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I like it,too.

作者: 緑矢グリーン

「ごめんなさい。付き合ったりするのは

ちょっと。。今は難しいです。」


上野駅の歩道橋で満を持して告白したのだが

完璧にフラれてしまった。


男たるもの、正々堂々と面と向かって


自分の思いを最大限に伝えれば

 

必ず好きな人と結ばれる。


恋愛本とかを読んでも大体そんな感じで書いてある。


一連いちれん 哉火都やひと

同じ会社に勤める今永という

女性に見事なまでにフラれてしまった。


学生時代はそれなりに告白などもされた経験はあり

モテないタイプではなかったのだが


成人になり、就職してからはどうも実らない恋愛ばかりしている気がする。


何が足りないのか?

考えてもなかなか答えが出ない。


以前働いていたときに仲良くしていた

本郷という男がいる。


今は独立して会社を経営する男だ。


「なんだよ、一連。急に呼び出して。

かわいい娘でも紹介してくれんのか?」


都内の喫茶店の席に着いた本郷は

大きな身体で小さな扇子を仰ぎながら

別の客も振り向くほどの

大きな声で一連に言った。


「いやー、それがさぁ、また良い子が

いたんだけどフラれちゃってさ。

単純に恋愛相談をしたいわけよ。」


「はぁー?またお前フラれたのか?

相変わらずモテねーなー!おれを見習え。

これがおれの新しい彼女だ。良いボディしてるだろ?」


スマホを差し出し、その新しい彼女を見せてくれた。


うん。確かにスタイル抜群で綺麗だ。

美しい。本郷にはいつも綺麗な彼女がいる。


高校時代は甲子園にも出場した男で

社会人野球まで進んだ経緯を持つ。


大きな身体が特徴的で、イケメンというほど

ではないのだが、男らしい顔つきで腕っぷしも強い。


モテたいならモテる奴にモテかたを学ぶ。


一連はそれが1番早いと考えた。


「お前なー、顔は悪くないんだけど

どうもこう、真面目すぎるんだよな。

メリハリが無いというか、、、

仕事も恋愛も頭だからな。

頭を使えるやつが恋愛を制すんだよ。」


一連はメモを取りながら本郷の話を聞いた。


「おれ、野球のポジションはキャッチャーだっただろ?社会人時代は今でもプロ野球で活躍する

バッターと何度も対戦してきた。

キャッチャーって、バッターの心理を読むんだ。

バッターが何を考えているか?どんな球を待っているのか?自信があるのか?無いのか?

そんなことばっか考えてこれまで生きてきたから

これを恋愛に活かさない手はねえなと思って。

だからなー、読むんだよ。」


「読む?」


「そう!読むんだ。女の心理を読み、自分がどうアプローチするかを考え、実行に移す。それだけなんだよ。」


以前の会社でも営業としてトップセールスを誇っていたのも頷ける説得力のある話に一連は引き込まれた。


「お前、今回フラれた女はどんな女だった?」


「まあ、社内でもモテるタイプで

顔も良い。性格も優しくてめちゃくちゃ理想的な

人だったな。」


「まずそこだな。その女は選択ミスだ。

そんな良い女とうまくいく可能性が高いと思うか?」


「いや、まあ高くはないけど。。

会社でもよく挨拶してくれたり

いつも笑顔で話し掛けてくれたりもするから

もしかしたらいけるかなと思って。」


「いや、それは甘いよ、一連。そんな良い女が

なにものでもないお前のことを好きになると思うか?

無理とは言わないが極めて難しいと思う。

お前以外にもいろんな男から誘惑があるんだよ、そういう女は。選び放題なわけ。そんなモテる女を

狙うこと自体、大きな間違いなんだよ。」


「えっ?じゃあモテない女を狙えってこと?」


「合ってるけどちょっと違うな。正確には

お前に気がある女を狙うんだよ。」


本郷はニヤリと笑った。


一連は少し困ったような表情になった。


「いいか?一連。よく聞け。恋愛で良い思いをしたいなら、お前のことに少しでも興味がある女を探して

そいつを狙う。それだけなんだよ。」


大きな身体とともに顔も近づけてきた。


「お前はおそらくこれまで自分が良いと思った女を狙って、相手の女の気持ちなんて知ろうとせず

自分勝手な恋愛ばかりしてきたんだ。

つまり、お前のことに全く興味のない女を

一生懸命に口説いて頑張って、それでいて最終的には

フラれるという最悪なパターンに陥ってしまっている。」


いや、その通りだよと一連は恥ずかしくなった。


「恋愛で優先すべきはお前の気持ちじゃなくて相手の気持ちなんだよ。お前の気持ちはひとまず置いといてまずは相手の気持ちを第一に考えるんだ。」


「相手の気持ち、、か。。」


「お前のことを少しでも良いから

気にしてくれてるような女。。いま思い浮かぶか?」


「そうだなー。誰だろう?あー、絶対では無いけど

なんとなくそうかなーと感じる子はいる。。」


「そうだ、その調子だ。その女をまずは狙うんだよ。

確率を考えてみろ。お前に全く興味がない女と

少しでもお前に興味がある女。

どっちがゲットしやすい?答えは決まりきっているだろうよ。」


「た、、確かにそうだな。間違いなく後者がゲットしやすい。」


「今からその意識で日々過ごすんだ。そうすれば

必ず良い女をゲット出来る。健闘を祈るぞ!

あっ、コーヒーのお代はお前な。安い講師料だ。がっはっはっ。」


話すだけ話して上機嫌で本郷は去って行った。


走り書きでメモした本郷の言葉を読み返しながら

一連は誓った。


「よし、次はやってやるぞ。」


よくよく考えてみると

フラれた今永は確かに一連に対して

とても愛想が良く素敵な笑顔を振りまいてくれる

女性だったが、他の男性社員に対してもそうだった。


おそらく、もともとモテる星の下で生まれてきた女性であり、多くの男性をその気にさせる才能が備わっているのだろう。


彼女を自分のものにしようとするには確率が悪すぎた。


逆に、他の男性社員と親しく話す姿はほとんど見かけないが、一連に対しては比較的懇意に話しかけてくれる沢海さわみという女性社員がいた。


まさにその女性が本郷にも話した

脈ありの可能性がある女性だ。


その沢海を誘って2人で食事に行くことにした。


とても感じの良い女性で

予想通り、一連に対しても好印象を

持っているようだった。


サーフィンが好きで、よく湘南の海へ行くことや

野球も好きでベイスターズの観戦にもよく行くということも知った。


何度かデートを重ねていくうちに

いつの間にか沢海を信頼し


好きになってしまっている自分に気付いた。


話も合うし、程良い距離感であり

いつものように執着をしないことも

一連にとっては驚きだった。


自然体な自分をさらけ出すことができる。


恋愛に対して無理をしていない自分がいた。


おれは今までなんて身勝手に人を好きになり

相手の気持ちを考えもせず

自分の思うように事が進むよう

願ってきたんだろうか?


本郷の言いたかったことの本質がようやく

分かった気がした。


「自己満足の人生では楽しくない。

沢海さんの喜ぶ姿を見ることが今のおれに

とってすごく幸せなことなんだ。

これからも沢海さんと一緒に歩いていきたい。」


西陽がかかった夕暮れの砂浜。


大きく綺麗な波に乗ったサーファーを見つめる


沢海さんは


そのきらきらした瞳を


おれに向けてくれた。


〜完〜























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