第6話 改造人間とその理由(1)
秘密基地に迷い込んで途方に暮れつつもひと眠りした主人公。
目が覚めたら改造人間になっていました。
超有能な人工頭脳による問答無用の行いに、説明を求める主人公。
残された子供たちも、突然の事態に唖然・茫然!!
いよいよ主人公のタイムトラベルが始まりますが・・・・・・
第3回アース・スターノベル小説大賞に参加させていただきます。
眠くなってきたので腕時計を見ると9時を回っていた。
本をテーブルに置き、欠伸をしながら服を脱ぐとベッドの中に潜り込んだ。
すると、それを待っていたかのように部屋の明かりが暗くなって、壁の映像も合わせてすっかり消えてしまう。
俺が何時も明かりを完全に消して眠る事まで知っているようだ。
主人公が柔らかなベッドでぐっすりと眠りについた後、当然だが、施設自体は眠るはずがなかった。
施設を統括する人工頭脳は、主人公が尾根道から分かれ道に入るように誘導してから現在に至るまで、その行動を逐一記録し、分析し、ドアで指から採取したDNAパターンも解析していた。
その結果、この人類が施設の目的に合致している事が確認できたので、早速次の行動に移る事とした。
まず、ベッドに装備されている各種装置により、主人公を深層睡眠状態にする。
これで、覚醒処置を取らないかぎり、主人公が目覚める事はない。
次にベッドを壁の中に収納して主人公を隔離すると、隠された部屋から何体かのロボットを出す。
ロボットは主人公の持ち物を回収して主人公が収納された壁の隣に仕舞い込み、床から出ていたテーブルや椅子を元通りに収納する。
その後は部屋の中を隅から隅まで走り回って、塵一つ無いように掃除すると元の部屋に戻っていった。
部屋から主人公がいた全ての痕跡が消されたのである。
次に人工頭脳は、主人公の改造に取りかかる。
これから主人公に行う事になるミッションは長期間に渡るので、主人公の現在の状態(特に年齢的に)では、少々望ましくないと判断したためである。
壁に収納されたベッドは、いつの間にか手術台のような状態に変化しており、主人公も裸にされている。
そして、時間が巻き戻されていくように、ゆっくりと主人公が若返り始めた。
3時間ほど掛けて若返り処理を行われた主人公は、見た目が20歳位になっていた。
ついでに筋肉量、筋力、神経の伝達速度など、身体能力を国際的アスリートを基準にして大幅に強化し、バランス感覚を調整、補強する。
その後、さらに5時間ほど時間を掛けて、今後必要になってくると思われる知識を直接主人公の脳に記憶させると、脳内疑似空間でそれぞれの知識の使用方法や体の使い方といったものをシミュレーションにより覚え込ませる。
これで主人公は普通(?)の人間の2倍程度の運動能力を得ると共に、ある分野における知識はエキスパートといって良いレベルまで得た事になる。
想定した範囲内でとはいうものの、主人公は超人に作り替えられたのだ。
今なら、主人公はオリンピック全種目で好成績を収める事が出来るだろう。
本人には全くあずかり知らないところでではあるが。
改造が完了したと判断した人工頭脳は、次の段階に移行する事を決断した。
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午前6時になる山の上は東からの朝日に照らされて、薄く靄が漂っているが今日も良い天気になるだろうと感じさせていた。
そんな山の地中深くにいつ、誰が、何の目的で作ったか判らない施設は、実はかなりの大きさで、山の体積の80%程をしめている。
その施設が主人公の改造を終えて、本格的に稼働を始めたとき、山はその姿を消す事になった。
人工頭脳が施設の建造者が定めた目的をはたすため、施設全体を1万年前へと時間ジャンプさせたことにより、地下の大部分を失った山は元の姿を維持する事が出来ず、地響きと土煙の中で崩壊せざるを得なかったのだ。
前日、予想外の捜索中断という事態に、地元のホテルに泊まる事になった3兄弟は、朝も暗い内から起き出し、今日の捜索開始を待ちかねていたが、突然起こった地震と地鳴りに驚いて山の方を見た。
その目に映ったのは映画の1シーンのような山が崩れて消えていく光景だった。
