第2話 日本国の誕生と日本神話の創作
首長。現代でいえば知事でしょうか。
彼らに対する説明が続いています。
今回はそれに加えて、出来るだけ元の歴史に近づける為に日本史(?)の勉強もさせましょう。
この時代で読み書き計算が出来るなんて、とんでもない事なのでしょうけれどね。
漁村と農村についての改善方法を伝達した。
さらに、全体的な改善方法として次に行う事を伝える。
「さて、ここまでは個別の事について話してきたが良いな。次に共通の話だ。お前達には昔縄文犬を与えたな。700年たって、それぞれの地方で少しずつ個性が出ていると思うが、皆健やかに育って繁殖しているのを見る事が出来、嬉しく思う。
そこで、新しく家畜としてヤギとヒツジという獣を贈る事にした。それぞれ50頭ずつになる。雄雌25頭ずつで番だから子供を産ませれば増やす事が出来る。ヤギの乳は栄養があるし、料理にも使える。いざという時は潰して肉にすることも出来るが、これは非常時だけだな。ヒツジは毛を取って糸にして布を織る事が出来る。とても暖かい服が作れるだろう。こちらも食用になる。この様に有益な獣を捕獲し馴らして飼えるようにしたものを家畜という。
町の近くにでも家畜を飼育する為の牧場を作るように。また、しばらくの間、飼育方法を教える為に教育係を遣わせる。」
教育係と言っても、アンドロイドに飼育に必要なデータを与えて、外観は人間に偽装した、所謂ヒューマノイドといったもので、普通に接して人間と区別が出来ない程になっている。マリアと考えて作り上げたものだ。
壁にヤギ(野生のヤギ種)とヒツジ(アジアムフロン種)の写真を表示させながら、必要なことを説明する。この時代には固有種のヤギやヒツジは日本にはいなかったと思うが、これだけ人類として発展した以上、家畜は必要だから歴史を早める事も致し方のない事だろう。
本当は馬や牛も飼育させたいのだが、家畜を飼育する事自体が初めてなので、まずヤギやヒツジで慣らした方が良いとマリアに言われ、こちらにした。
今回与えるヤギとヒツジはアンドロイド達によって50年ほど掛けて馴らしてあるので、牧畜の入門編としては最適だろう。
「牧場とは、先ほども言ったように家畜を放し飼いにして飼育する為の場所だ。広さは差し当たって500m四方位。起伏が有っても構わないので候補地を選定して、木を伐採し空き地にしろ。その後、自然の草をはやしておくこと。その内家畜の餌になる牧草の種を与えるから、段階的に飼育のやり方を覚えるように。
開拓した牧場にヤギとヒツジを放し飼いにすれば、生えている草を食べてくれるから、草刈と飼育を同時に行える。
牧場は家畜の数が増えれば、後で拡張する事も考えなければならないから、その辺をよく考えて場所をよく選べ。開拓した後は周囲に木で柵を作って家畜が外に出ないようにすると共に、外部から家畜を襲うクマなどが入ってこないようにしろ。
それから、牧場の隅に家畜が入れる小屋を作れ。中には草を天日でよく干した干し草を敷いて、ヤギたちが夜寝る時や雨等で外に出られない時、暖かく休む事が出来るようにしろ。小屋を造る為の図面は後で渡す。」
まず、小型の家畜で飼育のやり方を覚えて、十分慣れたら、うし(オーロック種)やニワトリ(セキショクヤケイ種)を送ってやろう。馬はその後だな。まだ品種改良されていない家畜たちなので、収量はそれ程多くないだろうし、気性など難しい物が有ると思うが、家畜が居るのと居ないのとでは生活が大きく変わってくるからな。ぜひ、飼育方法をマスターして繁殖させていった欲しいものだ。
「さて、次に街道の整備についてだが、各郡間の最初の街道は内陸中心に通す事にする。これは、先ほども話した様に暖かくなるに従って海が上がって来るので、海際には作れないからだ。
やがて海が下がって落ち着いたら、改めて海沿いの街道を整備する。それまでは各郡間の街道は1本だけになってしまう所もあるが、必ず整備するから待っているように。
宿場町についても街道沿いに建設していく。自分たちの郡内に出来た宿場町には、その郡の住民が実際に住んで管理を行うことになる。宿場町が出来上がるまでに管理人員を選抜しておくように。各宿場町には50人程度いれば良いだろう。
