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プロローグ1

かつて、人々が行き交い、笑い声が響いていたこの大通りは、今では焼け焦げたアスファルトと瓦礫の山が広がる戦場と化していた。街路樹は黒焦げになり、かつてカラフルだった建物は、今や灰色一色に染まっている。高層ビル群は、まるで火炎放射器で炙られたかのように黒焦げになり、窓からは不気味な赤い光が漏れていた。空には黒い煙が渦巻き、太陽の光すら遮断していた。

崩れかけたビル。至る所で舌を出した、建物を飲み込んでいく炎。

これは、きっと夢なんだ。

もし、これが現実であるなら、世界的大ニュース。いや、そんな言葉では表現できない。これは、終わりの始まりだ。地面が揺れるたび、私の足元が不安定になり、音のない叫びが喉の奥で凍りつく。誰もいない。人の姿が消えたこの街には、かつての賑やかな笑い声や喧騒の音すら残っていない。ただ、炎の吐息とビルが崩れる鈍い音が響き渡る。


「夢であるなら、さっさと目覚めてくれよ……」


 確かに、これは夢だ。

 だが、炎の吐息から伝わってくる熱さ、ビルが崩れ行く度に響き渡る音。それら全てがリアルではないかと思わずくらいに現実味があるものだった。


「夢だとしてーーーーこれは、誰がーーーー」

「これは、君がやったことだよ」


不意に響いた、冷たく機械的な声。

振り返ると、そこには見覚えのない少年が立っていた。少年は、どこか得体の知れない笑みを浮かべ、こちらを見つめている。


「君がやったことだよ」


その言葉の意味が、僕の脳裏を駆け巡る。

僕が? そんなはずはない。僕はただ、この恐ろしい光景を目の当たりにしているだけだ。


「もっと、正確に言うとね、今、寝ている君が起きてから1年後の君の中にあった力がこの世界を壊した」


目の前の少年の言葉が、まるで重く冷たい鉄の鎖のように僕の心に絡みついていく。意味がわからない。もし、目の前の少年が言っていることが正しいというなら、1年後の僕がこの世界を壊した?と言うことになるが……

今の僕はただの普通の人間なのに、1年後には破壊神になります。ってことが信じられなかった。


「信じられないよな」と少年は僕との間を一定の距離を保ち、ぐるぐる回りながら続けた。


「でも、君の中にある力が目覚める頃には、もう全てが遅いんだ。」

「力?」

「そうだね。ただ、この結果をも齎したのは、現実世界で存在するエネルギーや影響力とされる『力』ではなく、非現実的かつ超常的で、通常の世界の法則を超える力ーーーー言わば、異能力」


少年の言葉が僕をさらに混乱へと深めていく。

理解不能。予測不能。意味不明。

 

「異能力…?」


 僕の内側にそんなものが存在するなんて、想像もしていなかった。

 僕は至って普通の人間でーーーー今年、中学生になったばかりだ。

 

「そう、君の中に眠る力は、この世界を壊すほどの力を持っている。それは、君自身の意思とは関係なく、今の状態では1年後には、勝手に暴走し、その結果、世界が壊れた。」

 

少年は、まるで得意げにそう言い放った。


「なぜ、僕なんだ...?」

 

僕は、自分の胸を叩きながら、何度も自問自答を繰り返した。心臓がバクバクと鳴り、冷や汗が止まらない。まるで、自分がこの世界の悪夢の根源であるかのような気がした。

そして、なによりも自分のことを何も知らないはずの少年に、なぜこんなことを聞かされるのか、僕は理解できなかった。

 

「それは、君が特別な存在だからだよ。君には、この世界を変える力がある。そして、同時に、この世界を壊す力もある。」

 

少年は、静かにそう告げた。

 

「だから、僕が今、ここで君の前にいるんだよ」

「君はーーーーいったいーーーー」

「君は、このまま1年後に覚醒してしまうと、世界を壊すことになる。だから、僕はここにいる。君を止めるために、僕は生まれたんだ。んー。生まれた。と言うよりも、そのためだけに創られたんだろうね。僕は、この世界を守護者みたいな存在なんだから。」

「守護者…?」


 僕はその言葉に引っかかった。少年は自嘲気味に笑い、肩をすくめた。


「そう。僕はただの人間じゃない。君を止めるためだけに創られた存在だ。感情も、自分の未来も、何もかもが決められているんだよ。僕が生きる理由はただ一つ、君を倒すこと。それが僕の存在意義なんだ。」