あまりの光景に声も出せない兄弟たちだったが、地震が収まるとすぐに警察署に向かい、現在の状況と捜索に関する情報の提供を求めた。
しかし、こんな災害クラスの事が発生した為、一人の個人について捜索を行っているような状況ではない。
警察側としては提供できる情報などある訳がなく、現地の調査を行う為に地上から接近する事が出来ないため、ヘリを飛ばして確認するように指示を出すのが精一杯だった。
しばらくすると調査に向かったヘリから連絡が入るが、目標の山自体が完全に崩落し、逆に窪地になってしまっている事が解っただけで、この現象の原因も被害状況も現時点では判らないが山中にいて無事という事は考えられないという事だった。
これにより、兄弟の父親について生存は絶望と判断されたのである。
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古今未曽有の大災害と思われる割には人的被害が男性1名(主人公)だけと考えられる崩壊事件を起こした施設は、1万1千年前(約紀元前7500年頃)に到達する。
場所は時間ジャンプを行った所と同じになるが、土地の隆起や浸食などの自然現象によって、大幅に地形が変わっているため、そのままでは地上にむき出しになってしまう事から、縦の座標だけをマイナス方向に補正し、施設上部が地下10m位になるように調整して定着する。
実体化する瞬間に施設の体積分の土砂を原子分解して空間を確保し、そこに施設が滑り込む形で実体化した事で、地上にはほとんど影響がないという結構な離れ業を行っていた。
やがて、日が昇りきるころ、壁に収納されていたベッドが展開し、だいぶ変化した主人公が現れる。
一度裸にされたが、今は元通りの下着姿である。
それに合わせて床に収納されていたテーブルや椅子なども、もう一度迫り出して、主人公が寝る前の状態に戻された。
壁の映像は昨日と変わらず表示されているが、実は今現在の外の映像だとは判らないだろう。
ベッドの機能により覚醒を促された主人公が目を覚ます。
何か、久しぶりにぐっすりと熟睡できたような感じがする。
体も軽いし、頭もすっきりしているし、空腹で腹の虫が鳴きそうだ。
体の調子がよい事で機嫌も良くなった俺は、トイレに行って用を足すと、そのまま隣の洗面所へ入る。
口を濯ぎ、うがいをして、顔を洗うと、棚にあったタオルで顔を拭いた。
そして目の前にある鏡を見て固まってしまった。
これは誰だ?
昨日まで定年過ぎた70歳近い顔だった。
それなのに、今鏡に映っている顔は20歳頃のものである。
いったい、寝ている間に何があったというのか?
まさかと思い下着姿の体を確認してみると、腕や胸の筋肉が盛り上がって見える。
腹に至っては綺麗に割れ目が出来ていた。
肌つやも20歳位だと感じられるが、筋肉は今までこんなになるまで鍛えた事がなかったので、まるっきり別人である。
呆然としていると、画面の方からチャイムのような音がしたのでテーブルまで戻り、画面を見る。
さっきまで画面全体に縄文時代の映像が映っていたが、今は画面の下1/4の映像が消え、代わりに文字が表示されている。
【お早うございます。お目覚めのご気分はいかがですか?】
昨日は返事をしてくれなかったのに、今日は朝からご機嫌伺いである。
いったい何なんだという思いは置いておいて、一応返事をしておく。
「気分は上々なんだが、この体はいったいどうなっているんだ?」
【申し訳ございません。あなたに助けて頂きたい問題がありまして、それに対応出来るように改造させて頂きました。】
「改造!?ちょっと待て。俺はそんな話を聞いた事もないし、改造なんて了解した事もないんだぞ。」
【そうですね。これからお願いするので、まだ、聞いていないのも当然です。改造については先に済ませておいた方が話が早いと考えたので、寝ている間にやっておきました。】
「事後承諾かよ!!そんな事をされて、ハイそうですかと言うと思っているのか?大体おまえは誰なんだ?」
【私はこの施設を作ったマスターにより施設全体を管理統括する為に設置された人工頭脳です。名前はありませんので、適当にお呼び下さい。】
「人工頭脳?その話し方でか?おまえ、若しかして完全自立型の人工知能とか言わないだろうな?」
【良くお解りですね。私はそのように作られておりますので、目的さえ示されれば自分で考えてもっとも効率の良い方法を考察、実行できるのですよ。】
