episode 3「友達?」
「チュンチュン チュンチュン」スズメの鳴き声が聞こえてきた。
昨日の今日もあってか気持ちが高ぶってあまり眠れなかった。
時計を見ると針は5時半を指していた。
「ん~...」大きくけのびをした。
全然眠れなかった。
家を出なければいけない時間まではまだあと2時間くらいある。
もう一回寝るか。
そうしてもう一度布団をかぶった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!もう学校行く時間じゃないの?」
「私、もう先行っとくよー」
「お弁当、ここに置いとくよ!」
朝から騒がしい。もう少し寝かしてくれ。
そう思いながら時計を見ると時刻は7時50分だった。
「えっ...」
家から学校までは約30分くらいだから8時までには家を出ないと学校に遅れてしまう。
二日目から遅刻しそうってマジかよ。
流石に遅刻するわけにはいけない。
もちろん朝ごはんを食べる時間などなく
玄関の靴箱の上に置いてあったお弁当を持って家を飛び出した。
「キーン コーン カーン コーン」(チャイムの音)
「ふーギリギリ間に合った」
にしてもキツい。
駅から学校は距離的には近いのだが、ずっと上り坂だ。
運動があまり得意ではない僕にとってはこの坂はキツすぎる。
午前中のホームルーム活動では委員長などを決めるのだが、
僕はもちろんどの委員にも入ることはなく。
そうしていると気付いたら
もう4時間目の授業も終わりお昼休みの時間になっていた...
「なーなー ちょっとええ?」
肩を叩きながら少し野太く、クラス中に聞こえているのではないのかと思ってしまうくらい
大きな声で僕に話しかけてきた。
幸いクラス中の生徒も友達作りか、騒がしく、聞こえてないみたいだが。
「ど、どうしたの?」
さっき叩かれた肩を撫でながら聞いた。
そこにいたのは坊主頭で185センチはあろう背と
あり余った筋肉をもつとてもがっちりした男子生徒。
「いやー、お前一人で飯食っとったからさ、一緒に食べようと思ってん。」
「どこで食う?せっかく外の桜綺麗やし中庭で食おうぜ」
僕の返事を聞かずに僕の右腕をつかみ走り出してしまった。
「ちょっと。なんで急に」
左手に今朝、萌が作ってくれたお弁当を掴みながら聞く。
「お前一人で飯食おうとしてたんだろ?可哀想だとおもってな」
余計なお世話だ。一人飯を楽しもうとしていたし、
こんな関西弁を喋る陽キャみたいな人が僕と仲良くできるわけがない。
「名前は、なんていうの?」
中庭のベンチに座りながら聞く。
「ん?俺の名前か?」
「俺の名前は一ノ瀬 翔太だ。翔太でいいぞ。」
翔太という名前を聞いてとてもしっくりきた。
いかにも体つきから顔まで翔太ってかんじだったから。
「腹減ったし、さっさと食おうぜ」
翔太の弁当は僕の二倍以上大きい。
二段弁当で一段目はぎっしりと盛られた白米。
二段目は唐揚げポテト卵焼きに加え、なけなしの野菜。
よく食べるんだなぁ。僕はそう思い自分の弁当を開ける。
翔太と違って適度にバランスの良いおかずが詰められている。
「うめぇー」
隣からそんな声が聞こえてくる。
「そういやお前の名前聞いてなかったな。名前なんていうん?」
「あ、僕の名前?」
「はっはっはっはそりゃなー(笑) お前しかおらんのやから」
大きな声で笑っていた。
「えっとー。今泉 悠。呼び方は何でもいいよ。」
「そうか。じゃぁ悠。よろしくな!」
次は僕の背中を叩きながら言った。
「ゴホッ」思わず食べてた白米を吹き出しそうになった。
「うん。こちらこそよろしくね」
ぎこちない笑いで返事をかえす。
「いやー。美味かったな」
「そうだね(笑)」
一緒に食べていて分かったことだがある。
こんな僕に話しかけてくれるなんて翔太は優しいのだろう。
多分翔太は待っていても誰かに話しかけられたのかもしれないし、
人に好かれる性格だろう。
あと食べるのがほんとに早い。
あんなぎゅぎゅうに詰められたお弁当を僕の食べる時間の半分くらいで食べてしまった。
「悠!そろそろ5限目始まるから早く座ろうぜ!」
「う、うん」
~放課後~
翔太のことですっかり忘れていたが今日、僕はしなきゃいけないことがある。
彼女(佐久良 夏月)の連絡先を知ることだ。
「おーい。悠。一緒に帰らん?」
2時間前に知り合ったとは思えないくらい親密に呼びかけてくる。
「ごめん。今日行かなきゃいけないところがあから。」
確か2年3組だった気がする。
二年生のフロアってどこだっけ?
翔太に聞いてみようかな...
その時
「おーい。翔太、一人で帰るんだったら俺たちと帰らない?」
クラスの陽キャ3人グループのうちの一人が呼びかけている。
「おー。ええで」
翔太は明るく返事をした。
僕は少し複雑な気持ちになった。
仕方ない翔太は容姿もどちらかというといい方だと思うし、
何しろとっても明るい性格だ。
翔太が陽キャグループに話しかけられなんてなにも不思議がることじゃない。
僕とは関係ないことだ。
にしても2年生のフロアってどこだろ
校舎内歩き回ったらいつか見つかるか。
「あった。ここだ。」
学校に来たのはまだ二日目だから探すのにとても時間がかかった。
(正確には受験なのでもう少し来てはいるが)
2年3組は...あった!ここだ。
「佐久良さん!掃除も終わったし私たちと一緒に帰らない?」
教室の中から聞こえてきた。
「誘ってくれてありがとう。でも私もう少し掃除しようかな。
3月の大掃除からここ掃除してないと思うし...」
「そう?やっぱり佐久良さんは真面目ね。ありがとう!じゃぁお先に失礼するね。ばいばい」
「さようなら」
佐久良さんに話しかけてたと思われる女子生徒を含む集団が出てきた。
もう大丈夫かな?
2年3組の教室のドアを開ける。
「佐久良さん!」
「あ。悠君、どうしたの?あと夏月でいいよ(笑)」
彼女に僕の名前を言った覚えはないが...
まぁそんなこと今はどうだっていい。
「連絡先交換してなかったので、交換した方がいいかと。」
「あ、そうだね」
持っていたほうきを近くに置いて鞄の中をあさり始めた。
「ほんとは学校の中でスマホ使うの禁止だけどね(笑)」
「す、すいません」
少し困った顔をした。
「悠君の願いだし、付き合ってるんだから連絡先くらい交換しないとね」
夏月さんはスマホを取り出しこちらへ近づいてきた。
「はい。これが私の連絡先ね」
やけに距離が近い...
思わず目を逸らしてしまった。
付き合ったこともない僕からするとこの刺激は強すぎる。
さっさと連絡先を交換し帰ろうとしていたそのとき
「あの。悠君。お願いがあるんだけど」
彼女は顔を少し赤らめていった。
ただでさえ放課後の教室、男女二人だ。
僕は唾をのんだ...