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第7話 氷の貴公子のプライド 3 <完>

 結局、アリアドネはオズワルドの言葉通りにミカエルとウリエルのもとで働くことになった。ただし、専属メイドとして。



「どうぞ、ミカエル様。ウリエル様」


アリアドネは二人の前に淹れたての紅茶とクッキーを置く。


「うわ〜い、美味しそう」

「僕、このクッキー大好きだよ」


ミカエルとウリエルは優しいアリアドネをすっかり気に入っていた。


笑顔でミカエルとウリエルに接するアリアドネを部屋の片隅でじっとロイは見守っていた。


(本当に……見れば見るほど姉さんに良く似ている……)


亡くなったミルバとアリアドネの年齢が近いこともあってか、本当に二人はよく似ていた。

面立ちも、長く伸びた波打つ美しい金の髪も……せいぜい違っているとすれば、瞳の色だった。アリアドネは紫色の瞳を持っているが、ミルバの瞳は青だった。

けれど、その程度の違いはロイにとって些細なものだった。


何故なら、アリアドネはロイにもまるで姉のように優しく接してくれていたからだ。



 ロイは三人の会話に混ざることは一切無かった。ただ、黙って見守ることが自分に課せられた任務だったからだ。



 ミカエルとウリエルの最近のブームはカードゲームをすることだった。厳しい訓練と戦いに明け暮れていたロイは、このとき初めてカードゲームの存在を知った。

そして、同じカードを使うのに、様々な遊び方があることも。


(……なる程、あのような決まりがあるのか……)


いつしか、ロイは二人のカードゲームをする様子を眺めているうちに遊び方を覚えていた。


そしてそんなある日のことだった――




いつものように三人の護衛をするために、ミカエルとウリエルの部屋に向かったロイはアリアドネが扉の前に立っていることに気付いた。


(リア……? 何故部屋に入らないんだ)


そこでロイは背後から近づくと声を掛けた。


「こんな所で何をしている?」


「キャアッ!」


途端に悲鳴を上げるアリアドネ。そして事情を聞くと、扉をノックしても二人の反応が無いので部屋に入ってもよいかどうか、困っているとのことだった。


そこでロイはアリアドネが止めるまもなく、勝手に扉を開けて室内に入ると乱暴に上掛けを剥ぎ取った。


「いつまで眠っている。起きるんだ」


いきなり起こされたミカエルとウリエルは驚いたものの、昨夜は遅くまでカードゲームをしていたために起きれなくてごめんなさいと謝ってきたのだ。


そして……


「そうだ、後でリアも一緒にやらない?」


ウリエルはアリアドネをカードゲームに誘ってきた。


「え……で、でも私は……」


ためらうアリアドネにロイは思った。自分も仲間に混ぜてもらいたいと。


「俺もトランプに混ぜてくれ」


気づけば、自分でも驚きの言葉が口をついて出ていた。


もちろん、プライドの高い氷の貴公子がカードゲームで手を抜くことは一切無かったのは言うまでもない――





****



 ロイがこの世を去って一年の歳月が流れていた。今日は彼の命日であった。


城内に建てられた彼の墓標の前には喪服に身を包み、臨月を迎えていたアリアドネとミカエルにウリエルの姿があった。三人は真っ白な花束を手にしている。


「ロイ……貴方に会いに来たわ」


アリアドネがそっと墓標に花束を置いた。


「ロイ、僕達今一生懸命剣術に励んでいるよ」

「いつかロイみたいな立派な騎士になってみせるから」


ウリエルとミカエルも花束を添えて、墓標に話しかける。


「ロイ、今日は花束以外に別に貴方にプレゼントがあるのよ」


アリアドネはポケットからケースに入ったカードを取り出すと、墓前に備えた。


「家族と……天国で遊んでね」


そして、アリアドネは新しい命の宿る自分のお腹をそっと撫でるのだった――



<完>

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