その言葉に、僕の胸の中で奇妙な感情が沸き上がった。少年があまりにも冷静に、まるで自分の運命を受け入れているように話すのが、異様に思えたのだ。


「だけどね、安心して。今ここで、君に攻撃をしたり、倒したり、殺したりするつもりは一切ないから。むしろ、今、ここでそれらをしても無意味だからね」

「無意味?」


 僕は少年の言葉に戸惑った。彼が自分を倒すために存在しているのなら、今ここで攻撃してくるはずだと思っていたからだ。


「そう。君がまだ覚醒していない今、君を倒しても何の意味もないんだ。」少年は軽く肩をすくめ、続けた。「君が1年後に覚醒し、力を暴走させた時、それが僕の本当の仕事になる。今の君を倒しても、未来は変わらないんだよ。」


その冷静な説明に、僕の心の中で不安がさらに膨らんだ。彼が言っていることは、すべて理屈に合っている。だが、それが余計に恐ろしかった。1年後、僕は確実に何かとてつもない力を手に入れ、それが世界を壊すことに繋がるという事実が、冷たく、逃れられない運命のように感じられた。


「つまり、君は僕がその力を手に入れるまで、待っているってことか?」僕は恐る恐る尋ねた。少年は頷いた。


「そうだよ。君が覚醒したその時、僕は君を止めるために全力を尽くす。だけど、それまでに君が何かを変えられるなら、僕はそれを見守るだけだ。」


彼の言葉は決定的だった。僕の運命がまだ完全に決まっていないことを示唆していたが、それが逆にプレッシャーをかけてきた。1年という限られた時間の中で、僕はどうすればいいのか?


「でも…どうやってその力を抑えればいいんだ?」僕は、自分のことなのにそれ以上に自分のことを知っている少年に問いかけた。


「んー、そうだね」と、少年は少し考えるように視線を上げた後、ゆっくりと答えた。


「僕は君の力を抑制する方法を知ってるけど、してあげることができないよ。それをやるべきなのは、僕ではなく、彼らだからね」

「彼ら?」僕は驚きとともに少年の言葉を繰り返した。彼らとは誰のことなのか、何を意味しているのか全く分からなかった。


少年は少し笑みを浮かべながら、僕の反応を楽しんでいるかのように、ゆっくりと頷いた。


「そう、彼らだよ。君の力を抑制し、導くことができる存在。僕の役目は君を倒すことだけど、彼らの役目は君の力を正しく使わせることだ。もっとも、彼らがちゃんと君に接触できればの話だけどね。」


「接触できればって…どういうこと?」僕は焦りを感じながら問い詰めた。どうやら、この少年以外にも僕に関わってくる存在がいるらしいが、その詳細が全く見えない。


少年は肩をすくめ、答えた。


「彼らが正体を僕は知ってるが、それを今ここで言うべきでないね。でも、どうやって君に接触してくるのか、それは僕にも分からない。ただ、君が覚醒する前に、彼らが君に何かしらの手助けをするために動くはずだ。でも、どこかで失敗すれば、君の力は暴走する。そして、その時こそ僕が動く。」


彼の言葉は冷静で現実的だったが、その中に含まれる不確定要素が僕をさらに不安にさせた。自分が覚醒する前に「彼ら」と出会わなければ、僕の力は制御不能になり、世界は破壊されてしまうということだ。


「じゃあ、僕はただ彼らが現れるのを待つしかないってこと?」僕は途方に暮れたように言った。


「まかつて人々の賑わいがあったこの大通りは、今や廃墟と化していた。瓦礫があちこちに散乱し、建物の残骸が燃え盛っている。アスファルトは焼け焦げ、街路樹は黒く炭化していた。かつては色とりどりの商店が立ち並び、人々の笑い声や喧騒が溢れていた場所だが、今はその面影すらもなく、ただ絶望の象徴として広がるのみだった。


高層ビル群は、まるで巨人の手で握り潰されたかのように崩れ落ち、所々から炎が立ち上っている。空には黒煙が渦巻き、太陽の光さえも遮られていた。辺り一面が暗黒に包まれ、その中でただ赤い炎の光だけが、不気味に瞬いていた。


僕はその光景をぼんやりと見つめながら、これは夢に違いないと思い込もうとした。現実であるはずがない。あまりにも非現実的で、恐ろしい光景だった。もしこれが現実であるならば、世界はすでに終焉を迎えようとしているのだろう。


「これが夢なら、さっさと目覚めてくれよ……」


僕は自分に言い聞かせるように呟いた。だが、周囲の燃え盛る炎の熱さ、崩れ落ちるビルの音、瓦礫に触れた時の感触……すべてがリアルすぎる。まるで、夢でありながら現実に引きずり込まれているような感覚だった。


その時、背後から声が聞こえた。


「これは君がやったことだよ」


振り返ると、そこには少年が立っていた。見知らぬ顔だが、どこか不気味な雰囲気を纏い、冷たい目で僕を見つめている。彼の表情には、微笑みが浮かんでいたが、その笑みは何か計り知れない冷酷さを秘めているようだった。


