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03

 悪役令嬢? のペットになれたのは良いが、犬→ケモミミ美少年となってしまった俺。一体全体、なにがどうなってるかさっぱりです。


「で、"アクア=ルイ=ゼファー"よ。これはどういう事だい?」


「お父様、これは……」


 アクア同じコバルトブルーの髪と瞳を持つ迫力あるイケメン。アクアのお父様であり、辺境伯という地位を持つ貴族の御当主様だそうだ。


 肌艶も良好でまだまだ若々しさを感じる辺り、食事や睡眠の質が良いのだろう。


 そのお父様に詰められるアクア。その原因となったのは、当然素っ裸で股関を隠しつつ隣に立つ俺だ。


「は、恥ずかしいです……」


 もう羞恥心で死にそう。

 なんで服着せてくれないのこの人達……。


「そのケモミミ少年をペットにするという事かい?」


「ち、違うんです! ガルシアはペットの枠を超えた愛犬なのです!」


「どっちにしろ飼うという事に変わりないではないか! 獣人の少年をペットにするなんて非道……私は教えた覚えはないぞ! レイラ! 従者の君が付いていながら一体どういう事なんだい!?」


「言い訳のしようもございません。この獣人の少年が何者か判明するまで、私が責任を持って一から百、いえっ、下から上まで余すことなくお世話させて頂きます!」


 いやいや、そういう事じゃない気がする。

 というか、このレイラって人従者だったんだ。

 メイド兼従者って事?

  従者って事は腕も立つんだろうな。


「全く君は……メイドのコスプレはするし獣人になると目がないんだから。君が分家のご令嬢じゃなかったらとっくにクビだからね!」


 メイド服はコスプレかよっ!

 しかも、レイラも分家の令嬢だったとは……。


 それに獣人に目がないとお父様が言っていたが、さっきから俺のケモミミをさわさわしてる理由が分かった気がする。


「お父様……ご心労お察しします」


「察してるなら変な事をしないでくれ! 兎に角、その子は飼えませんからね! 元いた所に戻してきなさい」


「そんな! ガルシアたんは私の心の友なのですよ! あれ、でも、この子はガルシアたんじゃないし……あばばばばっっ」


 思考の許容量を超えたアクアに、どうにか俺がガルシアだと分かって貰う必要がある。


「聞いてアクアちゃん! 俺はガルシアなんだ!」


「そんな訳ないじゃないですか! 犬が獣人に変わるなんて聞いた事ありません!」


「ガルガル!(そんな事言ったって、本当なんだからしょうがないじゃないか!)」


「えっ……?」


「ガル……?(あれ……?)」


 犬モードに戻った?


「ガルシアたんっっ!?」


「これは一体どういう事だ……」


「大丈夫ですか旦那様!」


 顔が青ざめたお父様を抱える従者のレイラ。獣人の少年から犬に戻った不可解な出来事に、理解が追い付かなかったようだ。


 そりゃそうだ。俺だって一体なにが起こっているのか理解出来ないし。アクアも当然――


「ガルシアたんは獣人の少年で獣人の少年はガルシアたんで……あばばばばっっ」


 この通りフリーズモードだし。



 それから俺達は、客間に集まり、落ち着いて状況を整理するためティータイムを取る事にした。


「中々理解に苦しむが、獣人の少年が犬に変わったという事実は確かだ。しかし、私達が知らないだけでそのような種族がいるのかもしれない。獣人国家"アニトリアス"の知り合いにそんな種族がいないか聞いてみる事にしよう」


「分かりました。それで、お父様……ガルシアたんは飼っても宜しいですよね!?」


「うむ、真実が分かるまでは致し方なしか……」


「ありがとうございますお父様!」


「これこれ、アクアはいつまでも子供だな」


 嬉しさのあまり抱き着くアクアに、なんだかんだデレデレのお父様。父親にとって、娘はいつまでも可愛いお姫様だという事かな。


 兎に角、暫くはここでぬくぬく出来そうで良かった。

 獣人の少年に変わってしまった理由も調べたいしね。


「アクアお嬢様。犬の時は良いですが、獣人の少年に変わった時は私がお世話をしますからね?」


「はいはい、分かったわよレイラ」


 まあ、当分はアクアの膝でぬくぬくモードを満喫させて貰うか。そんな事を考えながら、アクアから分けてもらったクッキーをモグモグする。


 うん、しかし美味いなこのクッキー。


「もっと頂戴!(ガルガル!)」


「わぁっ! また獣人の少年に変わりましたわ!」


「こりゃ驚いたな……」


「ケモミミ!」


 また変わっただと? 一体どうなってるだ。


「うーん、前回変わった時と共通点は……」


 アクアの膝に座り、レイラにケモミミをモフモフされながら思考の波に浸る。当然、全裸だ。


「そう言えば、前回も今回もこのクッキーを食べた後に変わった気がするな……」


「成る程……では、次に犬に戻った時に実験をしてみようではないか」


「そうですね。あっ、改めましてこんにちは。私、ガルシアと申します。自分の正体は今一分かりませんが、とりあえず犬です」


「これはこれはご丁寧に。私はアクアの父で、グローリア国ゼファー領を代々領地するベルナルド=ルイ=ゼファーと申す」


 お父様と大人の挨拶を交わし軽い握手をする。

 そう、勿論俺は全裸だ。


 その後、タイムリミットが来た俺は犬に戻りクッキーが変化のきっかけなのかを実験した。


 その結果、やはりクッキーを食べた後に変化する事が証明された。大体、クッキーを一枚分食べると一時間ほど獣人の少年状態が維持され、半分だと三十分しか維持出来ない事も分かった。


 とりあえずは、俺と会話が必要な時は獣人モードに変わり、その他はレイラのモフモフ攻撃がうざいので犬モードになっている事にした。


 一日の半分は獣人モードでお願いします! と懇願されたが、ずっとくっついて離れないので有耶無耶に返事をして誤魔化した。


 それに犬モードでアクアに撫でられていた方が気持ち良いし、幸せな気分でいられるのだ。特に腹を撫でられるとキュンキュンする。


「ふふ、気持ちいいのですねガルシアたん♪」


「ガル~(気持ちえぇ~)」


 ベッドで一緒に寝る俺の腹を優しく撫でるアクア。


 最初は犬に転生かとがっかりしたが、犬は犬で悪くない事に気づいた。人間のしがらみとは無関係だし、なにより働かなくても飯が食える幸せは、普通の人間では中々味わえない。


「明日は一緒にお散歩にいきましょう♪」


「ガル、ガルガル♪(お、いいね♪)」


 散歩に行けばこの世界の事が少しでも分かるだろう。

 村や町に行けば環境や人々の営みを知る事が出来る。


 この時俺は、ただの散歩だと高を括っていた。

 俺は知らなかったのだ。

 アクアが、とんでもない変人だという事を……。

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