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〈分散〉の雷  作者: 焼魚圭
魔女の本音 お菓子の誘惑
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夜中

 刹菜の右手は肩のあたりにまで上げられた。手のひらは上を向いていて、勇人と怜はそこに視線を集められていた。

「よし、私の綺麗で長い指に見惚れてもらったとこでお話進めますか」

 お得意のニヤけ面にはもはや慣れてしまった。良いことか悪いことか、定かでなくとも話を進める上では差支えがなくなって助かってはいた。

「魔女ってさ、誰を狙ってると思うか。どのような人を追いかけ回すと思うかな」

 怜は肩を竦め思考を諦めていた。勇人は身に刻まれたことを、自身の身に刻み付けたことを、自然と口からこぼしていた。

「鈴香みたいな子」

 刹菜のニヤけは緩み、更なる問いが残されたニヤけを貫通して届けられた。

「それ、どんな子か」

「どんな子って、いい子だよ。ゆっくり途切れ途切れにしゃべる子で優しくて、笑顔が純粋な子」

 刹菜は右手の人差し指をゆっくりと振って、話を引き繋げた。

「そういうことじゃないんだ。魔法的にどういう身体でどういう根拠あってか、なんだ」

 勇人は記憶を巡らせた。過去に書かれているはずの理由、どうして鈴香が狙われると祖父が語ったものか。

 答えは雷のような豪快で雑な輝きと軌跡を持ち込みながら勇人の頭の表層にまでたどり着いた。

「魔力、ああ確かにそうだ。魔力が多くなるからって言ってた」

「お見事。私がキミたちの口から聞きたかったのはそれだね」

 刹菜の貌は相変わらずのニヤけで塗りつぶされていたものの、微かに滲み出る優しさが隠れ見えていた。チラリと現れてはまた隠れて、刹菜の本心はシャイなものだと勝手に印象の旗が建てられた。

「そう、魔女ってやつは周囲の魔力に食いつくんだ。他の魔女は魔法を使うために周囲の魔力を使うけど〈お菓子の魔女〉は……食べることで取り入れてる」

 難しい話は一切必要ない、そういった態度を取っていた。そこから解決方法の提案へと話を流してみせた。

「つまり、魔力の多い人をエサにする。そう見せかけて実は護衛いました、なあんて流れさ」

 そうしてこの話題はしっかりと閉じられた。勇人の手に、口によって無理やり閉じられた。

「つまり囮、流石にダメだろ」

「囮で御取り作戦、受け付けなかったかな、魔法使いの方で用意しようと思っていたんだけど」

 それならば話は変わって来るだろうか。勇人は頷いて、刹那は続きを紡ぐ。話によって目の前の他人との関係を紡ぎ合わせる。

「大丈夫、みすみす食わせるなんて真似なんか絶対許さないから。そんな物語、私は紡ぎたくないから」


 やがて街は闇に飲まれ始める。この闇はどこまで広がっていてどこまで伸びているのだろう。闇の中に住まう各地の人々はそろそろ枕と布団を用意しているのだろうか。

 人々が寝静まる時間にふたりの男は探していた。ある人物、倒すべき対象を。

「こうやって夜の中出歩くのたまんねえな」

「そうかな、何も見えないからなあ」

 勇人にとっては不安が募る暗闇の大地も怜にとっては魅惑的なものなのかも知れない。

 それからしばらく歩いてはみたものの、その探索は空振りに終わった。行動の全てが無駄に終わり、得られたのは残念という言葉を飾るに相応しい結果と虚しさと疲れ。ただそれだけ。

「どうだ、ここまでやってまだ一応課外の0時限目とか出る気起きるか」

 怜の日常なのだろう。いつも様々な目的のために暗闇の中を走り抜けては風を走らせて戦いに明け暮れる日々。それこそが怜にとっての日常生活。必要のない授業など受けている暇はない。それは分かり切った話だった。

 勇人の中にまたひとつ、いつも隣にいる友人の不明な点が解消された。

 怜は今日の無駄な徘徊を想いながら辿りながら、得られたことを口にする。

「恐ろしいまでに静かだったな」

「た……確かに」

 同じように勇人も思い返してこぼしていた。

「多分、人食うのは何日かにひとりでいいんだろ」

 そういうものなのだろうか。魔法使いとの交流が未だ輝いて見えるほどに新鮮な勇人には魔法のセカイのことなどよくわからなかった。

 結局これから探索を続けるわけでもなくただふたり家に帰るのみ。きっと勇人も明日の授業には出られないだろう。こうして生真面目な表層すら崩れ去ってしまった。

 夜闇の中で流れて来る風を手に取り耳にしながら怜の言葉はどこかへと向けられる。

「ああ、今日は平穏そのものだったんだな、いいよ、ありがとう。ゆっくりとおやすみ」

 それからも加えられる風のこぼす言葉に耳を傾けて笑い混じりに感情を言葉に変えていた。

「そこの国は今日も楽しそうだな……いやまて、そこの争いはもういいから。おう、さんきゅ」

 怜に倣って風を掴もうと手を伸ばしてはみたものの、手に収まってくれることなどなくて、緩やかな音を立てながらすり抜けては見えない何処かへと流れ落ちて行くだけだった。

「勇人には、いや、何処の風使いにも出来ないだろうな、あの子は俺にしか話してくれないから」

 いったいどのような風なのだろうか。目を凝らして、その姿を確かめたいという欲望に素直になってみて。

 結果から言えば正しく見えたわけではなかった。そこにはただ渦巻く風があるだけ。しかしながら勇人には視えた気がした。


 怜の斜め前、そこに浮いた風の衣を纏った幼い女の子の姿がその目に映った、そんな気がした。

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