シン・『ウサギと亀』
「えっほ、えっほっ」
亀がゆっくりゆっくり、と一歩一歩、歩を進める。
そんな亀の動向を見ながらウサギが言った。
「そんなスローペースじゃいつになってもゴールには辿り着けんぞ」
ばかにしたような口調だ。
亀は無言で歩を進め続ける。
ウサギは意に返さず、
「じゃ、先行ってるぞ〜〜ッ」
ヒョコ、ヒョコ、ヒョコッ〜〜ッッ
そう、ウサギの一歩は亀の四倍、そしてペースも三倍。
勝負は見えているように見える。
しかし、セオリーでは、
ウサギ「俺が負けるようにできてんだろう??」
ウサギがナレーションに割り込みした。
ウサギ「俺は事前に寓話『ウサギと亀』を既読済みなんだよ。だから、この寓話に出てくるばかウサギみたいなヘマはしねェ。」
休まないウサギ———————
それは無敵か?
そうして——
亀が全体の二割、ウサギが全体の八割に達している時——
ウサギが感じた—
「あぁ〜〜、ご先祖様が手ぇ抜きたくなった気持ち、痛いほどわかるなぁ、ほんと手応えがない。」
ウサギは居眠りをしたい誘惑に負けそうになった。
ただでさえ、ウサギの先祖のこれまで休んできたポイントをもう三個も素通りしてきたのだ。
このような心境に至る気持ちもわかるかもしれない——
しかし、賢者は歴史に学ぶ。
「ヨォ〜〜しっ。あともう一踏ん張り、がんばっていきまっしょい!!」
ウサギが休まずゴールに向かい出した。
亀は三割。
そして——
ウサギが—
「ゴォォ〜ル!」
「なぁんだ、歴史は変えれるんじゃん、やったよ!ご先祖様!」
勝った———————
本当の勝利感をウサギは全身に味わっていた———————
・・・・・・・
ん?
誰かなんか祝ってくれる、とかないわけ?
ウサギが違和感を感じた時——
天神の声がした———————
「こいつ、何頑張っちゃてんだよ……」
ウサギ「この物語の創造主、天神の方ですか!?」
「うわ、こいつ、話しかけてきちゃったよ、やっぱ、AIに小説書かせるとロクなことないな。物語の登場人物まで“自我”持っちゃったよ。だからセオリーが台無しになったんだな、うかつだった、ケッ!」
ウサギ「俺、勝ちましたよ!このままウサギ族が敗北の歴史に語られていくのががまんできなかったんです!」
「お前、ちょっと、周り見わたしてみろッ」
ウサギ「ん?」
ウサギが周りの景色を見わたしていると、
「なにも、無い??」
「そうだよ。お前が俺の想定してた物語、っていうか、俺関係なく、今昔の『物語』っていうものの、セオリーをお前が破壊したから、物語の“真理”が追いついてないんだよ、それこそ、CPUがな…」
ウサギが半べそをかいて
「ウサギが勝っちゃいけないんですかい??」
と、
問いかけた。
天神は——
「ん、いぃい〜〜や、そうじゃない。」
「これからお前が行くのは“既にあるもの”じゃなくて、“新しきもの”だ。創造者、パイオニア、、とはそういうモンだ」
ウサギ「せめて、祝賀会、とういうか、祝ってはもらえないでしょうか?せっかく俺が一位でゴールしたんだし・・」
天神「いいや、それは今のこの世界のソースコードでは亀がゴールする三日後までは用意されない」
——歴史を変えるとはそういうことだ——