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〈分散〉の雷  作者: 焼魚圭
霜夜に輝く銀閃
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夜の学校

 晩ごはんを済ませ、勇人は鈴香へと目を向けた。女の子の顔というよりは可愛らしい子どもの顔といった見映えで勇人にとっては見慣れたその顔、自身もまた似た顔をしていた。

「どう……した、の」

 妙に途切れ途切れで歯切れの悪い言葉は話すことに慣れていないためだろうか。それとも本人の性格なのだろうか。鈴香の問いに対して勇人は微笑んで返すだけのこと。母親似である以上母もまた子どものような顔をしているのだとか余計な思考を脳裏で行き交わせながら鈴香をしばらく見つめること三秒間、鈴香の顔が熱を帯びて赤くなったその時にようやく口を開いてみた。

「学校生活どうかな、ツラいこととかない?」

 内心冷や冷やしつつもぶつけていた、放り込まずにはいられなかった。鈴香の歳で苦しいのであれば非常にかわいそうなものである。

 鈴香はニッコリ笑顔をみせて高く細く大人しそうな声を出していた。

「大丈夫、なにも……ないよ」

 よかったよ、そう返して勇人は立ち去った。

 冬の夜の外は寒気という化粧に彩られ、乾いた黒い空の色に相応しいものとなっていた。調和する景色と気温たちは美しくて楽しみがいのある世界だった。去年までならばそう思っていただろう。

 今となってはそういったことのひとつも感じられなかった。寒気はこの身体では全く感じ取ることが出来なくて、暗黒の空は雲の形がハッキリと見えてしまう。そう、進化に伴って身体の異変は確実に現れてそれを自覚する度に心までもが侵されているような気がしていた。

 感受性のひとつやふたつと言わんばかりに奪い去られている気分、感覚が変わると共に人として大切なものが奪い取られているような気分を味わう羽目になっていた。


 そうして想いを夜闇に広げながら歩き、学校へと辿りつた。

 そこで待っていた姿を捉えた目が大きく見開かれた。脅威敵意外敵、ザラザラとした想いは心を擦って止まらない。そこに立っていた巫女服の女だけは決して分かり合うことが出来ない、そう確信を持っていたのだから。

 巫女服を纏った女、〈斬撃の巫女〉菜穂はその目の端に勇人の姿を認めると共にゆっくりと歩み寄り、日本刀を引き抜いて勇人の喉元に向けて、冷たくて色の宿っていない視線を見せていた。

「家に帰りなさい」

「なんでだ」

 勇人も相手に倣って瞳から感情の色を消し去って見つめてはみるものの、菜穂の真似など容易ではないものでどうしても感情がにじみ出てしまう。

「いいかしら、これは私と先輩のデート。殺戮デートなの」

 果たして菜穂の語るデート内容は怜が喜ぶようなものなのだろうか。

「家よりも土に帰りたいのね、分かったそれなら後輩としてお手伝いしてあげなくちゃ」

「黙れ」

 気が付けば手を引いて、周囲の闇から雷を集めていた。〈分散〉するべく相手を目に映して、気を研ぎ澄ませていた。

 そこからの緊張感の中、術はある人物の声が飛び込んでくると共に途切れた。

「勇人、来たぜ」

「先輩、待ってたうふふ」

「お前は呼んでないんだけどな」

「お前じゃなくて菜穂って呼んで」

 そこからはいはいアホ、そう繋げた怜がいた。ようやく貯められた暗い感情が安堵となりため息とともに出て行った。怜の隣に立つ少年に目を向けて、勇人は訊ねた。

「キミ、名前は。俺は若葉 勇人」

「前原 一真だ、多分その内彼女が出来る」

 なんと、中学生の彼にその内彼女というのだ、何処か羨ましく思いつつも勇人の手には収まり切れない荷が想いことのように思えていた。

「父さんの友人の呪い使いの娘が魔法の世界に入ったら付き合うんだ、目立つとこなくて普通な感じがそそる」

「そっか、仲良くしてあげてね、多分親切な人が好きだろうから」

 勇人の祖父には決して話すことの出来ない事実が増えてしまった。「あの忌々しいクソメガネの祖先が」そう嘆いていた、何度も幾重にも呪うように重ねて言葉にしていたその一族の友人の息子とこれから共闘するのだというのだから。

 その様子を見ていた怜だったがやがてずかずかと歩み寄り、一真の首を豪快に掴んでみせた。

「おい普通に話せるなら何で俺には毎回襲いかかって来るんだ」

「コミュニケーション……コミュニケーション?」

「訊くな」

 そのやり取りに流石の勇人も和んでいた。仲間の内のひとりが全く信用できないという状態の中でも未だに笑う余裕があるのかと自分で驚き口を開いていた。開かれた口からは言葉のひとつも出ることなく、ただ現状を見つめることで精いっぱいだった。

「じゃ、勇人と一真仲良くなったわけだしふたりで組んでくれ、俺は菜穂と組む」

 怜の目に走る感情は如何なる色をしていただろう。少なくとも勇人や一真を見つめるものとは異なって濃い澱が下に溜まっているように見えた。

 菜穂は首を左右に振って勇人の手を取り語って見せた。

「私は彼と組むからそこの慣れ合ったふたりで行ってらっしゃい、先輩」

――仕掛けてきやがった

 勇人は理解していた。この女の危うさというものを。きっと内側で殺し、守り切れなかった、〈斬撃の巫女〉の力をもってしてもなどと言って次に敵のことをうそぶくつもりであろう。

 怜の視線は夜よりも冷たくなってしまっていたものの、それでも譲らないという想いを口にし続ける菜穂の姿を認めてため息をつき、全てこの女の思惑通りに進める他なかった。

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