第2話 未知との遭遇
山の中で見つけた洞窟の中には何が有ったのか?
拉致されたけど余り不自由は感じない。でも話位は聞いてほしいな。
第3回アース・スターノベル小説大賞に参加させていただきます。
獣道を進んできたが、今、俺の前にまったく想定していなかった物が存在している。
洞窟? 洞穴? どう表現しても良いがようするに岩壁に開いた穴? まあ、所謂岩穴である。
はたしてあれは自然に出来た物なのだろうか。
常識的に考えればこんな山奥に来て、わざわざあんな大きな穴を掘るような酔狂な暇人がいるとは思えない。
なにしろ、今まで俺が歩いてきた道しか無いのである。
あんな細い獣道ではどう考えても重機の類が入れるような所ではないことから、あえて穴を掘るとすれば人力以外の方法は考えられない。
しかも、相手は岩壁である。土ではないのだ。
そんなものを相手にして人力でどれだけの穴が掘れるだろうか。確かに世界中には人力で掘られたトンネルや岩壁の道なんかもあるだろう。
だが、もしも俺がこんな仕事を任されるとしたら、最低でも削岩機を用意して貰い、コンプレッサーやらベルトコンベアーやら、必要なものをピックアップしてその上でかなりの数の人員と資材を確保して貰わなければ引き受ける事など考えないだろう。どう考えてもリスクが大きすぎるからな。
しかし、この洞窟が自然に出来たものだとしても、ここから見える入口の状況が不自然だ。その縁はどこにも歪みが無くテンプレートで書いたようにきれいな楕円形を描いていて、その楕円形の下1/5位が地面の部分で切り取られたような形になっている。
余りにも不自然すぎる。
穴が有る岩壁の周辺は鬱蒼と茂った樹木のため陽光が遮られて薄暗く、少し離れたここからでは穴の中がどうなっているのか全く見えない。恐らく上空からでは発見する事は不可能だろう。
目測では入口は地面から天井まで大人が立って手を挙げることが出来る位の高さがあるし、横方向は一番広いところで1m以上あるように見える。
特に崩れている所も見えないので結構丈夫なのかもしれない。
さて。さっきは、こんな所に穴を掘るような酔狂な人間などいないだろうと考えたが、それでも万が一、いや億が一という事もあるかもしれないと思い直し、そのままで少し様子を見ていた。しかし、穴からも周囲からも、特に変な音も聞こえて来ないし何かの気配も感じない。
結局、このまま見ていても何も始まらないのではと考えついて、足音を立てないように気をつけながら穴を覘いてみることにした。
入り口の前は縦横5m位の普通に土の地面になっているが、雨などでぬかるんだ形跡や大きな凹凸も無く、獣などの足跡や、糞、爪を研いだような跡も無い。それどころか木の葉一枚落ちていない。
入口周辺は堅い岩盤になっていて、風化したりして崩れた箇所なども無いようだ。
穴の縁に触ってみると削岩機のような道具を使って掘削したような跡は全くなく、穴の内壁はすべすべと滑らかな表面をしている。まるで合成樹脂でコーティングしてあるようで、どうやったらこんな穴を開けられるのかさっぱり判らない。
しかも、こんな穴蔵であれば熊などが住み着いていてもおかしくないのだが、不思議なことに今まで生き物が入った事もないように感じられる。
なにしろ今掃除したばかりの様に蜘蛛の巣一つも掛かっていないのだ。
何の気配も感じられないので、穴の縁からそっと中をのぞいてみた。
見える範囲では少し下り坂になっているように見えるだけで、内部にも崩れたところは見えない。
ちょっとおかしな所といえば緩い下り坂といっても雨水が流れたような痕跡も無いことだろう。
入り口には雨水の侵入を防ぐような段差が有るわけではないので、この形状から考えると雨が降れば多少なりとも中に雨水が流れ込むはずなのだがそんな痕跡はまったく見えないし、木の葉や小石のひとつも落ちていない。
もしかして、本当に誰かが掃除しているのだろうか。
そんなバカなことを考えてしまうほど、こんなにきれいな状態が自然に出来上がるなんてとても考えられないのだ。
まさに、怪しいことこの上ない状況である。
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突然だが、俺は昔からこんな怪しいことに遭遇すると好奇心が疼いて止まらなくなる癖がある。
物心つかないような小さい頃から変わらない性癖のようで、その都度、何かと聞きまくられた父からは「いい加減にしろ!!」とよく怒られたものだ。
諺にも好奇心猫を殺すといわれるが、湧き上がってしまった好奇心は自分では押さえようのないものだった。
そんな訳で、さっそくフレームザックからヘッドライトを取り出して帽子に取り付ける。LED使用の充電式で最大40時間位点灯できる優れものだ。いざというときは電池に交換する事も出来る安心仕様である。
