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〈分散〉の雷  作者: 焼魚圭
霜夜に輝く銀閃
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壁破り

 怜と一真、勇人と菜穂。たった二組によって構成された夜闇の中の闇への潜入が決行されようとしていた。

 怜が笑いながら窓を開いてそこから忍び込む。

「事務員のおっさんの目え盗んで鍵開けるの大変だったんだぜ、割らなくていいだけ感謝しろよな」

 それからすぐそば、怜が壁を叩きながら歩き続けてようやく見つけた空洞の音。そこを指して勇人と菜穂の足を止めた。

「俺らは違うところから忍び込む。だから一分だけ数えてここぶっ壊せ」

 怜は怜でどこから忍び込むつもりだろうか、何やら何処かの教室の鍵を、キーホルダーの輪を指に入れて回しくつろいだ様子で一真と共に歩いて行く。

「怜、再会を祈って」

 勇人の言葉を受けて怜は振り向きもせずに左手を挙げながら去るだけだった。

「そう、一分後ね」

 菜穂は壁を見つめる。

「ねえあなたさあ」

 戻って来た静寂の中、突然放たれた菜穂の言葉に大きく身を震わせ話に耳を傾けた。

「どうして私の仕事をあんな平気な顔で奪うのかしら、そんなことできるのかしら」

「はあ、仕事か」

 勇人の気の抜けた返事に対し更に静かな憎しみを沸騰させる。言葉は感情任せに飛び出すばかり。

「私はね、幽霊を斬ったらそれでお金がもらえるの」

 勇人は疑問符を頭に浮かべるだけ。〈斬撃の巫女〉というだけあってやはりそういった依頼のひとつやふたつ舞い込んで来るものなのだろうか。そう考えつつもこれまで迷惑をかける想いをしたのかどうか、それすら分からない、知ることが出来ない。

「そんな働く偉い立場の人の仕事をあなたは何度も奪った」

 それは果たして事実なのだろうか、殆どうわさ話を削り取っているだけの勇人には身に覚えがなかった。菜穂が単に気に食わないから言っているだけのことではないのだろうか。そう思って彼女の言葉を聞き流そうとしていた。しかしただ表情すら見えない闇の中でいつもより少しだけ固い声から本気の感情だけを見て取って勇人は冷たい対応でやり過ごすことなど決して叶わないのだと悟って諦めるのみだった。

「ねえ、お金すらもらわずに人の仕事を奪って金の回りを悪くすること、そんなに楽しいの?」

 訊ねられたところで過去の自身の想像力がなかった、そう返すしかなかった。

「ああして流れて来たうわさ話だって一か月後には私の手元にお金を運ぶ立派な依頼に姿を変えるの、その邪魔をしないでよ」

「俺はただ……」

 人々がうわさをすることで現れた怪異を打ち倒して鈴香を守るための実践経験にしていただけ、自分勝手な行動であることには変わりない、自身の想いに嘘をつくことなど出来なかった。

 しかし、ひとつ思い返してみた。手を伸ばして人を地獄へと引きずり込む影はどうだっただろう、菜穂が動くまで放っておけば更なる被害者が出た可能性も大いにあり得た。

 更にもうひとつ思い返した。亀裂から伸びる手はどうだっただろう。うわさの主にとって大切な人、そんな彼の想いを一か月も中庭に縛り付けた上に再会のひとつも無しに切り裂いてしまうのだろう。

 そのような慈悲の感じられないこと、許してもいいのだろうか。

「俺はただ……結果とは言え困ってる人や無念の霊が差し出す手を取ったんだ。なにも悪いことをしたつもりはない」

 更に意見を重ねて菜穂の心に重しを乗せ続けた。

「菜穂が金儲けの為に幽霊放置したとしてだよ。それで犠牲者が出た方が……よっぽど悪いことだろ」

 勇人は胸を張って自身の行ないを誇ることが出来た。少なくとも欲に目がくらんで心のひとつも見えない女のやり方などより余程いい、本気でそう思うことが出来た。

「このクソガキ、魔法の世界のビジネスを壊すつもりね」

 睨みつける菜穂。そんな施錠成る巫女であるはずの彼女の痛々しい程に棘だらけの濁った声も醜い感情だけで創り上げられた言葉もすべて無視して勇人は話を逸らした。

「それより早く壁壊せよ」

 きっと菜穂はこの機会に勇人に対して警告がしたかっただけなのだろう。仕事と使命の壁は乗り越え手を取り合うことなど決して叶わなくて、そうする必要も感じられなくてただ現状のまま進み行くただそれだけ。菜穂が言いたいことなどそれひとつ、これ以上は何もない、そう信じて勇人は菜穂と共に進むことにした。

 菜穂は刀を振り上げて、目を閉じる。息を大きく吸って勢いよく吐いて。開かれた瞳が闇を捉えると共に刀は勢いよく壁に叩きつけられその口が開かれた。

 そこから内へと進み、薄明るい階段を降りて降りて降りて降りて段々だんだんダウンダウン……。

 後ろに警戒の目を張り巡らせながら長い階段を進み続けることどれだけの時間が経っただろう。

 ようやく見えて来た景色に勇人は驚愕の情というものを覚えた。

――これは

「なにが見えるのか、言ってごらんなさい」

 菜穂に促されるままに瞳が捉えたモノを言葉に変え始めた。

「人とは違う……土人形かな、それが蠢いてい」

 言葉はそこで切られた。背中に走る衝撃は言葉の続きを悲鳴へと生まれ変わらせた。そうして勇人は床へと転げ落ちた。

「……そう。だったらそこで死ね」

 心すら感じられない言葉が開戦の合図となる。大量のヒト型の土人形が勇人めがけて勢い任せに飛びついてきたのだった。

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