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02

 屋敷に忍び込んだ俺は、令嬢に捕まり水責めの刑に処される事になってしまった。ああ、転生してすぐに死亡か――と思ったが、そんな事はなかった。


「水責めを喰らいなさい! ウォーター!」


 腰まで伸びた髪と瞳は、美しいコバルトブルー。


 そんな美少女な令嬢のプルプルと瑞々しい唇から紡がれた言葉の後、俺の全身はずぶ濡れになる。


「ガルッッ! (冷たっっ!)」


「きゃっっ!」


 思わずブルブルして令嬢ちゃんに水をかけてしまった。

 犬ってなんで"ブルブル"するんだろうと思っていたが、どうやら反射的なものらしい。


「ガル~(ごめんね~)」


「もうっ! こうなったら干からびるまで乾かして上げます! ドライ!」


 おおっ、体から水気が一気に引いていく。もしかして、さっきから令嬢ちゃんは"魔法"を使っているのか?


 なんだか急に異世界感が出てきたぞ。

 異世界と言えば魔法だ。


 他には色んな種族がいたり魔物が出たりするのだろうか? 定番の勇者なんかも居たりするのかも。


 そんな事を考えていると、令嬢ちゃんが次の魔法を俺に放っていた。


「クリーン! これで完了ですわ!」


 おっ……なんかスッキリした。水責めなんて言うからビビったが、ただ体を綺麗してもらっただけな気がする。


「ガルル!(ありがとな!)」


「はんっ! 吠えずらとは正にこの事ね!」


「アクアお嬢様。尻尾を振って喜んでいるようなので、吠えずらとは程遠いかと」


 どうやらこの令嬢ちゃんは"アクア"という名前らしい。

 美少女らしい可愛い名前じゃないか。


「う、うるさいわね! 貴女は早くお父様に報告してきなさいよ!」


「報告ですか?」


「そうよ! この犬を私の奴隷犬にする許可を貰ってきなさい!」


 おいおい、奴隷犬とは穏やかじゃないね。こんないたいけなワンコを奴隷扱いなんて、酷い女の子だ!


「ガルガルガル! (さっきのお礼を返せ悪役令嬢!)」


「ふっ、精々私の奴隷として尽くす事ね。この駄犬!」


「ガルルルッッ! (ふざけんな!)」


「滅茶苦茶唸ってますが大丈夫でしょうか?」


「い、良いから早く許可を貰ってきなさい!」


 アクアの命令でメイドの女性が屋敷の中に入っていく。


 その後ろ姿を確認したアクアは、俺にくるりと振り返ると、それまでの態度を豹変させてきた。


「酷い事言ってごめんなさい……それにしても、なんて可愛いのかしらっっ」


 ひしっ、と俺に抱き着き全身を撫で回すアクア。

 な、なんだよ急に!

 そんな事したって許さないんだからね!


「あ~、拗ねないでワンコちゃん……ほら、ここも撫でて上げるから」


「ガル~(気持ちえぇ~)」


 全身をくまなく撫でられた俺は、気づいたら腹を出して寝転んでいた。面目無い……。


「ふふ、可愛い。あっ、そうだ! 愛犬に名前を付けて上げなきゃね♪ そうね……ガルガル鳴くから、ガルシアなんてどうかしら?」


 ガルシア……まあ、悪くないんじゃないか。


「ガル!」


「あら、気に入ってくれたのね。これからよろしくガルシアたん♪」


「ガルガル!(こちらこそ!)」


 ふむ、とんだ悪役令嬢だと思ったが存外悪くない。

 美少女だし、良い匂いがする。


「ふっ、アクアお嬢様、デレデレではないですか」


「あ、貴女いつから!?」


「唸っている犬と二人っきりにさせる訳ないじゃないですか。それより……ガルシアたん♪ って……」


「ち、違うの! これは鞭を打つ前の飴というかオヤツというかっっ」


「分かりました分かりました。兎に角、私は旦那様にガルシアたん♪ をペットにする許可を貰ってきますから」


「馬鹿にしてるのかしら!? い、良いから早く行きなさいよ!」


 なんか面白いなこの二人。


「なんなのよレイラったら! 後で覚えておきなさい! 」


 捨て台詞を吐きながら椅子に座りお茶を飲むアクア。

 お茶を一口飲んで落ち着いたのか、隣にお座りした俺を優しく撫でる。


 ハーブティーのような匂いがするお茶と可愛い愛犬は、鎮静効果バッチリのようだ。


「ふ~、それにしてもガルシアたんは一体どこから来たの? 見た事ない犬種だし、もしかして新種の魔獣かしら。魔物……って事はないわね。こんなに可愛いんだから♪」


 ふむふむ。アクアの言い草だと、どうやらこの世界では普通の獣の他に魔獣やら魔物もいるらしい。どういった構成なのかは分からないが、後々調べる必要がありそうだ。


「あっ、ガルシアたんもお菓子食べる?」


 一欠片の甘い匂いのするお菓子を俺の前に出すアクア。

 前世の世界では、犬に人間の食べ物を上げるのは良くないとされていたが、この世界でも同じなのか?


 まあ、実験のつもりで少し食べてみよう。もしこれでお腹でも壊したら、今度から食べないようにすれば良いだろう。


 差し出された手の平に乗ったお菓子を食べてみる。

 うん、こりゃクッキーだな。


「美味しいでしゅか?」


「ガル!(美味かった!)」


「美味しかったんでしゅね~、よしよし♪」


 そんな感じでデレられながらメイドの帰りを待つ。

 ちょっと日差しが暑かったので、パラソルの影に入るためにアクアの膝へと飛び乗った。


 うんうん、良い感じに柔くて落ち着く。


「あら、ガルシアたんたら♪」


「ガル~ガルガル(あ~、そこもっと撫でて)」


 至福の時間を味わいながら待つこと数分。

 メイドの女性がようやく帰って来た。


「お待たせしましたアクアお嬢様……って!? な、なんですかその子っっ!!」


「どうなさって……って!? なにこの子!?」


「お、お嬢様! 膝に乗ったそのケモミミ美少年はどなたですか!? しかも全裸ですよ! 全裸のケモミミ美少年の頭を撫で撫でとは、羨まけしからんです!!」


「あ、あばばばばっっ」


「どうしたんだよそんなに騒いで~(ガルガルガルガル~)」


 ――って!? 人間の言葉喋ってんじゃんか!!


「うわっ! しかもチ○チ○丸出しじゃん!」

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