21 うさぎとかめをもとにした創作(コメディー短編)
♪もしもし亀よ亀さんよ 世界のうちでおまえほど 歩みののろい者はない どうしてそんなにのろいのか
♪何をおっしゃる兎さん それなら私と駆け比べ 向こうのお山の麓まで どちらが先に駆け着くか
こんな亀の挑発にあっさり乗ったご先祖を持ったばかりに、兎の子孫はとんだ業を背負わされることになった。
五年ごとに開催される定期戦 兎亀戦。亀から見れば亀兎戦。驚いたことに兎はまだ一度も勝ったことがなかった。
しかしそれでも今回代表選手に選出されたペーター・ラビット。彼ならこの定期戦に勝利をもたらしてくれる。兎たちはそう思っている。
ペーターはやはり緊張気味だ。そんなペーターを見守るマネージャーにして恋兎はバニーガール・ルー。バニースーツに黒縁の眼鏡をかけた知的で冷静な美兎だ。
「それにしても……」
ルーは思う。
「最初の試合でこちらサイドの昼寝で勝利を収めてからというものの、亀はありとあらゆる手段で勝ちにきた」
亀んライダーと称し、バイクで走る。亀体改造を施し、四本の足を車輪に付け替える。チーターに「亀」という名前を付け、出場させる。これも亀のうちと言い張り、ガメラを連れてくる。道中に兎用の罠を仕掛ける。あげくの果てが兎側の給水ポイントのドリンクに睡眠薬を仕込む。
敗戦を重ねるたび兎側は抗議し、レギュレーションは改訂が繰り返された。
(さすがにもうこういう裏技は使えないはずだ。今度こそは真の実力勝負になる。そして、ペーターは二週間前からこの日に備えて体調を整えてきた。途中で寝ることはありえない)。
ここまで考えたルーはペーターの背中をやさしく撫でた。
「大丈夫。今回は今回こそは負ける要素はない。ペーター。あなたは兎の歴史を塗り替えたヒーローになる」
「うん」
ペーターも頷く。闘志が漲っている。
相手方の亀を再確認する。ニホンイシガメだ。度重なる亀サイドが使う裏技対策のため、第三者の審判員として馬の立会いを頼んでいる。
馬の確認によると亀体改造など施されていない普通のニホンイシガメだそうだ。道中及び給水ポイントのドリンクの安全性も馬が確認している。
更にルーは馬が亀に買収される可能性を鑑み、馬に亀から裏金を受け取っている場合、その二倍を支払う用意があると打診した。驚いたことに馬はそんな事実はないと断言した。
つまり負ける要素はない。今度こそ兎の歴史が変わる時が来たのだ。
「オン ユア マーク セット」
馬の声にペーターと亀は身構える
「ゴー」
この声にペーターは全力で駆け出した。そして……
「そんな馬鹿な」
愕然とするルー。
今回はゴールぎりぎりまで勝敗が分からない接戦だった。亀は一切汚い手は使わなかった。馬は誠実公正に対応した。ペーターの体調は絶好調で途中で寝るどころか立ち止まりもしなかった。しかし、勝ったのは亀だった。
「どうして、どうしてあなたは勝ったの」
ルーのその問いに亀は淡々と答えた。
「この日のために五年かけて走力強化プログラムをやり遂げてきた。最新の科学を組み込んでな。体力トレーニングばかりではなく、栄養学に基づいた効率的な食事、メンタル強化トレーニングもやってきた」
(くっ)
ルーは唇を噛んだ。
(これまでさんざん汚い手で勝ってきて、いきなり正攻法かよ。おまえそれはないだろう)。
しかし、亀が正攻法で来た以上、兎が勝利を収める日も近いはずだ。頑張れ兎! また亀が汚い手を使ってくるかもしれないけどw