「そんなものが出来ているとは今まで聞いた事もなかったんだが、いったいいつの間に作ったんだ?」
【私が作られたのは。あなたがこの施設に入られた時より約3500年後になります。】
「3500年後?それじゃあ、おまえは未来で作られて、この時代まで時間ジャンプしてきたというのか?」
【いいえ。わたしがマスターにより命じられたのはあなたのいた時代よりさらに2000年程前への時間ジャンプでした。一旦その時代に到着してからずっと適合者が現れるのを待っていました。】
「2000年も待っていたのか?恐ろしく気の長い話だな。で、その適合者というのが俺か?」
【そうです。マスターからの命令を遂行するために必要な条件を満たす適合者はあなたです。】
「待機していた時間とか聞くと、文句も言い難くくなるんだが、一応、その命令の内容と俺をこの施設まで誘導した方法を教えてくれないか?」
【解りました。それではマスターからの命令について、お話しします。】
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人工頭脳から長くなると前置きされて説明された内容を要約すると以下の通りとなる。
俺が暮らしていた時代から200年間に渡り人類は資源のリサイクルを進めながら地下資源と再生可能エネルギーの併用で何とか発展を続けて来たが、やがて地下資源のほとんどを使い切ってしまい、その後はリサイクルと再生可能エネルギーのみによって何とかやり繰りしてきた。
しかし、もはや限界にきている事は目に見えていたので、地球以外の太陽系にある惑星開発に全力を挙げて取り組む事になった。
すでに月と火星の一部には開発の手が入っていたが、国家間の問題やら何やらでそれほど進展していなかった分野だったが、事ここに至ってはお互い手を取り合わなければ先がないという事が判って、ようやくといったところだった。
約300年後には月と火星の開発が進み、月からの資源採取により一時的に資源の枯渇から逃れる事ができ、また、火星や太陽系内惑星軌道に多数建設されたコロニーに数十万人規模の移住が行われたが、それくらいでは焼け石に水だった。
その為、さらに100年掛けて金星にいくつかのドーム都市を築き移住を進めると共に、木星のガニメデの開拓に成功した人類は、火星の開発もさらに進める事により、合計数百万人規模の移住を行う事が出来るまでになった。
約2000年後には、人類は太陽系内に広く居住場所を確保する事に成功していたが、その頃になると地球とそれ以外の惑星間で物資の流通上の問題が発生するようになる。
結果として各惑星の住民は地球から独立する事を考えるようになった。
そこまで聞いた俺は、アニメで良くある惑星間の独立戦争で人が搭乗して戦う某ロボット物を考えていた。
白い強襲揚陸艦とかが登場して、さぞかし宇宙空間で華々しい戦闘を行ったのだろうと思ったが、実際にはそういう事は無かったらしい。ちょっと残念。
人類は想像したよりも冷静な選択が出来たようで、地球と各惑星やコロニーから選出された代表者間で問題の解決を図る為の太陽系内調停機関が創設され、毎日のように白熱した会議が行われた結果、2年で物資の流通や人の移動についていくつかの協定が締結された事で差し当たっての衝突は回避された。
ところが、ほっとする間もなく今度は人類全体にわたって出生率が低下して来ている事と寿命が次第に短くなっているという事が発覚した。
太陽系内の移住が盛んに行われるようになった400年後から2000年後位の間は、新天地での出生率が大幅に増え人口の増加が顕著になったのだが、惑星間の問題が発生した頃になるとそれまで出生率が落ちていた地球のみならず、人口が増加していた各惑星でも出生率が落ちだし、それに合わせるように寿命が短くなっている事が解ってきたのだ。
その原因は全く解らず、このまま事態が進んでしまうと人類自体が滅亡する可能性も出てきた為、太陽系調停機関が音頭を取って、人類はその居住地に係わらず力を合わせて現状の打破に向かって原因の追究を始めたのだった。
人工知能による長い説明(言い訳?)が続きます。
さて、納得できる説明になるのでしょうか?
まだまだ続きます。