ついでにテント用に持ってきた鉄製のペグを入り口近く地面に金槌で打ち込み、そこにこちらもザックから取り出したタコ糸を結ぶ。
このタコ糸は色々と役に立つので昔から持ち歩いているのだが、タコ糸とはいっても某メーカーに特注して作ってもらった物で、材料は秘密にされたが普通よりも何倍も強靭で切れにくく、1巻100mの長さになっている。持つべき物は長年のつきあいというやつで、かなり格安で作って貰った。
同じものを今回は5巻持ってきている。都合、500m位は安心して探検できるという訳だ。
ヘッドライトのスイッチを入れ、ライトの照射範囲を広角に調整すると、前方15m位まで明るくなった。スポットライトにすればもっと遠くまで見通すことが出来るが、今のところはこれで良いだろう。
足元はまるでローラーで均したかのように平坦で躓くような凹凸は無い上に滑りにくくなっているようだ。天井までの高さは入って見たら2m位あって特に頭をぶつけるような突起物も無いようだ。
入口の形のままの穴がずっと続いている。大きくも小さくもならない、まるで電車に乗って、長いトンネルを進んでいるときのような感じがした。
これなら頭をぶつけるような心配はないのだが、それでも一応頭上にも注意しながら、ゆるい下り坂を歩いていく。
50mくらい歩いても先は見えないし、自分の足音や息づかい以外の音もしない。
気の小さい人ならば幽霊の類や超常現象でも起きるのではないかとビクビクものだろうが、生まれてこの方一度もそのような現象にお目に掛かったこともないので、全く気にならない。
穴に入ったばかりの時は気付かなかったが、下り坂が続いているだけではなく、緩い右カーブにもなっている。
その為、余計に先が見通せないのだろうが、いったい、どこまで続いているのだろうか?
俺は、そのまま歩き続け、持っていたたこ糸も1巻使い切る頃には、入口の方向に見えていた明かりも完全に見えなくなっていた。
下りの角度は入ったときと全然変わらないように感じるので、100m進んできて、凡そ5~7m程下った位だろう。
右方向に緩いカーブが続いていて、直線部や左カーブはまったくない。
カーブ自体は本当に緩いので、入口から見てまだ45度位しか右に曲がっていないと思う。
新たにペグを取り出して地面に打ち込むと、そこに1本目のたこ糸の終わりと、2本目のたこ糸の始めを結んで、さらに奥へと進んでいく。
途中は何事もなく、やがて2本目のたこ糸が半分位伸びた頃、右カーブが終わってまっすぐな道になった。
入口から見ると右に60度くらい曲がった方向だろうか。今の深さは7~9mといった所だろう。
ヘッドライトの明かりをスポットライトにして見たが、この先も同じような下り坂が延々と続いているようだ。
いったい、どこまで続いているか、今更ながらに当たり前の疑問が湧き上がってくるが、ここまで来た以上最後まで確認しなければ落ち着かないので、とことん行くことに決めた。
最悪の場合、途中で野宿くらいはする覚悟である。
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さらに進んでも穴の形状はまるで変わらず、壁や天井は滑らかで凹凸がほとんど無いままだ。
地面はきわめて歩きやすい状態が続いており、変化と言えば地面から天井までの高さが2.5m位で入口よりも高くなったくらいだ。
辺りには明かりになりそうなものは全くないのでヘッドライトの明かりだけが頼りだが、ここまで一度も分かれ道がなかったことから万一明かりが無くなっても手探りで入口まで帰れると安心している。
持っていた2本目のたこ糸も伸びきったので、先ほどと同じようにペグを地面に打ち込み、3本目を繋いで歩き続けると、その3本目が伸びる手前で突き当たりになった。
入口から300m位歩いてきたことになるが、やっと終わりにたどり着けたようだ。
深さも入口から見て20m位になるのだろう。山の横から進んできているから地表からの距離は結構なものになると思う。
結局ここまで何もなかったので物足りなさを感じたのだが、こんな穴の奥まで来たのだし、一応突き当たりの壁などを調べてみよう。
触ってみた感じは今まで通ってきた途中の壁と同じで、とても滑らかで湿った感じはしない。
地熱のようなものも感じないので、結構住みやすいのではないだろうか。
そんなことを考えながら突き当たりの壁をヘッドライトの明かりで照らしながらなで回していると、ふと右側の壁と突き当たりの壁の境目に隙間があることに気づいた。
こんな所に隙間がある?
自然に出来た割れ目のような感じはなく、地面から天井まできれいに一直線の隙間が見えるのである。
ようやく変わった物を見つけられた。
これは面白くなってきたと、早速、その隙間の回りを調べてみることにした。
出来れば週1回は更新したいと思いますが。
ゆっくり、のんびり、お付き合いください。