31 海をもとにした創作(現実世界恋愛掌編)
一学期最後の日。三十五度を超える暑さの中、この海辺の町の空はこれでもかと青く、負けじと入道雲は盛り上がっていた。
堤防際を家のある方向に向かって歩く。アスファルトの照り返しがきつい。時折すれ違うクルマから流れる風が僅かな涼を与えてくれる。
とまあここまでならいつもの話だ。いつもと違うのは徒歩通学の僕に合わせて、わざわざ自転車から降りて、押しながら歩いてくれている彼女の存在だ。
空の濃い青に映える真っ白い夏服の制服を身にまとった彼女。正直言って綺麗だ。何で僕なんかと付き合ってくれるのだろうと思わなくもない。彼女曰く、僕の話が楽しいそうだけど。
ふと彼女が海の方を見る。水平線を見ているようだ。その歌は不意に彼女の口からこぼれ出た。
「松原遠く消ゆるところ 白帆の影は浮かぶ」
呆然としている僕を尻目に彼女の歌は続く。
「干網浜に高くして かもめは低く波に飛ぶ」
「見よ 昼の海 見よ 昼の海」
歌い終わった彼女を僕はじっと見つめ、我に返ったらしい彼女は赤面した。
「いっ、いや、何か海を見ていたら、この歌を歌いたくなっちゃって。好きなんだよ。この歌」
僕はただただそんな彼女が可愛らしいと思うだけだった。




