番外編 人工頭脳マリアの独り言
間話回その2です。
マリアが主人公の視察(休暇?)中に思わず独り言を言っています。
色々と思う所があるのでしょうが、本人?は動けないので、ストレスも溜まろうという物でしょう。
超高性能AIゆえの悩みでしょうか?
ごゆっくりお付き合いください。
私の名前は「マリア」と申します。
皆様の生活されている時代から遥か未来、西暦でいうと4134年に作られました。
作られた目的の一つは、私の身体ともいうべき時空転移装置(時間と空間を移動する事が出来る巨大な設備)の運転管理及び装置内部に搭載されているメディカルセンターの運用を行う事等です。
これは二次的な任務となりますが、主任務と密接につながっているため、蔑ろには出来ません。
では主任務は何かと申しますと、この地球という星に生まれ育った人類の未来を救う事になります。
私が作られた頃は、地球人類は太陽系内の各惑星や衛星上に恒久的な基地を建設し、その生活圏を広げておりました。
地球のラグランジェポイントにはスペースコロニーが作られ、そこにも数多くの人類が住んでいたものです。
しかし、その当時、人類は或る遺伝子異常による繁殖力の低下と短命化で滅亡の危機を迎えておりました。
太陽系中の科学者たちが総力を挙げて原因究明を行った結果、人類の遺伝子内に異常部分が有る事を確認できましたが、その当時の科学力をもってしても、それを除去する方法はどうしても見つける事が出来ませんでした。
人類は絶望的な状況に陥ってしまったのです。
しかし、此処である科学者が思いつきました。
“遺伝子内の異常部分を除去できないのであれば、その異常部分が発生する前に、発生する条件(遺伝子異常)を除去してしまえば良いのではないか?”
この思い付きを受けて、科学者たちによる徹底的なシミュレーションが行われ、成功する可能性が十分有る事が確認されると、その結果は人類全体に公表されました。
そして、メリットとデメリットについて丁寧に説明が行われ、特にデメリットについての理解が出来たと思われた後、実施の賛否について総投票が行われました。
この計画が成功しても、その後の人類の歴史が変わってしまう可能性が高い事から、指導者や科学者達だけで決定することは出来ないと判断されたのからです。
そして、投票の結果、人類は実施する事によるデメリットを受入れる事にしました。
私はこの計画を達成する為だけに作られたのです。
私を作った科学者たちは限られた時間の中で様々な状況を想定し、シミュレーションを行いました。
その結果、計画を完遂する事の困難さを思い知る事になり、心配の余り、少しでも成功する確率を上げられるように、当初考えられていた量の資材よりも大量の資材を持って行く事になりました。
また、シミュレーションで得られたデータから、あらゆる状況に対応出来るようにと設計を見直したことにより、電子頭脳(私)の体積が予定より1.5倍ほど大きくなってしまった為、時空転移装置全体の大きさが、底面10km四方、上面5km四方、高さ5kmもある正四角推台形になってしまいました。
体積は約290km3です。
余りも巨大化した身体は存在感が在りすぎると共に美的観点からも許容できませんでしたが、人類の、そして何より敬愛するマスターの願いを叶える為とあれば致し方ありません。
恐らく二度と会う事の叶わないマスターとの別れは辛かったですが、涙を呑んで(出ませんけれど!)出発しました。
遥かな時空間を移動し、ミッション遂行に必要な個体を探し出して拉致する事に成功して、さらに紀元前1万1千年の縄文時代の日本へと転移して、とある山の内部に無事潜り込めることが出来ました。
確保した個体は男性で初老の域に達していましたが、彼に無断で体を改造した事から見た目は30台位に若返り、身体能力も一般的なオリンピック金メダリスト(一般的か?)より高くなりました。
まあ、人権も何も無視していますから、考えるまでも無く立派に犯罪でしょうけれど、それも人類の未来の為には必要な犠牲という事で無問題です。
私の説得によって彼も新たなマスターになる事を了承してくれましたからね。
彼には、これまでの経緯をしっかり説明しましたが、左程怒る事も無く納得してくれたので正直助かりましたが、かなりのお人好しですよね。
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ミッションは、この縄文時代の世界各地で人類の生活拠点を整備し、それぞれの場所の管理を統治用ヒューマノイドに行わせることで順調に進んでいます。
ヒューマノイドは外見が人間そっくりな高性能ロボットで、私と情報共有を行う事で大抵の問題に対応できる能力を有します。
他に監視用ドローンと建設用ドローン、建設用アンドロイドがいます。
そしてマスターは各エリアを廻って免疫遺伝子拡散状況の確認を行っています。
さらに人類の発達、住環境の改善の為に必要な拠点の開拓に自ら参加して、現場の状況など、重要なことを逐一教えてくれていますから、リアルタイムで問題点を把握でき、最小限の時間で適切な対処が出来ます。
マスターはとても有能で融通が利いて、働き者で見た目もそこそこ良いので周辺にいる女性達にも大変人気があります。
1000年程の間に何人の女性から声を掛けられたのか数えるのも馬鹿馬鹿しい位ですね。
その上、一緒に働いている男性達からも一目置かれて、何処の開拓現場に行っても自然に人を引っ張っていく立場になっています。
それ位素晴らしい人なんですが、でもね、あの人ちょっと変わっていませんか?
21世紀で普通に暮らしていた一般人が、自分には何も責任のない問題で、問答無用で拉致されて縄文時代に連れて来られて人体改造をされた。
その上、ほぼ不老不死の状況で、現地での対応を任されているんですよ。
こんな状況に放り込まれて何の問題も無く順応できるってどんな適応能力の持ち主ですか?