街道が出来たら、各郡の住民が自由に利用できるものとする。初めは商人の利用がほとんどだと思うが、段々と旅人が増えることを期待している。」
基本的に街道の整備と宿場町の建設は建設用ドローンとアンドロイドで行うので、人手を集める事は予定していない。今の段階では道路の舗装をするわけではないし、将来的に馬車が行違える程度の巾が有れば十分だろう。開度脇には出来るだけ植樹して、風よけと日よけになればいいと考えている。
宿場町に50人程度の住民がいれば、町の管理も出来るし、宿場の運営も任せられるだろう。慣れるまではヒューマノイドのサポートが必要かもしれないけれどな。
「次は各郡内の再開拓と拡張した開拓地間の道作り及び開拓地への住民の移住についてと、開拓地に作る町の規模等についてだな。
一応言っておくが、郡と郡を繋ぐ道は“街道”と呼び、郡内の道は“郡道”と呼ぶ。町の中を通る道は“町道”だな。道の管理は”街道”は俺、“郡道”は郡の行政府、“町道”はそれぞれの町が行う事とする。
基本的に郡内の再開拓と道路作りはお前達が主体で実施してもらう事になるが、山や川などによって開拓困難な状況が有れば応援する事もある。応援が必要な場合は申し出るように。
領地が今までよりもはるかに広大になるから、管理も大変だと思うが、今まで増やしてきた住民をうまく振り分けて町を作っていけば、更に発展していく事は確実だからな。
街道整備について一部例外になるのは東北郡と渡島郡の間、出雲郡と瀬戸内郡の間及び出雲郡と博多郡の間だ。此処には海峡が有るから道は作れない。当然交流には船を使う事になるのだが、今の所人だけを輸送する船は無いから、人荷共用船になる。この種の船も1隻ずつだが、それぞれの群間に配置する事になるので、遣わす教育要因に操船方法をよく教えてもらって、安全確実な運用が出来るようにしろ。当然だが、今後の造船も考えて船大工によく見るように行っておけ。」
それぞれの海峡は通行が難しい所だからな。難破しにくい船を与えようと思うが、救命胴衣や救命いかだの操作方法なども教えないとだめだろう。
海峡を挟んだ交流は船が無いとどうしようもないから積極的に導入して使わせる。まさか、この時代にトンネルを掘ったり橋を渡す事は難しいから、暫くは我慢してもらおう。気象衛星からのデータを使って、気象予報も出来るだけ正確に行い、台風で遭難なんてことにならないようにするつもりだ。
「ここまでで、今日の伝達事項はほぼ完了するのだが、この後、お前達の教育についても話をしたいから、もう少し付き合ってもらうぞ。」
そうです。今度は教育についての説明です。
それぞれの町を作った時に、読み書きについて教育も行った。
まだ紙などない時代だから、基本的には板に炭で字を書くようなやり方だったが、少なくとも平仮名で文が書ける程度の知識は与えておいた。俺の手が離れた後は、子供達に対する教育を忘れずに行うように、教師ともいうべき存在は指名して残しておいたから、700年後の現在もそれなりに文字を書く事が出来るという訳だ。
ただ、平仮名しか教えていなかったので、いまだに片仮名や漢字は書く事が出来ない。700年間の進化で地域ごとに変わった表記方法が出来ていたりするようだが、他の文字を発明する事までは出来なかったようだ。
そこで、日本国内で最低限共通の文字を教えて、郡同士で意思の疎通が取れるようにしてやろうと思う。
教える文字は片仮名と小学校低学年レベルの漢字かな?その内きちんとした教育機関を作らせて、義務教育も普及させれば、教育レベルも上がるだろう。
ついでと言っては何なのだが、この機会に“日本書紀”と“古事記”について教育を行い、日本神話を広めていこうと考えている。
歴史的にはずいぶんと変わってしまったが、ここは日本なのだから架空の物語としてでも良いので、日本の歴史といったものを残していきたいと思ったのだ。
後は記録方法だけど、紙では1万年もの間に朽ち果ててしまって、記録を残す事が出来ないかもしれない。製紙を教えて普及させようと思うけれど、それとは別に歳月に負けない記録方法は無いかな?
保存さえ良ければ石に文字を彫って残す事が出来るかな?
