episode 4「下校」
彼女がゆっくり中腰になるようにして顔を近づけてきた...
ドクンドクン
彼女の顔近づくにつれて自分の心臓の音が大きくなっているのがわかる。
そして僕の目線より少し低くなったところで、
黒くてつややかな下ろした長い髪を左耳にかけ首を少し右に傾けるように
小声でささやき、目を丸くして言った。
「今度の日曜日、デートしない?」
いつもは彼女の顔は可愛いというより美人だ。
しかし今は違う、いつもあんな真面目な彼女が
いつもより少し幼く、可愛い。
だけどその言い方は僕を誘惑するように、お姉さんの口調だった。
「うん、も、もちろんいいよ。付き合ってるなら で、デートくらい行くしな」
今までこういうことを経験したことのない僕は
なるべくいつも普通に答えようとしたが逆に不自然になってしまった。
「そうだね!ありがとう。楽しみにしとくね!」
そういう彼女はなんの違和感もなく自然に返事をした。
「あっ。掃除手伝いましょうか?」
「ほんとに?じゃあお願いしようかな」
ほうきを教室の隅にあるロッカーから取り出してくれた。
掃除が終わった後辺りはすっかり夕方になっていた。
「悠君って電車で来てるっけ?」
昇降口で靴を履き替えながら聞いてきた。
「はい。そうですよ!」
「だったら一緒に帰らない?」
「え!?はい。いいんですか?」
異性と一緒に下校するのは小学校ぶりなので緊張する。
「いいんですか?ってもちろんだよ(笑)」
幸い部活動がある生徒はまだやってるし、
部活のない生徒も帰ってしまったので周りに人はいない。
周りをきょろきょろ見渡した。
僕みたいな普通の生徒が高嶺の花と思われてるであろう彼女と
歩いてるだけで何か言われるんじゃないかと心配になってしまった。
「どうしたの?そんなきょろきょろして」
「いや、な、なんでもないよ」
やっぱり並んでみると僕と彼女は雲泥の差だ。
身長だって彼女の方が高いし、すらっとしている。
しばらく何も話さない時間が続いた。
すると彼女が気を利かせてか
「来週から部活動見学始まるけど、何か気になる部活とかあるの?」
と聞いてきてくれた。
「うーんと、絵描くの好きだから美術部かな」
中学校の頃よく一人で絵を書いたものだ。
運動も苦手だし絵を描くこと以外得意なことがない。
「へ~、絵描くの好きなんだ。また今度描いた絵見せて欲しいな」
興味深そうに聞いてくれた。
自分のことを話して興味持ってくれたことなんてほとんどなかったから嬉しい。
「え~、そんなに上手くないよ(笑)」
少し照れながら言った。
「夏月さんは何か部活入ってたりするの?」
せっかく聞いてくれたんだし聞き返してみる。
「入学したときから生徒会に入るって決めてたから、部活動は見学すら行かなかったかな」
彼女の顔は口角は上がっているが少し遠くの地面を見つめるような目をしていた。
「やっぱり、生徒会長って忙しいの?」
彼女の表情を斜め下から覗き込むようにして聞いた。
「うんとねー、行事の前は結構忙しいけどとくに何もないときは暇かなー」
笑顔で僕の顔を見ながら返事をしてくれた。
そんなたわいもない話をしながら歩いているとあっという間に駅のホームについた。
夏月さんは僕の向かい側、反対のホームに立っている。
すると何か思い出したかのようにスマホを取り出し触り始めた。
「ピコン」
普段ならない僕のスマホが鳴った。
夏月さんからだ。
(やっほー これで離れててもいつでも話せるね)
早速、交換したRINEでメッセージを送ってくれた。
彼女の方を見ると笑顔で小さく手を振ってくれた。
その姿は大人っぽく、美しかった。
(また家帰ってから日曜日の予定決めよ)
(はい。了解です)
僕もRINEで返す。
「まもなく2番線に電車がまいります。黄色い線の内側にお下がりください」
電車の到着メロディと一緒にアナウンスが流れてきた。
すると彼女はまた手を振ってくれた。
「ただいまー」
家に着くとすぐさま二階に上がり自分の部屋に入り
部屋の勉強机の前にかけてあるカレンダーを見る。
今日は水曜日、日曜日まではまだ時間がある
しかし 外出する事なんてほとんどないので服を全然持っていない。
土曜日にでも買いにいこうかな...
今回は短いですがキリがいいのでこのあたりにしておきます。
また来週中に投稿できるように頑張りますのでお待ちください。