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第2話 ある占い師との出会い 2

 午後3時半――


宿場町『ラザール』にエルウィンとスティーブの姿があった。町の中心部には大勢の人々が行き交い、露店が軒を連ねている。


馬繋ぎ場に愛馬を預けたふたりは大通りを歩いていた。


「確かに年に一度のカーニバルと言うだけあって、凄い人出だな」


エルウィンは周囲を見渡した。


「ええ。カーニバルは昨日から始まって五日間開催されるそうです。仕事場の者達が教えてくれたんですよ。何でも三年前から始まったらしいです」


「そうか。三年前から……」


その声は何処か少し寂しげだった。


「大将……」


スティーブはその理由を知っていた。丁度今から三年前……エルウィンが戦地に赴いている最中にアイゼンシュタット城が襲撃された。そして、城主とその妻は命を落としてしまったのである。勿論彼らは言うまでも無く、エルウィンの両親であった。

それ以来、エルウィンが領主として辺境伯の役割を担っていたのである。


(この三年……対象は戦いと、城主の仕事に明け暮れていたからな。『ラザール』のカーニバルの話を知らないのも無理は無いか)


そこでスティーブはエルウィンを元気づける為に声を掛けた。


「それよりも大将。この先に『ラザール』で一番大きな酒場があるんですよ。そこにはこのカーニバルの期間だけの限定料理とワインが飲めるんですよ。早速行きませんか?」


その話にエルウィンはニヤリと笑った。


「成程、それはいいな。是非とも異国のワインとやらを飲んでみたいものだ。やはり俺はカーニバルよりも酒の方がいいからな」


「よし、そうと決まったら行きましょう! 煩いシュミットもいないことですし、ふたりで浴びる程飲み倒しましょう!」


「ああ、そうだな。よし、すぐに向かうぞ!」


「はい!」


そしてふたりは足早に目的の酒場へと向かった――




****


「まだ日も落ちていないのに、中々の盛況ぶりだな」


「ええ。そのようですね」


エルウィンの言葉にシュミットが頷く。訪れた酒場は既に多くの人で溢れていた。多くの異国の者達が集まっているだけあり、この辺りではあまり見かけない民族衣装を身に着けた人々も数多くいた。


「あ! 大将! あそこの席、空いてますぜ!」


スティーブが差した先は壁際にある丸テーブルの席であり、早速2人は腰かけた。


「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」


早速テーブル席に若い女性がメニューを差し出してきた。


「ありがとうな」


笑顔で受け取るスティーブに対し、エルウィンは無言でメニューを見つめている。


すると――


「あら、そちらの黒髪のお客様……こちらへはカーニバルでいらしたのですか?」


早速エルウィンの美しさに目を奪われた女性店員が話しかけて来た。


「そうだ」


そっけなく短い返事をするエルウィンにまだ女性店員は食いついて来る。


「そう言えば、お客様。今夜の宿屋はお決まりですか? よろしければこちらの宿を利用しませんか? 実はこの隣にある宿屋はこの酒場と同じ系列なのですよ」


「……」


しかしエルウィンは無言でメニューを見つめている。何となく気まずい空気が流れる。そこでスティーブが話に割って入って来た。


「う~ん。流石に多すぎて決められないな……そうだ、どうせなら店員さんに店のお勧めをお願いするかな?」


「え? お勧めですか? そうですね……子羊のホワイトソース煮がお勧めですよ。異国のワインにもよく合いますし」


「よし、ならそれを二人前持ってこい。異国のワインを二本忘れるな」


エルウィンは女性店員を見ることなく、メニューをテーブルの上にハラリと落とす。


「は、はい。それでお客様、宿屋の件ですけど……サービスしますので、うちの宿を利用しませんか? 就寝時に私がお部屋にワインをお届けにあがりますけど……」


女性店員はまだエルウィンに話しかけて来るも、エルウィンは視線すら合わせない。そして指先はせわしなくテーブルを叩いている。


(まずいな……大将、かなり苛ついているぞ……怒り出す前に何とかしなければ)


「悪いが、すぐに注文してきてくれないかな? 俺達腹が減ってたまらないんだよ」


スティーブは笑みを絶やさず店員に声を掛ける。


「あ、は、はい。分かりました!」


そして慌てて立ち去る女性店員。その後姿をエルウィンが睨みつけていたのは言うまでも無い――



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