「「人生はミュージカル!」」
「人生はミュージカル!」
うん? なんだ今の?
ある日突然、日本の至るところにぽっかりと暗黒の空間が現れた。
最初は黒い石板だったり、新しい気象現象だとコメンテーターたちが推測を立ててたが、赤外線やX線を使った検査によるとそれは物質ではなく、宇宙のような空間だというのだ。
日本各地にできてしまったこの謎の暗黒空間問題を解決するために、警察でもなく、消防でもなく、自衛隊が立ち上がることになった。
一応これは自然災害に該当するらしい。
不自然な事象なのに。
「お前の腰にくくりつけたそれはJAXAの宇宙飛行士が宇宙空間で作業するときに使ってる安全ロープだ! ちょっとやそっとでは切れることはない! 安心しろ!」
上官からの発破を受けつつ、自分の腰に巻き付いている臍の緒のような白いロープを見る。
できれば宇宙服も着せてほしかった。
これから中の暗黒空間に人類初の侵入を僕は試みる。中がどうなっているのかわからないことには問題の解決のしようもない。
というわけでヘリと戦車と自衛官たち十数名に見守られながら、僕は懐中電灯片手に飛び込むことにした。
「それでは! 健闘を祈る!」
「いっ、行ってきます!」
逃げることはできん、と腹を括って腰もロープで括っていざ飛び込む。
ひゅー、ばたん。
「あいててて……」
暗黒の中は地面が続いておらず、一歩目を踏み出した瞬間あえなく落ちてしまった。
だが、奈落ではなく一、二メートルほど落下するだけだった。
顔を上げるもやはりよく見えない。
いや、どうやら緑色に発光してる何かがあるらしい。
そう思って、懐中電灯のスイッチを入れてそちらを照らす。
「眩しい」
誰かの声。
と、共に薄明かりの中に無数の人の顔があるのが分かった。
夥しいほどの人がこちらを見てる。
段々上に重なっていて、よく見るとここは劇場の中のようだった。
さまざまな人が席に着いて舞台を見てるみたいだ。
「おい、舞台俳優が落ちてきたぞ。事故か?」
誰かの心配。
緑色の光はどうやら非常口のピクトグラムだ。
嫌な予感がして、後ろを振り返る。
そこにはたくさんの自衛官ーーの格好をした俳優が舞台上に立っていて、ハリボテの戦車があった。
「なるほど……僕の「人生がミュージカル!」だったわけか」
スポットライトが僕の真上に当たって、観客がドッと大笑い。
僕も一緒にタハハ、とうっかり屋さんの顔をして笑う。そして、膝をはらった。
ピクトグラムに従って非常口に向かって逃げた。
こんなの信じない!