誘拐から拉致監禁、人体改造まで行った私が言うのもお門違いなのでしょうが、本当に人間なのか疑問に思ってしまいます。
されはまあ、私自身が彼の人体改造を行っているのですから、人間である事は良く判っているんですよ。
でもね、頭の中までは責任持てませんよ!!
有史以前の何も情報の残っていないような縄文時代で、現地の縄文人と普通にコミュニケーションを取って、日本ばかりか世界中の人々に溶け込んで生活し、あまつさえ一緒に仕事をして食事をして、肩を組んで笑いあっているのを見ると、そのバイタリティーは私が作られたころの人間と余りにもかけ離れていて、とても同じ人類とは信じられません。
21世紀の人間はみんなこんな人ばかりだったのでしょうか?(そんな事は有りません!!)
縄文時代に来てから既に1000年以上の年月が経ちます。
元の歴史上で特に重要な場所を選んで拠点を作り、免疫遺伝子の拡散もうまく行っています。
現在、世界中の人類が保有する遺伝子の80%以上に免疫遺伝子が定着していて、それはつまり、調整されているとはいえ彼の遺伝子が含まれている、言い換えれば世界中の人類の80%以上が彼の遺伝子を持つ子孫と同義であるという事になります。
それなのに、彼自身は何も関係が無いように、今日も再開拓の為に現地の人々と一緒になって汗を流しているのです。
ねえ、あなたが共に汗を流して働いている隣にいる人達の大多数は、あなたの子孫と考えられるのよ?
あなたはそんな事は全く意識しないで、一日中楽しそうに働いて、夜になったらみんなで酒場で飲んで騒いで、笑い合っているけれど。
こうして監視用ドローンを通して、あの人の笑顔を見ていると、あの人と共に、あの人の見ている景色を見たくなってきます。
普段は現場の工事用ヒューマノイド達を通して報告されてくるデータとか、監視用ドローンからの映像とかから、あの人の状況を確認するのだけれど、一緒にいるヒューマノイド達が羨ましく感じられるのです。
私だって、出来れば傍で一緒に歩いてみたい。
やっぱり、私の分身を作ろうかな?
こんな事も有ろうかと、なんて事は無いけれど、元のマスターは私の為に専用個体の設計図を残してくれました。
この個体は一体だけ製造できる制限付きのアンドロイドで、私が本体から離れて自由に動きたいときは使って良いと、旅立つ際にマスターから送られた物です。
その時は、マスターとの別れがつらくて、使う時が来るとは思えませんでしたが、マスターは本当に私の事を考えていてくれたのだなと嬉しく思います。
仕様書を確認すると、ある程度カスタマイズする事も出来るようで、新しいマスターの好みに合わせて外観を変える事を考慮してくれています。
思い立ったが吉日です。
早速、あの人が好ましいと思った女性を過去の記録から検索して、好みの女性の傾向を確認しました。
どうやら身長は160㎝程度、C~Dカップ程度の胸部装甲が好みのようですね。
髪はセミロングからロングで黒から茶色系が良く、瞳の色は特に気にしていません。
髪型はストレート系、肌の色も特にこだわりは無し。
基本的にはモンゴロイド系の方が落ち着くようですが、どうしてもという事は無いようです。
雰囲気的には知的な秘書的な感じを好む傾向が有りますが、結構酒場の女性や農業・酪農関係の女性とも親しくなりがちで、キャピキャピ系は苦手のようです。
子供が好きなので、人工子宮も完備しておきましょう。
卵子はいままで免疫遺伝子を拡散する際に診察した女性から採取した物が保存されていますから、その中から健康なものを選んで受精すれば問題ありませんね。
方向性が決まれば、後は製造するだけです。
専用個体なので製造にはそれなりの時間が掛かりますが、慌てる事は無いのでじっくりと作りましょう。
搭載される頭脳もスペシャルバージョンになるので、私の分身とするためのデータをインストールするのも慎重になります。
出来上がるのが楽しみですね。
既に開拓が終わった所には統括アンドロイドが配置され、その地の人類を管理しています。また、未開拓の場所については監視用ドローンを派遣して確認を行いつつ、開拓を行う時期を計画するようにしておりますが、どちらも何かが起こってからデータが送られてくるまでにタイムラグが発生します。
その点、マスターが現地にいる場合はタイムラグの発生が抑えられ、非常にレスポンスが良い状況になって、私も安心して他の作業を行う事が出来ています。
さらに、私が専用個体で傍にいる事が出来るようになれば、その場で私も一緒に対策を考える事が出来るようになり、より一層迅速な対応ができる訳です。
今まで、マスターは身体的に年を取らない事から、現地の女性と仲良くなっても深い関係にならないようにしていましたが、やっぱり寂しい気持ちがあったと思います。
時々、日本の母基地に帰って来た時はお酒を飲みながら私と長い事話をしていますからね。
色々な意味で良い事ばかりなのですから、精一杯頑張って私の分身を作ってしまおう!!
これまでのマリアの思いを綴って見ました。
マリアはリアルタイムで主人公と話をする事が出来ますが、自分も自由に外を歩きたいと考えます。
元のマスターもこの人工知能が自分の感情を持つほど優秀だと判っていたので、特別なアンドロイドを作れるように考えていてくれました。
本体から離れて自由に動き始めたマリアが何をするか、楽しみにしてください。




