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最初の選択

いつも通り、完全見切り発進です。

面白そうと思ったら、読んでやってください。

この世は不条理だと思った。

此処に居るのに、誰も彼もが居ないものとして扱う。

何故、自分がここに居るのか分からない。

何の為に生きているのか、そもそも、生きていると言えるのかどうかも分からないけれど、ただぼんやりと死にたくはないなと思ってた。


「ねぇ。一緒に来る?」


すっと耳に届いた声に顔を上げると、目の前に差し出された小さな掌が見えた。

目に入ったものに驚いて上を向くと、久しぶりに見た陽光が視界を焼いた。

眩む視界を数回の瞬きで整えて、改めて相手の顔を見てみる。

整った顔立ちと整えられた服装から、相手が高貴な身分の方だというのが伺える。

しかし、『こんな場所に、何故、お貴族様が?』という疑問よりも、自分の中に生まれた違和感の方が強かった。


(私は彼女を知っている?)


裏町生まれの自分がお貴族様に会える機会などある筈がないのに、目の前の少女を、何故か知っている気がした。

緩く癖の付いた濡羽色の髪、肌理の整った白い肌、通った鼻筋と可憐な口元、そして、吊り目がちの意思の強そうな目元を彩る菫色の瞳を見た瞬間、脳裏で何かが弾けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『はぁー!やっと、終わった!』

『なぁに?また、マルチエンドやってたの?好きねぇ〜』

『えぇ〜、だって、他のルートじゃキャシーが報われないんだもん!』

『仕方ないじゃん。当て馬役の悪役令嬢なんだから』

『でもさぁ、キャシーは間違ってないじゃん?なのに、ご都合主義で断罪ばっかりされてさぁ』

『乙女ゲーの悪役令嬢なんだから仕方ないじゃん。このゲームくらいだよね。悪役令嬢の救済ルートがあるの』

『そうなんだよねぇ!だから、私はこのゲームが好き!キャシーの幸せは、私が守る!』

『はいはい』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(思い、出した)


懐かしい会話と共に、様々な事柄が走馬灯のように脳内を走り抜けていく。


「ねぇ。大丈夫?どこか痛むのかしら?」

「え?」


不意にかけられた声に、意識が現実に戻ってくる。

なぜそんなことを聞かれたのかわからず首を傾げると、綺麗な形の眉が困ったように下がった。


「だって、あなた、泣いてるもの」


その言葉と共に差し出されたハンカチに驚きつつ、自分の頬に触れると確かに濡れていた。

急激に記憶が戻ってきた混乱で気持ちが昂ってしまっていたらしい。


「だ、だいじょぶ、です」

「そう?なら、良いのだけれど」


ハンカチを汚しては申し訳ないので、急いで服の裾で涙を拭う。

そして、改めて、目の前の少女を見てみた。

全体的に記憶よりも幼い容姿と穏やかな瞳ではあるけれど、間違いなく彼女だとわかる。


(キャシー)


あぁ、彼女が生きている。

なら、ここはあのゲームの世界なのだろうか。

だとしたら、この世界はどのルートを進んでいるのだろうか。

思考の海に沈んでいた意識が、再び、彼女の言葉で引き戻される。


「ねぇ。あなた、ずっとここに居るようだけど、いく所がないなら一緒に来ない?」

「、、、一緒に?」

「そう。それとも、ここに居ないといけない理由があるのかしら?」

「いえ。でも、なぜ、です、か?」


やっていたゲームは、彼女がアカデミーを卒業する1年前から始まるため、この出会いイベントが何を意味するのかがわからなかった。

下手を打てば、断罪ルート一直線になる。

それだけは、何としても阻止したい。


「んー、何故かしらね?何となく気になってしまったのよ。あなたの事。それに、丁度良いかしらと思って」

「丁度いい、ですか?」

「そう。私はあなたが気になって仕方がないし、丁度、年頃の侍女がいないし、いく所がないならうちで働かないかなぁって。どうかしら?」


期待に瞳をキラキラと輝せながらの無邪気なその提案を考える。


(私が、キャシーの侍女になる?)


侍女になればキャシーの側にいられる。

側にいられれば、断罪ルートに進みそうになった時に軌道修正ができるかもしれない。

元々、このゲームは、分岐点で正解を選ばなければ即断罪ルートに入ってしまう仕様だ。

キャシーを幸せにするマルチエンドに導く為には、間違ったルートに進まないように助言できる立場にいた方がいい。


(ただ、私が侍女になるのは難しいんじゃないだろうか?特に、お嬢様付きとか)


この世界には、明確な身分差がある。

ゲームの設定では、彼女は侯爵令嬢だったはずで、今の私は最下層民だ。

侯爵家の侍女ともなれば、侍女といえども下級貴族の子女の身分がなければなれるものではない。


「でも、私では、お嬢様の侍女にはなれない、と思うのですが?」

「普通はね。でも、大丈夫よ。お父様には許可をいただいているもの」

「許可、ですか?」

「そうよ。侍女にしたい子がいるからお誕生日プレゼントの代わりにってお願いしたのよ。その子が侍女になるのを希望するなら良いよって言ってくださったわ。だから、あなたさえ頷いてくれれば大丈夫なのよ」


どうやら、私は彼女のお誕生日プレゼントになるらしい。

きっと、侯爵様も連れてくるのが最下層民の子供だとは思っていないだろうが、ここは流れに乗せてもらおう。

じゃないと、今後、こんな機会が巡ってくることはないし、そうなると断罪ルート回避が難しくなる。

覚悟を決めて顔を上げると嬉しそうな顔の彼女が、再度、私に最初の選択肢を提示する。


「ねぇ。一緒に来る?」


私が選ぶ選択肢は、ただ一つ。


「はい」


賽は投げられた。

後は、ゴールに向かって進むだけ。


(どなたが主人公か存じませんが、お嬢様のため、断罪フラグは全て叩き折らせていただきます)

面白かった!続き読みたい!と思っていただけたら『評価』お願いします_(:3 」∠)_

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