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意味
春の暖かい日に、部屋の隅っこで最愛が息絶えた。
小さな身体にいつもの心音はない。完全にただの毛皮を纏った肉になったそれを佐倉はずっと手のひらに載せて眺めていた。
「……どうして逃げたんだよ……」
だっこが大好きだったあの子は、最期倒れるまでの時間をよろけながらも逃げた。まるで看取られたくないとでも言う様に。それがショックで、ショックで。佐倉は泣くことも出来なかった。
——あの子は、結は、俺のことが嫌いだったんだろうか。
二年という月日を結と過ごしてきた。
もし彼が自分の事を逃げるまで嫌っていたとしたら、一緒にいた意味は何だったのだろう。
自分は、結の生には不必要なものだったのかもしれない。
自分が飼い主じゃなければ、結は幸せだったのかもしれない。
そんな事を、あれからずっと考えている。