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〈分散〉の雷  作者: 焼魚圭
魔女の本音 お菓子の誘惑
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再び洋子

 怜と勇人は人々を縛り付ける授業から解放されて歩き始める。

 彼らの姿を出迎え反射しては散る光。晴れ空に笑顔、とても輝かしい空の顔は見事にふたりのことを歓迎してくれていた。

 歩き続けること一分程度、校門へと近付いた例が口を開く。

「なあ、今日も今夜に備えて真昼さんたちのとこにお邪魔しようぜ」

 そう語る笑顔、勇人も笑顔を見せて返す。沈黙でもそれが答えなのだと手に取るようにわかった。きっと向こうでは向こうの、魔法使いのセカイでの時が流れて魔力を多く持つ人物を用意してくれていることだろう。

 特に滞りもなく予定そっくりそのままその通りに校門を出ようかといった時、その時に全ては崩れ去ってしまった。

「こんにちは、勇人」

 勇人の耳に少女の自然な声が届いて来た。飾るわけでもなくただそのままその名を呼ぶ声の主は駆け付けて来て勇人の手を取り屈託のない笑顔を浮かべていた。

 勇人は子どものような顔に収まる大きな目を丸くしてその手を握る少女の名を呼んだ。

「洋子。どうしてここに」

「えへへ」

 純粋そのもののように見えていた洋子の表情、改めて目を通してみるとどうにも大人びた気配が瞼の影に見え隠れしていた。

――やっぱり女の子って少し大人っぽいよなあ

 幼さと大人びた情のが複雑に混じり合って絡み合って見えた。そこにまた羨みと寂しさと憧れとほんの少しの嫌気、様々な感情が勇人の中で色付いて見事に絡まり合っていた。表情を緩めて、感情の絡まりをどうにかほどいてその中の嫌気を何度も味わい返していた。

 それは果たして何に対しての嫌気なのだろう。

 洋子の純粋な可愛さだけでない女の子の心情の写し鏡そのものとなっている貌に対してなのだろうか。

 それとも、いつまで経っても子どもなのだと世間から揶揄われる男という種族である自分自身に対して抱く不甲斐なさを汲み取った結果なのだろうか。

「大丈夫? ちょっと機嫌悪い?」

 全てが視えてしまっているのだろうか、洋子に表情の味わいが、ほろ苦い想いが分かってしまったのだろうか。

「なんでもないよ、ちょっと良くない事考えてただけ」

 全て誤魔化してしまおう、心に誓って離さない。目の前の笑顔を壊してしまうのは、到底許されることの無い大きな罪のように思えた。

「よくないこと? もう、勇人ったらホント男の子なんだから」

 今はそれでいい、誤解はあらぬ方向に視線を移していた。

「デートか、いいな。用は俺が済ますからふたり行ってこい、後で遊具撤去されたあの公園でな」

「でも……」

 言葉はそこで切られた。怜の眼は優しくありながらも厳しい情を放ち、その目の鋭さで言葉の端の影を断ち切っていた。勇人の言葉がこれ以上引き出されることを許さなかった。

「彼女のこと、不幸にしたら絶対許さねえからな」

 そうした出来事の果てに得られた男女ふたりきりの時間、勇人の中では罪悪感が渦巻いて、ザラザラとした感情が砂となって舞っていた。

 歩きながら洋子は勇人の瞳を覗き込む。勇人もまた、洋子の大きな茶色の瞳を覗き返した。

「勇人はかわいいよね、あと雰囲気が周りの男たちより全然大人っぽくて」

「気のせいだよ、多分ちゃんと見たらみんな変わりないから」

 洋子の表情も感情も、キラキラと夕日の波に輝きの照り返しを塗った瞳も心を声に乗せて運び込む口の柔らかな動きにも、全てに見惚れつつも怜に対する罪悪感の湿り気を背中で感じていた。

「怜のこと?」

 頷いた、言葉も出なかった。ただ押し潰されてしまいそうで重たくて口が動かなくて。

 洋子はそうした想いをしっかりとほどいて見せた。柔らかな笑顔で、細い指で勇人の頬をなぞりながら想いを言葉に変えて。

「たぶん、怜もそういうこと望んでないよ。もっと幸せになって欲しいって、そう思ってる」

 それは間違いなかった、怜ならばきっとそう言うだろう思うだろう。

 ふたりは再び歩き始める。夕食を軽く済ませて洋子の腕が勇人の腕に絡められていて、その感触は勇人の想像でどうにか補われていた。

――このまま、近くにいる人のことも分からなくなるのかな

 ふと湧いてきた不安、それは人間という生き物から遠ざかって行く自分自身のこと。こんなに近くにいるにもかかわらず、触れ合いの証を感じることが出来ない。感触も温度も、何も見ることが出来ない。こんなにも簡単なことさえ知ることが出来なくなり始めていた。これからの人生を通して出会う人々は様々な価値観を持っていて、様々な感覚で語ることだろう。それについて行くことなど出来るのだろうか。分からない。

 心情に在りもしない疼きに頭を行動もなく抱えながらも着いた公園近くの道路で洋子は立ち止まって勇人の腕に身を預ける。

「ねえ勇人」

「なあに」

 瞳は闇に色を沈めていてそれでも微かに残る茶色は星の煌めきのしわざだろうか。その瞳に輝く星々は瞳という潤いに充ちた晴れ空となっていた。

「もう少し、傍にいていいかな」

 洋子の目はどこか寂しそうで、陰の蔓延るその目に宿る光さえも影のように見えてしまう。

「いいよ」

 返事などひとつしかなかった。

 洋子と交わす視線、見つめ合う瞳同士を離すことが出来ないでいた。

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