないが、今夜、来れるか?」

「そちらに?」

「あぁ。どう考えても、今の状況はおかしい。世界消滅率が100%とされているが、それを引き起こすような決定的な兆候が確認できない」


部隊長の言葉に、星理亜も無意識に頷いていた。彼女自身も、ここ数日の動きに違和感を感じていたのだ。この世界は異様なまでに平和で、争いごとは存在しても、それが致命的な影響を与えるようなものではなかった。実際、国際的な対立や宗教間の摩擦などはあったが、いずれもこの世界を消滅させるほどの脅威には遠く及ばない。


(それでも、この世界が消滅する可能性が100%だなんて、どこかおかしい……)


彼女の胸の奥に、見えない不安がじわりと広がる。その不安が何を指しているのかはわからないが、それがただの思い過ごしではないという確信だけはあった。


「わかりました。前と同じぐらいの時間に行きます」

「あぁ、頼む」


無線が切れると、星理亜は再び静寂に包まれた屋上に立ち尽くした。穏やかな風が彼女の髪を揺らし、彼女はふと空を見上げる。夜になると、再び部隊長たちとの会合が行われ、写世に関する新たな情報が得られるかもしれない。だが、それでも彼女の心はどこか晴れない。


ふと、あることに気づいた星理亜は、軽く舌打ちした。


「あ、結界、切り忘れてた……」


慌てて周囲を確認し、慎重に結界の存在を消していく。万が一、他の人間に見られるようなことがあれば、厄介な事態に発展しかねない。小さな結界であっても、彼女にとってそれは次元維持管理局員としての責務を忘れずにいるための大切なものであり、秘密裏に活動するための重要なツールだった。


結界を消し終えた星理亜は、再び視線を遠くに向けた。この町の穏やかな日常風景は、どこか幻想のように思える。しかし、表面上の平穏さが、いずれ崩れ去る時が訪れるのではないかという予感が彼女の心に影を落としていた。


(写世さん……あなたは一体、何者なんですか?)


静かに問いかけるように自問自答しながらも、彼女はその答えを知る術を持っていなかった。だが、彼の存在がただの人間でないことは、ますます確信に近づいている。

彼女の中で、今夜の会合で得られる情報がすべての鍵を握っているように感じられた。


夜の訪れを待ちつつ、星理亜は再びフェンスに寄りかかり、空に右手を伸ばし、広げる。


「それに、心魂具これも使えるようにしないといけないけど……」


前に、レイブンもとを訪れ、心魂具について問い詰めた。

最初、渡されたときは自分の任務において、心魂具が紫銀の力を抑制するための重要なアイテムだと聞かされていた。だが、肝心のその開放方法が誰も知らないということに苛立ちを覚えていた。


「どうすればいいんだろう…」


星理亜はぽつりと呟く。心魂具は、紫銀の暴走を抑えるための唯一の手段であり、彼女がその任務を果たすための頼みの綱だ。しかし、その力を引き出すには、心魂具の内部に存在すると言われる何者かと接触する必要があるという。


星理亜は数日前のレイブンとの会話を思い返していた。


「心魂具を使うためには、その中にいるとされる存在と話せるようになることが必要だそうだ」

と、レイブンは手元のメモを見ながら言った。その話に、星理亜は困惑を隠せない。


「だそうだって……どうやって、それをやるんですか?」

「んー、なになに…」

とレイブンはぼんやりメモを見つめた後、

「念じる」とさらりと答えた。


「は?」

星理亜は思わず絶句する。


「とにかく、ひたすら念じに念じて、念じまくれば、あちら側からやってくる……らしい」

「らしいって何ですか、それ?」


頼りなさげな説明に、星理亜は思わず苦笑しそうになる。


「実際、俺もよく分からないんだ!」

とレイブンは両手を上げて見せるが、星理亜にとっては冗談では済まない話だった。もしこの任務で失敗すれば、紫銀の暴走を招きかねないのだ。


「知らないって……そんなもの渡されて、私はどうすればいいんですか?」

「だから念じろ!とにかく、念じろ」

「えぇっ!」


レイブンは軽く眉を上げ、

「お話ししよう、とか、聞いてる?とか、何でも試してみればいいさ。とにかく、これは君の努力次第だ」

と無責任に言う。


星理亜は嘆息しながら、

「私の努力次第って……」とつぶやく。「そもそもこれって新規導入装備のテストなのに、こんなでいいんですか?」と問い詰めるも、レイブンは笑みを浮かべたままだった。


その会話を思い返し、星理亜はまたため息をついた。あの時、レイブンは「念じるだけでいい」と確かに言ったが、こんな不安定な方法で本当に心魂具が使えるのか、いまだに半信半疑だ。しかし今は、賭けるしかないのだと腹をくくるしかない。


「もしかして、何か特別な感情や状況が必要なのかも…それとも、永木さんとの繋がりが鍵になるのかもしれない…」


彼女は考えながら夜空を見上げた。星々が瞬いている。その光を見つめるうちに、彼女の心に強い決意が静かに宿るのを感じていた。

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