現代の遺跡なんかで、木に炭で書いた文字も残っていたから、両方使ってみるか。
まあ、製紙を教える事は、勉強だけではなく色々な文書や記録にも使えるので確定として、記録を残す事が出来れば、文字が無かった縄文時代の謎など、無くなるのではないだろうかと考えている。
「昔、お前達に文字を教えたが、皆が文字を書けるようになっている事がとてもうれしい。そこで、新たな文字を教えようと思う。文字の種類が増えると覚えるのが大変だと思うが、お前達はとても勉強家だから大丈夫だろう。
段階的に教えて行こうと思っている。まずは片仮名と漢字の一部だ。今まで使って来た平仮名を含め、全部を纏めて“日本語”と呼称するが、これを使い分けるのははっきり言ってかなり難しい。しかし、覚える事で広範囲の表現方法として使えるものだ。
間違っても損にはならないので、頑張って覚えるように。」
基本アルファベットしかない英語やその他に国の言語よりも、日本語は使う文字の種類が多い上に、同じ音でも全く違った意味を有する文字表現が有るので、世界で一番難しい言語と言われていたが、それでも使いこなしてきたのが日本人だ。今からしっかり教えて行けば、十分使う事が出来るだろう。
さらに、皆の前に何冊かの本を出してみせる。
「もう一つ、お前達に渡す物が有る。これらは本と言って、お前達がこれから覚える文字も使われており、とても大切な話が書かれている。色を見ても判るように2種類の本が有るが、それぞれの色ごとに同じ内容だ。
その中で、絵が描かれた本は絵本と言って、話の内容を絵で分かりやすく表現しており、それに合わせて平仮名だけで解説を書いてあるから、今のお前達でも読む事が出来るだろう。
青い色の本が“古事記”という本で、緑色の本が“日本書紀”という本だ。この二つを合わせて“日本神話”と呼ぶことにした。
神話とは神たちの成してきたことを記したものだが、特にこの日本国の成り立ちが書かれている。お前達が覚えている事とは違った事が書かれているが、神は日本国の民として、皆で“日本神話”をよく読み、覚えて欲しいと言われておられる。まあ、現実とは違うから、あまり考えず、単なる物語程度の感覚で覚えて貰えれば良いけれどな。」
並べた本を皆で手に取って見ているが、絵本以外は何が書いてあるか分からないだろう。
教育の目標は、一番難しい本を読む事が出来るようになるところだろうな。
「どれ、試しに私が一番難しい本を読んでやろう。」
そういって、“古事記”の原文に近い本を取って読み聞かせてやることにした。
「臣安万侶が申し上げます。
そもそも、宇宙の初めに、混沌とした根元がすでに凝り固まって、まだ生成力も形も現われなかった頃のことは、名付けようもなく、動きもなく、誰もその形状を知るものはありませんでした。
しかしながら、天と地とが初めて分かれると、天之御中主神、高御産巣日神、産巣日神の三神が、万物創造の最初となり、また陰と陽の二つの気に分かれると、伊邪那岐、伊邪那美の二神が万物を生み出す祖神となりました。
伊邪那岐は、黄泉国を訪れて現世に帰り、禊ぎをして目を洗うときに日と月の神が現われ、海水に浮き沈みして身を洗うと、多くの神々が出現したのです。
天地万物の発生する以前のことは不明な点が多いのですが、神代からの古伝承によって、神が国土を生み、島々を生んだ際のことを知ることができます。
天地の分かれる前の元始の頃のことは、遥かに遠い太古のことですが、古代の賢人のおかげで、神々を生み人間を生み出したころのことを知ることができるのです。・・・・」
俺自身、読んでいても良く判らない部分が有るが、此処にいる皆は何の事だかさっぱり分からないだろう。現代で“古事記”を読み込んでいて、内容を完璧に理解している人ってどれくらいいるのだろうか?大体の人がそんなものが有るという程度の認識で生きていると思う。
それに対してここにいる皆は、700年前に実際に神が現れて、繁栄に導くことを約束してくれ、その導き手として俺がいる現実を知っている人々だ。
謂わば、神話を身近に感じ、実際に導き手を合って生きてきた人達なのだから、“古事記”の内容は何処の神様の話なのだろうと困惑してしまうのだろう。
「ほんのさわりの所を読み聞かせたが、お前達も何の話か分からず困惑した事だろう。この“古事記”という本は紙が日本という島国をどうやって作られたのかから始まって、人が生まれ、やがて神が天から降りてきて日本という国を作っていく話が書かれている。
もちろん、お前達が知っている実際に事とは違う話になっているが、そこは別の世界の日本の話という事で、こんな話もあるんだと受け入れてもらいたい。」
うん。他に言いようがないな。これで少しでも日本神話が覚えられたら儲けものだろう。
*********************************************************
地球外からの訪問者は、以前発見してからも度々来訪しているようで、こちらの監視衛星に気付いているのかいないのか分からないが、大体は2~3日で引き上げていくようだ。
それなりに監視体制が出来ているので、気が付かないうちに侵入されているといった事は無いようだが、相手の意図が判らないので対応も様子見程度になってしまっている。
幸い、こっちにはマリアがいるので、24時間体制で監視していられるが、人間が監視していたらどこかに隙が出来てしまっていただろう。
一番近いお隣さんでも4.3光年の距離が有るから、ワープ航法やジャンプ航法などの特殊相対性理論を無視できる航法技術が無ければ、地球に来るためにはそれだけの年数が必要になるので、頻繁にやってくるという事はかなり技術レベルが高い事が想像できる。
出来れば平和的な方々であってほしいものだ。
日本神話が広まると良いですね。八百万の神様は日本人の精神的基盤になると思っています。
宇宙からの訪問者も何をしたいのか分からないので、しばらく放置かな。
次回は、日本の再開拓を開始したいですね。