「君がやったことだよ」


再び少年が言葉を繰り返す。僕の頭の中で、その言葉が反響する。僕がやった? 何を? 僕はただ、ここに立っているだけで、何もしていない。


「もっと正確に言うとね、今、寝ている君が起きてから1年後の君がやったことだ。」


少年の言葉に、僕はさらに混乱した。1年後の僕? 何を言っているんだ。今の僕はただの中学生で、何も特別なことはできない。だが、彼の言葉は確信に満ちていて、それが逆に恐ろしかった。


「1年後の僕が、この世界を壊したっていうのか?」


僕は震える声で問いかけた。少年は静かに頷きながら、僕の周りを歩き始めた。


「そうだよ。君の中には、まだ目覚めていない力が眠っている。そしてその力が覚醒した時、世界は壊れてしまうんだ。」


「力……?」僕は困惑した。僕の中に、そんな力が眠っているだなんて信じられなかった。僕はごく普通の人間だ。異常な力なんて持っているはずがない。


少年は肩をすくめ、淡々と説明を続けた。「君の中にある力は、現実世界の物理法則や常識を超えたものだ。異能力と言ってもいいだろう。それが覚醒すれば、君はこの世界を壊すほどの力を手に入れる。」


僕の心臓が激しく鼓動を打ち始めた。異能力? 僕の中にそんなものがあるなんて、信じられるはずがない。しかし、少年の言葉には不気味なまでの説得力があった。


「なぜ僕なんだ……?」


僕は自分の胸を押さえながら、恐る恐る聞いた。自分が世界を壊すなんて想像もできないし、それがなぜ僕に降りかかっているのか理解できなかった。


「それは、君が特別な存在だからだよ。」少年は冷たく笑みを浮かべながら答えた。「君には、この世界を変える力がある。そして、その力は君が望む望まないにかかわらず、1年後には目覚めてしまうんだ。」


僕は頭を抱えた。どうすればいいんだ。僕の中にそんな恐ろしい力があるなんて、まったく知らなかったし、信じたくもなかった。けれども、この少年は確信を持っているようで、それがさらに僕の恐怖を煽ってきた。


「だから、僕はここにいるんだよ。君を止めるためにね。」少年はその場に立ち止まり、僕の目をじっと見つめた。「君が覚醒してしまえば、世界は壊れてしまう。だから、僕は君を止めるために生まれたんだ。」


その言葉に、僕の心はますます重く沈んでいった。少年はまるで、自分の運命を受け入れているかのように、淡々と話を続けた。


「だけど、今ここで君を倒すつもりはないよ。今の君を倒しても意味がないからね。君が覚醒するその時まで、僕は待つ。そしてその時が来たら、君を止めるために全力を尽くす。」


僕は言葉を失った。1年後に何が起こるのか、それを防ぐ方法がないのか、何も分からないまま、ただ時間が過ぎていくのを待つしかないのか?


「でも、どうやってその力を抑えればいいんだ?」僕は恐る恐る尋ねた。もし1年後に僕の力が覚醒するなら、それを抑える方法があるはずだ。


少年は少し考え込むように視線を上げた後、ゆっくりと答えた。


「君の力を抑制する方法はある。でも、それをやるのは僕じゃない。彼らの役目だ。」


「彼ら……?」僕は戸惑った。彼らとは誰なのか、何のことを言っているのか全く分からなかった。


少年は頷きながら続けた。「そう。君の力を正しく導くために存在する者たちだよ。彼らが君に接触できれば、君はその力を制御できるかもしれない。けど、もし彼らが君に辿り着かなければ、君は暴走する。そしてその時、僕が動くんだ。」


彼の言葉に、僕はさらに不安を感じた。自分の運命が他人に委ねられているようで、それがあまりにも不確かだった。


「じゃあ、僕はただ彼らが現れるのを待つしかないってこと?」


「まあ、そうだね。けど、君自身の選択も重要だよ。彼らの導きを受け入れるか、僕に倒されるか。それが君の未来を決める。」


僕はその言葉を重く受け止めた。未来はまだ決まっていないが、その決定権は僕自身にあるということだ。けれど、どうすればいいのか分からないまま、ただ不安と恐怖に押し潰されそうだった。


「さあ、そろそろ君が目覚める時間だね。」少年は静かに微笑みながら言った。「この夢でのやり取りや僕の存在を覚えていては、君にとって有害だから、忘れさせてもらうよ。」


「待って、どういうことだ?」僕は急いで問いかけたが、少年はただ静かに首を振った。


「大丈夫。1年後、僕は君の前に再び現れる。そしてその時、全てが始まるんだ。」


そう言い残し、少年の姿は消え、僕の意識も薄れていった。

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